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2016年4月11日 (月)

医師が治療効果よりも治療費を気にし始めた?

日本の保健医療制度では新薬とは既存薬よりも効果が優れていると言う理由で承認されることになっていて、そのため既存薬よりも高い薬価を認められることになっていますが、当然ながらメーカーが毎年新薬を出すたびに値段が跳ね上がる一方になる理屈で、それは安価なジェネリックを処方しろと国が躍起になるのも当然ではありますよね。
ただこの薬価の高騰と言う問題、別に日本の保健医療制度が欠陥品であるからと言うわけでもないようで、世界的にもこのとこと薬価高騰と言うことが問題視されるようになってきています。

2000年以降急騰 「分子標的」開発高額 日米医師分析(2016年4月5日毎日新聞)

 国内外で抗がん剤の価格が急激に高額化している実態が、米国や日本の医師の分析で明らかになった。日本では2000年代以降、がん細胞を狙って攻撃する「分子標的薬」の登場によって新たに承認された抗がん剤の価格が急上昇している。米国でも、10〜14年には月額約1万ドル(約110万円)となり、00年以前の約5倍に急騰。さらに、最近発売された免疫の仕組みを利用する新タイプの薬が高額化に拍車をかけている。(2面に「がん大国白書」)

 国立がん研究センターの後藤悌(やすし)医師が国内の肺がんの抗がん剤について、平均的な体格の日本人男性が使用する場合の1カ月当たりの薬価を集計。1983年に承認された「シスプラチン」など、がん細胞の増殖を抑えて死滅させる抗がん剤は、ほとんどが月額10万円以下だった。しかし、肺分子標的薬「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)が登場した02年以降は同数十万円に上がり、最近2〜3年は同70万〜80万円になるものも出ていた。さらに、15年に同300万円を超える新タイプの抗がん剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)が適応になった。日本は、高額療養費制度によって患者の所得に応じて自己負担には上限があり、70歳未満(夫婦と子ども1人の世帯)では月3万5400円〜約25万2600円。差額は医療保険者が負担する。

 米ニューヨーク市のメモリアル・スローンケタリングがんセンターのチームは、新たに承認されたがん新薬の価格を75年から5年ごとに比べた。その結果、75〜79年は同約130ドル、30種類の新薬が登場した95〜99年は同1770ドルに上昇。その後も価格は上がり、00〜04年に同4716ドル、直近の10〜14年は同9905ドルと急激な価格の上がり方になっている。

 抗がん剤が高額化する背景には、新たな仕組みの抗がん剤開発の成功確率が低く、開発期間、研究費がかかることがある。その上、分子標的薬は対象となる患者が少ないため、薬価が高額化しやすい傾向がある。【下桐実雅子】

「薬価年20兆円」の衝撃 がん大国白書(2016年4月5日毎日新聞)

 「私はこれらの薬を、すぐ患者に使いたい。だが問題は、価格が高すぎることだ」。2015年5月、米シカゴで開かれた米国臨床腫瘍学会の全体会合で、メモリアル・スローンケタリングがんセンター(米ニューヨーク市)のレオナルド・サルツ医師が、数千人の聴衆に訴えた。がん治療に関わる世界の医師らが参加する最大規模の学会。医療費の高額化が話題になる異例の会合となった。

 サルツ医師が懸念を示した薬は、オプジーボ(一般名ニボルマブ)など、免疫の仕組みを利用した新タイプの抗がん剤だ。サルツ医師は、オプジーボともう1剤の組み合わせで、がんが転移した米国の患者全員が使うことになると、年間1740億ドル(約20兆円)の薬剤費がかかると訴えた。学会では、新タイプの薬に関する演題が100近くに上った。日本から参加した肺がん専門医は「これらの薬の効果の高さを示す成果が話題を独占した。だが、印象に残ったのはコストの問題だ」と振り返る。

