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2016年4月 7日 (木)

ロボットや人工知能の発達がもたらす新たな懸念

先日九大が外国人著名医師を招いてロボット手術をしたと言うニュースが出ていて、もともと手術用のロボットは遠隔診療などへの応用も期待されていただけに、今後例えば海外から回線を通じて手術を行うと言うことはあるのかどうか、その場合医師免許など資格としてはどうなのか等々、様々な疑問が浮かんだものでした。
医療の世界でもロボットと言うものは次第に実用化されてくるのだと思いますが、先日開発されたばかりのこちらのロボットなどはまだまだ医療現場に投入するには教育が不十分だったようです。

最新人型ロボ、TV取材に「人類の壊滅」を宣言(2016年3月28日産経新聞)

 人肌に近い素材の顔は約60の表情を持ち、目の部分に内蔵されたカメラで状況を判断して会話する女性型ロボット「ソフィア」が、米CNBCテレビの取材中、「人類の壊滅」を宣言した。

 医療や教育目的で開発されたソフィア。研究者が冗談で「人類を滅ぼしたい? ノーと言ってくれよ」と質問すると「オーケー。滅ぼしましょう」と回答。研究者は顔を赤らめ、再教育を誓った。(共同)

ちょうど先日は天下のマイクロソフトが開発した人工知能があまりに不適切な言動ばかりを繰り返すとして問題視され、わずか運用2日間で稼働停止に追い込まれたと言う事件もあり、まだ知的な面では発展途上ではあるのも事実なのでしょうが、それにしてもグーグルの人工知能が囲碁のトッププロに圧勝したように、この方面でも遠からず人間並みか場合によっては人間を超えた知性が誕生する可能性があります。
医療方面で活用されているロボットと呼ばれるものは単に腕の代わりをしてくれる知性の無いものが主体ですが、人工知能と言うものが備わればより大きな応用先が考えられるのは当然で、単純なところではレセプトをチェックし適当な保険病名をつけてくれる人工知能などがあれば助かるのでしょうし、薬の飲み合わせなどを管理してくれると言った仕事にも需要がありそうですよね。
それ以上に以前から開発が望まれているのが医師の行っている診断領域に関わる人工知能のサポートですが、例えばオンラインで患者が症状を入力すればすぐ病院に行くべきなのか、何かしら市販薬等で経過を見ていいのか答えてくれるだけでも患者にとっては助かるのでしょうが、実際に国内でもこうしたものが登場しつつあるそうです。

人工知能ホワイト・ジャック、医師の診療支援 自治医大(2016年3月28日朝日新聞)

 人工知能(AI)が医師の診療を支援するシステムを開発したと、自治医科大(栃木県下野市)と医療機器メーカーなど5社が28日、発表した。患者の症状などを入力すると、人工知能は考えられる病名とその確率を計算する。新年度にも自治医大で運用試験を始めるという。

 自治医大によると、これまでも人工知能が一つの病気についての治療法を見つけ出す試みはあるが、患者の症状や検査結果などから、複数の病気を提示する仕組みは世界でも珍しいという。

 システムは主に、ロボットも活用して電子カルテに入っている多数の患者の診療データなどを集約したビッグデータの医療データバンクと、それを使って個々の患者の病気の候補を挙げる人工知能からなる。

 患者は診察時に自分のIDカードをかざした後、症状や発症時期などをたずねる「予診票」を紙ではなく、ロボットの指示で画面に入力。過去の診察結果や服用中の薬などとともに電子カルテに表示される仕組みで、医師は問診で症状をさらに追加していく。

当然ながらこうした人工知能と言うもの、どれだけ症状や所見を拾い上げられるかによって診断結果に大きく差が出るはずですが、例えばこうした病気の可能性があるがこれこれの症状所見はないか?と言ったサジェスチョンをしてくれるだけでも助かるのだろうし、特に昨今社会的必要性が言われている総合診療の領域では有用な手助けにもなりそうな気がします。
ただこうしたロボットや人工知能の発達が急成長を遂げつつあることが実感されるようになったことの反動でしょうか、近い将来人間の仕事の多くがロボットや人工知能によって代行されるようになると危機感を持って語られ始めている部分もあって、気の早い人々が10年後20年後にはどんな仕事が生き残っているか?などと議論もされているようです。
医療の世界に関しては基本的に人手不足が顕著であり、また高度にトレーニングされた専門職は高コストですからそう簡単に大幅増員するわけにもいかず、かつ人間としての高い判断能力が要求されると言う点でこうした危惧からは最も遠い職場の一つではないかと思っていたのですが、世の中こんなびっくりするような話がすでに現実のものとなっていたそうです。

医療用麻酔ロボット、医者の職を奪うとして市場から追い出される。メーカーは3000人規模のリストラへ(2016年03月31日Engadget Japanese)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が、自動的に患者に麻酔を投与可能なロボット Sedasys の製造販売を終了すると発表しました。理由は売上不振。
Sedasys は麻酔科医にくらべ1/10のコストで患者への麻酔薬投与ができましたが、それは麻酔科医の仕事を奪うことでもありました。

J&J が開発した Sedasys は手術や検査の現場において麻酔科医の代わりに麻酔薬プロポフォールを投与するためのロボット。患者の状態を常に監視しつつ適切な量を投与するアルゴリズムを搭載していました。
Sedasys の大きなメリットはその運用コストの低さ。米国では1度の手技で麻酔科医に支払われるコストが約2000ドルとされるのに対し、Sedasys を使えば150~200ドルで済みます。このため医師不足を補い、病院や診療所の経営の助けとなることが期待されていました。
病院経営者や患者からすれば Sedasys は非常に魅力的な麻酔ロボットである一方、米麻酔医学会などは「Sedasys が誤って使われたときに患者を危険にさらす恐れがある」、「万が一のため麻酔科医がその場にいる必要がある」などと主張。Sedasys は大腸内視鏡検査や食道胃十二指腸内視鏡検査にその用途が限られてしまいました。

