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2016年4月12日 (火)

医療費高騰が医療のあり方を変える?

昨日も医薬品高騰が世界的に問題視されていると取り上げたばかりですが、先日政府の経済財政諮問会議が開催され、安倍総理が歳出について「エビデンスに基づく要求が行われるようにしていく必要がある」と語ったと言い、特に高いレベルでのエビデンスが求められる分野として医療費が上げられ、何故これほど急激に増加しているのか詳細な分析が必要だと結論されたそうです。
当然ながらここでも高額な新薬が続々と登場している点は特に注目されているようで、「医薬品の費用対効果をしっかり検証すべき」と言われればその通りなのですが、高額療養費制度の見直しにも言及されていると言うのは金銭的負担の増加で患者に(形の上では)自主的に投薬を忌避させる目的であるとも受け取れるところで、お金の有る無しに関係なく同じ医療を受けられる時代も終わりつつあるのでしょうか。
こうした点についてはかねて敏感な反応を示すことの多かった日医がどう考えているのかですが、興味深いのは中川副会長が「医療経済学的なことを考えながら医療を行う時代に入ってきたのかと思う」「特殊な超高額な薬品は特殊に扱うべきという時期が来た」とまるで敗北宣言のようなコメントを出していると言う点で、日医にすらこんなしおらしい態度を取らせるほど新薬ショックが大きかったと言えるのでしょうね。
いずれにしても日本で保険診療を行う以上は実際の薬のコストではなく保険収載上の薬価が幾らになるのかが問題で、極端な話薬価がひどく低く設定された場合製薬会社が日本出荷分を激減させ、国内患者だけが新薬の恩恵にあずかれないと言う局面もあり得ると思うのですが、他方で癌治療と言うことに関して最近こんな興味深い話も出てきています。

がん生存期間、在宅でも変わらぬ傾向 入院患者と比較(2016年4月6日朝日新聞)

 自宅で最期を迎えたがん患者は、病院で最期を迎えた患者と比べ、生存期間にほとんど差がないか、自宅のほうがやや長い傾向があるとする研究結果を筑波大と神戸大のチームがまとめた。退院して自宅に戻ることで余命が縮むのではないかという不安を和らげられる結果だとしている。

 論文を米国がん協会の学術誌に発表した。

 チームは、国内58の医療機関で、緩和ケア病棟に入院した患者や在宅の緩和ケアを受けた患者らを2012年9月から1年半かけて調査し、2069人について分析。最期を迎えた場所が病院か自宅かによって生存期間に違いがあるかを調べた。

末期がんの療養は入院よりも自宅? 在宅患者の方が長生き(2016年4月6日読売新聞)

 末期がんを宣告された場合、最期までの期間を自宅で過ごすか病院で過ごすか―難しい問題だ。そんな選択を迫られた際のヒントになるような研究結果が、3月28日発行の米がん専門医学誌「Cancer」に発表された。筑波大学付属病院総合診療グループの浜野淳講師ら研究チームは、日本の進行がん患者約2,000人を対象に調査を実施。その結果、病院で死を迎えた人に比べ、自宅で死を迎えた人の方が長く生きたという。浜野講師らは「自宅で死を迎えることを望む人は多いが、在宅では病院と同じレベルの治療が受けられないのではないかとの懸念から、最終的に病院で治療を受け、病院で亡くなることを選ぶ人は多い。今回、そうした懸念は不要であることが示唆された」としている。

生存期間に1週間の差

 重い病気があり、自分の死期が迫っていることを悟った時、「住み慣れた自宅で死を迎えたい」と望む人は多い。しかし、実際には自宅での死を望んでいながら病院で死を迎える人は多い。その背景には、「在宅で受けられる医療には限界があるため、少しでも長生きするには病院で過ごす方が良いのではないか」との考えから、最終的に病院での治療やケアが選ばれやすいことがある。
 浜野講師らは、2012年9月から14年4月にかけて国内の病院など58施設で、痛みや呼吸困難を軽減するための治療(緩和ケア)を受けた20歳以上の進行がん患者2,069人(平均69.4歳)のデータを分析した。
 このうち、病院で亡くなった1,607人(病院死グループ)と自宅で亡くなった462人(在宅死グループ)の生存期間(緩和ケアを紹介された日から亡くなった日までの期間)を調べた。その結果、緩和ケアを紹介された時点で予測された余命が0~13日だった人の実際の生存期間は、病院死グループの9日間に対して在宅死グループでは13日間と、より長いことが分かった。また、予測された余命が14~55日だった人の実際の生存期間も、それぞれ29日間、36日間と、より長いことが示された。しかし、予測された余命が56日以上の人では差がなかったという。

