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2016年3月 1日 (火)

不妊治療は高額であると言う現実

不妊治療の進歩とそれを求める社会的要請が両輪となって、近年様々な方面で妊娠と出産と言う問題が議論されるようになりましたが、その経済的なバックアップと言う点で国が先日こういうことを言い出したそうです。

不妊治療保険、今春解禁=高額費用を補完―金融庁(2016年2月3日時事通信)

 金融庁は2日、高額な不妊治療の費用を賄う保険商品を今春にも解禁する方針を固めた。
 政府の1億総活躍国民会議は昨年11月、「希望出生率1.8」の実現に向けた緊急対策として不妊治療支援の拡充を提言。公的助成の拡大と歩調を合わせ、民間の保険商品の販売を容認する。
 金融庁は近く、関連規則の改正案を公表し、意見募集を経て適用する。これを受け、生命保険各社は商品設計の具体的な検討に入る。病気やけがの治療に備える医療保険の特約として付加し、加入後に不妊症と判明すれば保険金を支払う形が想定される。
 不妊治療は、国や自治体による助成制度があるが、多くは健康保険の適用外のため、経済的負担が膨らみがちだった。このため、公的助成を補完する民間保険会社への期待は大きい。
 金融審議会(首相の諮問機関)の作業部会は2013年、不妊治療保険について「高額な費用を経済的に補うニーズもあり、社会的意義も十分認められる」とする報告書をまとめた。ただ、信頼性の高い統計データが少ないため保険料の算出が難しいことや、過去の治療歴を隠す加入者への対策などの課題があり、制度整備は見送られていた。 

単純に社会経済として考えた場合、こうしたものが金融商品としての保険として成立するのか?と言う疑問もあり、また高額な不妊治療を延々と必要とするような場合そもそも妊娠出産自体無理なのではないかと言う意見もありますが、いずれにせよ希望者にとっては高額なコストをどう負担するのかと言う問題が現実としてあるのも事実であり、保険の形で対応できるものであればありがたいでしょうね。
ただこうした保険の副次的な効果として考えられるのが、今現在目の前に存在する問題と言うだけではなく将来的なリスクとして妊娠、出産のトラブルを考える人が増えてくるのではないかと言う点で、特に不妊治療の場合高齢出産が多いとは言っても社会的に見ればまだまだ若い世代が大多数であり、まして20代の人が将来の不妊治療に備えて今から何かしておこうと考えることはまずないだろうと思われるわけです。
保険商品としてそれが成立するなら保険会社も商売ですから、当然ながらその売り込みとして様々な宣伝を行っていくだろうと予想され、結果として若い世代がこの問題にもう少し真剣になっていくなら願ってもないことですけれども、この点ですでに現実的な話として稼働しているのが卵子凍結保存で、将来の出産に備えて若いうちから卵子を保存しておくと言う「卵活」なる怪しげな造語を主張している方々もいらっしゃるそうです。
ちょうど先日は病気以外の理由で初めてのケースとして、こうした計画的な卵子凍結保存から子供が生まれたと言う事例が報告されていましたが、「それなら卵子さえ凍結保存しておけば安心だ」と考えがちな気分に水を差すかのように、こんな気になる話も出ているようです。

卵子を凍結保存した女性 凍結後相手を見つけた例少ない(2016年2月23日NEWSポストセブン)

 不妊に悩む女性にとって福音ともいえるのが、今年2月上旬に報じられた「44才女性のA子さんが冷凍保存した卵子で妊娠・出産に成功」というニュースだ。不妊治療を行う『はらメディカルクリニック』は、2010年7月から2年間、健康な独身女性の卵子凍結を開始した。2年間で167件の問い合わせがあり、うち36~42才の32名が卵子を凍結した。
「当初は30代半ばでパートナーのいる女性が、“仕事が忙しいので2~3年は妊娠を避けたい”と凍結を希望すると想定していました。明確な人生設計のうえで選択すると考えていたのです」(原院長)
 しかし、ふたを開けてみると予想は大きく外れた。
実際に卵子を凍結したのは、独身だけどパートナーがいないという40才前後の女性が多かった。
“結婚や出産の予定はないけど、卵子が老化する前にとりあえず凍結しておこう”と望むケースです。しかも、多くの女性は卵子を凍らせて保存したことで安心したのか、凍結後にパートナーを見つけたケースは少ない。その結果、32名のうち凍結卵子を用いて1名が妊娠出産しました」(原院長)

