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2016年5月19日 (木)

圧力団体としての日医の矛先

このところ衆参同時選挙などという声も根強くあるそうで、TPPなど各種課題も少なくない中でどのような投票行動を取るべきか迷わしいところなのですが、先日こんな記事が出ていたことを紹介してみましょう。

影響力確保へ集票競う TPPなど懸念材料も 「潮流2016参院選 団体を追う」(2016年5月16日共同通信)

 自民党が2012年12月に政権を奪還して以降、業界団体は同党支持に回帰した。政権への影響力確保を狙い、参院選では自民党の比例代表で各団体の組織内候補が集票を競う。ただ環太平洋連携協定(TPP)や、安倍晋三首相が進める「岩盤規制改革」に対する反発など懸念材料を抱える団体は少なくない。会員の高齢化などで弱体化が止まらない組織もある。
(略)
 日本医師会の政治団体である日本医師連盟(日医連)は、財政再建策の一つとして政府内で強まる医療費への削減圧力を警戒する。両組織のトップを兼ねる横倉義武氏は1月の日医連会合で、16年度の診療報酬改定を巡り全体の改定率が引き下げられる中で医師への報酬増を勝ち取ったとした上で「政府、与党にご理解いただいた結果だ」と強調した。

 日医連幹部は「今後も政権と対話していく必要がある。まずは参院選でわれわれがどれだけ力を示せるかだ」と話す。票を背景に、政権に圧力をかける戦略だ。
(略)

ここで日医が診療報酬が全体として引き下げられる中で、医師への報酬増を勝ち取ったと誇っている点に留意いただきたいと思いますが、日医としては医療全体のことなどどうでもいいが医師にとってどうかと言うことにだけ関心が向いていると言うことで、圧力団体としては珍しく真っ当な態度であると評価すべきですよね。
言うところの圧力団体各方面についてはJAなど農業系団体を中心にTPPへの対応が大きく取り上げられる機会が多いですが、こと医療の世界に関して言えばそれによる影響も全くなしとはしないものの、より大きな影響を与える因子として再び声が高まり始めた社会保障抑制政策にどう対処すべきかと言うことが挙げられるかと思います。
先日は安倍総理が経済財政諮問会議において「来年度予算での措置が新たな国民負担につながることは厳に抑制しなければならない」と医療費など社会保障コストの抑制を指示したと報じられていて、自然増も含めて30兆円を超える医療介護関連の支出の効率化、合理化が追及されることになる様子ですが、公定価格で行われている医療において医療費抑制とはすなわち収入減に直結する話です。
国が近年医師や看護師、介護職員などを増やしてきたところにお金は出さないと言うのですから業界としては首肯できないのは当然ですが、自前の候補も落選させる日医にどんな集票力があるのかと言うことを考えると医師にとってだけメリットがあるような我田引水の政策では相手にされないでしょうが、先日は妙に俗な話としてこんなことをアピールしていると報じられていました。

大手薬局チェーン社長の超高額給料を日本医師会が問題視!薬局の「儲けすぎ」体質露呈か(2016年4月26日ビジネスジャーナル)

 2016年は、2年に一度の診療報酬の改定年。4月1日から病院、診療所、薬局などで支払う医療費が変わったことに気付いた人もいるかもしれない。得する薬局のかかり方や大病院を受診する際に気をつけておきたいことなど、身近なシーンを中心に、改定の影響を見てみよう。今回の改定では、「儲けすぎ」ともいわれる薬局にもメスが入っている。
(略)
 今回の改定で一番変わったのは、薬局で払う調剤報酬だ。病医院で発行された処方箋を調剤薬局に提出して薬を出してもらうことを「院外処方」という。高齢者になるほど、複数の医療機関にかかって複数の薬を飲むケースが多い。

 そのため、高齢者分だけでも約500億円分の薬が無駄になっているとの試算もあり、国は「かかりつけ薬剤師」の導入を推し進めようとしている。1人の患者の処方状況を1人の薬剤師(薬局)が把握することで、重複した投薬や飲み合わせによる副作用を減らそうという狙いだ。
(略)
 薬局をめぐっては、近年「儲けすぎ」という批判も根強く、日本医師会が大手薬局チェーン社長の給料を問題視するレポートを公表するなど、調剤薬局への報酬引き下げを求める意見が出ていた。例えば、日本調剤の三津原博社長の14年の報酬は6億7700万円に達している。

