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2016年4月 8日 (金)

産科リスク、今度の注目は?

本日の本題に入る前に、産科不足が全国的に言われる中で、先日静岡県湖西市でこんな話が出ているそうです。

「1億助成」で産科医院公募 出産施設ない湖西市(2016年4月5日静岡新聞)

     湖西市は4月から、市内で開業する産婦人科医院の公募を始めた。市内に出産できる医療機関がないためで、10年以上開業する意思がある産婦人科医や医療法人に、開業費用として初年度に最大5千万円、6年間で最大1億円を助成する。
     産婦人科か産科の臨床経験が5年以上あり、分娩(ぶんべん)を扱える医師を求めている。開業は市内ならどこでも可。2~6年目は運営費として最大1千万円ずつ助成する。

     市内では2007年8月に市立湖西病院が分娩を休止して以来、出産できる施設がない。14年度は市外で生まれた449人の出生届が出された一方、同年度の死亡数は571人と大きく上回った。
     市は子供を産みやすい環境を整備し、人口減少対策につなげるために、医院誘致に踏み切った。既にホームページに事業概要や補助金交付要綱、申請書などを掲載した。

     市担当者はまだ問い合わせはないとし、「全国どこも産科医不足だけに状況は厳しい。公募の周知方法も検討していく」としている。問い合わせは市健康増進課<電053(576)4794>へ。

高額報酬で産科医をつり上げると言えば聖地と言われる三重県は尾鷲市の「三千万円出せば大学病院の助教授が飛んでくる」云々の一件が思い出されるのですが、この場合は病院ではなく開業産科医と言うことで、以前に市立病院で分娩を扱っていた中で強いて開業と言う点にこだわることに意味があるのかどうかです。
この湖西市と言えば浜名湖の西岸にあるごく小さな町であり、政令指定都市の浜松市と中核市である豊橋市に挟まれた立地ですから、少し脚を伸ばして隣町にまで出れば何ら分娩施設には不自由しないのだろうと想像できるところで、結局のところはよくある田舎自治体の「町内に小児科医院あります」式のニュータウンの売り出し方と同じような話なのでしょうか。
もう一つ気になった点として同じ時期にせっかく同市が始めた男性不妊治療の助成制度が利用者ゼロの状態が続いていると言うニュースがあって、もちろん制度も始まったばかりで十分周知されていないと言う点もあるのでしょうが、あるいはそもそも妊娠、出産と言うことに対する需要自体が少ないと言う可能性もありますよね。
市外で生まれた400余人が全て新たな産科医院にかかればもちろん経営は成り立つのでしょうが、実際には施設もスタッフも十分に充実した大きな病院で産みたいと言った人も多いのでしょうから、一見すると高額の補助金のように見えても実際には赤字分を補填するだけに終わってしまう可能性もあるのかも知れません。
湖西市のことを悪く言うようで申し訳ないのでこれくらいにしておくとして、分娩にまつわる様々なトラブルとして一つには例の産科無過失補償に結びついた脳性麻痺の問題があり、また以前にはうつぶせ寝による死亡事例や例のホメオパスが絡んだビタミンK問題なども話題になってきましたが、最近また新たなリスクが注目されつつあるようです。

両親側の逆転敗訴確定=「産後母子同室」で障害―最高裁(2016年3月28日時事通信)

 出産直後から母と子が一緒にいる「母子同室」を実施した際、病院側の経過観察が不十分で次女が重い障害を負ったとして、福岡県の両親と次女が九州医療センター(福岡市)を運営する独立行政法人国立病院機構に損害賠償を求めた訴訟で、両親側の逆転敗訴が確定した。
 最高裁第1小法廷(池上政幸裁判長)が24日付で両親側の上告を退ける決定をした。

 次女は2009年11月、帝王切開で生まれた。出産当日から授乳の際に新生児室ではなく病室の母親に預けられたが、一時心肺停止状態となり、低酸素脳症になった。両親らは約2億3000万円の賠償を求め提訴した。
 一審福岡地裁は「病院は容体急変などの危険を回避するための経過観察を行わなかった」として約1億3000万円の賠償を命令。しかし、二審福岡高裁は「次女や母親に異常をうかがわせる兆候はなく、経過観察する義務はなかった」として請求を棄却した。 

