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2016年3月 8日 (火)

病院の偏在と医師の偏在

都道府県が主体的・計画的に医療供給体制を整備していくと言う地域医療構想について、特に病院機能により各病院を4つの医療機能のいずれかに分類すると言う点で地域内での病床管理機能が強化されるとも言える話なのですが、増える病床もあれば減る病床もあると言うことで先日日医がこんなことを主張しています。

地域医療構想、「病床削減の根拠になる恐れ」(2016年3月3日医療維新)

日本医師会常任理事の釜萢敏氏が3月2日に会見し、地域医療対策委員会が策定した地域医療構想における日医の役割に関する報告書を発表し、地域医療構想の病床必要量の報告が病床削減の根拠に使われる恐れがあると指摘、「日医として、国政で正しい主張を続けないといけない」と述べた。

 報告書は、「地域医療構想・第7次医療計画に向けての医師会の役割について」と題し、宮崎県医師会副会長の富田雄二氏を委員長に迎え、8回の議論の内容をまとめた。

 報告書では、各都道府県が2025年に向けた地域医療構想を策定するに当たり、構想で示される「病床の必要量」は、2013年の疾病構成や受療率、機能区分などの条件を前提として計算した医療提供側のための参考値であり、医療機関による自主的な転換・収斂を目指したもので、病床削減のための制度ではない、との認識の共有が重要だと指摘。行政が参考値を目標値として捉え、急性期病床や慢性期病床の削減のための根拠として悪用する心配があるとして、日医が国政の場で「正しい主張」を続けることや、議論をリードすることが必要だとした。

 釜萢氏は、2016年度は多くの都道府県で「地域医療構想」の策定と第7次医療計画の検討が始まる重要な時期だと強調。「地域医療のあるべき姿は、全国一律ではなく、地域ごとの設計が必要で、地域の医師会が地域の実情を最も理解している」(同報告書)との記載に触れ、「地域の特性を生かし、地域の構成員がしっかり考えて作ることが重要だ」と指摘した。その上で、地域医療調整会議で病院や行政、医師会などのメンバーが集まって連携して協議をして地域医療構想を策定する枠組みについて「画期的だ」と高く評価。医師の需給に関する協議にも導入すべきだと提案した。

 病床数削減に関しては、過去10年間で病院数が7%、有床診療所が43%、病床数(一般・療養病床)は7.3%減少し、病床利用率も6%減っていることから、「現実を踏まえて、社会の流れの中で検討を生かさないといけない」と述べ、医療需要の変化に適切に対応することが必要だとした。

いやまあ、もちろん地域毎に異なる需給の状況に応じて必要病床数を議論することは大前提なのだろうし、その結果過剰と判断される部分に関しては削減していく方向で話を進めるのも当然だろうと思うのですが、日医などが今さらこんなことを言い出しますとまたぞろいつもの既得権益確保かと言われても仕方ないでしょうね。
ただ行政側がこうしたいと言う供給体制と、実際の医療現場がこう出来ると言う供給体制とが完全に一致することばかりではないはずなので、最悪の場合この病院を急性期の中核病院にと見込んでいたのにそれが果たせず、激務から医師逃散も相次ぎ地域の医療体制が破綻してしまったと言うこともあり得るわけです。
すでに大学病院が音頭を取って地域内の医療体制を再構築する取り組みも始まっていると言い、その手段として医局の人事権を活用して「拒否するなら今後は医師派遣で協力出来ませんが何か?」式のやり方も活用されているやにも聞くのですが、そうした観点で見ますとこの地域医療計画や病院再編成の問題とは医師の人事の問題であるとも言えるわけです。
各都道府県が「この場所は医療の空白地帯だから立派な病院を整備したい」と考えても、医師らスタッフが集まらなければ話が進まないと言う単純な理屈なのですが、こうした医師配置の問題に関しても先日厚労省からこんなコメントが出ていたと言います。

「医師の職業選択の自由」を尊重、厚労省医政局長(2016年3月3日医療維新)

 3月3日の厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」の医師需給分科会(座長:片峰茂・長崎大学学長)の第3回会議で、同省医政局長の神田裕二氏は、医師の地域・診療科偏在対策について「何もやってこなかったわけではない」と反論、一定の規制ルールで偏在解消すべきとの意見に対し、「医師の職業選択の自由」を尊重しつつ、偏在解消ができる仕組みを検討すべきとの考えを示した(資料は、厚労省のホームページ)。

