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2016年4月25日 (月)

末期癌患者の私的な治療法が世間の注目を集める理由

ネタのような本当の話と言うものはあるのでしょうが、当事者にとってはきっと真剣極まるものなのだろうとも想像されるのが先日話題になっていたこちらのニュースです。

ガン末期の70代男性、娘の母乳で免疫力アップ 1年4か月も延命(2016年04月19日テックインサイト)

母乳は赤ちゃんにとって最高の栄養と免疫物質を含んでおり、それを飲むことで赤ちゃんは体がどんどん強くなっていく。もしも死期が迫っている病人に母乳を与えたら、ひょっとしたら延命作用を期待できるのではないだろうか。そう考えて行動に移したイギリスの女性の話題が大きな関心を集めている。

英グロスターシャー州チェルトナム在住のヘレン・フィッツシモンズさん(40)は、ハーモニーちゃん、カシウス君という一男一女を育てるママ。彼女はこのほど『mirror.co.uk』に、「母乳は赤ちゃんを丈夫に育てるばかりではありません。重病に苦しむ高齢者にも免疫力や生命力を与えることを目の当たりにしました」と主張し、注目の的となった。

ヘレンさんの父親アーサーさんは68歳であった2009年に骨髄腫に侵され、2013年10月からは前立腺ガンも発症。化学療法も始まったが医師からは「死期が近い」と告げられてしまった。医学書に“母乳育児は赤ちゃんの免疫力を高める”という説明を発見したヘレンさんは、「私が父にそれを分けてあげたら元気を取り戻してくれるのではないか」と考えるようになったという。

「人は愛する人のためならどんな努力も惜しまないものです」とヘレンさん。しかも幸運なことに、彼女はその当時カシウス君を母乳で育てていたのだ。娘が自分の命に真剣に向き合ってくれることがとにかく嬉しかったというアーサーさんは、照れながらも「美味しい」と言って毎日60ml弱の母乳を飲むようになった。ヘレンさんの友人の協力も得て、ある時からは85mlに量が増えたという。

ほどなくして行われた検査で、骨髄腫にはつきもののM蛋白という異常なたんぱく質の過剰な生産が止まったことが確認され、医師を驚かせたアーサーさん。こうして彼はそこから1年4か月も生きてくれたそうだ。この話題に関し、同メディアは“もしも親の最期が近いと知ったら、その延命のためにあなたも母乳をあげてみたいか”と問うWEBアンケートを実施したが、約9割がYesと回答している。

実際に母乳が骨髄腫を抑制するのかどうかは現段階では何とも言えないと言うしかないのですが、何かしら心理的な効果が全身状態を改善した等々様々な想像は出来るのですけれども、しかし実の娘の母乳を飲む父親と言う構図が非常に印象的であると各方面で話題になっているようですね。
この場合周囲の好奇の視線なりは一定程度あることでしょうが、それでも当事者以外の誰にも迷惑にはなっていないと言うことで結果が良ければ別にいいのではないか?と言っていいことなのかも知れませんが、近年HIV感染が蔓延しているアフリカの一部で性交未経験な女性との交わりがHIVを抑制すると言った迷信が広まり、幼女に対する性的暴行が頻発していると言った社会的に有害なケースもあるわけです。
民間療法の大部分は医学的な根拠がないだけに、利益と不利益のバランスで明確な不利益がない場合に初めて許容されるべきだと言うのがひとまず妥当な対応だと思いますが、難しいのが医学的には有効であることが判りきってはいるが数々の不利益もあると言う場合で、先日から各方面で議論を呼んでいるのがこちらの裁判です。

末期がん患者が最後にすがった大麻は違法か? 劇的改善の被告が「命守るため」と無罪主張 司法の判断は…(2016年4月24日産経新聞)

 大麻を所持したとして大麻取締法違反(所持)罪で逮捕・起訴された末期がん患者の男性=東京地裁で公判中=の裁判が注目を集めている。同法は大麻の栽培や所持、医療目的の使用や研究などを禁止。男性は「全ての医師から見放された中、大麻ががんに効果がある可能性を知り、治療のために自ら栽培し使用したところ症状が劇的に改善した。憲法で保障された生存権の行使だ」と無罪を主張。大麻を使用した末期がん患者が生存権に基づいて無罪を訴えるケースは初とみられる。欧州諸国や米国の20州以上で医療用大麻の合法化が進む中、日本での医療用大麻解禁の是非が争点になる可能性もある。司法はどう判断するのか-。(小野田雄一)

