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2016年3月23日 (水)

医者が首を切られる時

決してないわけではないものの比較的珍しい裁判として、先日こんな記事が出ていました。

碧南市民病院医師の退職勧奨、違法 市に賠償命令 名地裁(2016年2月24日毎日新聞)

 愛知県碧南市の市民病院の歯科口腔(こうくう)外科部長だった男性医師(61)が、パワーハラスメントがあったとの理由で退職を勧奨され、拒んだのに退職に追い込まれたとして、市に約4300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、名古屋地裁は23日、「自由な意思決定を妨げており違法」として市に約4100万円の支払いを命じた

 倉田慎也裁判長は判決理由で、病院側は退職勧奨を拒んだ医師が所属する大学医局の教授を通じて退職を求めたと指摘。「退職勧奨は自由意思で拒否できる。事実上の人事権を持つ医局に退職を勧めさせ、自由な決定を妨げた」とした。

 判決によると、2010〜11年、市役所や新聞社に医師がパワハラをしたとの投書が届いた。医師は否定し詳しい調査を求めたが、病院側は調査せず退職を勧めた。医師は12年3月末で退職した。

 碧南市は「判決文が届いておらず、詳細を把握していない」としている。

実際にパワハラがあったのかどうかは記事からは何とも言いがたいことですし、パワハラ云々の投書だけを理由に調査もせず退職を求めたのだとすればちょっとどうなのかですが、仮にこうした経過が事実であったとすれば普段から院内でも行動が問題視されていたところに、投書と言う形で外部からクレームも入ったと言う体で退職に持ち込んだと言うことなのかも知れません。
程度の差こそあれパワハラ的要素が全く無い医療現場と言うのもそう多くはないかと思うのですが、ちょうど先日は兵庫県の公立八鹿病院で2007年に発生した整形外科医自殺問題を巡り、広島高裁での控訴審でも自殺の原因は長時間労働とパワハラが理由であったと認定、病院側に1億円の損害賠償支払いが命じられると言う判決が出ていました。
こうした流れから考えるとパワハラに対する組織防衛としての厳しい対応も今後は増えそうに感じるのですが、昨今増えているのがひと頃の医師不足騒動で高い給料を出して医師を雇い入れたがどうも使いものにならない、何とか解雇出来ないかと言う話で、特にこれだけ医師数が増えてきますと長期的には必ずこの種の医師選別問題は顕在化してくる理屈ですよね。
医師に限らずひとたび常勤になってしまえばなかなか首は切られないのがこの世界のならいで、そうであるからこそ世間一般の企業では非常勤雇用をこれだけ推進しているとも言えますが、先日この問題に関してこんな記事が出ていたので紹介してみましょう

社労士に聞く、「仕事ができないからクビ」は本当にあるのか?(2016年3月15日MAG2ニュース)

(略)
会社が解雇を行う場合に、絶対に考慮しなければならない法律があります。

    労契法16条
    解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする。

この条文でいう「解雇」は、普通解雇であろうが懲戒解雇であろうが関係ありません。「解雇」と名がつくものは全て、この条文の「解雇権濫用の法理」が適用されます。
そして、「解雇」を行う場合には、就業規則への具体的な記載も必要です。就業規則に解雇理由に関する記載がない場合、あるいは、記載されている理由に当てはまらない場合、「解雇」を行うことはできません。

では、就業規則に記載された解雇理由に当てはまれば、解雇を行うことができるのか? 就業規則の条文によくあるような「能力不足」による解雇は「有効」なのかどうか?
これは、「能力不足」をどう判断するかにかかっています。能力不足で解雇が有効になるためには、いくつか考えなければならないことがあります。

    労働能力が「著しく」劣っている必要があります。ほかの従業員と比べて、少しくらい劣っている程度ではダメです。「いつも勤務成績が下位10%内である」などという「相対評価」もダメです(常に、下位10%に入る従業員は存在するので、それで能力が劣っている証拠にはなりません。「絶対評価」で行わなければなりません)。そして、その能力不足のせいで、「これ以上労働契約を継続していくことが、(客観的にみても)絶対に無理でしょ!」という程度に劣っていなければなりません
    さらに、その能力不足が向上するよう、会社は、「能力upの努力を行ったか?」も重要です。たいした教育や指導を行っていないのに、いきなり「解雇」は虫がよすぎます。
    そして、今後の指導・教育によっても、改善の見込みが極めて低いことも必要です。今後改善の余地があるようでは、解雇は認められにくいでしょう。

