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2016年5月24日 (火)

高額な新薬を医療現場から排除すべきとの声

医療財政が緊迫する中で最近とみに話題になることの多い高額な新薬の問題ですが、先日こんな議論がなされていたそうです。

高額薬剤、「皆保険の危機要素」と支払側(2016年5月19日医療維新)

 「医療費の約20%を占める薬剤費が国民皆保険の危機要素になる。薬価を総額的に統制する仕組みが必要ではないか」(健康保険組合連合会理事の幸野庄司氏)
 「オプジーボの話題が、相変わらず医療界を席巻している。オプジーボの適応拡大について承認申請中、あるいは治験中のものがあり、これらが終了して薬事承認されると、薬剤費は増大し、医療費は到底もたなくなる」(日本医師会副会長の中川俊男氏)
 5月18日の中央社会保険医療協議会総会(会長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)。同総会では、新薬の薬価を承認したが、その関連で高額薬剤の問題が改めてクローズアップされた。抗体医薬のオプジーボ(ニボルブマブ)の適応が、悪性黒色腫から、手術不能または再発の非小細胞肺癌に2015年12月に拡大され、それに伴い市場規模も拡大しているのを機に、繰り返し議論になっている問題だ。
(略)
 高額薬剤の問題について口火を切ったのは、健保連の幸野氏。2015年9月以降、調剤費が、対前年同期比で2ケタ増が続いている現状について、「異例の伸びが続いている」と問題視し、製薬企業の業績が好調なのも、この辺りに要因があるとした。「高薬価の医薬品の収載で、医療費の約20%を占める薬剤費が国民皆保険の危機要素になる。薬価を総額的に統制する仕組みが必要ではないか。効果が高いからいい、という論理は通じない」と幸野氏は述べ、新たな制度の検討を求めた。
(略)
 他の中医協委員からも、高額薬剤の薬価について、イノベーションの視点を重視しつつ、検討すべきとの声が相次いだ
 日医副会長の松原謙二氏は、「適応拡大した時の国家財政がものすごい負担になっている」と指摘、適応拡大があり、かつ一定以上の売上の医薬品については、再算定などを検討すべきと主張した。
 日本薬剤師会常務理事の安部義弘氏は、調剤医療費が二桁の伸びが続いているのは、薬価が高い薬の影響があると指摘し、「新薬は大切な財産であり、イノベーションの体力を削がないことは大事。一方で日本は国民皆保険で、高額療養費制度があるため、高額であっても、多くの患者が必要に応じてアクセスできることが諸外国とは違っている。この点も踏まえて、バランスの良い薬価の議論が必要」とした。
 日本病院会常任理事の万代恭嗣氏は、「イノベーションについては最優先とは言わないが、かなり優先すべきとは思っている。ただし、イノベーションの推進とコストの在り方については、広い立場で議論していくべき」と述べた。
 中医協の薬価算定組織委員長の清野精彦氏は、「今までは薬の効果を重要視し、評価していたが、コストに対するベネフィットがどうかが重要になってきている」との考えを示し、さらに(1)薬物治療により治癒する場合、あるいは治癒せず永続的に治療を続ける場合に分け、薬価の在り方を検討、(2)分子標的薬で適応拡大が予想されている薬については、その点も踏まえて薬価を考えることが必要――などの必要性を指摘した。
(略)

薬価と言うものにこのところ注目が当たるケースが増えていますが、特に記事にも出ているような新薬は極めて高価である一方で国民皆保険制度下では一定額の自己負担だけで使えると言う点で、果たしてどこまで高額な新薬を保険収載すべきなのかと言うことも議論になってきています。
新薬承認の仕組みとして今までの既存薬よりも効果が高いからこそ新規に承認されるのであり、また効果が優れているからこそ既存薬より高い薬価が認められると言うことになっていますが、当然ながらこうした方法では年々薬価が高くなっていくのは当然で、また昨今のドラッグラグ解消のかけ声の下に毎年高価な新薬が登場し処方されていると言う現実があります。
さすがに有効な新薬が出ているにも関わらず承認しないと言うことは患者にとっても困るところですが、一つには薬価の妥当性と言うことを見直すべきだと言う意見があり、またもう一つは使用の範囲をもっと絞って考えるべきだと言う意見もあり、特に後者に関してはどちらかと言えば支払い側の意見が主体で、使用する側である医師や患者サイドからすれば大きなお世話だったわけです。
ところが記事にもあるように昨今医療側からもこうした問題を危惧する声が上がっていると言うのは、医療費が青天井ではない以上限られた医療費をどこにより多く使うかと言う観点が重要であると判ってきたからだとも言えますが、特に最近コストパフォーマンスと言うことを医療側も気にし始めたことを示すものとして、こういう記事が出ていました。

