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2016年4月14日 (木)

必要に迫られ成年後見促進法成立

核家族化も通り越して生涯独身と言う人もこれだけ増えてくれば、本人以外に身内がおらず保証人等をどうすべきかと困る場面も少なくないと思うのですが、医療現場においても何かあった際に当の本人は判断を下せる状況にはないと言うこともままあるわけで、やはり本人の意志を代弁してくれる人を立てておいて欲しいと感じる場合はあるものです。
ましてやそもそも本人に意志決定能力がないと言う場合、一体誰の意志に従って医療を行えば良いのか、その場合インフォームドコンセントは果たされてると言えるのかと言う疑問があるわけですが、一般的な社会でしばしば本人の代弁者として扱われる後見人という制度について、先日こんな記事が出ていました。

後見人が医療行為に同意することはできません(2016年4月1日日経メディカル)

(略)
後見人が行えないこと

 後見人の職務は、財産管理と身上監護(本人の生活に関わる決定をすること)であり、法律行為と直接関係しない介護などの行為は含まれないといわれています。しかし、日常生活を遂行する上でこの法律行為と非法律行為は混在していることが多く、実際には後見人の業務を一くくりにして論じることは難しいようです。
 後見人ができないこととしては、(1)本人の一身専属性の行為、(2)医療行為の同意、(3)死後の事務、(4)居住している不動産の処分――などがあげられます(表2)。
(略)
 「医療行為の同意」に関しては、一般的にはしばしば誤解されている項目といえます。例えば、判断力が低下している被後見人が何らかの手術を必要としているとき、病院側は後見人に手術の同意などを求めることがあります。しかし、被後見人の身体に侵襲を伴う医療行為に対しては、後見人は同意する権限を持っていません。介護スタッフらによる事例検討会で、身寄りのない認知症患者さんに胃瘻造設などを行う必要性があるときに成年後見制度を利用したらどうかという意見がしばしば出されるのを経験します。介護スタッフの多くは成年後見制度を十分理解していないようですので、先生方から「後見人らは医療行為の同意をすることができない」とコメントをしていただけるとよいかと思います。では身寄りが全くいない被後見人の場合にどう対応したらよいかということですが、これは難しい問題かと思います。誰が手術の同意をするのか、同意書を誰が書くのかが問題になるでしょう。同意をする親族がいなければ、手術はできないことになってしまいます。
(略)

まあこの場合先生方から後見人の正しい業務内容を説明するのがよろしいのか、それとも何も知らないふりをしてでも後見人から同意書にサインをいただくのがよろしいものなのか微妙なところだとは思うのですが、これも後日それで何かあった場合には誰かが責任を取ることにはなるのかも知れない一方で、誰も責任を取らないから話が進まない問題でもあると言えます。
記事にもあるような胃瘻造設と言ったケースがまさしく非常に難渋するところで、多くの場合医療行為と言うものはそれを行わなければ健康上の不利益があると言うことで、意識のない患者に対する救命救急措置などを筆頭にいわば緊急避難的な行為として行ったと言う建前が通用するはずですが、胃瘻についてはそれをしないからと言って通常何ら生命や健康に不利益はないわけです。
ただ介護などの管理上大変であるとか、言ってみれば周囲の都合によって不要不急の行為として行われているだけに、予定手術としての胃瘻造設を緊急避難的に行いましたと言うのは全く無理があると言え、こうした場合は院内の倫理委員会に代行決定を求める等となっているようですが、現実的には根拠は不明確ながら入所先の施設長名で同意書を書いた…などと言う事例も少なからずあるようです。
こうした混乱する状況を改善すべく、この4月8日に成立したのが成年後見促進法と言うもので、現在18万人にも登る利用者の生活上の必要性に答えるべく今後3年間で様々な改善が図られることになりますが、特に注目されるのが手術など医療行為への同意権をどこまで認めるべきかと言う点で、すでに各方面からまさしくこの点について反対する声明が出されているところです。
そもそも医療機関がこうした同意書を求めるのも何かあった際の責任問題を回避するためとも言えますが、当然ながらそれにサインする側も何かあったらと考えるもので、医療に限らず実際に赤の他人の意志を代弁することで後々まで迷いや後悔が残ったと言うケースも少なくないと言うこんな記事を紹介してみましょう。

「支援女性死なせた」 手術促した後悔、今も 成年後見促進法成立(2016年4月11日共同通信)

 認知症高齢者や精神・知的障害者の増加を見据え、利用促進法により担い手の育成や権限強化が図られることになった成年後見人。手術への「代諾」(同意)や居住地の選択、死後の財産処理といった場面に立ち会ったとき、後見される人の意思をどうくみ、支援に生かすのか。日々、難しい判断を迫られている。

