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2016年6月 4日 (土)

裁判員に対する声かけ事案が発生

古典的名作映画の一つとして知られる「十二人の怒れる男(12 Angry Men)」はご存知の通りアメリカの陪審員制度を描いた作品で、陪審員制度と言うものが存在しなかった日本ではその実際のありようを学ぶ教材的にも使われていたと聞きますが、日本においても裁判員制度が導入された結果全国各地でその経験者も増えてきているのが現状ですよね。
そうした状況においては当然ながら裁判の公平性をどう担保するかと言うことは陪審員個人個人の資質にも大きく影響されるはずですが、それに対して非常に大きな悪影響を与えかねない事件があったと報じられ話題になっています。

工藤会系公判、裁判員に「よろしく」 被告知人?声かけ(2016年5月30日朝日新聞)

 福岡地裁小倉支部で開かれていた殺人未遂事件の裁判員裁判で、被告の指定暴力団工藤会系組幹部(40)の知人とみられる男が5月中旬、複数の裁判員に閉廷後、「よろしく」などと声をかけていたことが関係者らへの取材で分かった。同支部は予定していた判決期日を取り消した。評議に影響を与える恐れがあると判断した模様だ。
 裁判員法は、裁判員や補充裁判員の職務に関し、依頼をしたり面会や電話などで威迫したりする行為に、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処すとの罰則を設けているが、これまでに適用された例はないとみられる。

 被告の男は、昨年1月に知人男性を日本刀で刺し、殺害しようとしたとして、11月に起訴された。
 福岡地裁小倉支部は今年4月28日、補充裁判員2人を含む計8人を裁判員に選任。5月10日に初公判があり、被告は刺したことは認めたが殺意を否認。12日に検察側が懲役8年を求刑して結審し、判決は16日に言い渡される予定だった。
 関係者によると、知人とみられる男は北九州市小倉北区の同支部付近で、審理を終えて退出した複数の裁判員に、「よろしく」という趣旨の言葉をかけたという。裁判員から報告を受けて同支部が把握したとみられる。同支部は13日、判決期日を取り消す決定をした。同支部の川崎道治・庶務第1課長は取材に「判決期日を取り消したのは事実だが、理由は明らかにできない」とコメントした。

 工藤会は2012年12月、全国で唯一の特定危険指定暴力団に指定された。裁判員法は、裁判員やその親族らに危害が加えられる恐れがある場合は、裁判官だけで審理できると定めている。これまで同会系組員らの刑事裁判をめぐっては、裁判所が「裁判員らの生命や財産に危害を加えるおそれがある」などとして、裁判員裁判から除外される例が福岡地裁と同地裁小倉支部で計5件あった。今回の事件では「組織性が薄い」として、除外対象にしていなかった。

裁判員への威圧か 工藤会の知人声掛け 揺らぐ制度の根幹 庁舎外での保護なし(2016年5月30日西日本新聞)

 裁判員制度がスタートして7年。福岡地裁小倉支部で、裁判員への圧力ともとれる「声掛け」により、判決期日が取り消される事態が初めて起きた。識者は「審理の公平性と裁判員の身の安全という点において、裁判員制度の根幹にかかわる問題だ」と指摘する。制度導入当初から、こうした懸念はあった。同様の事態をどう防ぐのか。裁判所をはじめ法曹関係者は重い課題を突き付けられた。

 「裁判所内では外部との接触はなく、非常に守られている感じがした」。九州北部の裁判員経験者は、当時の対応を振り返る。
 裁判員は法廷で、被告や傍聴者からも姿を見られるが、庁舎内では裁判官や職員が付き添い、氏名が明かされることもない。しかし、審理を終えて裁判所を出れば特別な保護はない。今回は、その隙を突かれた可能性が高い。

