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2016年4月13日 (水)

事故調稼働と医師法21条改正論

昨年秋から始まった医療事故調制度発足に伴い議論になっているのが、いわゆる異状死体の届け出義務を定めた医師法21条のあり方で、この際医師法21条は改正を目指すべきだと言う主張もあれば、いやいや事故調が定着していないのにそれをやっても混乱するだけだと言う意見もありで、医療業界内部でも見解が分かれていると言えます。
ただ医療事故が想定されるようなケースは医療事故調に届けるのだと多くの医療機関が理解しているのであれば、「間違って」21条ルートで警察に届けてしまう件数はかなり減ってくるのではないかとは想像できるのですが、実際に昨年の警察への届け出件数が激減していると言うニュースが先日出ていました。

医療事故等の警察届出、2015年は前年から半減(2016年4月6日医療維新)

 警察庁のまとめで、2015年1年間に医療事故などとして警察に届出等が行われたのは65件で、2014年の137件から半減したことが明らかになった。届出等件数は2ケタにとどまったのは、41件だった1999年以来、16年ぶり
 届出等件数の内訳は、「被害関係者等」が14件(2014年比26件減)、「医療関係者等」が47件(同比41件減)、「その他」が4件(同比5件減)で、いずれも減少している。
 届出等の件数は、1999年は41件だったが、同年に起きた東京都立広尾病院事件などを機に、2000年には124件に増加、2004年の255件がピーク。その後、いったんは減少したが、2007年は246件。以降、増減を繰り返していた(2014年以前のデータは、『医療事故、警察への届出、2割も増加』なども参照)。
 届出等件数の65件のうち、2015年中に、業務上過失致死傷等事件として送致されたのは2件(2014年比8件減)、年別送致数(届出等の時期に関わらず、2015年に送致・送付された件数)は43件(同比12件減)で、届出等件数と同様に減少した。ただし、届出等の時期をさかのぼると、2006年に届出されたものが、2015年に送致された事件もある。

 「死亡診断書記入マニュアル」改訂影響か

 「医療関係者等」の届出等件数が減少した要因の一つとして考えられるのが、2015年度版の厚生労働省の「死亡診断書記入マニュアル」の改訂だ。
 同マニュアルは、医師法21条に基づき、「医師が死体を検案して異状があると認めたときには、24 時間以内に所轄警察署に届け出る」と記載。この「異状死体」の定義は、2004年の東京都立広尾病院事件の最高裁判決を踏まえ、田村憲久・前厚労相が、2014年6月10日の参議院厚生労働委員会で、(1)医師法第21条は、医療事故等々を想定しているわけではないわけではない、(2)検案とは、医師が死因等を判定をするために外表を検査することであり、自分の患者であるかどうかを問わない、(3)死体の外表を検査し、異状があると医師が判断した場合には、警察署長に届ける必要がある――と説明している(医師法21条をめぐる議論は、『「“事故調”、見直しは時期尚早」四病協』などを参照)。
 しかし、2014年度版の「死亡診断書記入マニュアル」までは、医師法21条の記載はなく、(1)外因による死亡またはその疑いのある場合には、異状死体として24時間以内に所轄警察署に届出が必要、(2)異状とは「病理学的異状」ではなく「法医学的異状」を指す、(3)「法医学的異状」については、日本法医学会の「異状死ガイドライン」なども参考にする――と記載されていた。1994年に公表された「異状死ガイドライン」は、医師法21条が定める届出の対象を「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体」 と記載、死因が不明な診療関連死なども含まれる幅広い解釈だった。

記事にもあるように死亡診断書記入マニュアルの改訂の影響もあるのでしょうし、事故調が秋以降に稼働していることを考えるとこちらの影響が大きいのであれば今年はさらに件数が減ってくるはずだと思われるのですが、この辺りは来年以降に実際にどうなるのかを見てみたいところですよね。
日医などはこの21条の積極改正を主張していて、今年6月に予定されている事故調制度見直しにあわせて21条改正も議論していくと言っているようですが、法解釈であれば省からの通達なり大臣の答弁なりで何とかなるのかも知れませんが、法改正となるとこのところ内外に様々な課題も山積している中で何もこの時期に急いでと言う先送りの声も出てきそうです。
一方でそうした消極的な先送り論ではなく、積極的に改正はすべきではないと言う主張をする方々もいて、マッシー池田こと神経内科医の池田正行先生などは先日こんな記事を書いているようです。

医師法21条「改正」論に隠された問題とは?(2016年4月7日日経メディカル)

(略)
 そもそも司法が関与しない制度設計になっている医療事故調査制度の見直しと21条とは何の関係もありません。さらに、以下に述べるように、診療関連死を警察に届出る必要のないことは既に明確になっています。
 第一に、21条の条文を適切に解釈した都立広尾病院届出義務違反事件の最高裁判決(2004年4月13日)により、診療関連の死亡事故が発生したからといって医師が警察署に届出る義務はないことがすでに確定しています(「医師法21条」再論考―無用な警察届出回避のために)。第二に、「医療過誤によって死亡または傷害が発生した場合、またはその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う」と記載されていた、厚生労働省による「リスクマネージメントマニュアル作成指針」(2000年に当時の国立病院等向けに作成)はすでに失効したことが明らかになっています。第三に、2015年3月には,これも厚生労働省の「死亡診断書記入マニュアル」が改訂され、診療関連死や医療過誤は全て警察への届出が必要であるとの悪しき誤解を招いてきた記述が削除されました(「医師法21条」の誤解、ようやく解消へ)。
 以上からわかるように、21条を「改正」する必要はどこにもありません。それどころか、提言にあるような「改正」は、警察への届出が白日の下にさらしてきた医療事故に関する根本的な問題を全て「なかったことに」してしまうのです。

