« 高額な新薬を医療現場から排除すべきとの声 | トップページ | 医療現場からあの道具が消える日 »

2016年5月25日 (水)

ぐるぐるだとか転がしだとか言われると一体何の話なのかですが

どのような呼び方をするのかは地域毎に色々とあるのでしょうが、恐らく全国どこにでもある問題として先日こんな記事が出ていました。

行路病院・ぐるぐる病院の「患者転がし」(2016年5月13日読売新聞)

 

生活保護の患者の入院を多数受け入れる民間病院があります。関西では「 行路こうろ 病院」と呼ばれてきました。行路は、正式用語ではありませんが、「ホームレス」と似た意味です。筆者が医療・福祉の関係者に聞いた結果を総合すると、その数は大阪府内と近隣の県で50か所近くにのぼります。関東にも同様の病院が相当数あり、「ぐるぐる病院」と近年、呼ばれています。
 なぜ「ぐるぐる」なのか。多数の入院患者が、病院の経営上の都合で1~3か月前後ごとに次々に転院させられており、回り回って、元いた病院へ戻ることも珍しくないからです。

医学的必要性も、本人の意思も関係なく

 背景にあるのは診療報酬のしくみです。一般病棟では入院が長くなると、病院に入る1日あたりの入院料が下がるため、転院させるのです。受け入れる側の病院は、それで空きベッドを埋め、再び高くなった入院料を得て、入院時検査も一からやる。期間がたつと、また別の病院へ転院させる。
 治療上の必要とも、本人の意思とも関係なく行われる転院は「患者転がし」と言うべきでしょう。そこには、退院して生活する場所がないために病院にいる「社会的入院」が、かなり含まれています
 そうした病院の中には、まじめに医療に取り組む病院もありますが、療養環境や医療内容の水準が低い病院も少なくありません。過去には、ひどい劣悪医療と巨額の不正をしていた病院グループや、必要のない検査や手術をしていた病院も発覚しました。
 以上のような実態は、何よりも患者の人権・人格を傷つけるものです。入院なので費用がかさみ、転院時にかかる移送費も医療扶助ですから、財政面にも影響しています。医療扶助をめぐる大問題のひとつです。
(略)
もともと住居のない人だけでなく、入院中に住居を失って、広い意味でのホームレス状態になった人も「ぐるぐる」から脱出しにくいこと、福祉事務所からの敷金支給で居宅保護に移行することは制度的に可能なのに、実際の退院支援がろくに行われていないことが、問題点として浮かび上がります。
 こうした転院の実態は、会計検査院が14年3月にまとめた「 生活保護の実施状況について 」という報告や、総務省行政評価局が同年8月に公表した「 生活保護に関する実態調査結果報告書 」でも指摘されました。総務省の報告書は、東京都内の3か所の福祉事務所で見つかった具体例も挙げています。

 各方面から指摘を受けた厚労省はようやく、「頻回転院」という表現で、この問題の実態把握に乗り出し、生活保護を担当する自治体に対処を求めるようになりました。
(略)
 厚労省は、14年8月20日の保護課長通知で、自治体に次のことを求めました。
<1>転院にあたっては医療機関から、転院が必要な理由や転院先を事前に福祉事務所へ連絡させる
<2>福祉事務所は、転院の必要性について嘱託医と協議しながら検討する
<3>福祉事務所は、レセプトを点検して、その医療機関で適切な医療が行われているか検討する
<4>医学的判断に疑義があるときは都道府県の本庁に助言を求める
<5>都道府県・政令市・中核市は、必要に応じて医療機関に個別指導を行う
<6>頻回転院患者の実態把握を行う

 総務省の調査に基づく勧告を踏まえたものですが、実はずっと昔、1973年の保護課長通知でも、病院からの事前連絡、福祉事務所による検討を求めていました。また、特別な必要があるときを除いて都道府県域をまたぐ転院は不適当だとしていました。それらが、ろくに守られていなかったのです。
 どうしてなのか。総務省による福祉事務所への聞き取りでは「2週間、1か月以内という短期間の転院もあり、訪問による病状把握や本人の意思確認ができない」「転院の必要性は主治医の判断で、福祉事務所にそれを覆すだけの医学的知見はない」「他の都道府県にある医療機関には指導権限が及ばない」といった釈明が出ていました。
 より本質的な背景を考えると、「入院中の患者は病院にまかせておけばよい」という感覚の福祉事務所、ケースワーカーが多いからでしょう。医療を受けさせているのは良いことだとみている。住まいを確保して退院を支援するのは手間がかかる。長期入院患者への訪問は原則6か月に1回でよいが、居宅保護に移れば月1回の家庭訪問が原則になる。要するに、入院していれば、ケースワーカーの労力がかからないからです(そのかわり費用はかさむ)。
(略)
 かつて大阪市では、住まいのない人が退院する場合、施設入所でなければ保護廃止という運用で、居宅保護への移行を認めていませんでした。居宅移行の敷金支給は98年からポツリポツリと始まり、04年からは積極的に支給するようになりました。その結果、同市のホームレス状態の入院患者数は、かなり減ってきたのです。そういう教訓を生かすべきでしょう(それでも全国的に見れば、大阪市の頻回転院患者数は、まだ群を抜いて多い)。
(略)
 「ぐるぐる転院」という異常な現象をなくすために、何をすればよいか。厚労省が通知した内容だけでは、さほど対策が進むように思えません。
 筆者がいちばん重要だと思うのは、社会的入院をなくす取り組みです。病状が重くないのに生活の場として漫然と入院させられている場合、福祉でやるべきことを高価な医療に肩代わりさせているわけです。退院先になる居宅や介護施設の確保に積極的に力を注ぐ必要があり、国は、そういう活動に財政的なサポートをするべきです。
(略)

