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2016年3月31日 (木)

不妊治療の技術的進歩と倫理的掣肘のせめぎ合い

不妊治療の進歩は留まるところを知りませんが、その限界を決めているのは単純に技術的な進歩だけではないと言う一つの実例として先日こんな記事が出ていました。

3組目の夫婦に卵子提供 神戸のNPO法人が第三者から 受精卵作って子宮に移植へ(2016年3月29日産経新聞)

 民間団体による国内初の卵子バンクを運営するNPO法人「卵子提供登録支援団体(OD-NET)」(神戸市)は28日、早発閉経の患者夫婦に対し、第三者から卵子提供を行ったことを明らかにした。同団体の卵子提供は3組目。

 同団体によると、提供を受けたのは30代の女性。若いうちに卵巣機能が低下し、月経がなくなる早発閉経だった。出産は可能で、夫の精子と合わせて受精卵を作製し、感染症がないことを確認したうえで女性の子宮に移植する。

 生殖補助医療に関する法制度が整備されていない中、病気や高齢を理由に卵子提供を求めて海外へ渡航する人が後を絶たない。このため同団体では、病気で卵子がない40歳未満の既婚女性に限り、匿名の第三者による卵子提供を無償で行っている

 現在8組が提供に向けてカウンセリングや倫理委員会の承認を受けるなどの手続きを進めている。同団体の岸本佐智子代表は「早急な法整備を求め引き続き訴えていく」と話した。

しかしいわゆる精子バンクと言うものが大昔から機能しているのに対して卵子バンクと言うものはあまり聞きませんでしたが、このあたり進歩的な方々は性差別だともっと声を大きくして叫んでもおかしくないと思うのですがどうなんでしょうね?
それはさておき、社会的な理由以外に医学的な理由付けとして卵子提供による妊娠はリスクが大きくなると言う事実があって、それは半分他人由来の通常の妊娠でも様々なトラブルがあるのですから、全くの他人由来の受精卵を体に入れれば何かと問題も起ころうとは想像出来ますよね。
ただそうは言っても海外に渡航しての卵子提供を受ける方々も増えていることもあり、ちょうど昨年に民間卵子バンクが日本でも誕生したと言うニュースが出ていましたが、実際にはすでに相当以前からインターネットなどで検索すれば幾らでも卵子提供をうたうサイトは存在していて、団体としての成立よりもその運用がどうあるべきかと言う部分の議論が行われてきたわけです。
生殖医療に関わる様々な議論と同様、これまた人によって考え方が異なるのですから容易に結論が出るとは思いませんが、実際問題として海外では広く行われていることを国内でだけ禁止すると言うのは非常に難しい時代になっているのですから、行為自体を禁止すると言う方向では時代に合わなくなってきているとは言えるのでしょうね。
卵子提供なども母胎が何歳まで可とするべきか等々様々な課題もあるのでしょうが、先日は技術的な進歩によって不妊治療に大きな成果を上げた結果、新たな社会的議論を呼んでいると言うこんな記事が出ていました。

受精卵検査で妊娠率70% 新技術導入、神戸・大谷レディスクリニック 「命の選別」との批判も(2016年3月28日産経新聞)

 不妊治療専門の産婦人科医院「大谷レディスクリニック」(神戸市)は28日、受精卵にある全染色体の数の異常を調べ、正常な受精卵を選び出産につなげる「着床前スクリーニング」(受精卵検査)に新技術を導入した結果、妊娠率が70・8%になったと明らかにした。
 日本産科婦人科学会(日産婦)は指針で、重い遺伝病と、染色体の特定の形の異常による習慣流産に限り、受精卵の「着床前診断」を認めているが、今回のケースは指針の対象外。「命の選別」につながるとの批判もある

 同クリニックが導入したのは、大量の遺伝情報を高速で読み取れる「次世代シーケンサー」。染色体の異常発見精度が向上し、従来の技術であった見落としがほぼなくなったという。
 今年1月の導入から3月上旬までで72件(平均年齢39・9歳)の検査を実施し、うち51件で妊娠を確認した。検査を受けなかった166件(同37・1歳)の妊娠率は48・8%だった。
 一方、昨年6~12月に従来の技術で検査した239件の妊娠率は63・2%だった。