以上から考えると、「能力不足による解雇」は、極めて難しいのではないでしょうか? 御社がもし、能力不足による解雇を考えているのなら、「客観的な評価表」や「成績表」、教育や指導を行った証などを保存しておくことが重要です。
(略)

ま、よほどに問題がある人でなければそう簡単に解雇など出来ないよと言う、今までの社会常識にも沿った考えではあると思うのですが、そもそも医師として能力が劣っているとはどういうことなのかと言うことを考えた場合に、病院にとっての利益になる医師、不利益になる医師と言う判断はなかなか難しいものがありそうですよね。
しばしば世間で話題になるのが医療事故を繰り返すと言う、リピーター医師などと呼ばれる存在なのですが、世間的に見れば何度も同じような事故を起こしているから能力が劣っているのかと言えば、単に他では引き受けてくれないような重症患者をどんどん引き受け駄目元で治療してくれるありがたい先生であることもあって、実際に患者から話を聞くとリピーター医師の評判は案外悪くないと言うことも少なくないようです。
逆に一日中昼寝をしているような先生は売り上げは少ないかも知れませんが、絶対確実な患者しか診なければ医療事故なども起こりようがないのだろうし、こうした先生であってもいるといないのとでは各種法令上も全く話が変わってくる場合がありますから、果たして病院にとって不利益なのかと言うと微妙なところがあります。

昔はいわゆる名義貸しなどと言うことも言われていたように、そもそも医師が医師として存在するだけで大いに価値があるような制度になっていることも問題で、きちんと現場で汗水垂らしている先生が報われるような報酬体系が出来るだけでも現場の士気は違ってくるのだろうと思いますが、現実的には悪貨が良貨を駆逐している場合の方が多そうに見えるのも、医療崩壊と言う現象の一因とも言えますね。
医師の場合知識が多いことで余計な手間をずいぶんと省けると言う側面の大きい仕事ですが、出来高払いであれば患者をひと目見れば診断が出来る名医よりも、ああでもないこうでもないとさんざん迷走している先生の方がよほど病院売り上げに貢献するし、周りから見てもあの先生はいつも熱心に遅くまで仕事をしていると受けが良かったりするもので、そもそも何が悪貨で何が良貨なのかも判断が難しいところです。
そう考えるとよほどのことがない限り能力不足で解雇すると言うのはデメリットの方が大きいように思えますから、例えばパワハラでスタッフが次々と辞めていくなど明らかに周囲に悪影響を及ぼしているケースでなければ首を切るのも難しい判断になりそうだと言うことですが、世間的に見ればそんな医者の世界はなんとぬるま湯につかっているのかと思われるのも当然なのかも知れません。

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コメント

クズは周りも腐らせるからな

投稿: | 2016年3月23日 (水) 08時08分

前に首切られた先生と働いてましたが確かにキャラはちょっとあれでしたね。
期間契約の非常勤だけで食ってる先生は能力以外に人柄も問われるんですかね。

投稿: ぽん太 | 2016年3月23日 (水) 08時36分

医師の場合は今のところ非常勤バイトの方が待遇がよい傾向ですが、今後その対価として身分の不安定さが顕在化するかどうかが気になっています。

投稿: 管理人nobu | 2016年3月23日 (水) 12時18分

>今後その対価として身分の不安定さが顕在化するかどうかが気になっています
その辺りの事を取り上げたエントリーを強く希望致します。。。

投稿: | 2016年3月23日 (水) 13時04分

私は一緒に働いていました
職員には厳しかったところもありましたが
患者思いでした
話し合い自分の考えを伝えれば理解して下さり
看護師を信頼して任せてくれることもありました
悪い事だけが取り上げられるこの時代
いいところを見て欲しかったです
残念です

投稿: 看護師 | 2016年12月 8日 (木) 22時31分

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