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2016年3月24日 (木)

健康になろうとする努力は続かないらしい

ご存知ブリと言えば食の不毛さで有名な土地柄で、「大英帝国が世界帝国を築き上げたのも世界中どこに行っても船員が食事で文句を言わなかったから」などと言う説もあるそうですが、そんな国で先日こんな新税が導入され話題になっています。

英国、砂糖税導入で子どもの肥満を防ぐ!? 日本での導入の可能性は?(2016年3月23日ザ・ページ)

 英国政府は子どもの肥満防止を目的として、飲料に含まれる糖分に課税する、いわゆる「砂糖税」の導入を決定しました。税制によって国民の健康を管理しようという試みですが、果たしてうまくいくのでしょうか。
 砂糖税の対象となるのは、100ミリリットルあたり5グラム以上の糖分を含む飲料で、課税は2018年4月から実施されます。税率は正式に決まっていませんが10%程度になる見込みです。同じような課税はフランスやメキシコなどでも行われています。

 こうした商品に税金をかければ販売が抑制されることはほぼ間違いありません。メキシコでは砂糖税の導入によって飲料の売上げが1割程度減少しました。英国においても、販売総量という意味では、同様の減少が見込まれています。
 しかし、このような形で特定の商品に課税することについては賛否両論があります。課税によって商品の売上げは減少しますが、本当に肥満が問題となっている人が購入を控える保証はありません。むしろ健康に気をつかっている人がさらに購入を抑制し、そうでない人の消費は減らない可能性があるわけです。また砂糖の過剰摂取は飲料だけが原因ではありませんから、特定の商品だけを狙い撃ちすることはフェアではないという意見もあるようです。

 健康上の問題から課税が強化される代表的な商品といえば、やはりたばこでしょう。英国では極めて高額のたばこ税が課せられており、値段は1箱2000円近くになります。たばこは国民の健康を害し、公的医療保険の財政を悪化させる元凶と認識されているようで、砂糖税の導入についても、公的保険の財政問題という視点が大きく影響しているものと思われます。
 一方日本では、たばこ税はむしろ貴重な財源として認識されているかもしれません。消費税の軽減税率導入の議論では、財源のひとつとしてたばこ税の増税が検討されました。厚労省などでは、国民の健康維持という観点からたばこ税の増税を提案していますが、全体として見た場合には、課税によって消費を減らすのではなく、むしろ数量を維持することで安定財源にするという考え方が優勢です。

 英国では、行き過ぎという面はあるものの、公的医療保険の維持という点では一貫しています。日本では財源とみなす一方で、公的医療保険という観点では抑制を目指すなど、ちぐはぐな対応にも見えます。
 良くも悪くも、こうした状況ですから、日本で砂糖税の導入が本格的に議論される可能性は今のところ低そうです。

健康増進効果と言う点で考えると日本の場合砂糖よりも塩分に対して課税した方がいいのではないかと言う気がするのですが、ただこれも今や安い食塩よりも高い岩塩や海塩が売れているそうですから、多少の高コストにしたくらいでは消費削減効果はないのでしょうね。
ただ日本人の遺伝的特性として糖尿病になりやすいと言う欠点があって、カロリー過剰には十分に注意しなければなりませんから、砂糖に限らず高カロリー食品に対して課税することで国民健康増進をコントロールすることが可能なのかも知れませんが、これもいわゆるジャンクフードの類は大抵が脂質過多で高カロリーと来ていますから、贅沢の抑制どころか経済的弱者いじめなどと言われかねません。
実際にアメリカなどでは自然食など食事に気を遣う富裕層と、安くカロリー脂質が過剰な食品を取らざるを得ない貧困層との健康格差も問題視されてきていますが、食事を始め生活習慣と言うものをどれほどコントロール可能なのかと言うことを考える上で、先日こんな興味深い調査結果が出ていました。

危険知っても習慣変わらず 病気の遺伝子検査(2016年3月16日共同通信)

 【ワシントン共同】遺伝子検査によって、特定の病気になりやすい危険性があることが分かっても、検査を受けた人の生活習慣の改善にはほとんどつながらないとする研究結果を、英ケンブリッジ大などのチームが15日付の英医師会誌に発表した。

 遺伝子検査は10年ほど前から、個人向けのサービスを提供するビジネスが世界で拡大。「健康維持や病気予防の意識を高めるのに役立つ」とされているが、十分な効果が得られていない実態が明らかになった。

