« 医療現場からあの道具が消える日 | トップページ | あのウザいポップアップに悩まされているのは日本だけではなかった »

2016年5月27日 (金)

医療事故調、届け出基準明文化か

本日まずは、先日以来話題になっているものとして、こういう判決が出たと報じられていたことを紹介してみましょう。

「医師に過失ないが説明不十分」…腫瘍手術で左足にまひ、330万円賠償命令(2016年5月21日読売新聞)

 香川県立中央病院(高松市)で手術を受けた高松市内の女性(67)が、左足にまひが残ったのは担当医師の診察や手術内容に誤りがあり、事前説明も不十分だったなどとして、県を相手取り4462万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、地裁であった。

 横路朋生裁判長は、医師の説明義務違反を認め、県に慰謝料など330万円の支払いを命じた。

 判決によると、女性は2008年、同病院で神経などに腫瘍の疑いがあると診断された。同年12月に腫瘍の摘出手術を受けたが、左足の神経が傷つき、まひが残った。

 横路裁判長は、「診断や手術などで医師の判断に過失はなかった」と判断する一方で、事前に行った手術の説明については「運動障害が生じる危険性があり、手術と経過観察の選択に当たって、熟慮して判断できるよう女性に説明したとは認められない」と指摘した。

 判決を受け、県病院局は「判決の内容を精査して、今後の対応を検討していきたい」としている。

経緯の詳細がわからないので医学的な部分に関しては何とも言いがたいものがあるのですが、この種の判決が出てくる以上は全てのケースで極めて稀な合併症や最悪の事態までを想定した分厚い説明書が必要になるだとか、いっそ学会なりが説明のテンプレを用意すべきだ等々の意見が出ているようですが、一般的な手術や手技に関しては確かに権威が用意したテンプレは有用かも知れませんね。
それはさておき、こうした場合一般的には示談なりで保険から一定程度の支払いを行って済ませると言う方法が主流で、裁判にまでなるケースは必ずしも多くはないですし、裁判に持ち込まれても裁判所から和解と称して示談を促す勧告が出る場合が多いと言い、言われてみればこうして判決まで出されたケースはあまり見かけないようにも思います。
それでもここまで話が進んでしまった背景には患者本人なり家族なりの意向が強く働いているとは推測されるところで、仮にこれが医療過誤が疑われる死亡事例であれば病院側は事故調に届け出ることはなく、遺族側はそれに強い不満を抱くと言うことになるのかと思いますけれども、ただこうした説明義務違反の類は事故調制度における医療事故再発防止のための教訓の拾い上げと言う観点からは価値が少ないのかも知れませんね。
ともなくも事故調制度が発足して半年余りが経過し、当初予想されていたように病院側が届け出る事例と患者遺族側が届け出を望む事例の食い違いが深刻になってきたところですが、先日こうした事態に対する対策としてこんな改善策が議論されていると報じられていました。

医療事故調査制度 見直しへ 予期せぬ死、基準統一 協議会設置 ばらつき是正(2016年5月25日毎日新聞)

 患者の医療死亡事故の届け出と院内調査を全医療機関に義務付けた医療事故調査制度について、厚生労働省は24日、地域や医療機関ごとの届け出数のばらつきを是正するため、関係機関で協議会を作って届け出対象の統一基準を設ける方針を固めた。死亡した患者の遺族が調査を求めた場合に、医療機関側に要望を伝える仕組みも新たに設ける。6月にも関連省令を改正する。

 同制度は昨年10月にスタート。当初は年1300~2000件の届け出を想定していたが、今年4月までの7カ月間の届け出は222件にとどまる。その背景として、(1)対象とされる「予期せぬ死亡事故」の範囲があいまいで、届け出に消極的な医療機関がある(2)遺族側からの届け出が認められていない――ことが指摘されている。

 このため厚労省は、(1)について、運営主体の第三者機関「日本医療安全調査機構」と、医療機関に助言・協力する「支援団体」に指定されている各団体(日本医師会、日本病院会など)で作る連絡協議会を新設。これまで各団体が個別にガイドラインなどで示していた届け出基準を標準化し、院内調査の手法についても医療機関や地域間の格差をなくす。

 ◇遺族の訴え 病院に伝達

 (2)については、同機構に遺族側から「医療事故ではないか」と訴えがあった場合、保健所の相談窓口などを紹介するだけの今の運用を改め、遺族の求めに応じて、患者が死亡した医療機関に遺族の意向を直接伝えるようにする。ただし、医療機関が院内調査する義務はなく、判断の結果を同機構に伝える必要もない

 見直しの方針は、自民党の作業部会の意見を踏まえて決めた。作業部会は、異状死を認めた場合に警察への届け出を医師に義務づけた医師法21条の見直しも議論していたが、今回の制度見直しには反映させず、検討を続けることになった。

 医療事故の遺族らで作る「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」の永井裕之代表は「これまで制度に基づく遺族の相談窓口さえなかったので、機構が遺族の相談を受け付け、医療機関に伝えることは半歩前進だ。将来的には遺族の調査依頼の窓口や、死亡事故があった医療機関の職員が通報できる窓口も設置すべきだ」と話している。【熊谷豪、桐野耕一】

そもそも何を目的とした制度であるかと言う認識にばらつきがあると言う気もしますけれども、制度が原因究明と再発防止を目的とするのであれば医療の側としては当然再発防止のために役立つ症例を届け出たいと考えるはずですし、一方で患者遺族側からすれば何かしら不明な点があれば究明したいと考えるはずですから、基準を統一したいと言うのであれば医療側のみならず遺族側の認識についても摺り合わせが必要でしょうね。
医療側の心情としてはやはり届出数がこれだけ少ないことを見ても事故調という名称自体のイメージがあって、何かミスをした結果患者が亡くなった場合に訴えるものと言う認識が根強い可能性がありますが、届け出対象を文字通り解釈すれば事前に予期しなかった(正確には、患者家族に可能性が説明されていなかった)死亡事例全てとなるはずで、やはり現場の感覚としては違和感を感じずにはいられないのでしょう。
その点で両者の落としどころとしてもっと活用出来る可能性がものとして剖検(病理解剖)やAi(死亡時画像診断)などもありかとも思うのですが、基幹病院などにおいては学会の施設認定の基準などにおいて一定数の剖検が必要ですし、死亡診断書に記載するにも何がどうなったかの情報はあった方がいいはずで、医療側の心情的にも事故調届け出よりはおすすめしやすいのではないかと思います。
ただ根本的には事故調については紛争化との関連性が避けては通れないだろうと言うのも現実で、遺族側も特に何も問題と感じておらず、円満に死亡退院されると言った大多数のケースでまでわざわざ届け出をするのかどうかと考えた場合、いたずらに杓子定規な基準を策定することでかえって紛争化のリスクを高めることになるのかも知れませんね。

|

« 医療現場からあの道具が消える日 | トップページ | あのウザいポップアップに悩まされているのは日本だけではなかった »

心と体」カテゴリの記事

コメント

とんでもない基準ができるかも

投稿: | 2016年5月27日 (金) 07時36分

どういう基準になるかが事故調の立ち位置を示すんでしょうね。

投稿: ぽん太 | 2016年5月27日 (金) 09時04分

今回の記事から見る限りでは医療系の諸団体を中心に話をまとめるようですが、どの程度の強制力が伴うかにもよりますね。

投稿: 管理人nobu | 2016年5月27日 (金) 12時13分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/63683769

この記事へのトラックバック一覧です: 医療事故調、届け出基準明文化か:

« 医療現場からあの道具が消える日 | トップページ | あのウザいポップアップに悩まされているのは日本だけではなかった »