 大谷徹郎院長は「体外受精を受け、着床しやすい受精卵を選ぶことで女性の流産率が下がり、負担が著しく減る。妊娠率が上がる点もメリット。高齢の方が流産で何カ月も貴重な妊活の時間を失う可能性も下がる」と話し、「命の選別には当たらない」と主張した。

記事を見る限りではなかなかに興味深い技術だと思いますし、院長先生も言っているように平均年齢40歳と言う後がない年代で成功率がこれだけ上がると言う意味は非常に大きく、これに対して赤の他人が反対されるとなると当事者の方々にしてみれば余計なお世話とひと言言いたくもなるのではないかなと言う気がします。
まあしかし表向きはランダムに選びましたと言いつつ実はこうした術前診断をしていたと言うことはこれまでもあったのかも知れずですし、不妊治療と言うことを抜きにして一般的な治療として考えるとより成功率を高めるために事前に選別を行っておくと言うことは当たり前にあることですから、何故不妊治療においてのみ問題視されるのか?と言う議論はあるでしょうね。
これに対して一つの反対論の根拠としては子供は親の一部ではなくあくまで別の生命だからと言う答えが挙がるかと思いますが、法的に日本では受精卵は人扱いされていないですし、今後技術がさらに進歩して例えば未受精の段階でこうした検査が出来ると言うことになると、世界中どこに言っても配偶子の段階で人間とはみなされてはいないだろうと言う話になってくるかも知れません。

こうした問題を取り上げる際には命の選別云々と言う批判はお約束のように出てきますが、当事者ではなく赤の他人が口に出すことではないだろうと言う疑問も当然ながらあって、特に技術的に子供を持てなかった方々が持てるようになってきたと言う大きな福音を前にして、それは倫理的ではないから許されないと言われてもやはり欲しい人は欲しいだろうし、そのために外国にだって行くはずですよね。
先日は内閣府の生命倫理専門調査会で、受精卵に対してのゲノム編集を基礎研究目的なら容認すると言う方針が打ち出されたと報じられたところですが、すでに昨年末に主要国の科学者が同様の方針を声明として発表していて、日本だけ禁止と言うことになれば単純に技術的進歩に取り残され将来の多大な経済的損失にもつながりかねないと言う危機感もあったはずですが、これまた実臨床でこそ使いでのありそうな技術です。
ただ一方で技術が進歩してもその臨床応用に対しては各方面から反対論も根強いことは確かで、得られる巨大な利益に対して倫理という曖昧な基準でどこまで掣肘出来るのか微妙なところだと思いますが、どうしても子供が欲しいと言う個人が集まって受精卵を選別したり、妊娠出産の障害となる要素を取り除いたりしてでも産みたいのだと主張し始めた時に、保守的な人々や進歩的な方々がどう言う態度を取るのかです。

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コメント

無理すんなと

投稿: | 2016年3月31日 (木) 07時32分

どこでコンセンサスとするかだと思います。
全国民残らず賛成しなきゃダメって問題でもないし。
でも医師の本音じゃそうあって欲しいのかも。

投稿: ぽん太 | 2016年3月31日 (木) 08時18分

よけいなお世話

投稿: | 2016年3月31日 (木) 09時32分

行う側と受ける側が十分話し合った上で合意し治療するならそれでいいのかなとも思うのですが、あまり時代を先取りし過ぎると公的規制を求める声が強まりそうです。
ただ何をもって倫理に適合すると考えるかの統一基準がない以上、反対する意見に配慮するのと同様産みたい意見も尊重されるべきでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2016年3月31日 (木) 10時53分

着床前の受精卵の診断まで、「命の選別」なんて、何のカルトでしょうか?

投稿: 麻酔フリーター | 2016年4月 1日 (金) 10時12分

出産後に治療するのは良くて
出産前に遺伝子異常を取り除くのは生命改変ってのは
納得できない

投稿: | 2016年4月 1日 (金) 10時26分

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