 チームは「単に検査結果を知らせるだけではなく、どのように行動を変えたらよいかアドバイスするべきかもしれない」としている。

 チームは、1990年代から2015年2月までに欧米や日本などで発表された1万超の研究報告を利用。遺伝子検査で肺や食道などのがんや肥満、心臓病、糖尿病などのリスクが高いと判定された人たちと、そもそも検査をしていない人たちの行動を比べた。

 病気予防に役立つ禁煙や運動、アルコールや食事の制限などを始めた人の割合は両者で差がなく、「遺伝子検査が生活習慣の改善に影響しない」と結論づけた。

 今回の分析では、遺伝子検査で高いリスクが判明しても、生活習慣の改善では対処できない遺伝性疾患は除外した。

この場合遺伝的素因と言うある意味避けがたいリスクで、わざわざ検査を受けるくらいですから当の本人としては相当に関心があって受けているのだと思うのですけれども、それでも結果を受けて自主的に努力しリスク軽減に努めるかと言えばそうではないと言う、何とも哀しい結果ではありますよね。
日本でも近年例のメタボ健診を始め予防医学的な意味からも生活習慣の改善が叫ばれている一方で、むしろあんなものは病人を増やし医療費を押し上げるだけだと言う意見もあって、結局はメタボ健診等をきっかけにどれだけ国民が健康増進を図るかと言うことが課題であったわけですが、どうもそうした国民の自助努力にあまり多くを期待すべきではないと言うことでしょうか。
考えてみるとテレビの通販番組でしばしば健康増進器具などを購入しているような健康意識の高い方々が、見た目にも引き締まってすばらしい健康な体つきをしていると言うわけでもないようですから、意識の高さと実際の健康状態改善との間にはかなりな距離感があるとは理解できるのですが、さてこの場合公的私的なペナルティなど何らかの外圧によってでも健康増進を図るべきなのかどうかです。

アメリカなどでは民間医療保険の社会ですから、不健康になるほど保険料も跳ね上がるし医療費も高くなると良いことがありませんが、では不健康になることが経済的損失に直結するからと皆が努力して健康増進を図っているとはちょっと思えないことは、世界トップクラスの肥満度一つを見ても判る話ですよね。
日本でも健康保険の利用金額の多い人にペナルティを科すようなことはすべきではないと言う意見があって、疾患が必ずしも生活習慣にばかり起因するものではない以上これは仕方の無いことだと思いますが、一方で健康であり続けるために努力し健康を維持した人に何かしら特典を与えようと言う意見にも反対する声があって、結局健康増進とは本人が健康になることだけが唯一最大のご褒美と言えますよね。
不健康になるのが嫌だから健康になろうと努力するモチベーションが産まれるためには、一つには不健康な状態とはどのようになることが予想されるのかと言う具体的な情報をしっかり提示することが望まれるだろうし、また一つには各個人に適した実行可能な健康増進策を示すことも求められそうなんですが、この辺りは現状では健診時の通り一遍の説明程度であまり切実なものとして受け取られていないようにも感じます。
この点でテレビなどで「○○が体にいい」と言われるとすぐ売り場から消えてしまう、軽薄に流行に飛びつく人が少なくないと言うことを問題視する声もありますが、一つのことをこつこつと何十年続けることは難しいが日々気分を変えて色々とやってみることはそれよりは気楽なはずですから、定期的に目新しい健康増進策を順次提供していくと言うのもあんがい悪くないことなのかも知れません。

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コメント

>いわゆる「砂糖税」の導入を決定しました。
BBCお得意のエイプリルフール報道には まだ1週間早いような。。。

投稿: | 2016年3月24日 (木) 08時07分

俺なんて毎日ダイエット宣言してるんだぜ
すごいヘルシー志向だろ?

投稿: | 2016年3月24日 (木) 08時41分

100ミリリットルあたり5グラムと言うのは割合に微妙な数字だと思うのですが、紅茶に入れる砂糖がスプーン1杯か2杯かによっても課税するかどうかが変わってくるものなのでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2016年3月24日 (木) 11時30分

オッさんになって、やたら炭水化物系が美味しく感じるようになった…
なぜだろう?

投稿: 非医師 | 2016年3月24日 (木) 20時35分

え?!自分だけかと思ってたYO!
そういやホームの爺ちゃん婆ちゃんのオロナミン愛飲率がすごいことに!

投稿: | 2016年3月24日 (木) 22時06分

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