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2016年5月23日 (月)

医師偏在対策の強化が新たな既得権益を生む可能性

あるべき医療、可能な医療の将来像に対して議論が続いている中で、先日こんな話が出ていたと報じられています。

偏在対策「強力」に、「医師の働き方ビジョン」も策定(2016年5月20日医療維新)

 厚生労働省の第3回「医療従事者の需給に関する検討会」(座長:森田朗・国立人口問題研究所長)と、第6回「医師需給分科会」(座長:片峰茂・長崎大学学長)は5月19日、医学部定員を2019年度までは現行の9262人を最低でも維持するほか、医師の偏在対策として、専攻医の募集定員枠の設定、保険医の配置・定数の設定、自由開業・自由標榜の在り方などを今年末に向けて検討することを骨子とした「中間取りまとめ」(案)を了承した(資料は、厚労省のホームページ)。
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 さらに医学部定員増によっても、地域における医師不足は解消しないとの認識から、医師偏在対策の実施に当たっての課題、法制的な課題などについて今後検討する。「医師が勤務地や診療科を自由に選択するという自主性を尊重した対策だけでなく、一定の規制を含めた対策を行っていく」との観点から、専攻医の募集定員枠の設定をはじめ、13の偏在対策を例示している。
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 「中間取りまとめ」(案)に対しては、構成員から基本的には反対意見は出ず、一部追加修正を条件に了承された。複数の構成員から挙がったのは、医師偏在対策を強力に進めるため、「検討する」ではなく、より踏み込んだ表現にすることを求める意見だ。これに対し、厚労省医政局地域医療計画課長の迫井正深氏は、他の審議会などとも関係する問題であり、本検討会で全てを決めることができないため「検討する」との表現にしたと説明、同医事課も「今後、医師の偏在対策を強力に行っていくことを予定している」と述べた。
 医師偏在対策は、経済財政諮問会議でも議題になり、解消に向け規制的手法も検討するとしている(『医師偏在、「規制的手法」も検討へ』を参照)。2017年度から開始予定の新専門医制度については、地域医療への影響から専攻医の地域別の上限設定も検討課題になっており、医師偏在対策がさまざまな場で規制色を強めながら議論される見通しだ(『医師の“適正配置”の一歩か、新専門医制』を参照)。
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 医師偏在対策については、検討の柱として、(1)医学部、(2)臨床研修、(3)専門医、(4)医療計画による医師確保対策の強化、(5)医師の勤務状況等のデータベース化、(6)地域医療支援センターの機能強化、(7)都道府県が国・関係機関等に協力を求める仕組みの構築、(8)管理者の要件、(9)フリーランス医師への対応、(10)医療事業の継続に関する税制、(11)女性医師の支援、(12)ICT等技術革新に対応した医療提供の推進、(13)サービス受益者に係る対策――が例示された。
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 総論としては、特に「医師需給分科会」において、医師偏在対策を強力に進めるべきとの意見が相次いだ
 聖路加国際病院院長の福井次矢氏はまず、「中間取りまとめ」について、「全体的には、今まで述べられたいろいろな意見が十分に取り入れられている」と評価。その上で、(3)の専門医については、「最悪の場合、各学会が独立して必要な専攻医数を推計した結果、医学部卒業生の超える推計数が出てくる可能性もある。診療科をまたいだ推計が必要」と指摘、さらに「偏在対策を十分に行わない限りは、医師数をいくら増やしても仕方がない。偏在対策をどのくらい強い意思でやるのか」と厚労省に質した。
 日本医師会副会長の今村聡氏も、「一番大事なのは、医師の偏在対策であり、これは本当に強力にやる必要がある。その結果、医師の将来の需給予測も変わってくる。具体的に一つ一つ議論していくことになる。ぜひここは強力にやってもらいたい」と求めた。
 「医師の養成数の増加と偏在対策は、どちらか一方というわけにはいかない」(全日本病協会副会長の神野正博氏)、「医師偏在対策が、最も重要なポイント。具体策を提言し、強い対策を打ち出すことが必要」(岩手医科大学学長の小川彰氏)など、医師偏在対策の必要性を指摘する、さまざまな意見が出た。
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 もっとも、「中間取りまとめ」に対して、幾つかの疑義、意見も呈せられた。
 日本医師会副会長の松原謙二氏は、医師の需給推計は、今の医療ではなく、終末期医療や在宅医療をはじめ、超高齢社会を踏まえた医療の在り方、病診連携の推進、医師の業務負担の軽減などを議論してから行うべきであると指摘。さらに専攻医の募集定員枠の設定など、規制的手法についても疑義を呈し、「個人の自由を奪っていく手法は、結局はうまくいかない。医師が自発的にどの分野をやりたいかを選び、その中で120%の力を発揮できる仕組みを考えるべき」と提言した。
 慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏は、全国調査や「新たな医療の在り方を踏まえた医師の働き方ビジョン(仮称)」の作成により、新たに医師需給を推計しても、試算の根本は変わらず、結果にはあまり差が出ないと想定されることから、「同じリソースを使い、効果的な対策を打つなら、医師偏在対策について、しっかり対策を練って行くことが必要ではないか」と提言した。