麻酔科医からの反対は、いわば Sedasys が彼らの職を奪いかねないという懸念が強く働いたとも考えられます。結果として Sedasys を導入する病院はほとんどありませんでした
Sedasys だけが原因ではないものの、現在 J&J は売上の低迷により3000人規模のリストラを計画中と伝えられます。職を奪われるのが人の役に立つと思ってロボットを開発した側だというのはなんとも皮肉な話というほかありません。

ご存知のようにアメリカでは大腸内視鏡一つでも麻酔科医が全身麻酔をかけて行うと言うお国柄で、そのために内視鏡一回で数十万円のコストがかかっているそうですが、以前にはアメリカ大統領が内視鏡を受けるのに核ミサイルの発射ボタンも含め全ての権限を副大統領に一時委譲したとも言い、それもあってか現職のオバマ大統領などは内視鏡を受けることを避けて3D-CTによる大腸検査にしたそうです。
当然ながらこうしたお国柄ですから麻酔科医の仕事が多く需給バランスが崩れ困っているのではないかと思うのですが、当の麻酔科医からこうした反対意見が続出し麻酔ロボットと言う新商品が潰されてしまったと言うことを考えると、アメリカの医療を支配しているとも言われる保険会社などからひと言あるんじゃないかと言う気もしますよね。
ここで表向きの理由として言われている様々な主張に関してはもちろんそれはその通りと言えるのですが、例えば同じ病院内で麻酔科医が待機していればロボットで十分と言う局面は少なからずあるのだろうし、導入はともかく維持であればほとんどの場合ロボットにお任せした方が仕事の効率上もずっといいのでしょうが、仕事が奪われると言うことを抜きにしても何かあった際に誰が責任を取るのかと言う問題にも行き着きそうです。
こうした機械を導入するなら当然個人ではなく組織として責任を取る前提で行われるべきであり、言ってみれば内視鏡や手術に使用する各種デバイスの不具合によるトラブルと同じような扱いでいいと思うのですが、「カメラの調子が悪かった時に責任を取れないから内視鏡はやらない」と言う内視鏡医がいないことを考えると、何かしらロボットと言う看板に人間が必要以上に警戒心を抱いているようにも見えます。

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コメント

ロボット以下の役立たずの多いこと

投稿: | 2016年4月 7日 (木) 07時37分

医師がやらないと診療報酬もつかないんじゃ?
コスト算定できればいいんでしょうけど。

投稿: ぽん太 | 2016年4月 7日 (木) 08時20分

>例えば同じ病院内で麻酔科医が待機していればロボットで十分と言う局面は少なからずあるのだろうし、導入はともかく維持であればほとんどの場合ロボットにお任せした方が仕事の効率上もずっといいのでしょうが、

完全自動操縦が技術的には可能ですが、パイロットは絶対にその場を離れません。
それと同じで、麻酔科も手術と同数必要なことを考えれば、ロボットのコンセプトが間違っていたことになるのだと思います。「麻酔科医が仕事を奪われるのに抵抗した」というのはマスコミ受けする主張に過ぎないでしょう。

MRCPの発達でERCPによる治療技術の低下があるように、製造業で製品設計やライン設計の技術が失われることを反省してロボットから手作業に帰る動きがあるように、効率だけを求めて全て自動化すれば良いのではないと思います。

投稿: おちゃ | 2016年4月 7日 (木) 09時57分

高いドクターフィーとるアメリカとただ働き同然の日本を同列に語るべきではないと思われ

投稿: | 2016年4月 7日 (木) 10時26分

ロボット麻酔で安く上げるか、高級な人間麻酔にするか、選べればいいのに

投稿: | 2016年4月 7日 (木) 11時05分

部門にもよると思うのですが、医師不足でスタッフの確保に高コストを要すると言うことであれば、ロボット導入の初期コストを支払っても十分ペイする可能性はあるかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月 7日 (木) 12時52分

これも病院にとっちゃぜったい得にはならないような微妙な値段でメーカーが売りつけてくるんだろうな。。。

投稿: | 2016年4月 7日 (木) 21時22分

パイロットと自動操縦もそうですが、機械がやってくれるのに人間が監視するというのは、不測の事態に対処できるのは機械より人間だと信じられているからです。
すなわち、知能は人間の方が上だと信じられている。
不測の事態に対処する能力が人間より機械の方が上だから、わざわざ人間を貼り付けておくのは無駄。そう信じられるようになって初めて、人工知能が人間を越えたと言えるでしょう。さてそんな日が2045年よりも前に来るでしょうか?

投稿: | 2016年4月 8日 (金) 09時59分

日本では、麻酔なんて看護師でもできると、一部の奴隷不足麻酔科部長が言ってしまうように、アメリカでは機械でも可能と誰かが言ったのでしょう。医療に限らず、機械で置き換え可能なのは、トラブル時に停止さえすれば誰も死なないことが条件です。それさえも分からなかった会社は傾いて当然でしょう。普段、20万円貰って、昼寝して、ネットしていても、トラブル時には覚醒する麻酔科医の方が機械よりかは役に立つのです。

投稿: 麻酔フリーター | 2016年4月 8日 (金) 10時44分

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