警察への事故届出が暴露した問題の数々

 事故を警察へ届出たのは、事故原因となった数々のシステムエラーを放置してきた施設長・病院管理者でした。その届出を受けて捜査を行ったのは、脈の取り方一つ知らない警察官でした。人身御供にされた末端の医療者だけを起訴し公判を取り仕切ったのは、診療録の読み方一つ知らずに専門医をやぶ医者呼ばわりする検察官でした。その検察官のいいなりになった裁判官の出す判決は、事故原因となった数々のシステムエラーを業過罪とすり替えることによって隠蔽してきました。
 警察や検察に媚びへつらう旧主流派マスメディアは、こういった根本的な問題の数々に対し完全黙秘する一方で、ウログラフィン誤使用事故報道で見られたように、扇情的な報道で末端の医療者を罪人として血祭りに上げて社会的に抹殺し、ヒューマンエラーこそが事故の本質的な原因であるとのデマを垂れ流すことによって、患者家族、そして市民に対して医療事故問題の真相を隠蔽し続けてきました。
 警察への届出がこのような一連の医療破壊活動を招いてきた歴史を、たかが条文の添削で「なかったことに」できるわけがありません。21条「改正」により、警察官、検察官、裁判官に対する医学教育が開始されることもありません。司法過誤を追求できるジャーナリストが生まれるわけでもありません。医療事故再生産装置である裁判が解消されるわけでもありません

21条「改正」論の意図は?

 さらに、たとえ21条の条文を添削したところで、診療関連死が犯罪として届出られる「抜け穴」は残ります。北陵クリニック事件でも末端の医療者が社会的に葬られましたが、その発端は、「官吏(注:国家公務員)または公吏(注:地方公務員)はその職務を行うことにより、犯罪があると思料するときは告発をしなければならない」と規定する刑事訴訟法239条第2項に基づき、某国立大学法医学教授が行った告発でした(関連記事)。21条の条文をいじくってみたところで、届出が明らかにした問題は放置されたまま。さらには診療関連死が犯罪として届出られる可能性も残される。だとすると21条「改正」論の意図は一体どこにあるのでしょうか?
 法令の条文は何ら変わっていないのに、利益相反と自己都合で勝手な解釈を加えて「法令遵守」を主張した裁判真理教信者達。その信者達の言いなりになって「粛々と」事故を警察に届け出てきた。そんな自分の立場がいよいよ怪しくなったので、条文改正で全てが解決できるかのごとく言い立てる。そういう無定見な子供だましで、自分は裁判真理教の被害者だったと主張し、末端の医療者を社会的に葬ってきた過去も消去できる。果たしてそんなに都合良く事が運ぶでしょうか?
 問題の本質が21条ではなく、それを誤用する人間の方にあるのに、21条「改正」によって、さも問題が解決されるかのように「感じさせ」、思考を停止させる。21条「改正」論のまやかしは、正にこの点にあります。警察への届出という「法令遵守」も、その届出を条文の「改正」で解消しようという動きも、ともに末端の医療者を社会的に葬り,医療事故再生産装置となってきた裁判から逃げ回るだけだった我々医師の姿を象徴しているのです。

何かしら2000年代初頭を思い出させるような空気も感じる論調だなとも思ったのですが、確かに100年以上も条文が放置されたまま運用上の問題であれやこれやとトラブルが起こってきたとも言えるのですから、今さら条文だけを変えたところで運用そのものが変わらない以上は何も本質が変わらないのだと言えるのかも知れません。
そもそも21条に関しては犯罪に関わるような事件性のある場合に限って運用されるべきものであり、それは法律による義務ではなく医療従事者の善意に基づく届け出によって行うべきものだと言うのが日医など改正派の主張で、仮に医療従事者自身による犯罪行為が行われたとしても事故調制度が発足した以上見逃しにはならず、そちらで何らかの引っかかりが生じるはずだと言う考え方も出来ますよね。
その意味では21条改正の前提としてこれまた事故調制度の運用のあり方も問われると言うことになりそうですが、そもそも医療現場において予想されない死亡は決して少なくはないし、制度発足当初説明をされていたような届け出基準に従えば相当数の届け出がすでにあってもおかしくないにも関わらず、今のところ想定をかなり下回る件数であるのは運用上に未だ課題を残すとも言えるかも知れません。
ただもともと21条の対象として届け出られていた件数はごく限られたものであり、医療現場における全死亡の中では誤差範囲と言ってもいいほど小さな数字に過ぎませんから、21条を改正して何かしらの悪影響があるのかどうかは検証が難しく、今のところ医療従事者の安心など好影響の面ばかりで理由付けされている片手落ち感、あるいは言葉が悪いですがある種の胡散臭さが残る一因にもなっているのでしょうか。

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コメント

つまり事故調作って良かったってこと?

投稿: | 2016年4月13日 (水) 08時10分

諸悪の根源は臨床を知らない法医学者
彼らは混乱の責任をどう取るつもりなのか

投稿: | 2016年4月13日 (水) 08時59分

想定よりもかなり抑制的に運用されていることで、今のところ事故調はまずまず順調な立ち上がりなのではないかと感じていますがどうでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2016年4月13日 (水) 12時13分

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