 米国で、薬価の高騰は「ファイナンシャル・トキシティ(財政的な毒)」とも呼ばれる。サルツ医師は毎日新聞の取材に、「薬価の高騰は患者が直接被害を受ける。医師である私たちが、医療費のコスト、特に薬価について行動しなければならない」と語った。
(略)
 この薬価の高騰化に、米国内でも異論が出始めた。14年3月の連邦議会で、民主党議員が、C型肝炎の新薬の価格の高さに関して、発売元の製薬会社に価格算定の根拠などの説明を求めたのだ。焦点は「高額な薬の効果がコストに見合うか」。恩田准教授は「米国では、製薬企業の価格設定に連邦政府が干渉するのはタブーだった。高額な商品が増える中、製薬企業には、価格などに見合うバリュー(価値)を持つかを説明する責任が求められ始めている」と変化を指摘する。
(略)

「たった1剤で国が滅ぶ」 がん大国白書(2016年4月6日毎日新聞)

 2月に開かれた厚生労働省の医薬品等安全対策部会で、委員の国頭(くにとう)英夫・日赤医療センター化学療法科部長が部会と関係のない発言を始めた。「たった1剤が出たことで国家が滅ぶことにならないか。真剣に心配している」。国頭さんが指摘した薬は、新たな仕組みでがん細胞を破壊する抗がん剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)。部会で扱う安全対策とは、まるで異なる内容の発言だった。

 「国が滅ぶ」とは、どういうことか。国頭さんによると、大人(体重60キロ)は1回133万円かかる。2週間おきに点滴を受けると、1人で年約3460万円になる。昨年12月にオプジーボが使えるようになった肺がんの一種「非小細胞肺がん」で手術での治癒が難しい患者は、国内で少なくとも年5万人に上ると見積もられる。もし全員が使えば、その薬剤費などは年約2兆円だ。

 オプジーボは「夢の新薬」ではない。薬が効いて肺がんが小さくなる患者は2割程度しかない。一方、オプジーボが効く患者の場合、治癒する可能性もある。分子標的薬と異なり、オプジーボが効くかどうかを事前に調べる方法がなく、薬のやめどきも決めにくい。このため、医師は「使いたい」という患者の希望を拒みにくい

 現在、日本の年間薬剤費は約10兆円。国頭さんは「2兆円は幻となった新国立競技場8個分。いかにとんでもない額か理解できるだろう。オプジーボの適応は今後も広がり、オプジーボ以外にも高額薬が続々登場するはずだ。一刻も早い対処が必要と思うと、黙ってはいられなかった」と危機感をあらわにする。

 最近の薬価の高騰に、医療者の意識にも変化が表れている。肺がんの治療法をまとめる診療ガイドライン見直しを検討する日本肺癌学会の委員会で、手術後の抗がん剤治療が議題に上った。その際に、有効性や副作用に加え「費用の問題も考えるべきだ」との声が上がったのだ。

 同学会肺がん医療向上委員長の中西洋一・九州大教授は「医療者がコストのことを考えながら治療すべきではない。効く人、効かない人を事前に判断する方法の研究に力を入れるべきだ」と話す。一方、ガイドライン検討委員長の山本信之・和歌山県立医大教授は「オプジーボが出て、これまで以上に薬のコストが注目されている。私たちも本腰を入れてコストを考えねばならない。だが、『1年寿命を延ばすのにいくらまでかけるか』という問題を、一体どのように議論すればいいのか……」と戸惑う。

 国の高額療養費制度によって、患者の医療費の自己負担は所得に応じて一定額までで抑えられているが、残りは加入者が支払う保険料や税金などでまかなわれる。オプジーボを使い、肺がん患者の治療に当たる国立がん研究センター中央病院の後藤悌(やすし)医師は訴える。「薬のコストを考えず、医療を続けることがいいのか。根深い問題だが、将来の世代に負担を先送りする今のシステムでは、いずれ立ちゆかなくなる

