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2016年6月15日 (水)

保険証一枚で医療に不安のなかった時代が終焉?

海の向こうのアメリカにおいて、こんなテレビ番組が大きな話題となっていたことをご存知でしょうか。

米有名TV司会者、番組内で1500万ドル/6000人分の医療債務を購入し借金を帳消し(2016年6月7日ビジネスニュースライン)

米有名ニュース番組「Last Week Tonight」の司会者を務めるJohn Oliver(ジョン・オリバー)氏が日曜日に放送された番組内で、個人債務が企業間で売買いされている事実を明らかにするために、実際に1500万ドル/6000人分の医療債務を購入し借金の返済義務を帳消したことが大きな話題を集めている。

ジョン・オリバー氏は番組内で、個人が病院で診療を受けた際に多額の医療費が発生していることの問題を改めて浮き彫りにするために、番組の制作費を利用して、実際に、1500万ドル/6000人分の医療債務を60万ドルで購入することを行った。

その上で、彼が番組内で購入した医療債務の債務者に対して、返済を求めないことを表明すると同時に、個人債務である限り、債務者は利子を付けて全額返済しなければならない義務が生じるのにも関わらず、それらの債権が企業間で実際の債務総額の25分の1という破格値で取引されている債権市場の嘘っぱちで欺瞞に満ちた世界を実際に他社から債権を購入することで実証して見せた。

個人の医療債務が企業間でまるで商品のように取引されることにより、多額の医療費を支払えなくなった個人は、当人には一切、非がないのにも関わらず、その債権をバルク購入したまったく知らない企業から訴訟を起こされ、多額の借金返済を迫られるという事態が発生。これらの状況は、近年、米国内で大きな社会問題化している。

米国の場合、住宅ローンに関しては、借主責任限定型のノンリコース方式を採用しているため、住宅ローンが支払い不能に陥ったら、担保が設定されている住宅そのものを手放せば少なくとも借金からは解放される。対して、現在、米国内で社会問題となっている医療債権や学費ローンなどの場合、そもそも担保設定がされていないため、借金から逃れることは非常に難しく、借金の返済が滞った場合、未払いの利子が膨らむことによって返済額がどんどんど膨らみ、返済が更に難しくなるといった問題を抱えている。

ジョン・オリバー氏はこれまでもこうしたマスコミがあまり取り上げない社会の嘘を番組内で指摘することで大きな人気を集めてきたが、今回の6000人分の医療債務を購入して借金を帳消しにしてみせるという行為は、TV番組の枠組みを大きく超えるものとして注目を集めている。

全く関係ないことですが不肖管理人もよく見る「Pimp my ride」と言う番組がありますけれども、日本ではまず見かけないこの種のプレゼント的な行為をアメリカ人は割合に好きなのでしょうかね。
アメリカ人の個人破産の最大の理由が医療費支払いであることはすでに広く知られたところですけれども、当然ながら支払い不能に陥った債務を各病院が多数抱え込み焦げ付かせていることにもなるわけで、そもそも債権回収業の委託は日本の病院においても一時話題になったくらいですから、アメリカでは当たり前に行われていることなのでしょう。
そのことの是非はひとまずここでは議論するところではありませんが、こうしたケースが頻発する理由の一つとしてアメリカにおける医療費の高さが問題視されていますが、国民皆保険ではないアメリカではこうした回収不能となる分も見込んで医療費に相応の上乗せをせざるを得ず、その結果ますます未払いが増加すると言う悪循環になっている部分もあるようです。
日本の場合も一部の公立病院などを中心に未払い金問題が話題になってきたケースがあり、取り立てが甘い病院だと言う噂が広まった結果ますます踏み倒し前提の患者が集中すると言う悪循環に陥りやすい側面もあって、各地の医療機関では未収金問題に頭を悩ませているところだと言えますが、他方で患者サイドから見るとこういう話もあるようです。

医療費負担「非常に重い」と感じる患者が増加(2016年6月8日日経メディカル)

 小児期に1型糖尿病を発症した患者は成人後、どのような生活を送っているのか――。全国38施設を通じて行われた患者に対する調査の結果、就業率や既婚者の割合は一般人口と差がなかったが、糖尿病関連医療費を「非常に重い負担に感じる」患者がほぼ半数を占め、約20年前に行われた同様な調査の2倍近くに達していることが分かった。第59回日本糖尿病学会年次学術集会(5月19~21日、京都)で、横浜市立みなと赤十字病院(横浜市中区)小児科の菊池信行氏らが報告した。

