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2016年3月 3日 (木)

患者が不自然な亡くなりかたをした際にどうすべきか

昨秋から稼働している医療事故調に関して、今のところ届け出件数は予想よりも少ない範囲で推移しているのだそうで、もちろんどこまで届け出ればいいか試行錯誤している段階で数字的な評価も難しいのですが、とりあえずは一部で懸念されていた「疑わしきはまず届け出ておく」的運用がなされていないらしいと言えそうです。
この点で常に問題になるのが同様に異状死体の届け出を義務づけた医師法21条との関係性なのですが、そもそも医師法21条はすでに形骸化していると言う声もあればそうではなく今も生きていると言う声もありと未だ混乱が続く中で、先日こんな興味深い二つのコメントが出ていました。

医師法21条の届出、「犯罪と関係ある異状」に変更を 日医が改正を提言、罰則規定の削除も求める(2016年2月24日医療維新)

 日本医師会は2月23日の常任理事会で、「医事法関係検討委員会」(委員長:柵木充明・愛知県医師会長)の答申、「医師法第21条の規定の見直しについて」を、日医の現時点での21条に関する見解として取り扱うことを了承した。同答申は、警察への届出対象を、「死体を検案して犯罪と関係ある異状があると認めたとき」とし、21条に違反した場合の罰則規定(33条の2、50万円以下の罰金)の削除を求める内容だ。24日の定例記者会見で、日医常任理事の今村定臣氏が明らかにした(資料は、日医のホームページ)。
 今村常任理事は、「医療事故調査制度は、司法は関与しない制度設計になっている。21条の見直しも、基本的には同制度とは関係ない」と説明。しかしながら、同制度は、2014年6月に成立した改正医療法の附則で、施行後2年以内、つまりこの6月末までの見直しが求められており、21条の届出の在り方も検討課題となっているとし、「その点では、無関係ではないだろう」と補足した。今後、与党自民党などに21条改正を提言していくとし、「今の通常国会は難しいが、今秋に臨時国会があれば同国会で、あるいは来年の通常国会で改正できればありがたい」(今村常任理事)。
(略)
 21条の異状死体の届出をめぐっては、2004年に東京都立広尾病院事件の最高裁判決で、「外表異状説」と判断された後も、診療関連死を届け出るか否かなど、その解釈や運用をめぐって混乱が生じている。21条の改正を求めるのは、改正医療法附則への対応と、これらの混乱を収めるのが日医の狙い。
 今回の21条改正案の考え方について、今村常任理事は次のように説明。「死体の検案を唯一委ねられている職業が医師であり、医師は犯罪の痕跡が認められた場合には、警察に協力する責務を負うという前提に立っている。この協力は、あくまで医師の職業倫理によるべきであり、罰則を持って強制される性質のものではない」。
 委員会での検討過程では、「犯罪と関係がある異状」との表現が医師に馴染みにくく、かえって混乱を増大させるとの意見も出て、「病死または自然経過による死亡でない疑いのある死亡」との表現案も出た。しかし、立法技術上、法律に新しい用語を入れる手続き上の困難さなどから、「犯罪と関係がある異状」に落ち着いた。「書きぶりについては、かなり議論があった。より良い表現があれば、それを採用することはやぶさかではない」(今村常任理事)。
 医師が「犯罪と関係がある異状」をどう判断するかについて、今村常任理事は、「外表の異状がない場合でも、実際には犯罪の痕跡が認められることはあり得る」と述べ、外表の異状だけでなく、血液検査や画像診断などの異常で犯罪が疑われる場合には届出の対象になると説明した。

医師法21条改正に慎重姿勢- 医法協・小田原部会長(2016年2月25日CBニュース)

日本医療法人協会(医法協)の小田原良治・医療安全調査部会長は25日、東京都内で緊急記者会見を開き、日本医師会(日医)が24日に発表した医師法21条の見直し案に対して慎重な姿勢を示した。小田原部会長は、昨年10月に医療事故調査制度がスタートしたばかりで、法改正の議論が医療現場の混乱を招くと指摘。また、同法の改正は、医療事故と業務上過失致死などとの関係の見直しとセットで将来的に検討すべき課題で、今はその段階でないと強調した。【佐藤貴彦】