 原院長は卵子凍結を実施するにあたり、病院内に倫理委員会を設置して、「採卵を行うのは42才まで」「満45才の誕生日翌日に凍結卵子を破棄する」という独自のガイドラインを設けていた。
「45才以上の高齢妊娠はリスクが高いので卵子凍結の廃棄を決め、患者からの同意も得ました。ところが、実際に45才になった患者の何人かが“卵子を破棄したくない”と言い始めた。医学的な危険性を説明しても聞き入れてもらえず、結局は保管年齢の上限が高い他の施設に移送しました。自分でタイの施設まで運ばれたかたもいます」(原院長)
 高齢出産の危険を考慮した日本生殖医学会のガイドラインにも、〈40才以上の卵子の採取は推奨できない〉〈保存卵子を使った45才以上の不妊治療は推奨できない〉とあるが、現実にはこうした制限を超えても卵子凍結を求める人たちが続出したのだ。
 原院長がつぶやく。
「“凍結しておけば安心”では問題の先送りにすぎません。凍結卵子が患者にとっての“安定剤”で終わってしまっては、もはや医療ではないですから」
 熟慮の結果、原院長は2012年8月に新規の患者受け入れを中止した。
凍結卵子よりも普通の体外受精のほうが成功率は高く、43才までは凍結は不要というのが私の意見です。
 それでも、2年以内に結婚することを前提にしたパートナーがいて、今後数年は妊娠できない明確な理由があるかたが卵子の凍結を望み、当院の倫理委員会を通れば受け入れたいと思っています」(原院長)

こうした問題が起きるのも週刊誌を始めとして「とりあえず凍結保存」と言う妙な機運を盛り上げてきたメディアの役割は無視出来ないかとは思うのですが、原院長の言葉にもあるようにこの凍結保存からの妊娠、出産と言う行為も決して成功率がそうまで高いと言うものでもないのだそうで、純粋に医学的な適応としてはかなり限定的なものになるのではないかと言う気もしますね。
ただ特に女性の場合生物学的な妊娠、出産年齢の限界が近年各方面でこれだけ喧伝されるようになると、将来子供を産みたい状況になっても産めないと言う恐怖感があることは理解出来る話ですし、そのためにとりあえずまだ元気なうちから卵子を保存すると言う保険をかけておく心理も判るのですが、現実的にそれが結果に結びつかない背景に何があるのかです。
生物学的な妊娠、出産可能な年代と言うことばかりが喧伝されますが、各種統計によれば30代を過ぎるとそもそも結婚する人の割合そのものが急激に低下してくるのだそうで、特に女性の場合は結婚相手として何より若さを求められる場合が男性よりも多いと言う現実もありますから、ある程度の年齢になれば卵活云々と言っているよりもとにかくパートナーを探すべきだと言う話にもなりそうですよね。
一方で今現在パートナーがいながら当面は妊娠、出産はしたくないと言う比較的若い年代の方々も一定程度いるはずですが、こうした方々に早く妊娠、出産してもらうことが後々の高い医療費を節約することにもつながると考えると、国は「仕事が忙しい」「お金がない」と言う若いカップルにもっと大々的な経済的支援を考慮してもよさそうに思えます。

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コメント

40過ぎの不妊治療って社会的利益ないのに補助金いる?

投稿: | 2016年3月 1日 (火) 07時57分

少子化云々と言っても、40過ぎじゃね。30代まででしょう。
そもそも40過ぎてからの子供は、親のほうが体力的にキツい。

投稿: | 2016年3月 1日 (火) 09時02分

まったく跡継ぎがいない家庭ならある程度の無理も仕方ないって気が。
まあそういうのは養子とればいいってことなんですが。

投稿: ぽん太 | 2016年3月 1日 (火) 09時06分

ヘビースモーカーの肺がん治療とか
ラーメン中毒の成人病とかを保険で治療してるんだから、めくじら立てることもないんじゃない?

投稿: | 2016年3月 1日 (火) 09時29分

一般的に消費の亢進は経済全般にとって好影響を与えると言うことですし、この場合不妊治療に大金をつぎ込む世帯は相対的に裕福であるとも推定されますので、必ずしも悪い面ばかりでもないかとは思います。
ただ現実的な治療の辞め時を決める要因として経済的負担が大きなものであることも事実なので、本人にとっても公的補助の年齢的上限を設けておくことは望ましいことなのだとは思いますね。
もちろん民間保険なりで公的補助の上限を超えた場合のコストを負担してもらうと言うことであれば、これは本人と保険会社との契約に基づくものなので自由意志に従ってと言うことになるのでしょうが。

投稿: 管理人nobu | 2016年3月 1日 (火) 10時57分

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