 わが国では、1型糖尿病患者に対する医療費の公的助成は19歳までで、20歳以降は通常の保険診療に切り替わる。このため、小児期発症1型糖尿病患者が20歳に達すると、経済的に大きな負担を強いられることになる。しかし、その生活実態はほとんど明らかにされていない。
 そこで菊池氏らは、厚生労働科学研究費補助「1型糖尿病の疫学と生活実態に関する調査研究」の一部として、「20歳以上に達した小児期発症1型糖尿病患者の治療状況、合併症、生活の実態等に関するアンケート調査」(T1D Study)を行った。
(略)
 T1D Studyの患者は一般人口に比べ、大学卒業者の割合が30歳代男性で低かったが、20歳代男性や女性では差がなかった。就業者の割合は各年齢層の男女とも一般人口とほとんど差がなかったが、正規職員・従業員の割合は男性、特に40歳代、50歳代で一般人口より低かった。既婚者の割合は、1997年調査では一般人口を下回っていたが、T1D Studyでは一般人口と差がなかった。
 一方、糖尿病関連の医療費については、「非常に重い負担に感じる」患者が47.1%に上り、1997年調査における26.5%の2倍近くに達していた。また、28%の患者は「医療費が高いため血糖管理が不十分になっている」とし、実際に「血糖測定回数を減らす」「受診回数を減らす」「インスリンを減量する」「インスリンポンプ療法ができない」などと回答していた。
 1日の注射回数を聞いたところ、98%が3回以上(インスリンポンプによるCSII含む)であり、CSIIも23.1%に上っていた。だが、合併症予防の目標とされるHbA1c 7.0%未満を達成している患者の割合は3分の1にとどまった。「糖尿病があることによって有意義な人生を送れないと感じているか」との問いへの回答は、「少しはそうだ」と「全くそうだ」を合わせると80%近くを占めていた。
(略)

20年前と言えばバブル直後の頃で、まだ今ほどデフレだワープアだと言うことを言っていなかった時代でもありますが、現代の若年世代と言えばともすれば働いていても食っていくだけで精一杯の低賃金にあえいでいる方々が多く、そこからさらに毎月の固定出費として医療費を支出していくことは苦しいのは確かでしょうね。
糖尿病に限らず慢性骨髄性白血病筋萎縮性側索硬化症など、生きている限り固定出費がかかる慢性疾患を抱えた人達の多くが医療費の重さを実感していると訴えていて、特に今後各種新薬が登場し薬剤費支払いも高くなってくると何の病気であれ大変だと思いますが、国としては生活習慣病など慢性疾患をきちんと管理することで将来の医療費を抑制すると言う建前であるのに、それ以前に国民の懐が先に破綻しそうな勢いです。
日本ではまだ医療費が原因の自己破産などはさほど多くはありませんが、一方で生活が困難だから医療費を切り詰める、治療が必要でも通院しないと言う人は確実に増えていると各種調査でも言われていて、要するに破産しないのは医療費支出を自己規制しているからだとも言えますが、そうは言っても大病にでもなれば病院に行かないわけにはいかず、パートタイマーなどにとっては入院の瞬間から生活費も稼げない以上大問題ですよね。
そう考えると少なくとも大部分の医療費は保険で支払ってくれる国民皆保険制度がどれほど素晴らしいものかが判りますが、一方で今後は自己負担の引き上げで皆保険だけでは医療費がまかなえないと言う予想もあると言いますから、医療側から見てもそれなりに危機感を抱くべき状況ではありそうですよね。

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コメント

国民の方からこれ以上の医療はいらなうって言わせたいんだろうね
まずは高齢者や末期患者の切り捨てからだな

投稿: | 2016年6月15日 (水) 08時20分

うーん それもアリじゃないですか?
私は楢山節考でお山に向かう婆様の姿に 
次世代へのアモーレを感じましたけどね。

投稿: | 2016年6月15日 (水) 09時45分

末期高齢者に濃厚医療をしても多くの場合誰も幸せにはならないのですが、数少ない例外への対応を保険診療上のデフォルトにすべきなのかどうかが議論になるところでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2016年6月15日 (水) 12時11分

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