 結果的には、調剤報酬全体では微増となったが、大病院の前に乱立する“門前薬局”への報酬が引き下げられた。お薬手帳持参者に対しての30円の値下げも、その流れにあるという見方もあり、日本医師会医理事は「今後も厳しく見直しを求めていく」と述べている
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正直他所の社長がいくら儲けていようがどうでもいいんじゃないかと思うのですが、国民のワープア化が定着している中で「あそこの社長はこんな巨額報酬を得ている!儲けすぎだ!」式の批判は世論の賛同を得やすいと言うことなのでしょうし、日医としても比較的リスクが低く訴求できるポイントと見込んでいるのでしょうが、例えば看護師会が「医師の給料高すぎない?」などと言い出すのはちょっと想像出来ないですよね。
こう言ういわば同業者を売るような行為が業界仁義なり何なりの面からどうなのかですが、日医的には医薬分業で少なくとも院外の薬局薬剤師に関しては完全に他業界と言う認識になったと言うことなのでしょうか、
ただ残薬多量と言うことは患者は必要としていない薬であると言うことですから、そうした無駄を削減することで医療費を削減出来るのであれば悪い話ではないとは言えそうです。
根本的な部分で国が進めようとしている社会保障費抑制について国民がどう考えているのかについて、国民にとっては税金などの負担と受けられる給付と言うサービスのどちらを取るかと言う選択ですが、平成27年に内閣府が行った世論調査によればこんな結果が出たそうです。

「社会保障費の増大を抑制するために,政府が今後取組を強化しようとしている対策のうち,特に重要であると思うものはどれか聞いたところ,「医療費等の地域差などを踏まえた医療・介護提供体制の適正化」を挙げた者の割合が44.5%と最も高く,以下,「世代間・世代内での負担の公平を図るなど,負担能力に応じた公平な負担,給付の適正化」(38.5%),「所得に応じた年金給付のあり方等を踏まえた年金改革」(38.4%),「就労支援を通じた生活保護からの脱却,生活保護制度の適正化の推進」(30.9%),「医療・健康増進関連サービス等の公的サービスの産業化(健康医療情報を取り扱う民間事業者等を活用した保健事業の展開等)」(28.8%),「薬価,調剤等の診療報酬,医薬品等に係る改革」(27.7%)などの順となっている。(複数回答,上位6項目)」

ここで最も多くの支持を得たのが「医療・介護提供体制の適正化」であり、それに次ぐ支持を得たのが「公平な負担、給付の適正化」であることは注目すべきなのですが、いずれも「地域差などを踏まえた」だとか「負担能力に応じた」等々様々な枕詞がつくと言う点で、極論すれば「オレの支払いは減らして誰か他の人間に支払わせろ」と言うことにもなりかねませんよね。
この辺りはいわゆる総論賛成、各論反対と言うもので、実際に国や自治体が音頭を取って医療提供体制の適正化や給付の適正化を推進すれば必ず異論も多数出てくると思うのですが、国としてみれば世論調査の結果としてこうした数字が出たと言うことが政策推進の根拠として使えると言うことでもあります。
そんな中で日医としては医にはなるべく多くのお金を出して欲しいとなれば、その財源として薬の方を人身御供に差し出すことに躊躇を覚えるはずもありませんが、医師と薬剤師がほぼ同数であっても加入率の差で医師会の方が5割増しで薬剤師会よりも会員数が多いと言いますから、圧力団体としての影響力はより大きいと言うことになるのでしょうか。

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コメント

前から疑問だったんだけど医師会員の人って日医推薦候補に無条件で投票するの?

投稿: | 2016年5月19日 (木) 09時23分

入れるわけないでしょ
医師はバラバラで団結しないのがむしろ問題

投稿: フォレスト | 2016年5月19日 (木) 10時18分

選挙の際に御協力云々のお願いくらいは来るのでしょうが、他団体と同様に実際の投票行動にはさほど関係ないような気がします。

投稿: 管理人nobu | 2016年5月19日 (木) 11時05分

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