肺がん診療指針、薬の優先順位に値段反映を検討…高額新薬が医療費圧迫の恐れ(2016年5月19日読売新聞)

 日本肺 癌がん 学会(理事長=光冨徹哉近畿大学教授)は、肺がんの診療指針で示す治療薬の優先順位に薬の値段を反映させるかどうか、検討を始めた。
 高額な新薬が登場し、広く使われると医療費を圧迫しかねないためだ。海外では、薬の値段が効果に見合っているかを分析した上で、安価な薬を薦める指針を作る国があるが、国内の学会が検討するのは極めて異例だ。

 きっかけとなったのは、昨年、肺がん治療に使えるようになった新薬「オプジーボ」。最も多いタイプの肺がんに使え、約3割の患者に高い効果があるとされるが、月2回の治療で体重60キロの患者の薬代は260万円かかる。
 どの患者に効果があるかを事前に判別することは難しく、5万人の患者が年間を通して使えば総額が1兆7500億円になるとの試算もある。
 同学会では今後内部の委員会で、薬の使用の優先順位を決めるのに値段を判断材料とするかを検討する。医療経済の専門家や患者の意見も聞いた上で、海外の先行事例も参考にする。

 英国では、高血圧や糖尿病で、薬の価格が治療効果に見合っているかを分析し、最新の薬ではなく、実績が豊富で安価な既存の薬を薦める指針を作っている。
 学会の診療指針は、医療現場での治療法に多大な影響を与えるため、同学会は慎重に議論を進める。
 指針の検討委員長の山本信之・和歌山県立医大教授は「高額な薬の使用が医療保険制度に打撃を与えれば、その後、患者が保険を使えなくなる恐れがある。多くの患者を救うのに一番良い方法を考えたい」と話している。

新薬は既存薬よりも高い効果を発揮するからこそ承認されると言う建前ですから、敢えて効果の劣る薬を使うと言うことは医療の効果だけを見る限りでは出て来ない話であるはずなのですが、こうしたコストパフォーマンスをガイドラインにも反映させようと言う考え方が支払い側ではなく、医療の側から出てくると言うことに時代の変化を感じますね。
血圧などはどの薬であってもちゃんとコントロールしていればいいと言うことになっていて、古くて安い薬であろうが血圧さえ下がれば何だっていいと言う考え方もあっていいと思いますが、製薬会社の勧めるままに高価な新薬ばかりを処方していく先生も未だ一定数いらっしゃるようで、逆に言えば医師の側にとっては今まで医療費を抑制することへの動機付けが見えなかったとも言えそうです。
患者にとって見ればある程度の範囲までは自己負担分の増加と言う形で跳ね返ってくるはずですが、それでも薬局側が安いジェネリックを勧めても高い先発品しか使わないと言う患者もいるように、高いものほど効きそうだと言うある種信仰めいた考え方が未だに残っていると言う側面は否定出来ません。

ただガイドラインなどに反映されるとなるとやはり命の価値をどれほどに見積もるべきかと言う問題があって、命は地球よりも重い的な価値観に従えば薬価が幾ら増大しようが1%でも余計に命を助けられればコスパは高いと言う計算も成り立ちますから、単純に治療効果が1割しか上がらないのに薬価が5割増しの薬は使うべきではないとも言えないところですよね。
この辺りは最終的には医師にとって安い治療で済ませることの何かしら意味づけが用意出来るものなのかどうかにも関係してくるはずで、英国の家庭医のように患者人頭割で報酬が支払われる制度であれば少しでも安く医療を行う意味が出てくるのですが、開業医と大学病院とを問わずどこでも自由に受診出来る建前になっている日本では単に患者の移動が発生するだけで終わりそうにも思います。
患者側に安価な医療の動機付けを持たせると言う考え方で次第に自己負担比率の増加も行われてきたと言えますが、本当に高価な治療であれば高額医療や補助金の類で自己負担分は頭打ちになりますからどこまで有効なのかで、医療費の使い具合によって保険料にも差をつけるべきだと言う声が今も根強く残る道理ですよね。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

それでも患者が希望したらどうするの?