 裁判員制度に詳しい笹倉香奈甲南大教授(刑事訴訟法)は「市民参加の陪審員制度がある米国では、陪審員に裁判期間中をホテルで過ごしてもらい、隔離するケースもある」と指摘。裁判を事件の発生地ではなく全く別の地域で開くこともあるという。
 笹倉教授は「裁判員に著しく予断を与える行為を防ぐ必要がある。審理の公平性からも対策が不可欠だ」と強調する。
(略)
 期日取り消しを受け、今後の裁判は(1)そのまま判決を言い渡す(2)裁判員を選任し直し、一から審理を行う(3)裁判員を除外した審理にする-などの対応が考えられる。
 裁判員制度では、約6万8千人(3月末時点)が裁判員と補充裁判員を経験。最高裁の調査に経験者の約6割が「非常によい経験」と答えている。裁判員経験者は「制度を市民に身近なものとして根付かせるためにも、裁判員の保護について考え直してほしい」と話した。

まあしかしこうしたことはあっておかしくない話でもありそうですから、逆に今まで起こって来なかったことがむしろ不思議でもあるのですが、あるいは法廷外では起こっていたものが今回たまたま表沙汰になっただけであると言う可能性もあるのでしょうか、いずれにしても単なる一市民たる裁判員としてはこれでは不安に駆られるのももっともですよね。
記事にもあるように裁判員法によれば裁判員に請託したり威迫したりと言う行為は当然ながら禁じられていて、違反した場合は2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処すとされていますが、当然ながら暴力団員が本気でそれを行おうとするならこの程度の罰則何するものぞと言うことにはなるでしょう。
ただ今回の場合記事によれば少なくとも表向きの文言としては日常のあいさつ程度の内容であったとも言え、これで威迫(脅迫)として認定されるものなのかどうかは何とも言いがたいですが、請託(特別の計らいを頼むこと)には該当すると言う意見もあって、まずは相手の特定と適切な対処が必要になるかと思います。
そもそも被告やその関係者が裁判員と接触すること自体がどうなのかですが、現行の法律では法廷の外で裁判員を保護するものは何もないと言うことですから、その気になれば様々な手段を用いて脅迫なり買収なりも出来ることは出来るのだろうし、当の裁判員が口外しない限りは恐らくそうしたことは表沙汰にはならないのでしょう。

ただ今の時代ですとこうした個人レベルの対応よりもマスコミやネット世論による有形無形の圧力の方がよほど大きな影響を与える可能性もありそうで、例えば連日マスコミが「被告は極悪非道の大悪人だ。法による裁きを期待する」などと連呼していれば裁判員が影響を受けないはずがないと思いますし、ネットなどはいわゆる工作員によってネット世論が形成されることもあるのですから何とでもやりたい放題ですよね。
陪審員制度先進国であるアメリカなどでは著名人の犯罪では無罪判決が出る確率が高いなどと言う説もあるのだそうで、その理由には様々なものがあるのでしょうが、もともと裁判員制度導入の動機としてあまりにも国民感情から乖離した司法判断が続いたことも理由の一つだったと言えますから、本当に世論がそれを望んでいるのであれば裁判員が意見を左右されるのもやむなしなのかも知れません。
ただ社会的圧力を感じて裁判員が自分の思想信条に反した判断を強いられると言うことがあるならそれは問題でしょうから、当座外野からの干渉を少しでも排除するためにも裁判員の匿名性保持についてもう少し配慮していくことが必要なのかなとは思いますね。

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コメント

重すぎて声も無しw

>裁判員制度導入の動機 がそういうことなら
大衆におもねる茶番、法曹の専門性を法曹自ら捨てた愚挙。
医療に於けるICやセカンドオピニオンのような私的なものとはわけが違う。

>世論がそれを望んでいるのであれば裁判員が意見を左右されるのもやむなし
大衆に茶番を晒すことが目的だから、匿名性の確保なんてそもそも無理 
暴力団員の威嚇に判決が左右されるのもやむなし、ですね。
大衆がそれを望んでいるw

投稿: | 2016年6月 7日 (火) 10時28分

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