医師の偏在対策を非常に強力に推進していくべきだと言う意見が打ち出されたことはともかくとしても、その方法論として各種の規制的な手法を使っていくと言うことに関して基本的に賛成意見ばかりであったと言うことなのですが、日医なども参加している場でこうした話に特に反対意見が出なかったと言うことが注目されますよね。
総数としての医師数が増えている中で、近い将来どこかで医学部定員を再び絞ることになるのはほぼ既定路線となっていますが、医師不足が解消されても偏在は解消されないと言うことが明らかになったと言う判断がこうした議論の前提にあることは言うまでもないとして、問題となるのは一つには偏在の定義をどうするのかと言うことであり、もう一つは具体的な偏在解消の方法論です。
各種統計手法などやり方次第で医師数の過少は判断が分かれるところだと思いますが、ひとまず偏在の定義の問題は置いておいて解消の方法をどうするかと言う点に関して言えば、一つには以前から言われている通り新専門医制度に基づく医師配置の管理と言うことがありますが、これに加えてこんな話も出ているのだそうです。

医師不足地域で勤務を…開業の条件に(2016年5月19日毎日新聞)

 将来の医師数のあり方を議論している厚生労働省の有識者検討会は19日、医師が大都市などに集中する現状の是正策として、開業前に医師が不足している地域や診療科での一定期間の勤務を義務づけることを盛り込んだ中間取りまとめを了承した。必要な法整備などを整理し、年内に報告書をまとめる。

 国は2000年代に問題化した医師不足を解消するため、08年度から医学部定員の枠を暫定的に広げるなどして医師数を毎年約4000人ずつ増やしてきた。その結果、00年は201.5人だった人口10万人当たりの医師数が14年は244.9人まで増えたが、最も多い京都府(307.9人)と最少の埼玉県(152.8人)では約2倍の差がある。女性医師の比率が高い小児科や産婦人科などの人員不足も解消されていない。

 このため検討会では、医師配置に関わる直接的な対策が必要だとして、勤務地や診療科を調整する方法を模索、その一つとして、診療所などを開業する場合は、特定の地域・診療科で一定期間診療に従事することを許可の要件とする案を盛り込んだ。勤務期間などは今後議論する。

 一方、大学の医学部定員については、今年度(9262人)程度を当面維持するとした。厚労省は、今の定員だと40年には人口減などで医師が1万8000人程度余ると試算しているが、医師不足が著しい地域で設けている増員枠を撤廃すると悪影響が大きいとの判断から、以前の定員に戻すことは見送った。【細川貴代】

専門医資格による規制も基幹病院勤務医の医師数管理にはよいのでしょうが、基本的には元から医師の多い施設間での医師数再分配と言う話ですから、僻地の小さな診療所であるとか町医者など総合的な医療を行っている医師に関してはあまり意味が無い話で、開業条件云々とはそれらに対しても一定の強制力を持ちたいと言うことなのでしょう。
この点では言われているように総合診療医も専門医資格の一つとして取り上げると言うことであれば、その資格取得や更新の条件として勤務地域を規制すると言う方法論も考えられますが、そもそも総合診療医も含めて専門医資格の有無によって公的には何がどう変わると言うこともなさそうだとされている中で、どれほど資格取得が訴求力を持つのかは判りませんよね。
地域内での開業医総数を規制する方法は諸外国でもかなり行われているやり方で一定の実績がありますが、当然ながら従来であればこうした話に対しては日医などの強力な反対意見があっただろうものを、今回あまりそうした声も聞かないと言うのは考え方が変わったと言うことなのか、それとも単に既存の開業医には関係のない話であるからと楽観しているからでしょうか。

実際にこうした規制が敷かれた場合、例えば地域内であまり評判のよろしくない既存の開業医が既得権益として競合相手もなく営業を続けられることとなり、結果として地域内医療の質的向上が難しくなると言う弊害もありそうですが、記事を見る限りでは診療所を開設する場合にはとのことですから、例えば既存診療所を継承するだとか雇われて勤務すると言ったことは規制対象外になる可能性もありそうです。
もともと医師という人種にははっきりした定年がないものですから、こうした制度下で地域内の開業医の平均年齢が上がる一方になった場合どうするのかで、後継者を雇い入れて診療所を継続すると言う抜け道が一般的になってきますと、地域の老開業医の開業枠を若手医師が奪い合うと言うことも起こってくるのかも知れませんね。
相撲の親方資格なども数の制限があることからずいぶんと相場が高騰していると言いますから、長年地域医療に従事してきた開業医の先生にとっては思いがけないボーナスとなる事も考えられますが、そう考えますと実は既存の開業医の先生にとっては別に何ら困った話でもなんでもなく、そうであるからこそ反対意見も聞こえてこないのではないかとも思えてきます。

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コメント

記事でも、医師不足地域の代表として埼玉県が挙げられているように、
フタを開けてみれば、僻地からはますます医師が減り、首都圏に集められるような施策になると予想します。

投稿: JSJ | 2016年5月23日 (月) 07時57分

意外と反対もなく決まっちゃいそうですね。
でも実際のところどんな配分するかでもめそうですけど。

投稿: ぽん太 | 2016年5月23日 (月) 08時49分

絶対数の少なさなのか需給バランスの破綻なのかで医師不足の定義がかなり変わりそうですが、都道府県レベルの定数設定もさることながら県内自治体間での綱引きもかなり激しくなりそうに思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年5月23日 (月) 12時24分

もしかして使えない爺医者の首切りがすすむ?

投稿: | 2016年5月23日 (月) 21時27分

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