 浜野講師らは「病院と比べ、自宅で受ける緩和ケアの質は劣るのではないかと懸念する向きもあるが、がん患者が自宅で死を迎えることを選んでも生存期間は短縮しないばかりか、むしろ延長する可能性が示された」と説明している。

末期癌の患者ですから当然ながら全身状態は悪い人が多いだろうし、そもそも自宅に帰ることが出来ると言う時点で多少なりとも状態がいい人だったと言うバイアスがかかっている可能性もあるのかなと感じるのですが、そうした細かいことを抜きにすると非常にキャッチーな結果が示されたとは言えますし、政府としては末期患者を自宅へ誘導する根拠としても活用できそうな話だとは思います。
癌に限らず終末期医療に関して様々に言われている中で、日本の医療制度では病院に預けておくのが一番安上がりで手間も掛からず安心だと言う制度的な現実があり、人間誰しもよりお得な選択をする傾向がある以上、こうした制度的背景を改めない限り自宅で亡くなる人は増えないのではないかと言う気がします。
一方で医学の目的が病気を治すと言うことであればcureではなくcareに専念すべき末期患者はそもそも医療の対象にならないと言う考え方もあるはずで、実際に終末期や高齢者に対する医療給付には若い世代とは別のレベルでの強力な制約を加えるべきだと言う意見も根強くありますが、終末期の医療に一番お金が掛かっていると言う点から国としてはこうした声は実のところウェルカムなのでしょうかね。

癌治療なども多くの抗癌剤が完治は見込めない以上、どうせ最後は死ぬ人に大部分公費負担で巨額のお金を使うことが妥当なのか、少なくとも社会的負担によって延命医療を行うことには限度を設けるべきだと言う考え方は今のところまだごく一部に留まっているとは言え、ごく一部の人にしか恩恵のない医療行為によって税金や保険料がどんどん上がっていくとなれば考え方を改める人も出てくるのかも知れません。
人間誰しも最後には死ぬと言う現実が変わらない以上、およそどんな医療行為であれ結局は単なる延命に過ぎないと言う極論も可能ではあって、意味のある延命と意味の無い延命とはどう区分すればいいのか、医療にコストパフォーマンスを云々するなら高い年収を稼ぎ出し納税額も多い人の延命は貧乏人よりもコスパが高くなるのか等々、一度手をつけると非常に議論が錯綜しそうなパンドラの箱とも言えますよね。
最終的には倫理や社会的合意、財政面での負担度など様々な要因を総合的に判断しながら線引きを検討すべきことなのかと思いますが、実は一番簡単かつ誰も悪者にならないやり方と言うのはここまでと線引きなどせず、皆均等に一律にコスト負担を増やしていくと言う方法であって、実に日本的な解決法の結果として皆が平等に不幸になっていくと言う未来図もあるのかなと少し考えています。

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コメント

もういっそ国が医療の限界を決めてくれよ

投稿: | 2016年4月12日 (火) 10時37分

完治が望める治療にはしっかり金を出し
延命効果しかないものは制限でいい

投稿: | 2016年4月12日 (火) 11時05分

延命効果しかないものは制限でいいと言える人が
まず、自ら手本を見せて治療を断るかどうかってところかな

投稿: | 2016年4月12日 (火) 12時09分

何を以て延命治療と言うのかの定義がはっきりしていないことに加え、そもそも論として例えば金額幾らあたり余命延長効果何日といった目安を元に議論すべきことなのかどうかです。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月12日 (火) 12時46分

そもそももそもそもそもそも、を持ちだすなら。
 被用者保険に雇用者が金を出していること、かつては1号被保険者は0割負担、家族が3割負担だったことからわかるように、職場復帰して稼ぎ家族を養い税金をおさめるための保険であった、ならば復帰するあてのないものに対する医療保険は切り離して考えるべき。
 そもそも論、は よいアイデアの源泉にはならないことが多い。 

投稿: | 2016年4月12日 (火) 20時29分

復帰するあてがあるかないか誰が判断するのかってことですね

投稿: | 2016年4月12日 (火) 22時29分

>実に日本的な解決法の結果として皆が平等に不幸になっていくと言う未来図
 TPP導入にも唯々諾々な日本人にはふさわしい行末かと。
 グローバルにはもっとひどい環境に縛り付けられている人の方が多いのだからそれに近づくだけのこと。感受せよ。
 タックスヘイブンを利用できるような、資産運用のみで生活していける人たちも人口割り世界平均以上住んでいる。彼らは貧乏人のために払う税金が減ってうれしいだろう。その階層に入れないのは自己責任。 
 美しい国。

投稿: | 2016年4月14日 (木) 11時20分

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