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2016年5月11日 (水)

雨降って地固まった結果?

福島医大産科講座元教授の佐藤章先生と言えば、かの大野病院事件で心ならずも被告となった加藤克彦先生の支援に尽力された方と記憶しておりますが、残念ながら先年亡くなられていたそうで、その佐藤先生が生前にこんなことを言い残していたそうです。

故佐藤教授の遺言、「福島の産婦人科は任せた」(2016年5月6日医療維新)

 日本臨床医学リスクマネジメント学会の4月3日のシンポジウム「県立大野病院事件を振り返る」で、福島県立医科大学産婦人科教授の藤森敬也氏は、「県立大野病院事件が産科医療に与えた影響―福島県の産科医療再生に向けて―」というテーマで講演した。

 事件当時、同大学産婦人科教授で、2010年に逝去した故佐藤章氏は、「福島の産婦人科はお前に任せた」との遺言を残したという。藤森氏は、前置癒着胎盤の術式を工夫するなど、本事件の教訓を生かし、妊産婦死亡率の減少につなげ、周産期医療の向上に努めているほか、東日本大震災後による福島第一原発事故後、福島県における妊産婦に関する健康調査と支援を実施するなど、遺言通りさまざまな取り組みをしていることを、故佐藤教授のエピソードを交えながら紹介した。妊産婦死亡率は全国的に見ても減少している。「大野病院事件をきっかけに、たくさんのシンポジウムや講演会が開催され、前置癒着胎盤の診断方法や術式、対策が検討された。本事件を機に、多くの妊産婦の命が救われるようになった」(藤森氏)。
(略)
 藤森氏の講演の後、日本医師会常任理事で、大野病院事件で産婦人科医が逮捕された当時、福島県医師会副会長だった石井正三氏が、フロアから当時のエピソードを紹介。地元のいわき市医師会が事件について会見、医療事故を刑事裁判として取り扱うことを問題視したところ、記者からは、「警察、検察に対し、異論を唱えているのか」「誰に対して、伝えたいのか」などと厳しい質問が飛んだという。「あなた方の向こうにいる、国民に対して伝えたいために会見をした、と答えた」(石井氏)。

 「『悪いことをしたら、医師は逮捕される』とシンプルが考え方、リアクションがあったことを覚えている。しかし、医療はそういうものではない。結果的に無罪になったが、我々が信じてやっていることを社会に理解してもらう第一歩にすぎないと思っている」。こう語る石井氏は、医療では滅多に不幸な事態が起きない故に、実際に生じた場合には「なぜ自分だけが」という思いになると言い、「だからと言って、それを制度やパニッシュメントに置き換えて何らかの成果を得ることは間違い」として、事故に遭った当事者が次の人生を見付けられる仕組み作りが求められるとした。

 「佐藤教授の驚いた顔が真っ白に」

 産婦人科医が逮捕されたのは、2006年2月18日。藤森氏は、故佐藤教授とともに、海外学会から帰国した当日で、成田空港から実家にかけた電話で事件を知ったという。「佐藤教授の驚いた顔が真っ白になっていたことを、今でも覚えている」と藤森氏。知人で、日本医科大学女性診療科・産科講師の澤倫太郎氏に相談、澤氏を通じて、2月20日に弁護士の安福謙二氏に弁護人を依頼した。その日のうちに7人の弁護団が結成された。

 産婦人科医の妻は出産目前だった。「逮捕されたのは、『海外逃亡の恐れ』という報道もあったが、1週間後に子供が生まれるような人が海外に逃亡するのか」と藤森氏は当時の思いを語り、加藤氏の逮捕を問題視。故佐藤教授は、(1)患者を治そうとして、一生懸命に治療したとしても、結果が悪いと刑事訴追される、(2)消極的治療に陥りやすくなる、(3)医療を知らない者が刑事訴追をし、判決を下すのは妥当か、(4)産婦人科医になる医師、特に産科医になる医師が少なくなる、(5)周産期医療の崩壊――を懸念したという(『佐藤章・福島県立医大教授が判決直後の真情を吐露』、『「事故報告書を最初に見た時、弁護は難しいと思った」』などを参照)。

 結局、2008年8月20日、福島地裁判決で産婦人科医は無罪となった。その翌年3月、故佐藤教授は定年退職、翌々年の2010年6月に逝去した。故佐藤教授は、「福島の産婦人科はお前に任せた」のほか、「県内の癒着胎盤の手術はお前が全て行え」「学生の講義は全て行え」という3つの遺言を残したという。
(略)
 2004年度の臨床研修の必修化時、福島県の産科病院は30施設だったが、2007年には17施設に減少、東日本大震災後の2013年には13施設へと減少した。現時点でも13病院(56.7%減)のままだ。日本産婦人科医会の調べでも、2006年から2015年までの9年間で全国の産科病院は約20%減少したが、福島県の産科病院の集約化は進みが早い
(略)

