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2016年4月 6日 (水)

救急車の不適切使用問題が意外な方向に飛び火

いつもの通りと言えばいつもの通りなのですが、本日まずは先日出ていたこんなニュースを紹介してみましょう。

救急車の出動 6年連続過去最多 必要ないケースも(2016年4月3日NHK)

去年1年間に全国の救急隊が救急車で出動した件数は600万件余りと6年連続で過去最多を更新しました。救急車を使う必要がないケースが依然として相次いでいるとして、総務省消防庁は緊急性が高い患者を優先して搬送できるよう救急車の適正な利用を呼びかけています。

総務省消防庁のまとめによりますと、去年1年間に全国の救急隊が救急車で出動した件数は速報値で605万1168件と、前の年より1.1%増え6年連続で過去最多を更新しました。また、搬送した人数も、速報値でこれまでで最も多い546万5879人に上りました。
出動件数が増えた469の消防本部にその理由を複数回答で聞いたところ、「高齢のけが人や病人の増加」が全体の3分の2を占めていて、総務省消防庁は出動件数が過去最多になった背景には高齢化があるとみています。また、明らかにけがが軽いのに救急車を呼ぶなど、「救急車の不適正な利用の増加」が8%を占め、救急車を使う必要がないケースが依然として相次いでいるとして、総務省消防庁は緊急性が高い患者を優先して搬送できるよう適正な利用を呼びかけています。

緊急の対応が必要ないのに救急車が出動するケースは少なくありません。
総務省消防庁によりますと、全国の救急隊が救急車で出動したケースの中には、搬送を求めている人が結果的に軽いけがで、救急車が必要なかったケースがあるということです。こうした救急車の利用を減らそうと、東京消防庁は、救急車が必要かどうか医師や看護師などが電話でアドバイスする相談ダイヤルを設けています。番号は「#7119」で、24時間受け付けているということです。
こうした相談窓口は大阪や横浜など5つの地域でも設けられていて、総務省消防庁は全国の消防に対し、導入を進めるよう促すとともに、救急車を呼ぶかどうか判断に迷った場合には、119番通報するのではなく、相談窓口を利用してほしいとしています。
また、総務省消防庁によりますと、明らかにけがが軽いのに救急車を呼んだり、病院に行くための移動手段としてタクシー代わりに要請したりするケースもあるということです。総務省消防庁は緊急性が高い重症患者の救命率の低下が懸念されるとして、イベントなどを通じて救急車を適正に利用するよう呼びかけています。
(略)

ここで相談窓口などに電話しなくても119番で相談すればいいじゃないかと考えるかも知れませんが、119番で対応しているのはあくまで出動要請の受付ですから相談に応じられるスタッフもなく、また長時間相談の電話で回線を占有されても困るわけで、システム的にもう少しこの辺りを整理してくれればもっと利便性も高まりそうには思います。
それはともかくいわゆる救急崩壊と言う現象については二つの側面があって、一つにはこうした過度の救急車出動要請によって物理的に救急車が足りなくなると言う現象がありますが、もう一つは救急車が搬送する先が見つからないと言う受け入れ側医療機関の問題もあり、特に後者に関しては医療崩壊と言われるものとも直結する課題として解決が図られているところですよね。
ただ救急病院の受け入れ体制が出来ていなければ救急車が効率的な搬送も行えないわけで、両者は密接に関連した不可分の問題であると言えますが、こうした受け入れ遅延に対応するためにも近年救急隊の可能な処置範囲を拡大しようと言う試みが段階的に行われてきたところで、将来的には諸外国のように一通りの救急処置は救急車の中で行う時代も来るのかもしれません。
これも医療側からは「そんなことをやっている暇があるならさっさと病院に運べ」と言う意見もあり、またつい先日も救急隊が食道挿管をしていたと言うケースが報じられていたりと問題点も少なからずで、いずれにせよ日本のような狭い国土の国ではとにかく一刻も早くスムーズに病院に患者を搬送すると言うことが最優先されるべきだと言う考え方にも一理あるとは思います。
前置きがいささか長くなりましたが、ともかく救急車が回らず困っていると言う現実があり、それを避けるためにも不要不急の救急コールはやめましょうと啓発も為されてきた現状に関して医療の側もそれはその通りと賛同してきたのだと思いますが、最近どうもその矛先が医療の方にも向きつつあると言うことが報じられています。

「救急車で転院」やめて…総務省消防庁など要請(2016年04月03日読売新聞)

 総務省消防庁と厚生労働省は、病院間で緊急性の低い患者を移動させる転院搬送について、救急車を使わないよう都道府県に要請した。

 転院搬送は全国で毎年約50万件に上るが、タクシー代わりに救急車が利用されるケースが後を絶たず、同庁などは病院や民間の患者搬送サービスの活用を促す。

 転院搬送は本来、消防法に定める救急業務ではないが、1974年の同庁見解で、緊急性があれば救急業務として認められるとした。

 しかし首都圏の消防本部によると、転院搬送の中には、病院側の入院患者数の調整や、「無料の救急車を使いたい」との患者の要望を理由に救急車が出動するケースがあるという。別の消防本部は「医師から『緊急性がある』と言われれば救急搬送せざるを得ないが、疑問を感じることも少なくない」と打ち明ける。