 無罪を主張しているのは、神奈川県藤沢市の元レストラン料理長、山本正光被告(58)。山本被告は平成27年12月、大麻約200グラムを所持したとして警視庁に逮捕され、その後起訴された。
 弁護側によると、山本被告は25年6月に肝臓がんが見つかり、医療機関で治療を始めたが、26年10月に余命半年~1年と宣告。医師から「打つ手はない」と言われた中、インターネットで大麻ががんの改善に有効な可能性があると知った。厚生労働省や農林水産省、法務省などに「大麻を医療目的で使うにはどうしたらよいか」と相談したが、「日本では大麻自体や大麻由来の治療薬の使用は禁止されている」と説明された。製薬会社にも「私の体を医療用大麻の臨床試験に使ってほしい」と伝えたが、「日本国内での臨床試験は不可能だ」として断られたという。
 そのため大麻を自宅で栽培・使用したところ、痛みが和らいだほか、食欲が戻り抑鬱的だった気分も晴れた。また、腫瘍マーカーの数値が20分の1に減り、改善の兆候が現れたという。
 山本被告は「医師も『ありえない』と驚いていた。数値が下がったことを示すカルテもある」とし、「育てた大麻は他人に販売も譲渡もしていない。現代医療に見放された中、自分の命を守るためにやむなく行った」と話した。

 医療用大麻の解禁を主張するNPO法人「医療大麻を考える会」の前田耕一代表(65)は「私も以前、緑内障患者の大麻の譲り受けを手伝い、大麻取締法違反の幇助(ほうじょ)罪で有罪判決を受けたが、判決文には『医療目的の大麻の施用は特別な事情がない限り正当化されない』と述べられていた。同法も『みだりに』栽培したり所持したりすることを禁じている。山本氏の場合はまさに『特別な事情』があり、『みだりに』所持していたわけでもない」と擁護した。
 弁護側は公判でこうした「生存権の行使」「緊急避難的な措置だった」などと主張する方針だ。

 大麻をめぐっては、近年では従来指摘されてきたほどの危険性はなく、たばこやアルコールに比べても日常生活や健康への悪影響は小さいとする研究成果が欧米などで報告されている。一方で、がん治療などへの有用性も確立されたデータは存在しておらず、国際的な専門機関でも統一的な見解がないのが現状だ。
(略)

 一方、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の「世界薬物報告書」(2006年)では「最新の調査で大麻は精神に深刻な影響を及ぼすことが明らかになった。大麻は無害な薬草ではなく、慎重な取り扱いが必要な人間の精神に影響を及ぼす薬物である」と述べる一方で、影響の度合いについては「大麻を極めて大量に服用すると、軽い精神障害を引き起こすが、このような状況は極めてまれであることが判明した」とも指摘している。
 厚労省監視指導・麻薬対策課の担当者は「医療用大麻は有効性が実証されているわけではない上、最先端のがん治療が受けられる日本で、医療用大麻を合法化する必要性は低い。米国では医療用のみ合法化された州、嗜好品用にも合法化された州があるが、実際には医療用のみ合法化された州でも嗜好品として蔓延している。他のより強度な麻薬に手を出す入り口にもなっている」と話す。その上で「日本で規制を緩めれば、子供などが大麻を手に入れやすくなるなどのリスクが生じる」として、規制緩和に対して慎重な立場を崩していない。
(略)

