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2016年4月27日 (水)

リスクがあることが判っている行為をどう受け入れさせるべきか

医療訴訟もひと頃ほど話題にならなくなった感もありますが、医学的に大変教訓的なケースとして先日こんなニュースが出ていたことを紹介してみましょう。

日赤に1・2億円賠償命令 神戸の病院で医療ミス(2016年3月30日神戸新聞)

 兵庫県災害医療センター(神戸市中央区)での治療ミスによって重い障害が残ったとして、三木市で入院中の女性(42)が同センターを運営する日本赤十字社などに損害賠償を求めた訴訟で、神戸地裁は29日、同社に約1億2100万円の支払いを命じた。

 判決によると、女性が搬送された5日後の2008年3月26日、医師が女性の気管に挿入中のチューブを抜いたところ異変が生じ、再挿管を2回試みたが心停止となった。別の医師が喉の切開手術で気道を確保したが、手足が動かせず、食事を自分で取れないなどの障害が残った。

 地裁は、心停止時間と蘇生の関係などから、チューブを抜いた医師が切開手術ができる別の医師に早期に応援を求めておけば、重篤な後遺障害は残らなかったと指摘。「医師の注意義務違反と因果関係が認められる」とした。

 日本赤十字社は「判決を吟味し、弁護士と対応を協議中」とコメントした。

 センターを設置した兵庫県の賠償も請求されたが、地裁は棄却した。

気管内チューブの挿入ではなく抜去時に発生した気道閉塞が低酸素脳症に至ったと言うことなのでしょうが、挿入時にはともかく抜く際にもこうした重大なトラブルが発生すると言うことはピットフォールで、先年特定看護師が行うべき業務の中から高リスクで行うべきものでない業務として気管内チューブの挿管だけではなく、抜管も除外されたと言うことが思い出される話です。
ただ改めて考えてみると今回も医師が行っていながらこうした事故につながっているわけで、誰が行うと言うよりも何か変事が発生した場合に対処可能な応援をどれだけ素早く呼べるかと言うことの方が重要であるとも読み取れる判決なのですから、下手にその場で頑張ってしまう医師よりも看護師が抜管した方がむしろこの種の事故は起こりにくいと言うこともあるのかも知れませんけれどもね。
医療訴訟にも色々なものがあって、先日は拘置所に収容されていた未決拘留中の人が11回連続で食事を拒否したため経鼻栄養チューブを挿入されたところ出血したと国を訴えていて、最高裁で賠償義務はないと逆転判決が出た経緯が司法判断的にもなかなか面白そうだったのですが、この状況で二審の言う「危険の少ない他の手段」とはどのような行為であったのか、誰がそれを言い出したのかは気になりました。
いずれにせよ医療行為とは何であれリスクは必ずあるのですから、結果が悪かったから誰かが悪かったのだ式の考え方は馴染まないのだとは久しく以前から現場が主張してきたことですけれども、こうしたリスクを伴う行為でも患者にメリットがあれば許容してもらうべきものかと思いますが、直接的なメリットがないとなれば話がややこしいですよね。

医学生の臨床実習、「包括同意」取得は4割 医学部長病院長会議調査、「国際基準」クリアは76%(2016年4月22日医療維新)

 全国医学部長病院長会議は4月21日の定例記者会見で、「診療参加型臨床実習のための医学生の医行為水準策定 現状に関するアンケート」の結果を報告した。臨床実習の期間は、国際基準の「70週」をクリアしていると想定される大学は、80大学中、61大学(76%)に上り、臨床推論や外科手技など「指導医の指導・監視下で実施する医行為」は79校で実施するなど、臨床実習において医行為が積極的に行われている実態が明らかになった一方、医学生が臨床実習を行うに当たって、患者から「包括同意書」を取得しているのは42.5%にとどまるなど、課題も浮き彫りになった。

 医行為は、「レベルI:指導医の指導・監視の下で実施されるべき医行為」と、「レベルII:指導医の実施の介助・見学が推奨される医行為」に大別できる。「レベルI」は1大学を除き79大学で、「レベルII」は78.8%の大学でそれぞれ実施。実施内容には大学による差があるものの、「レベルI」では胃管挿入や、尿道カテーテル挿入・抜去、注射など、リスクも伴う行為も行われている。
 医行為を行う医学生について、「Student Doctor」(あるいはスチューデント・ドクター)の呼称が普及しており、80%の大学が採用している。

 医行為のガイドライン、約3割が採用

 医学教育においては、国際的な水準で行うことが求められ、その一環として診療参加型の臨床実習の充実が進められている。
 医学生が医行為を行う場合、医師法に抵触するか否かが問題になる。関係省庁とのすり合わせも踏まえ、全国医学部長病院長会議では、違法性を阻却するため、(1)学生に許容される医行為の水準(全国共通の医行為の水準に沿い、医行為別に決めた指針に基づき、臨床実習を行う)、(2)臨床実習の指導医(臨床研修指導医もしくは、それに準じる能力を有する医師が指導)、(3)医学生の評価(共用試験:CBT、OSCEの合格を必須)、(4)患者もしくは患者の保護者などからの同意を事故補償(包括同意書に加え、医行為の水準が比較的高いと判断される場合は事前に個別同意を得ることが必要であり、事故補償に加入)――の4点を認識して、実行することを求めている。
(略)
 (2)の臨床実習の指導医については、「資格上の規定があるか」との問いに、「ない」が66.3%に上った。ただし、「ない」場合でも、「FDワークショップ」(38.1%)、「学内外講習会への参加」(15.9%)などで研修していた。
 (3)の医学生の評価は、共用試験以外に「独自の評価試験」を実施しているのは、80大学中13大学(16.3%)。
 (4)の「包括同意書」を取得しているのは、42.5%(34大学)。その代替案としては、「院内掲示」「口頭説明」「院内掲示と口頭説明」を合わせると、9割近くを占めた。「個別同意書」の取得はさらに低く、26.3%。未取得のうち、「検討中・検討予定」が60%。医療事故の補償については、80大学中、79大学(98.8%)が何らかの保険に加入していた。