ちなみにこの場合の救急車と言うのは当然ながら自治体が運用している消防救急所轄のそれについてであって、医療機関が独自に所有している救急車やドクターカーを利用しての転院には何ら支障が無いことは言うまでもありませんが、確かにこの転院搬送と言う問題はなかなか線引きが微妙な部分も多いですよね。
記事にもあるように本来的な消防救急の業務と言うわけではなく、ただ一般的に病院とは患者受け入れ等持ちつ持たれつの関係にもあることから続けられてきたものなのでしょうが、状態が不良で上位の医療機関に搬送する必要がある場合などは比較的正当な転院搬送と言っていいのでしょうか、実際各地の自治体でも緊急性のある場合は行うと指針で明記されているようです。
今回問題視されているのはこうしたケースではなく、例えば急性期から療養型へ転院するようなケースであるとか、本来は救急車でなくとも介護タクシー等でも十分対応できる状態の場合を言っているのだと思いますが、こうした転院搬送が要請される場合にも消防救急から医師に確認はあるでしょうから、いわば医師が荷担して行われている不適切な行為と言うことになります。

ただここで注目していただきたいのは全国で救急搬送600万件のうち8%と言いますから約50万件が救急車を呼ぶ必要の無い不適切使用だったとされている、そして本来の救急搬送業務ではない転院搬送もそれに匹敵する50万件であると言うのは、なかなかに示唆的な数字であるように感じられます。
もちろん中には「タクシーはお金がかかるから救急車を呼んであげる」などと妙に勘違いした顧客サービスの精神を発揮している先生もいらっしゃるのかも知れませんが、患者側から無料の搬送を求められると言う場合も少なからずあるようで、目的外使用は断固拒否すると言う先生もいれば、断り切れずについつい要請してしまう先生もいるのでしょうね。
医師にとっても不本意な行為だと言う認識であれば基準を定めて拒否していただいた方がかえって助かると言うことにもなるのでしょうが、実際問題こうしたケースでどの程度医師側が主体的に行っているのか情報も欲しいところですし、そもそも患者のみならず医師に対しても救急車の不適切利用はまかりならんと言う教育が行われているのかどうかも気になるところです。
この点で興味深いのは明らかに緊急性のない転院であり、なおかつ当該施設にちゃんと患者搬送用車輛も置かれているにも関わらず消防救急がコールされると言うケースが少なからずあると言うことで、もしも「万一の場合救急車の方が安心だから」と言った気持ちで安易に救急隊を呼んでいるのであれば、医師の側としても万一に備えてコンビニ受診をする患者に文句を言えなくなる道理ですよね。

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コメント

ところで救急車に医師同乗するのって義務になりました?
最近前よりきびしく言われる気がするんですけど。

投稿: ぽん太 | 2016年4月 6日 (水) 08時46分

つまりは医者が自分で自分の首絞めてるってことかな?

投稿: | 2016年4月 6日 (水) 10時54分

救急車が足りなくても、医師は直接困らなそう
医師の首は絞まらないんじゃない?

投稿: | 2016年4月 6日 (水) 11時15分

いずれにしても救急隊側の対応が今後変わってくるようですと、それに伴い医療側の対応も変わらざるを得ず、また場合によっては現場での軋轢が増しそうにも思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月 6日 (水) 12時51分

転院搬送、高度医療など傷病者の条件提示-厚労省と消防庁が都道府県に通知

 いったん医療機関に収容された患者の症状悪化や専門的な処置が必要となった場合、他の医療機関に搬送するために救急車が出動する「転院搬送」について、厚生労働省と総務省消防庁は都道府県に対し、地域の実情に合わせてルール化することを求める通知を出した。高度医療などが必要な傷病者といった搬送条件も挙げている。【新井哉】

 転院搬送をめぐっては、救急出動件数が増えた消防本部のうち、4割超の消防本部が「転院搬送の増加」を要因に挙げていることが、消防庁がまとめた2015年の救急出動件数などの速報値で判明。同庁の検討会がまとめた報告書でも、厚労省と消防庁が転院搬送のガイドラインを作成し、それを参考にして消防や医師会、医療機関がルール化する必要性を挙げていた。

 今回の通知では、消防機関が救急業務として行う転院搬送の条件やルール化の項目を提示。転院搬送の条件については、緊急に処置が必要な場合や、高度な医療や専門医療が必要な傷病者であることなどを挙げている。

 こうした「原則」を踏まえ、▽要請元の医療機関が、あらかじめ転院する医療機関を決定し、受け入れの了解を得ておく▽要請元医療機関の医師または看護師が同乗する▽要請元医療機関が消防機関に転院の理由などを示した転院搬送依頼書を提出する-の3項目を「地域の実情に応じ、関係者間で検討し、合意の上でルール化しておくことが望ましい」としている。

投稿: | 2016年4月 6日 (水) 16時30分

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