ご存知のようにアメリカなどでも大麻合法化の動きが出てきたことなどに伴い改めてその有害性が検証されているわけですが、現在ではどうも限定的な状況では精神障害を進行させたり重大な不安神経症を発症させたりと言うリスクもあることが判ってきていて、従来から言われているような酒やタバコよりは安全であると言う話も微妙に軌道修正される可能性も出てきているようです。
ただ必ずしも多数の人々にそうした重大な問題が現れるわけではなく、酒やタバコの持つ各種有害なトラブルに比べれば総体としては大きく上回るようなものではなさそうだと言う予想も出来そうなのですが、一方で医療用麻薬がすでに当たり前に用いられているように、麻薬の類も使い方を間違えなければ医療現場で様々な効果があることは周知の通りですよね。
今回の症例でどのような機序で大麻が効いているのかは記事からははっきりしませんけれども、肝臓癌と言うことですから食事摂取が落ちるなどの理由で肝機能が保てなくなってきていて、そのために治療の選択肢が失われつつあったと言うことであれば、例えば大麻によって苦痛が軽減されることによって食欲が回復し肝機能にも好影響があると言うことは十分考えられるかとは思います。
こうした経過だとすると医師が「ありえない」と驚いていたと言うのは、患者が違法薬物に手を染めて全身状態が良くなってきたのだとは知らなかったからだと言う解釈も成り立ちそうですが、いずれにしても症例によっては大麻も色々と使い出があるのは当然の話だとして、それでは現在認可されている医療用麻薬や他の薬剤でその代替が出来ないものなのかどうかが気になりますね。

大麻はモルヒネなども効かない神経障害性疼痛など多様な疼痛にも有効だと言いますが、この点で話がややこしいのが諸外国では医療用大麻の活用についてすでに話が進んでいて、症例によっては実際に処方され活用されているような状況であるにも関わらず、日本においては医療用であっても大麻の所持や使用が違法とされている結果、その研究自体も全く進んでいないと言う背景事情があるようですね。
要するにきちんと医薬品として認可するためには一つには明確な有効性を示すデータが必要であるはずなのに研究自体出来ない法律上の制約があり、またもう一つはやはり医療用と言えど通常の嗜好品と同様乾燥大麻を吸引すると言う形で使用されているようですから、目的外使用など医薬以外での使用の懸念が拭いきれないことも国が及び腰な一因なのかも知れません。
このあたりは製薬会社の側で国外でのデータを積み上げると同時に、もう少し薬らしい形での製剤化の検討をお願いできればいいのでしょうが、自分で栽培して乾燥させて吸えばタダ同然で使えるものに高い医療費を投じて製剤化することは医療経済上どうなのかで、今後例えば患者団体なりから国を訴える動きなどが出てきた場合に国がどのような論理でそれに反論するのかも注目したいところですね。

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コメント

モルヒネはよくて大麻はダメって理由はあるの?

投稿: | 2016年4月25日 (月) 07時45分

有効成分だけ抽出しても法的には大麻扱いになるんですかね?

投稿: ぽん太 | 2016年4月25日 (月) 08時57分

>モルヒネはよくて大麻はダメって理由はあるの?

麻薬取締り法で許可されていて、大麻取締法で禁止されているからです。

ご質問は「牛肉はよくて、豚肉はダメって理由はあるの?」「戦争で人を殺すのは良くて、隣人を殺すのはダメって理由はあるの?」という質問と同じだと思いますよ。

答えは「そのコミュニティで定められた、文化/倫理規範/法規範です」

投稿: おちゃ | 2016年4月25日 (月) 09時25分

保険適用になってないから=日本のお上が医薬とは認めないから。
Wiki テトラヒドロカンナビノール の項から

「日本の政府機関が啓発している「幻覚・妄想」は生じない、とのことで、日本政府の見解と欧米研究機関との研究成果に乖離が生じている。」 法医周りにオカシイのが残ってる。

 カンナビノイド受容体作用薬はぽつぽつと認可され始めている。天然品の混合物で(劇的な救命効果じゃなくて)緩和治療には じゅうにぶんに役立つんだが、天然品を野放しにしないのは合成品をメーカーの利権にしたいお上の思惑も見え隠れ。 

投稿: | 2016年4月25日 (月) 09時28分

 抗てんかん薬や抗精神病薬も認可されているからってだけで
マリファナどころじゃない副作用もあるんだが、世の中の人にはあんまり伝えられてない。
 エチルアルコールは文化だからよくて、たばこは文化であってもダメ、というむちゃくちゃもまた 「お上の定めるところ」です。

 コミュニティ? 何それ? 食べられるの? 
 

投稿: | 2016年4月25日 (月) 10時28分

おっしゃる通り他に幾らでも危ない薬はあるのに何故?と言う疑問は当然あるので、国がその辺りにどういう言い訳を用意するかが興味深いところですね。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月25日 (月) 13時28分

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