早期母子接触 出産直後、分娩室で抱っこ 脳性まひ事例7件 793件分析(2016年4月6日毎日新聞)

 出産事故で赤ちゃんが重い脳性まひになった際の産科医療補償制度で、昨年末までに分析を終えた793件中、出産直後に母親が抱っこする「早期母子接触」中に赤ちゃんが急変して結果的に脳性まひになった事例が7件あったことが分かった。制度を運営する日本医療機能評価機構が報告書を公表した。

 早期母子接触は母子の心身安定につながるといった利点も指摘されるが、機構は「医療関係者が継続的に観察し、赤ちゃんに心電図モニターを装着するなど慎重な対応が必要」と注意を呼び掛ける。

 機構によると、生後25分の赤ちゃんに帽子をかぶせブランケットを掛けた状態で母親が抱っこしていたが、30分後に赤ちゃんの心肺停止が確認され、低酸素性虚血性脳症を発症して脳性まひになった事例などがあった。機構はこの事例の原因について「特定できないが、誤嚥(ごえん)で気道がふさがれたり、呼吸中枢が未熟だったりしたことも考えられる」と説明している。

この早期母子接触なる言葉には耳慣れなくとも、「カンガルーケア」と言われればああなるほどと理解される方も多いかも知れませんが、以前にも取り上げたようにこの問題でたびたび訴訟沙汰になっていて、どうもそれら事例の多くでは母親に新生児を抱かせた後スタッフが席を離れている間に事故が起きているようだと言うことです。
もちろんカンガルーケアではなく専門のスタッフが扱っていたとしても一人の新生児に24時間付き添っているわけではありませんから、通常のスタッフによる見回りに加えて母親のケアも行われるのだと考えるとさらに手厚い見守りが行われているとも考えられるのですが、やはり人間忙しい時には直接新生児の様子を十分確認せず、母親に訊ねてすませてしまうと言うことも起こってしまうのかも知れません。
日本産婦人科医会のガイドラインでも必要な観察事項などについて親や家族の理解度をきちんと確認することは当然ながら、「母親(および家族)が新生児の観察を自力のみで行うことには限界があるため、必ず医療側も十分な観察を行う」と記載されていて、当然ながら正しい方法で行わなければ思わぬ事故が起こると言うのは何であれ同じことですよね。

歴史的に見るとこのカンガルーケアと言うもの、発展途上国において本来保育器に入れるべき極低出生体重児が機材の不足で満足な対応が出来ていなかったものを、保育器の代わりに母親に抱かせればいいじゃないかと言う発想で始まったものだそうで、現在ではごく普通の新生児にも用いられているとは言え元をたどれば機材不十分な国々における代用医療的行為とも言えそうです。
他方では有史以来その歴史のほとんどの期間において人間は母親が赤ん坊を抱いて育ててきたはずですし、保育器の中で不自然なケアをするより生物として当たり前の方法に近づけた方がいいと言う自然分娩志向とも合致しているとも言えますが、リスクと利益が実際どの程度のものなのか客観的データは気になるところですよね。
ただ何もなくとも不安定な周産期には一定の確率で大きなトラブルも発生するものでしょうから、今回の数字だけでは果たして危険性が高いのか低いのか何とも言えませんが、仮に医学的に問題は無かったりメリットの方が大きかったりだとしても、ひとたびこうしてマスコミがその危険性に注目するようになればブームとしては遠からず収束に向かうことになるのかも知れません。

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コメント

なんでも金で解決できると思うな

投稿: | 2016年4月 8日 (金) 08時28分

そもそも論としてまともな産科医はカンガルーケアをどう考えてるのでしょうね?
有意義だと感じているのか害がなさそうだから許容してるだけなのか?

投稿: | 2016年4月 8日 (金) 10時07分

新生児は産科医が管理していなければ関心は薄そうだよね

投稿: | 2016年4月 8日 (金) 10時46分

イメージ的に母体の心理的効果はありそうなのですが、そもそも当初の目的と外れた運用が主体になっていると言う点で、効果についての理論的裏付けは薄いのではないかと言う印象を抱いています。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月 8日 (金) 13時11分

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