投稿: | 2016年5月24日 (火) 07時55分

そろそろ、医療の「健康で文化的な最低ライン」を考えないと、生保は無料で無制限の高額医療を自由に享受、普通の人は画期的新薬は使えず、になっちゃいますね。

社会で頑張って稼いだ人が、より豊かなサービスを受けられるのは当然だと思います。

投稿: おちゃ | 2016年5月24日 (火) 08時49分

医療給付拡大を声だかに叫ぶ政治家が現れそうな悪寒

投稿: | 2016年5月24日 (火) 08時55分

>それでも患者が希望したらどうするの?

ガイドラインに沿わず医師が必用とは考えない治療を希望される場合は自由診療扱いです。
他の医師なら必用と考えてくれるかもしれませんので、セカンドオピニオンすることになると思われますが・・・

投稿: クマ | 2016年5月24日 (火) 09時08分

「保険収載しないうちは医薬品と認めない」というお役人のコントロールに染まってしまってる医者(医師会)がまずヘタレよ。
 
 混合診療を認める、認めない、それぞれ言い分はあるだろうが、金持ちが早く新薬を使いたいのなら私費で使わせればいいんだ。世界中の金持ちに使わせてデータがたまってから、薬価収載するかどうかをエサに、メーカ―と交渉してどこまで値切るかが 国民のための政府 の仕事だろ。人の命を的にしているのに「特許権」なんて不道徳な言い草を真に受けてると、世のなか悪くなる一方だよ。

 税金をおさめたくない多国籍企業や投資家の博打に、貧乏人から「も」集めた金を回すのは嫌ですね。
 おちゃ先生へ、ワンクール1000万をポンと出せるような金持は、「頑張って稼いだ人」よりもうまく立ち回った人がよほど多いと思いますよ。金が金を生む世の中ですから。 

投稿: memento mori | 2016年5月24日 (火) 09時23分

>人の命を的にしているのに「特許権」なんて不道徳な言い草

つってもある程度は儲からないと新薬の開発費も捻出出来ませんからねえ…。

>ワンクール1000万をポンと出せるような金持は、「頑張って稼いだ人」よりもうまく立ち回った人がよほど多いと思いますよ。

いずれにしてもナマポよりは命の価値は高いかとw。まあでも金持ちでなくてもなんとかして捻出すべきですよね命懸かってるんだから。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年5月24日 (火) 09時53分

話題の新薬(オプジーボ)は
従来の抗がん剤で免疫細胞を殺す前に使うべきなんでしょうか
高い薬使うんだったら、有効に使わせてほしい

投稿: | 2016年5月24日 (火) 10時10分

> おちゃ先生へ、ワンクール1000万をポンと出せるような金持は、

現在でも中位以下の所得層は、抗がん剤の費用負担に懸念が生じています。生保は何も考えずにフルコース行えます。
オプジーボを自費にするかは議論がありますが、少なくとも「ゼロ円」をどの層に許容するのか。高額療養費で月25万をわれわれ医師などの所得層は負担しなければなりませんが、生保はゼロ円。我々は税金で生保の薬代も払い、自分の医療費も払い生活苦。不公平だと思います。

>従来の抗がん剤で免疫細胞を殺す前に使うべきなんでしょうか

免疫細胞が死滅したら、その個人は数日で死にます。ですから、従来の抗がん剤でも免疫細胞は死滅しません。一時的に減少しますが、1〜2週でもとに回復します。
いつ使うのがベストか、それはこれからの研究次第でしょう。

投稿: おちゃ | 2016年5月24日 (火) 10時18分

ドロッポ先生
>ある程度は儲からないと新薬の開発費も捻出出来ませんからねえ
 ですからこのクラスのお薬の開発資金は薬価収載ぜずに、命にお金をかけたいお金持ちに出してもらえばよい。薬価収載にこだわるのはお役人の支配欲の現れかと思ってます。

 もと?を取った後も特許権を引っ張るなよ、といいたいんです。
 保険収載しなければナマポの手に届かないのは当然で、収載前~GL記載前に使うも使わないも、医者次第と申して居ります。

>まあでも金持ちでなくてもなんとかして捻出すべきですよね
 まぁでも余計なお世話ですね。「なんとかして」が悪徳の勧めwにならないといいですが。

投稿: memento mori | 2016年5月24日 (火) 12時52分

純粋に生保対策だけで考えるなら、保険外での診療が増えた方が管理や差別化はしやすい理屈ではありますね。

投稿: 管理人nobu | 2016年5月24日 (火) 15時07分

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