大野病院事件当時は1人医長でお産を扱うのがいいのかどうかと言う議論も盛んでしたが、事件後に福島県では大学の主導で1人医長の施設が次々と廃止され産科施設の集約化が進み、全国トップクラスだった1人医長の施設が今やほとんど見られなくなったと言いますから、結果的に事件が医療安全に大きく寄与するターニングポイントとなったと言う言い方も出来ないことはないのかも知れません。
もちろん産科領域に限らず医師の集約化と言うことは厚労省の長年の悲願でもあり、ただでさえ多すぎると言われる病院とベッドをどう世界的水準に近づけていくかと言う議論とも絡めて長く語られてきたところではありますが、この医師集約化と言う現象はおらが町の病院が消えてなくなる地域住民にとっては多少の不便こそあれ、現場で働く医師にとっては決して悪い話ではないとも言えます。
将来的には集約化した医師によって交替勤務制など様々な過労軽減策も採られるようになるのかも知れませんが、興味深いことにあれほど医療崩壊と大きく喧伝された時代が今や過去のものになりつつあると言うことなのか、先日こんな興味深い記事が出ていました。

若手医師、勤務先への「満足」度、大幅上昇(2016年5月7日医療維新)

Q ご自身の勤務先の環境に満足していますか。

 勤務先の環境への満足度では、「大いに満足」が3%(2013年)から8%(2016年)に、「満足」が28%から42%へと大幅に増加。一方、「不満」は22%から12%に減少していた。 「大いに満足」「満足」を合わせた数値は31%から50%に大幅に増加。「大いに不満」「不満」は39%から18%へ減少した。

詳細は元記事のグラフを参照いただきたいと思いますが、回答者の95%が病院勤務医であり4割が大学病院の医師であると言うことで、調査としては被雇用者としての勤務医の意識を問うた形となったと言えそうですが、ちなみに別の調査によれば開業医の満足度は勤務医よりもずっと高かったと言いますから、勤務医と開業医とを問わず医師全体が現在の勤務態勢に満足してきているとも言えるかと思います。
深読みすれば今回の調査は若手医師対象と言う事で、いわば最も厳しかった時代を知らない人たちが答えているとも言えますが、臨床研修制度が変わって研修医が5時に帰るようになった結果レジデントが大変な目にあっていると言った話もあったように、全年代を対象に調べてみればまた違った結果も出てくるものなのかも知れません。
大学病院などもかつては様々なしがらみから仕方なく御礼奉公すると言うケースが多く、給料は安いわ仕事はろくでもないことばかりだわで評判が悪い職場なのかと思っていたのですが、大学の職場環境が改善されつつあるのか医師の側の認識が変化したと言うことなのか、若い先生方が毎朝嬉々として点滴をしに回っていると言う話もあまり聞かないようには思うのですがどうなんでしょうね。

ともかくもわずか3年でこれほど大きな満足度の向上が得られた理由が何なのかですが、これも医療崩壊などと言う現象が社会的にも大きな反響を呼び、また医師を集めることが最も確実に医業収益を改善する方法論であると言う認識が広まり、医療現場で勤務状況改善のための対策が進んだ結果なのだとすれば、これまた大きな危機によって現場が劇的に改善を果たした事例と言うことになるのでしょうか。
ただ医師の満足度とはそもそも何なのかと言う点に関して言えば、勤務医も開業医もおよそ2/3ほどの圧倒的多数が「仕事のやりがい」であると答えたと言いますから、別に仕事が楽になったと言うばかりではない可能性も高く、例えばメディカルクラークの導入で書類仕事から解放され医療行為に専念出来るようになったと言った理由も少なからず影響している可能性はありますね。
ちなみにこれも非常に面白い現象として、こうした回答をした若手医師の給与を調べて見たところ全体的には低下傾向であったそうで、30年据え置きだった医師給与が医療崩壊と言われる時代に一時増加傾向に転じていたことがそろそろ沈静化あるいは反落傾向になってきているのか?とも読めるのですが、少なくとも若手の先生にとっては給料よりも別な部分で十分満足出来ていると言うことなのでしょうが、それがいいのか悪いのかです。

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コメント

正直な話、給料は商社クラスに務めている同級生程度あれば
十二分に満足している医師が殆どではないでしょうか、
具体的には不惑で月手取り大台って辺りで。

ところで大学病院云々の記事には些か違和感が…
単に奴隷の鎖の重さが、鉄からケブラーに変わったから
減ったってなあ そういう量的な変化にすぎないのでは?

投稿: | 2016年5月11日 (水) 07時19分

貧乏ワープア世代で金銭感覚が育ってないだけじゃないかな

投稿: | 2016年5月11日 (水) 10時33分

興味深いのは同じく若手医師を対象にした調査で、満足度を規定する因子として給与と適切な労働時間・休日がトップ2に挙げられていて、しかも以前と比べて大幅に伸びていると言う点ですね。
逆に症例数や良い先輩医師、指導医の存在はあまり重視されなくなっていると言うことも考えると、いわゆるQOML重視の姿勢が浮かび上がってくるようにも思えます。

https://www.m3.com/news/iryoishin/420829

投稿: 管理人nobu | 2016年5月11日 (水) 12時56分

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