 3日の会議のテーマは、医師の需要・供給推計の方法と、医師が地域・診療科偏在する課題の整理――の二つ。医師偏在の問題は、2008年7月の厚労省の「医師の需給に関する検討会報告書」でも検討した経緯がある。10年経っても問題解決に至っていない現状を踏まえ、委員から問題視する声に答えたのが、神田局長。

 神田局長は、「2008年の検討会は、マクロの需給は将来足りるが、まだ医師が不足している地域があるため、実効性がある地域定着策を講じながら、医師を増やす結論だった。その後、医学部定員を1637人分増やすなど、何もやってこなかったわけではない」と説明。

 その上で次のように付け加え、まずは強制力を持って進めるのではなく、医師の自主的な選択を通じて、偏在解消を図ることが先決だとした。「極端に言えば、保険医の定数を地域別、診療科別に決めるやり方もあるのかもしれない。しかし、憲法上の問題もあり、まずは職業選択の自由を尊重し、『いやいやへき地に来た医師に、診てもらう』のではなく、医師が自らそうした選択ができるようにしていきたい」。地域医療支援センターの設置、医学部の地域枠の定員増などの施策は打ってきたとし、「しかし、それがまだ十分ではない。そのためには何をすべきかという議論ではないか」とまとめた。
(略)
 医師の地域・診療科偏在について、厚労省は、(1)医師の養成、キャリア形成に関する課題(医学部定員、医学部卒前教育に関するものを含む)、(2)医師の労働環境等に関する話題、(3)医師派遣機能に関する課題、(4)医師の生活環境に関する課題、(5)育児等を伴う就労への支援に関する課題(女性医師支援を含む)、(6)住民、患者のニーズの変化や住民、患者への情報提供、普及啓発等に関する課題――に整理。

 この課題整理に対し、最初に問題視したのは、聖路加国際病院院長の福井次矢氏。「課題はよくまとまっているが、大部分が既に分かっていること。ステークホルダーが、効果的だが困難な対策を、勇気を持って行ってこなかったことが、(偏在が解消しない)最大の要因」と指摘。フランスは大学卒業時点で専門診療科を割り振る、米国ではフェローシップに入る時点で専門医数を決めている、ドイツでは開業場所に制限があるなど、規制的な仕組みを導入している諸外国の例を挙げた。

 慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏も、自身も委員として加わり、2013年8月にまとめた社会保障制度改革国民会議の報告書で、「適切な場で適切な医療を提供できる人材が確保できるよう、職能団体には、中心となって、計画的に養成・研修することを考えていく責務がある」と提言していることを紹介。日本医師会と全国医学部長病院長会議が共同でまとめた2015年12月の「医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言」でも(『医師のキャリア形成、大学が生涯にわたり支援』を参照)、医師の地域・診療科偏在のために「医師自らが新たな規制をかけられることも受け入れなければならない、と書いている」と指摘。大学の医師派遣機能は低下し、「事態は前より悪くなっている」とし、「責務を果たしていくべきではないか」と求めた。
(略)
 片峰座長から、見解を質された厚労省は、冒頭のように神田局長が答えたほか、厚労省医政局地域医療計画課長の迫井正深氏も、「前回の検討会で、既に偏在の議論はした。(今回の整理で)新しい大発見があるわけではなく、自然と整理するとこうなる。逆に問いかけると、なぜ今日に至るまでこうした現状なのか。地域医療の確保に向け、一定程度、対策は講じてきた」と回答。その上で、「医師養成に要件を設けたり、医師の研修に当たって勤務地や診療科の制限を付けることには、基本的人権にかかわるデリケートな問題がはらんでいる」と述べ、本来の意思とは別の赴任地に医師が赴いた場合に、当該医師および医療を受ける側の理解が得られるかなどの問題もあるとした。
(略)

医師の配置をどう望ましい方向に誘導していくべきなのかと言う方法論には諸説ありますが、とりあえずはいわゆる医師強制配置論には医療関係者から根強い反対意見があるとして、ではその代案で何が可能になるかと言えば、過去の様々な課題への対応を考えると一つには診療報酬に格差をつけると言うことは十分考えられると思います。
要するに都市部では経営が成り立たないような医療機関であっても田舎であれば成り立つと言った報酬格差が存在すれば、各医療機関は自主的に経営上メリットのある田舎へと移動していくだろうと言う考え方ですが、医師にとっては田舎に行くことでどんなメリットがあるのかと考えた場合、よほどに待遇等で格差がつくような状況にでもならなければ即座に医師の分布にまで変化が出るのかどうかですよね。
他方で諸外国でも導入されている地域内での保険医定数制度などは一見すると悪くなさそうに思えるのですが、当然ながら現時点での地域内の医師数とそう極端な違いのある数字を設定するわけにもいかないはずであり、そうなりますと先に地域に根を張っている先生方の既得権益ばかりが優遇され、いたずらに優秀な若手医師の新規参入を阻害するだけに終わる可能性もありそうです。

