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2016年6月 8日 (水)

遺伝子検査、すでに普及期に突入か

遺伝子情報が病気の発症に大きく関係しているだろうことは誰しも理解出来る話で、そうなると現在国などが進めているように病気の予防を積極的に行い医療費を削減すると言う方針に従えば、国が音頭を取ってどんどん遺伝子的なリスクを解析し対策すべきだと言うことになるかと思うのですが、世の中どう単純な話でもないらしいと言うことでこんな記事が出ていました。

遺伝子検査に認定制度 個人情報保護などチェック(2016年5月31日NHK)

遺伝子の情報を病気の予防などに役立てようという「遺伝子検査ビジネス」が広がるなか、関係企業で作る団体が個人情報の保護や利用者への十分な説明などをチェックする認定制度をスタートさせました。

唾液や髪の毛などを採取して得た遺伝子の情報から、病気のなりやすさなどを調べ予防に役立てる「遺伝子検査ビジネス」が、このところ広がっていますが、利用者との間でトラブルにつながるケースも出ています。
このため、関係企業で作る「個人遺伝情報取扱協議会」では、医学や倫理の専門家など第三者が、個人情報の保護や利用者への十分な説明や、適正な検査を行っているかなど、およそ230の項目をチェックする認定制度をスタートさせました。
この制度は、経済産業省が事業者向けに策定したガイドラインに沿って策定したものだということで、協議会では基準を満たした企業を独自に認定することを通じ、サービスの質を確保し、利用の拡大につなげたいとしています。
「遺伝子検査ビジネス」を巡っては、遺伝子解析の質やカウンセリングの体制がきちんと確保できているかといった課題も指摘されていて、現在、厚生労働省で規制の必要性について議論が行われています

遺伝子検査ビジネスに懸念 日本医師会「何の規制もない」(2016年6月2日東京新聞)

 唾液などを郵送するだけで病気のかかりやすさが判定される「遺伝子検査ビジネス」について、日本医師会の生命倫理懇談会は1日までに、医学的根拠が不十分なまま「何の規制もなく販売されている」と、日本の規制の遅れを批判する見解をまとめた。

 見解は、病気のかかりやすさには多くの遺伝子が関係するため、現状の遺伝子検査ビジネスは臨床的に妥当かどうか問題があると指摘した。「欧米では妥当性と有用性の問題が大きいために販売されなくなっている」としている。

 日本でビジネスが拡大を続ける大きな理由として、規制や監督を担う官庁が厚生労働省と経済産業省に分かれているためと分析する。

日医の見解はともかくとして、当然ながら遺伝子情報の取り扱いやその解釈には慎重を期する必要があることは言うまでもありませんが、そもそも厚労省内でも規制について現在進行形で議論が行われている段階だと言いますから、社会の進歩に国によるルール作りが全く追いついていない状況だと言えるでしょうか。
厄介なのは従来であればこうした検査の類は医療機関での検体採取と言うステップが求められていたため、医療機関側に制約を課しておけばコントロールが容易であったものが、現在では唾液や髪の毛など医療の素人でも容易に入手出来る検体で十分だと言うことですから、個人と企業との契約に基づく関係をそもそもどこまで規制すべきなのかと言うことになってきます。
社会的にみれば例えば現行の入社時健診などと同じように、企業が入社時チェックとしてこの種の遺伝子検査を取り入れないと言う保障もどこにもないわけですし、その結果なども含めて総合的に判断した結果入社をお断りすると言うことも起こり得る話ですから、少なくとも本人以外の第三者による遺伝情報利用に関しては早急に公的規制なりルール作りなりが必要そうには思いますが、一方の当事者の側からはこんな声も出ているようです。

顧客の遺伝情報で「医学に革命」 米「23andMe」社、アン・ウォジツキー最高経営責任者に聞く(2016年6月2日毎日新聞)

 消費者向けの遺伝子検査ビジネスが注目を集めている。健康作りに役立つと期待を集める一方、個人情報の保護や遺伝子差別の防止など課題は多く、政府の検討会は法規制の必要性について今夏中に結論を出す方針だ。このビジネスの草分けで、京都市で開かれた国際人類遺伝学会で講演するため来日した米企業「23andMe」のアン・ウォジツキー最高経営責任者(42)に、遺伝子検査の未来と課題を聞いた。

 「顧客の遺伝情報を活用することで、新薬の開発や病気予防に革命的変化を起こすことができる。その主役は消費者なのです」。ウォジツキー氏は取材に自信に満ちた表情で語った。キーワードに挙げたのが「ビッグデータ」だ。
 遺伝子の異常を探り、その人に合った病気の予防や治療を目指す遺伝子検査。中でも消費者向けのサービスは、唾液などから遺伝子を分析し、病気のリスクや太りやすさなどの体質を調べる。日本医学会は「科学的根拠が確立されていない」と指摘するが、国内でも新規参入が相次ぐ。今春には大手生保が遺伝情報を保険サービスに活用する検討に入り波紋を広げた。