同法21条は、医師が死体を検案して異状があると認めた場合などに、警察に届け出るよう定めている。日医の提案は、「犯罪と関係ある異状」を認めた場合に限って届け出る規定に改めるもので、21条の規定に違反した者への罰則をなくすことも提言している。一方、「生命・身体傷害を伴う医療事故全てに業務上過失致死罪を適用することの相当性」などについての検討は、「次の段階」で取り掛かるべきとの見解を示している。
25日に会見した小田原部会長は、医療機関が医療事故の原因を調査し、その結果などを民間の第三者機関に報告することで再発を防ぐ医療事故調査制度の運用が始まったばかりだと指摘。「大事な時期。いたずらに見直しの議論(をするの)は、制度そのものを危うくする」と危機感をあらわにした。
さらに、医師法21条などの見直しは、医療事故と業務上過失致死などとの関係とセットで検討すべきだと主張。また、「当面は医療事故調査制度の運用を、医療安全の仕組みとしてつくり上げることが(医師法21条などを見直す)前提だ」と述べた。同制度を創設した改正医療法の附則で、今年6月までに法制上の措置など「必要な措置」を講じることになっている点にも触れ、「法律を見直すという条文はどこにもない」と強調した。
(略)

法律改正の手順など細かいことは抜きにして日医にしては珍しくと言うのでしょうか、医師法21条で示されている異状死体なるものの定義として犯罪性のあるものに限定されるべきだと言う考え方は比較的医療現場の感覚とも近いのではないかと思うのですが、現実的に見ると何をもって犯罪性があると考えるべきかの技術的側面はなかなか難しい判断を要するのではないかと思いますね。
例えば明らかに自然死、病死ではない患者を検案した場合には血液サンプルなりの採取を義務づけるだとか、医師が犯罪を見逃したのではないかと後日追及されないためにどうすればいいのかと言う議論は必要に思うのですが、院内死亡の場合こうした症例は本来医療事故調のルートで調べられていくことになるはずなので、やはり同制度との関連抜きには議論も難しいことなのかも知れません。
これに対して医法協の立場を経営者視点に立った事なかれ主義と解釈することももちろん可能なのでしょうが、確かに医師法21条と事故調、そして記事にもアル業務上過失致死との関係は相互に密接に関連している問題であるとも言え、これらを軽々に個別の議論としてその場しのぎの対応を行うべきではないと言う考え方にも一理あるように思えます。

実際問題として最も大きな問題となるのは医療における業務上過失致死の件であると想像出来るところで、そもそも平時から合法的に他人を切り刻んでもいい唯一の商売である医療と言う現場において、この種の刑事罰を問うことがどのような問題をもたらすのかは常に議論されてきたところであり、未だ諸説紛糾し明確な結論が出ていません。
長年続いたいわゆる事故調議論と絡んで医療事故に刑事罰はそぐわない、行政処分と公的賠償なり民事訴訟なりで対応すべきであると言う意見もあったように記憶していますが、現時点で医師に対する行政処分と言うものは何らかの刑事罰なりが下された場合に後追いで出されると言う形になっていて、主体的に行政処分によって医師をコントロールしようとするものではありませんよね。
この点で某医療系団体などは弁護士業界などをモデルとして全員強制加入の医師団体を作り、そちらで医師に対する処分を行わせると言うトンデモナイ野望も抱いているやに側聞しますが、その弁護士業界の自律的システムなるものの現状を考えると悪い冗談にしか聞こえない話で、何も上手くいっていないシステムを後追いで真似る必要もないのではないかと思います。
理想的にはこの辺りの問題を全て一括して議論し、整合性のある制度へと改変していくことがいいのでしょうが、これだけ意見が割れている問題で何かしら番人に統一的な見解が今さら打ち出せるとも限らず、そうこうしているうちに何となく事故調への届け出に現場も慣れ医師法21条は次第に形骸化していくだろうと言う、非常に日本的な自然経過を辿る可能性が一番高そうに思うのは不肖管理人だけでしょうか。

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コメント

もうこうなったら死亡は全部届け出ちゃえよw

投稿: | 2016年3月 3日 (木) 07時54分

先に医師のほうがダウンしそうな気が…。>全例届け出

投稿: ぽん太 | 2016年3月 3日 (木) 08時37分

医療事故調も産科無過失補償と同様、制度設計当初の予測水準までにはまだ十分な余裕がありそうに思えます。

投稿: 管理人nobu | 2016年3月 3日 (木) 11時07分

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