 一般手技、検査手技の実施は大学による差

 本ガイドラインでは、医学生の医行為を「レベルI:指導医の指導・監視の下で実施されるべき医行為」と、「レベルII:指導医の実施の介助・見学が推奨される医行為」に大別。
 「レベルI」は、80大学のうち1校を除き、実施。(1)診療の基本、(2)外科手技、(3)一般手技、(4)検査手技――に分けて見ると、実施率が高かったのは、(1)で、「臨床推論」(97%)、「診断・治療計画立案」(87%)、「症例プレゼンテーション」(100%)などはほとんどの大学で実施。
 (2)の外科手技も、「清潔操作」(97%)、「手洗い」(100%)、「ガウンテクニック」(100%)と高く、「縫合」(84%)、「抜糸」(76%)なども7割を超えた
 一方、(3)の一般手技の実施は大学によるバラツキがあり、「皮膚消毒」(91%)、「外用薬の貼付・塗布」(78%)などは高かったものの、「胃管挿入」(43%)、「ネブライザー」(50%)、「気道内吸引」(54%)などは半数前後にとどまった。(4)の検査手技も、「12誘導心電図」(95%)、「超音波検査(心・腹部)」(91%)などは高い一方、「脳波検査(記録)」(45%)などは低かった
(略)

最近の医学生は色々と大変なのだろうなあと記事を見ていても思うのですが、学生の臨床実習では日本よりもずっと先進的なアメリカなどでは手術場でも日本の研修医並みの仕事を学生がしていると聞きますが、歴史的経緯から患者の理解があることに加えて、医療費が高く本物の医師を使えばそれだけドクターフィーも余分に掛かると言うことを考えると、必ずしも患者にとってもメリットはないわけでもないのでしょう。
日本では大学病院の病棟医の給料などタダ同然ですから、直接的な金銭面でのメリットはないかと思いますが、それだけに患者にどうやって了承いただくかと言うことは頭を悩ませるところでしょうし、印象的に患者への侵襲の高い行為ほど実施率が低いようにも見えます。
ただ見ていて興味深いのは万一の事故に備えた保証制度の完備などはもちろんですが、個別の同意書はおろか包括同意書の取得も4割に留まると言うのは意外で、昨今何でも医行為と言えば同意書の束が漏れなくついてくることを思うと違和感を抱くところでもありますが、万一何かトラブルがあった際に別に同意書があれば免罪と言うわけではありませんが、まあ取っておいた方がよかろうと言うのが主流的ではありますよね。
特に婦人科の内診などはリスクのある手技だからと言うわけではなくとも見学だけでも患者からの拒否感が強いものですが、掲示してあるから勝手に学生を入れるでは余計なトラブルも発生するだろうところですし、目の前で医師から直接問われても断りにくいでしょうから、診察室でどうこうよりも来院時なりに窓口レベルで実習への協力の可否を機械的に確認しておく方がかえって面倒がなくていいのかも知れません。

この医学生の行う医行為と医師法の関係については平成2年から厚労省の臨床実習検討委員会で検討が加えられ、平成3年に最終報告が出されいわば国のお墨付きを得た形ですが、「どのような臨床実習の場においても、医学生である旨の明確な紹介および患者等の同意を得る必莫がある」と明記されたものの、その方法論においては口頭や掲示による周知など各大学の自主的裁量に含みを持たせています。
今回の記事でははっきりしませんが、例えば文書としての同意書を取得していない施設では侵襲的な手技は行わせていない等の相関があるのかどうかで、見学するだけであれば面倒な書類は必要が無いと言う考えから一歩進んで?同意取得が面倒臭いから見学させて終わりにしようでは本末転倒ですが、患者同意の方法も含め昔ながらの非公式な学生の医行為参加との境界線がはっきりしない部分もありそうですね。
他方で患者側に対する調査では医学生の診察に6割の患者は好意的であるとか、一般内科を受診した患者の4割は学生実習に拒否的であるとか様々な報告がありますが、大学病院の患者に対する調査では患者は医学生自身にはさほど興味は無く、主治医との関係の方をはるかに重視していると言う結果が出ていて、要するに学生実習を受け入れるかどうかは指導する医師への信頼度に依存していると言うことです。
この点で面白いなと思ったのは主治医に次いで患者からの信頼を得ているのが実は看護学生であるらしいと言う点で、患者はベッドサイドで長時間一緒に過ごし世間話に付き合ってくれる相手に非常に好意的だったと言うことなのですが、良くも悪くも患者からの印象が薄いらしい医学生の実習の方法も医学的妥当性だけでなく、患者目線で考えるとまだ改善の余地がありそうですよね。

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コメント

手術場で麻酔のかかった患者さんにいろいろさせてもらった記憶が。
今となっちゃなんでもない手技も当時はドキドキでしたね。

投稿: ぽん太 | 2016年4月27日 (水) 08時09分

信頼関係がバックボーンであるとすれば、本来的には大学病院よりは患者と医師との付き合いが長い市中での実習の方が望ましいのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月27日 (水) 13時15分

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