今回日本のみならず医療制度や薬価決定システムの異なるアメリカでもこの薬剤費高騰と言う問題が出ていると言うことですが、注目すべきなのはこれまで医療コストと言うことにあまり言及してこなかった日本の医師の間からも医療費に全く無関心ではいられなっている気配が見られると言うことで、確かに効果はあるが高価過ぎると言う治療法の使い処は難しい問題ですよね。
たった一つの薬でこれだけ世界的な大騒ぎになると言うことも大変な話ですが、単に高いだけではなくそれ相応の劇的な効果があると言うことでこうしたジレンマが発生しているとも言え、アメリカなどでは保険会社が独自基準で厳密な使用適応を定めると言うことにもなってくるのでしょうが、今後も毎年この種の問題が発生してくることがほぼ確実に予想されます。
特に日本の場合高額医療費になれば自己負担額は一定になるため金銭的な面での抑制は全く期待出来ず、昨今話題の高価な肝炎治療薬なども処方する先生方は患者教育に苦心しているとも聞きますが、抗癌剤の場合一定期間飲めばそれで終了とは必ずしも行かない場合もあるだろうだけに、医学的な判断だけでその使用・継続を判断して良いものなのかどうか医師自身も躊躇し始めていると言えますね。

この薬価高騰問題はかなり以前から各方面で出ている話で、有名なところではHIV感染症がきちんと薬をつかって管理していけばコントロール出来るようになったものの、その薬を常用することがあまりにコストが掛かりすぎると言う点で発展途上国では不可能だとされ、一部にはそこにつけ込んで犯罪的な民間療法馬鹿げた代替医療などが浸潤しているとも言います。
以前には安価な抗HIVコピー薬が普及し特許権を侵害されたと製薬会社が南アフリカ政府を訴えた、などと言うニュースもありましたが、この特許権自体も国によっては食べ物や健康に関することは除外されていたり、緊急事態においては特許権よりも国の強制実施権を優先すると言った扱いがされているため、少なくとも国内法に関しては違法ではないと言うことになるわけです。
もちろん貿易等で国際社会の中で商売をしようと思えば当然ながら国際ルールを逸脱した行為は出来ませんが、その後訴えた側の製薬会社が訴え自体を取り下げたように生命に関わる問題とお金との関係は世間的な注目も集めやすく、医師にしろ製薬会社にしろ自分が進んで悪者になりたくないと言う素朴な感情が働くだろうことは想像に難くありません。
こうした点を考慮すると制度的に何かしらの歯止めを設けるべきではないかと言う意見も出てくるはずですが、当然ながらこれも医師の治療裁量を制約しかねない難しい問題ですし、特に有効性の高さが期待される治療法に制限を加えることは患者の不利益にも結びつくだけに、どのようなやり方が妥当な落としどころになるのかですよね。

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コメント

経済状況も含めて寿命のうちと割り切らないと、
薬屋に国全体が身ぐるみはがされることになる。
新薬好きの医者も、公金の無駄遣いで患者に良い格好するのもほどほどに。
薬価差益は自分の懐に入らなくなってる、で、免罪できるモノじゃない。

国民に経済状況を突き付けるのも、薬好きを何とかするのも、
寿命を告げる医者の務め、らしい。

投稿: | 2016年4月11日 (月) 10時21分

毎日が四月馬鹿の安倍がTPPに日本を引っ張りこんだ先に

>特許権自体も国によっては食べ物や健康に関することは除外されていたり、緊急事態においては特許権よりも国の強制実施権を優先すると言った扱いがされ

るものかどうかw。 

投稿: | 2016年4月11日 (月) 10時28分

今回の新薬に限らず今後も薬は値上がりが続くと思われ、薬価や処方のルール作りが必要になりそうですね。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月11日 (月) 10時48分

いよいよ金の切れ目が縁の切れ目の時代到来か

投稿: | 2016年4月11日 (月) 21時33分

マスコミは濫用させる気満々
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48369

投稿: | 2016年4月12日 (火) 06時14分

C型肝炎もマスコミが取り上げて患者がどっと来ましたからねえ。
これも治療希望の患者が殺到することになるんでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2016年4月12日 (火) 08時46分

>マスコミは濫用させる気満々
そりゃ、グローバルには100人に一人しかいない「投資で食っていける人間」が 
50人に一人いる美しい国ですから記事は売れるでしょ。
49人を嵌めて絞り取る構図に、医療でもなんでも利用するところまで来た状況。

投稿: | 2016年4月12日 (火) 09時48分

HCは後10年で掘り尽くします。次の山を仕込む必要があります。 

投稿: | 2016年4月12日 (火) 09時50分

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