中には当然ながら必要性があって長期入院せざるを得ない患者もいるわけで、転がしが出来なくなったら患者はどうなるのかと言う問題もあるのですが、記事にもあるように入院中に住居を失い退院したくとも出来ず、行政に支援を求めてもなしのつぶてであると言った背景事情もあるようで、時折報じられるような金儲け主義の悪徳病院が云々と言う単純な図式ばかりでは必ずしもないようです。
記事においても最大の背景事情として社会的入院を問題視していることは正しい視点だと思いますが、もちろん病院に預けておくのが一番安上がりで安心と言う日本の歪な医療費の構造的問題もあることなので、不必要な入院に関しては患者自己負担分を増額するなど一定の歯止めは必要ですし、いわゆる180日ルールなどもこうした面での対策として導入されたものと言えますよね。
一方でこれだけ顕著な地域格差が存在していると言うこと事態が制度だけではなく、その運用上の問題点を表しているとも言えますが、特に生保受給者が多い大阪で転がしも多いと言うのはもちろん生保患者特有の諸事情もさることながら、やはり引き取り手の家族がおらず退院後の住居一つとっても本人が動かなければ何も話が進まないと言う制度的な問題もありそうに思います。

記事にも福祉事務所などに対する運用の改善を図ろうと言う動きが過去にも何度かあったことが紹介されていますが、現実的にそれによって頻回転院が改善したと言うこともないのですから実効性としてはどうなのかで、そもそも行政の側としても自分達で手間暇かけて行政サービスを行うよりも、全て医療機関に丸投げして月々のお金だけ支給するやり方が一番楽なのは間違いありません。
過去の大阪のように生保患者が退院しようにも保護廃止されて退院させてもらえないと言った運用は論外ですが、とりあえず引取先があるホームレスを多大な労力をかけて新居探しからその後の生活の手配までするだけのマンパワーが福祉事務所にあるのかと考えると、その分の労力をより重要度の高い非入院の受給者対策にあてたくなるのも理解は出来るところです。
医療機関の側にしても日常的、常習的に頻回転院に荷担している施設と言うのは確かにいて、ひどいところになると同じ法人内で患者を転がしているようなところもあるやに聞きますが、ただ何故退院させるより入院させることを選ぶのかと言えばそうしなければ経営が成り立たないからであり、救急患者受け入れ困難問題などと同様に基本的にベッドは埋めなければならないと言う診療報酬体系も問題だと言えそうです。

|

« 高額な新薬を医療現場から排除すべきとの声 | トップページ | 医療現場からあの道具が消える日 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

この黄泉瓜の記者は尤もらしい事を書いていますが
要は 自然は真空を嫌う ってだけの事で、システムの不備部分に
他のシステムの不備による歪が流れこんでるだけの話ですよね。
民死党じゃないんだから、対案の1つも出せよ ってマスゴミには無理か。。。

投稿: | 2016年5月25日 (水) 07時32分

素人マスコミに斜め上な対案出されても現場が混乱するだけですよ

投稿: | 2016年5月25日 (水) 07時49分

わりとまともな記事かなって感じたんですが。
白い巨塔がどうとか言うだけの人達と比べたらですけど。

投稿: ぽん太 | 2016年5月25日 (水) 08時31分

マンパワーがないからってのは必要悪の面はあるにしても
そうしないと病院がもうからないってのは必要悪になるんかしら

投稿: | 2016年5月25日 (水) 09時12分

大阪の患者置き去り事件のときも、マスコミの脊髄反射的バッシングが酷かったですね。
ちゃんと背景を議論してほしいです。

投稿: ふぉれすと | 2016年5月25日 (水) 10時03分

まずもって病院はもうける必要があります。

>そうしないと病院がもうからないってのは必要悪になるんかしら
記事中で明確に「悪」と呼べるのは「必要ない手術」だけで
「必要ない検査」はグレーゾーン、
他は悪ですらないですな。

投稿: JSJ | 2016年5月25日 (水) 11時57分

医療の位置づけが明確でないのですが、少なくとも民間病院は営利を前提として成り立っている以上、制度で許容された範囲内で黒字を目指して工夫するのは当然だと思います。
ただ現場の労働者は医療専門家でもありますから、明らかに医学的に妥当と思えない行為には忌避感を示すのが一般的な反応ですが、いわゆる過剰診療については線引きが難しいところはありますね。

投稿: 管理人nobu | 2016年5月25日 (水) 12時14分

マスコミが儲けるためセンセーショナルな記事を書くのと同じようなもんか
食ってく必要があるからね

投稿: | 2016年5月25日 (水) 12時40分

釣果1♡
>食ってく必要があるからね
いいえ。
あなたが快適に医療を受けることができるようにするためです。

投稿: JSJ | 2016年5月25日 (水) 13時20分

貧困ビジネスが一般人の快適な生活のためだとは知らなんだ

投稿: | 2016年5月25日 (水) 15時28分

>2016年5月25日 (水) 15時28分
恒例の賢くない考察

「行路病院=貧困ビジネス=悪徳暴利」 という決めつけ
 + 
「俺は死ぬまでそんな病院にお世話になることはないもんね」という根拠なしの確信

投稿: | 2016年5月26日 (木) 14時24分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/63669515

この記事へのトラックバック一覧です: ぐるぐるだとか転がしだとか言われると一体何の話なのかですが:

« 高額な新薬を医療現場から排除すべきとの声 | トップページ | 医療現場からあの道具が消える日 »