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2016年6月 1日 (水)

AI導入は医療現場にとっての悪夢か福音か

将棋界のラスボスとも言うべき羽生三冠がいよいよAIと対戦する!?と話題になっていましたが、もともと以前からAIの台頭を予知していた人物でもあることが広く知られていて、以前にAIによって将棋が完全解明されてしまったらどうするのか?と問われ「そのときは桂馬が横に飛ぶとかルールを少しだけ変えればいいんです」と笑っていたと言います。
これを史上唯一の7冠を達成した人物ならではの余裕とみるべきかどうかですが、ごく平凡な一般市民にとってはこのところロボットやAIの台頭がSFの世界から現実的な話題になってきていて、マスコミなども「人間の仕事が奪われる!テクノ失業時代だ!」と盛んに危機感を煽っていますよね。
某大手ファーストフードチェーンも時給がこれ以上引き上げられるならロボットを導入すると言っているそうですが、これも必ずしも批判されるだけの話ではなく、実際に同チェーンでも調理場での仕事の押し付け合いでスタッフ同士が喧嘩するような状況があるようですから、考えようによっては機械の発達で女工哀史のような世界が消えていったように労働者の待遇改善のチャンスであるのかも知れません。
その点で人材が集まらない、激務であると言った職場にこそロボットやAIの必要性が高そうだとも言えると思いますが、先日医師を対象とした調査でこんな結果が出ていたと報じられていました。

「AI診療20年以内に」医師調査で7割回答(2016年5月28日共同通信)

 医療現場での人工知能(AI)活用の可能性について、医師専用の情報交換サイトを運営する「メドピア」(東京)が医師約3700人を対象にアンケートした結果、約7割が「20年以内に診療を担う時代が来る」と答えたことが28日、分かった。

 自由記述としては「数値化やマニュアル化できる部分は早いうちに機械化できる」「専門性が必要な『希少疾患』では人工知能の方が正診率が高い」との指摘がある一方、「インフォームドコンセント(説明と同意)や治療法の選択に関する話し合いは、やはり人と人のコミュニケーションが必要」との意見も出された。


人工知能での診療「20年以内に」7割 医師調査(2016年5月28日日本経済新聞)

医療現場での人工知能(AI)活用の可能性について、医師専用の情報交換サイトを運営する「メドピア」(東京)が医師約3700人を対象にアンケートしたところ、約7割が「20年以内に診療を担う時代が来る」と答えたことが28日、分かった。

数値データの解析や難病の診断に有効との声がある一方、「医師と患者のコミュニケーションは将来も不可欠」との意見もあった。人工知能は近年急速に進化し、農業や製造業などさまざまな分野での本格導入に向けた研究も進められている。

アンケートはサイト上で5月上旬に実施。人工知能が診療に参画する時代が来るかどうかに関し、その時期の見通しも含めて聞いた。
その結果、「10年超20年以内」が33%で最も多く、次いで「5年超10年以内」が23%、「5年以内」13%。20年以内を合計すると69%に上る。「20年超50年以内」は16%、「50年超100年以内」は6%で、「来ない」は10%だった。

肯定的な自由記述としては「数値化やマニュアル化できる部分は早いうちに機械化できる」「専門性が必要な『希少疾患』では人工知能の方が正診率が高い」との指摘があった。
一方で「インフォームドコンセント(説明と同意)や治療法の選択に関する話し合いは、やはり人と人のコミュニケーションが必要」「人工知能が間違いを起こした際の責任の所在など、法的・倫理的問題のクリアに時間がかかる」と慎重な意見も出された。