 創業10周年を迎えた「23andMe」は、顧客がインターネットで検査キットを注文する手軽さや破格の料金設定を打ち出し、現在主流となったビジネスモデルを確立。2008年に米タイム誌の年間最優秀発明に選ばれた。だが、米食品医薬品局(FDA)から2年半前、「安全性基準を満たしていない」と指摘され、販売は制限されている。
 一方、同社が新たに力を入れるのが、顧客のデータベースを活用した医学研究だ。遺伝情報に加え、生活習慣、視力や病歴なども匿名のデータ化し、大学や製薬企業と共同研究する。120万人の顧客のうち8割が参加に同意し、難病治療など約200の研究に取り組んでいるという。

 「究極の個人情報」とも言われる遺伝情報を本来の目的外に使うことには懸念もあるが、ウォジツキー氏は「むしろ消費者は、自らのデータを使った医学の発展に貢献したがっている。私たちは人々が遺伝情報から利益を得る手助けをしたい」と強調する。
 こうした動きの背景として遺伝情報の集約が進まず、医学研究の支障になっている現状は国際人類遺伝学会でも議論になった。研究者からは「大学や研究機関はデータを持っていても論文など自分の成果を優先してシェア(共有)しない」との声も出た。遺伝情報のビッグデータ化にどう対応するか。日本でも議論が求められそうだ。【千葉紀和】

しかし一企業だけですでに120万人の顧客がいると言うのですからその普及の勢いも想像出来ると言うものですが、ちなみにこのアン・ウォジツキー氏、数年前にはFacebook創始者のザッカーバーグ氏などと共に生命科学ブレイクスルー賞を立ち上げたりでそれなりに影響力もありそうな人物ですから、業界のトレンドとしてこういう方向に話が進んでいると解釈していいのでしょうかね。
日本ではさすがにまだここまでの大規模な利用には至っていないところでしょうが、コストや利便性など様々なハードルがクリアされていけばあっと言う間に広まりそうな技術でもあって、特にこの種のデータと言うものは幾らでも使い道があるのは当然ですから、個人情報の紐付けを外したビッグデータとしてあちらこちらで応用されて成果が出ていくのだろうし、そうした期待される成果の大きさが検査普及を正当化する根拠にもなりそうです。
つい先日の6月2日付けサイエンス誌には今年中にも人間など各種生物のゲノム一式をゼロから合成しようと言う野心的なプロジェクトが立ち上げられそうだと言う記事が出たと言い、当然ながら遺伝子の全てを好き勝手にデザイン出来るのであればあらゆる遺伝的疾患リスクを排除した理想的な人間が作り出せるのかと言う期待感と同時に、人間がそんなことをするのは神の領域を侵すことだと言う反発も根強いようです。
人間丸ごと遺伝子から合成していくと言うのはさすがに現時点でどうなのかですが、例えば実験室内で使いやすい人為的に合成された人間の細胞なども需要はあるのでしょうし、さらには組織や器官のレベルで合成出来るのであれば移植医療等で幾らでも利用価値はありそうなのですが、さてそうなりますと一体どこからが人間なのかと言う議論が再び湧き起こってくることにもなるのでしょうか。

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コメント

治療法があるものならこういう検査もいいんだろうけど
病気になることだけは判ってるって状況は耐えられないな

投稿: | 2016年6月 8日 (水) 08時17分

AIとゲノムは今後10年流行りそうですね。

ゲノムの問題は、プラスだけじゃなくてマイナスも明らかになることですね。「言ってはいけない残酷すぎる真実(新潮新書)」のように、マイナスの能力(知能、性格等)も遺伝の寄与が高く、その能力差は教育では埋めがたいことも分かっています。

すると、やはりご指摘の通り、入社試験がゲノム調査に...なんてことも出てくるかも知れません。医療では倫理規制が強く働きますが、一般社会では「自由」ですからね。テストで選抜が良くて、なぜ遺伝子能力調査がダメなのか、という問題でしょうか。

投稿: おちゃ | 2016年6月 8日 (水) 09時56分

潜在能力を図るという意味では知能検査なども同様な問題を抱えているはずですし、生活習慣病健診なども病気のなりやすさを見ているとも言えます。
それらが個人情報保護の観点からはあまり問題視されず受け入れられていることを考えると、遺伝子検査もいっそ国が大々的にやったほうがいいのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2016年6月 8日 (水) 11時45分

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