そもそも医師強制配置を行うにしても誰をどのように選んで送り込むのか、その医師が抜けた穴をどうやって埋めるのか等々の細部は全く明確になっておらず、いわば理念の部分だけが一人歩きしている状態で、例えば専門医資格の取得に一定年数の僻地勤務を義務づけると言ったやり方を行うにせよ、それに乗るのは田舎での診療になど興味の無い専門医志向の強い先生ばかりと言うことにもなりかねません。
かつては大学の医局人事なるものがこうした強制性を担保してきた側面があったわけですが、白い巨塔の何のと散々各方面から叩かれ医局の人事機能が削られてきたからこそ人気の無かった田舎病院には誰も行かなくなったと言う当たり前の現象が起こっているに過ぎない面もあり、昨今ではいっそ大学に再び強い人事権を握らせようなどと妙な先祖返りの議論すら行われているとも言いますね。
その点で多くの医師にとって魅力があると考えられるのはやはり高度な医療技術を取得出来る病院かどうかと言う点で、例えば千葉の片田舎に全国に名の知られた立派な総合病院が存在し全国各地から毎年優秀な医師を集めていると言う実例もあるわけですから、やはり医師偏在解消とは医師配置のみならず病院と言う施設をどう整備するかと言う話とセットで議論しなければ解消は難しい気がします。

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コメント

足りない足りない言ってるだけの簡単なお仕事です

投稿: | 2016年3月 8日 (火) 07時52分

田舎から都会へ人口が流出している。多くは雇用を求めてだろうけど。
田舎出身の人ですら出て行ってしまう地域に、わざわざ専門職である医師が来てくれるか?いやありえない。
研修医集めのために周りが月給30程度のところ、月給60とかヘタすると100とかで募集する病院がある。
有名病院なら給与の欄を「応相談」としていても勉強になる、とかで人が集まる。
要するに医師が足りていないところには魅力がない。カネかキャリアか、それとも住みよい環境か。
昔3000万で産婦人科医募集して速攻で住民が嫌がらせしてやめさせてこともあったわけで。
もう少し「来てもらえるようにしよう!」という努力が必要。

投稿: | 2016年3月 8日 (火) 09時29分

若手はともかくベテランの先生の強制配置って可能なんですかね?
仮に専門医資格の更新条件に入れても僻地じゃ認定施設なんてないでしょうに。
二階建ての一階部分で内科外科の認定医専門医で釣るんですかね。

投稿: ぽん太 | 2016年3月 8日 (火) 09時31分

僻地からは医師引き上げて2次医療圏の一部に集中投資
専門医ごとに定員を設ける

投稿: 名無し | 2016年3月 8日 (火) 09時41分

>何もやってこなかったわけではない

医学部定員を増やしただけで、後は議論だけ。
定員を増やしても偏在対策にはほとんど繋がることはないと
誰しも想像できるので、実質何もやっていないと変わらないと思うが。
役人にとっては議論したことがやってきたことになるのですね。

投稿: | 2016年3月 8日 (火) 10時36分

ドラフト制度で好きな球団に入れないことは
職業選択の自由を侵さない合憲だったはず

投稿: | 2016年3月 8日 (火) 10時43分

>誰しも想像できるので、実質何もやっていないと変わらないと思うが。

これについては、役人はそれ以上の権限を持っていない、という現実もあります。
診療報酬もグランドデザインの問題はいつも取り上げられますが、グランドデザインをする部署がそもそもないので(そこは政治の役目)、自分の部署の担当範囲の点数をいじる以外の決定はできないんですよね。

国立・県立勤めで、役所内部の意志決定方法を知っている方がおられれば、よく分かると思います。つまり、誰も決めていないし、リーダーシップに優れた人がたまたま出現して組織変革を決めようと思っても動かせないようにしくみができています。なのに全体としてはなんとなくの方向一定の速度で動くってのが、日本式の官僚機構の奥深さですね。

投稿: おちゃ | 2016年3月 8日 (火) 10時44分

そうした日本式システムの強固な安定性を多くが知っているので、抜本的改革の方法論として医療崩壊を待望する声も一部にあるわけです。

投稿: 管理人nobu | 2016年3月 8日 (火) 11時02分

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