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2016年5月31日 (火)

国や経済界から医療給付抑制を求める意見続出

先日厚労省でこんな部会が開かれていたと言うのですが、ここで議論されているのが医療費増加対策としての給付の抑制と言うことであるようです。

調剤医療費8.2%の大幅増、C型肝炎新薬が影響(2016年5月27日医療維新)

 厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会(部会長:遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)の5月26日の会議で、最近の医療費の動向が説明された。2015年度の4月から11月は対前年度比3.1%増で、2%程度の増加で推移していた2012年度から2014年度までの3年間と比較して高めとなっており、特に調剤医療費は8.2%、中でも薬剤料の伸びが大きい
 その一番の要因は、C型肝炎治療薬のソバルディ(一般名ソホスブビル)と、ハーボニー配合錠(同レジパスビル/ソホスブビル)の登場だ。それぞれ薬価収載は5月と9月だった。
(略)
 保険者の立場からは、「11月くらいから各国保財政が厳しくなっている。2016年度前半は補正予算を組まなければならなくなっている」(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長、佐賀県多久市長の横尾俊彦氏)など、医療保険財政への影響を懸念する意見が出た一方、日本医師会副会長の松原謙二氏は、ソバルディなどでC型肝炎が根治すれば、肝硬変などの減少につながるため、長期的なスパンで見れば医療費に与える影響はプラスになると発言した。
(略)
 健康保健組合連合会副会長の白川修二氏は、「画期的な薬であることは知っている」「長期的には(医療保険財政の)引き下げに働くことは分かる」と述べつつも、「一時的には財政の圧迫要因になる。これが1、2年で終わるのか、5年、10年続くのか」と問いかけ、抗がん剤のオプチーボ(一般名ニボルブマブ)など、最近登場した高額薬剤も併せ、年間の使用患者数、今後の薬剤料の推移について推計を出すよう、厚労省に求めた
(略)
 白川氏は、後期高齢者の医療費の約40%が現役世代の支援であることから、「将来成り立たなくなる懸念がある」と指摘。(1)後期高齢者の患者負担、(2)窓口負担や高額療養費の負担区分に用いる現役並み所得者の定義――のほか、(3)70~74歳の外来での高額療養費の特例措置、についての検討を求めた。「高齢者の負担問題にさわると、政治がプレッシャーをかけてくるが、論理的に議論を重ね、結論を出すことが必要」(白川氏)。
 全国健康保険協会理事長の小林剛氏も同様に、制度の持続可能性の観点から、高額療養費の限度額などについて見直しが必要だとした。
(略)
 小児医療費については、患者負担の無料化を疑問視する声が相次いだ。
 東京大学大学院法学政治学研究科教授の岩村正彦氏は、「医療にはコストがかかることを認識してもらうことを前提に、制度が成り立っている。(1973年の)老人医療費の無料化を例に見ると、コスト意識がないとどうなるかは、歴史的事実として皆が知っている」と指摘、小児の医療費助成を一般に広げるのは、政策として適正なのか、疑問が残るとした。仮に窓口負担を軽減するのであれば、収入や資産を踏まえニーズがある人を対象に行い、その場合でも、1回は窓口で支払ってもらった上で、償還するなど、コスト意識を持ってもらう仕組みが必要だとした。
 白川氏も、小児の医療費助成について「地方自治体の財政力や政治的な配慮から、各市町村の扱いがばらばら」と指摘し、助成するのであれば法改正して一律に行うべきとした。他の委員からも、医療にはコストがかかるという意識を持ってもらい、“コンビニ受診”を抑制するためにも、小児の医療費助成、患者負担の見直しを求める意見が続いた。
(略)

これを見ると高齢者や小児への給付抑制も今やタブーとされる議論ではなくなったと言うことですが、現状では未だコスト意識を持ってもらうためにひとまず窓口負担分は払ってもらうだとか、現役並みの所得がある人には現役並みの待遇をと言った話に留まっていますけれども、いずれは高齢者に対する保険診療の範囲は若年者とは扱いが異なってくると言うことも起こってくるものなのかですね。
薬剤費高騰についても昨今では抗ウイルス薬なども一式数百万の費用がかかると話題で、外来に超高齢者が「薬で簡単に治ると聞いてきました」とやってきたがどうしようかと悩んでいる、などと言う声もよく聞くところですけれども、医療保険上もガイドライン上もここまでにしておけと言う制約がない以上は現場の医師が判断するしかないところで、現場での判断もなかなか悩ましいものがありますよね。
それでも肝炎などであれば患者を一通り治療してしまえば将来はあまり手が掛からなくなるのではないかと言う期待感も持てるのですが、昨今話題になる高価な新規抗癌剤などは患者が増えることはあっても減ることはないでしょうし、しかも新しい薬はどんどん高価になっていきそうですから今後もますます財政的な負担は増えていきそうだと言う予想は難しくないところです。

医療に限らず社会保障の永続性と言うことは財政再建だとか構造改革だとかを議論する上で非常に重要なキーワードになっていますが、その根本にあるのはいかに給付水準を引き下げるかと言うことでもあって、経済成長が未来永劫続くと言う前提で将来世代に借金をつけ回すようなやり方での過大な固定出費がもはや認められないのは、一般家庭の家計になぞらえて考えても簡単に理解は出来る話ですよね。
ただ人間誰しも自分で無駄な給付を受けていると言う自覚はないのは当然で、削るなら誰か他人が無駄につかっているところから削れと言う話になってしまうのですが、先日千葉市が出したデータで年7回以上救急車を呼んだ人の9割が軽症だったと言う話などを見ると、あまりに非常識な無駄遣いを抑制するためにも何かしらの抑制策は必要になるのでは?と言う声が当事者である国民側からも出てきているようです。
他方では厚労省の調査によれば病院に受診する患者の1/4は健診精査など特に症状のない患者だったと言い、肝炎治療薬などと同様に早期発見早期治療が将来的にどの程度医療費抑制効果を発揮するものなのかは今後の検証待ちとなりそうですが、こうした時間軸での評価も含めての医療のコストパフォーマンスと言うものが今後の議論の中でエヴィデンスとして重要視されていくことになるのでしょうか。

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コメント

命の沙汰も金次第ってことだね

投稿: | 2016年5月31日 (火) 07時55分

>命の沙汰も金次第ってことだね

人命の価値は、一人当たりGDPの3倍が限界、それ以上より重くないというのがWHOの見解。
まあ、地球より重くないのは小学生でもわかる論理。

投稿: おちゃ | 2016年5月31日 (火) 09時50分

考え始めると色々と改善すべき点もあるようにも見える一方で、現行の皆保険制度が臨床医にとってかなり面倒を省いていると言う有り難みはもう少し自覚されてもいいかとは思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年5月31日 (火) 13時40分

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