 「私は被後見人を死なせてしまった」。関東地方で活動する60歳代の男性後見人は唇をかんだ。2008年7月、男性が後見人となって支援していた女性=当時(46)=は喉にできた腫瘍を切除する手術を受けた約2週間後、くも膜下出血で死亡した。女性には重度の知的障害があり「術後の管理のため」病院のベッドに両手足を縛られ、身体を拘束されていた。後見人には拘束する方針は伝えられていなかった。
 腫瘍は良性だったが、こぶし大になり食道を圧迫していた。健常者ならすぐにでも手術してしまうケース。だが、知的障害がある女性は術後、ベッドで安静を保てないことが予想されたため、先延ばしにしてきた
 「手術をすべきか」。後見人は悩んだ。女性は通常の病院の診察でも恐怖で体を震わせ、目を潤ませていた。意思表示ができたとしたら「手術は望まない」と言ったかもしれない。後見人は「自分だけで結論を出すのが怖くて」精神保健福祉士ら専門職10人に手術について検討を求めた。意見は真っ二つに割れ、結局後見人らに促される形で、代諾権限のある女性の実母が手術に同意した。
 身体拘束と死亡との因果関係は不明だ。だが、もし手術をしていなかったら―。7年以上たった今も、後見人の悔恨の念は消えない。「手術の是非はもちろん、術後管理の方法をもっと病院側と詰めるべきだった」

 成年後見制度は00年、介護保険制度とともに高齢化社会を支える両輪として導入された。今回成立した促進法では従来の財産管理に加え、施設入所や入院などの手続きをはじめとする生活面のサポートを強化。担い手確保のため市民後見人も育成して、サービスの需要増に備える構えだ。
 医療行為や介護に同意する権限を後見人に付与するべきかどうかも議論される。後見人の力が強まる可能性が出てきたことに、現場は戸惑う。
 岐阜県多治見市のNPO法人「東濃成年後見センター」の山田隆司(やまだ・りゅうじ)事務局長は、自宅で1人暮らしをしている認知症の高齢者や知的障害者の見守りから施設入所や入院の手続きの代行、死亡後に火葬された被後見人の遺骨の受け渡し、残された財産の遺族への引き渡しまでを一手に担う。
 「当事者や家族の意思にとことん寄り添おうとすれば、覚悟が必要」と山田事務局長。台風でも大雪でも雨戸を開けておくのが好きな独居の当事者の家にほぼ毎日通って雨戸を閉めたり、自宅で突然死した人がいれば、警察の実況見分に立ち会ったりする。残された遺産の相続を拒む親族を、1時間以上にわたり受け取ってもらえるよう説得したことも。「ボランティア感覚の市民後見人では到底無理」と話す。

 国学院大法科大学院の佐藤彰一(さとう・しょういち)教授は「促進法が求めている後見人の権限強化や制度拡充を検討する前に、当事者の意思をどのようにくみ取り、支援内容に反映させていくかの議論が先だ」と指摘している。

まあ意志をくみ取ることが出来ないからこそ後見人が必要になったのだろうし、そもそも意志決定能力が低下した方々が明らかに自己の不利益になるだろう自己決定権を主張した場合どうすべきなのかと言う問題もあるのですが、それらも含めて意見の分かれるところなんだろうとは思いますね。
理想的な制度云々の議論はさておき現実に即して有意義な制度を考えた場合、一つには身寄りの無い高齢者でこうした制度を利用している方々の場合生保受給者である場合が多いと思われ、ひとまずこうした方々に関しては誰か特定個人ではなく行政などが公的に後見を行うような制度がまずはモデルケースとして出来ないのかどうかです。
賃貸住宅を借り受けたりする際に保証人をどうするかと言うことは以前から問題になっていて、これに対する一つの解答として企業として保証人を引き受けると言うシステムが成立し稼働していますが、リスク分散や個人個人の価値観等に基づく判断のぶれを避けると言う意味でも、やはり組織として判断する方が間違いが少なそうに思いますね。
ただその場合緊急時の意志決定が遅くなると言う可能性があって、あらかじめ一般的な場合についてどのように対処すべきなのか等をマニュアル化出来るものなら望ましいのでしょうが、ありふれた肺炎一つとっても悪化した場合呼吸器をつけるのかつけないのかでも判断が分かれるでしょうから、誰がどうやってその基準を決めるのかと言うところでまた堂々巡りに陥りそうです。

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コメント

ところで独り身老人が死んだら遺産ってどうなるんだろう?

投稿: | 2016年4月14日 (木) 07時59分

後見人は同意書を書けないと言われたので入院当日お引き取りいただいたことがあったなあ
でも本人は処置なんて望んでないだろうし結果的には良かったのかも

投稿: | 2016年4月14日 (木) 08時44分

>ところで独り身老人が死んだら遺産ってどうなるんだろう?
国庫に入れられます

投稿: おちゃ | 2016年4月14日 (木) 10時16分

死んだらお国に全部取られるのだから生きているうちに使い切るべきだと、終身の衣食住さえ保証されれば老人向けビジネスが成立する余地は大いにありそうにも思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月14日 (木) 11時40分

本人が手術OKと言っているのに家族の同意が必要って言われて困るケースが多いです。

投稿: クマ | 2016年4月15日 (金) 08時56分

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