心電図の機械判定などはかなりの精度になっていますし、モニター類など様々な領域ですでに機械化が進んできているとも言えますから、いずれ診療の中でもっと本格的なAIの活用が為されていくことは既定の事実だとしても、先日アメリカで医療用麻酔ロボットが現場医師の反対で市場から駆逐されたと報じられたように、純粋な技術的制約のみが医療現場導入へのハードルとも言い切れないものがあります。
機械が有効な領域ももちろん多数あるのでしょうが、近い将来技術的にそれが可能になることと実際に現場で導入されるかどうかは必ずしもイコールではないと言うのは、一つには医師は常識的に医療とは必ずしも正しいものではないと言うことを知っていると言うこともあるのではないかと思いますね。
半世紀ほど前に名医とうたわれた東大の沖中重雄教授が退官講義で自分の誤診率は14%だったと公表し、医療従事者と世間とを逆の意味で驚かせたと言う伝説があるように、基本的に医療には一定程度のエラーなりミスなりは必ず発生すると言う前提に立つとき、そのエラーを許容出来るかどうかにおいて相手が機械であった場合に人間の許容範囲はかなり狭いものになるだろうと言う想像が働きませんでしょうか。
一例を挙げれば窓枠の隅についと指先を走らせて「あら幸子さん、こんなところに埃が」などと言えばそれは姑の狭量の方が問われる話ですが、ロボット掃除機が部屋の隅の埃をうまく吸い取れないともなれば通販サイトの評価では「使えない」「不良品」などと散々な悪評であっと言う間に満ちてしまうだろうことは想像に難くありませんよね。

機械と人間に得意不得意があるのが当然ですが、人間側がこれをどう受け止めるかと言うことが導入に当たっての一番のハードルで、特に日本の医療現場のようにコスト的な面の優先度が相対的に低い職場環境においては、ある意味でかくあるべしと言う理想主義的な部分も多分に残っているとも言えるでしょうが、では未来永劫医療職は安泰なのかです。
先日朝日新聞系列のサイトで「なぜ看護師人気が止まらないのか?」と言う記事が出ていて、全体的な内容としてはもちろん朝日らしく突っ込みどころ満載でどこから突っ込むべきか迷う類のものなのですが、興味深いことに理由の第一に挙げられているのが「AIに負けない」「人間にしかできない仕事」だと言うのは興味深いことだと思います。
もちろん実際にはペットロボットによる患者の癒やし効果だとか、ロボットによる肉体的負荷の軽減など看護師業務にも関わる領域で様々な話も進んでいるのですが、やはり正確性や効率以外の部分で提供できるものがあると言うのが人間の強みであるし、人間でなくてもいい部分を機械に任せることで多忙さが軽減されれば、より人間向きの業務に特化することで人に優しい医療を提供するチャンスとなる可能性もありますね。
これを患者サイドから見れば人間相手なら遠慮するようなことが機械相手になら気楽に出来ると言う側面はあって、飲食店などでも直接口で注文するよりタブレットでオーダーする方が気楽で良いと言う意見も増えているそうですが、その点からすると病院は苦手でなるべくかかりたくないと言うタイプの人にとっては案外機械の方が利用しやすいと言う局面もあるのでしょうか。

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コメント

レントゲン読影とかも出来たりするのかな

投稿: | 2016年6月 1日 (水) 08時20分

責任の分担という側面もありますので、現状ではあまりAI化は進まないのではないかと思います。

投稿: ふぉれすと | 2016年6月 1日 (水) 09時33分

>レントゲン読影とかも出来たりするのかな

むしろここはAI研究の一丁目一番地だと思います。
診断などは、どうやって情報を取ってくるか、完全情報ゲームにはなり得ない矛盾(疾患の重複による矛盾する所見、患者の勘違い・嘘)がありますが、画像診断は情報は全て与えられていますし、形態認識はディープラーニングなどで長足の進歩を遂げています。

心電図の自動解析のように「最終確認は医師の診断」がつかえますし、そもそも人間による画像所見でも「○○、○○が考えられますが臨床症状と合わせてご判断ください」という究極の文言を記載できます。ですから「あやしい部分の見落とし」補間AIは、数年以内というレベルで登場するのではないでしょうか。

投稿: おちゃ | 2016年6月 1日 (水) 10時17分

一次チェックとしては普通に使えそうに思いますが、病変拾い上げから質的診断に至るまでが一つのハードルでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2016年6月 1日 (水) 11時43分

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