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2016年2月12日 (金)

医師は偏在しているし、今後も偏在し続けると言う現実

医学部定員が大きく拡大され医師数が増えてきている一方で、医療需要は団塊世代の高齢化や医療の高度化もあって今後ますます増大傾向が続くものと予想されていますが、この医師の需給バランスの問題について先日2月4日に厚労省の分科会でこんな議論がなされたようです。

医師偏在の解消目指し7分野の課題提示- 厚労省、分科会に要因の検討促す(2016年2月4日CBニュース)

厚生労働省は4日、医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会に対し、医師偏在の解消に向け、特に議論する必要がある7分野の課題を示した。医療や介護・福祉サービス、産業保健などの課題について、患者や住民、自治体の視点とサービス提供者の視点に区分して提示。医師が偏在している背景や要因を分科会で検討するよう求めた。【新井哉】

厚労省は、医師が従事する具体的なサービスや分野として、▽医療サービス(病院、診療所)▽介護・福祉サービス▽産業保健(産業医)▽行政機関(保健所を含む)▽研究機関(大学、試験研究機関など)▽民間企業(製薬会社など)▽その他(国際協力など)―を提示した。

例えば、日常の診療や救急医療のアクセスが困難な地域や、専門医療や周産期医療が確保されていない地域が存在することを指摘。一方、大規模施設(大病院)に患者が集中し、待ち時間や診療時間(診療内容)に不満が生じていることも課題に挙げた。

また、医師の派遣機能が低下していることにも触れ、「都会や一部の病院等に集中した医師が必ずしも不足地域・施設に派遣されていない」と説明。有床診療所についても「開設者の高齢化に伴い後継者の確保が困難」と指摘した。
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分科会の委員からは、現在の医師不足は医師の偏在が原因として、「臨床研修制度やマッチング制度を見直すことが重要」との意見が出た。また、偏在が解消しない場合、医師の総数を増やす必要性があるとの声も上がった。今後、厚労省が提示した課題案を踏まえ、分科会で議論すべき点を絞り込みながら医師の需給に関する検討を進める方針。

必要医師数、4つの医療機能別に推計 医師の長時間労働、現状追認か是正かも課題(2016年2月4日医療維新)

 2月4日の厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」の医師需給分科会(座長:片峰茂・長崎大学学長)の第2回会議で、入院医療に関する必要医師数は地域医療構想を基にするなど、将来の必要医師数の推計方法についての基本的な考え方が提示された。
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 基本的な考え方には異論はなかったが、「一定の幅」「補正係数」を持って推計するとされている上、「各地域の現在の受療率」を用い現状を追認するか、あるいは「全国平均受療率」を用いるかによっても推計は大きく異なる。また精神医療については、地域医療構想に含まれず、外来医療については、生活保護・自賠責・労災などのデータが、NDBには含まれていないという問題もある。さらに、医師の勤務時間についても現状追認か、あるいは勤務負担の軽減を加味するかなど、さまざまな変動要因があり、その調整次第で、必要医師数は大きく変わり得る。言い換えれば、この辺りが今後の論点になる。

 全日本病院協会副会長の神野正博氏は、「現状追認で推計するかどうかで、大きく変わってくる。医師の労働時間は、“ブラック企業” 並み。特に若手医師の勤務時間を是正せずに推計しなくていいのか」と問題提起。「今、不足している分野にどうすれば医師が増えるかという議論が必要だと思うが、その議論ができないのであれば、医師を増やす以外にない」とも述べ、地方、特に県庁所在地以外の地域の病院での医師確保の難しさを訴えた。

 これに対し、岩手医科大学学長の小川彰氏は、「時間軸の中で、考えなければいけない」と医師養成数の増加に反対。2008年度以降の医学部入学定員増に伴い、医師が増えてくるのはこれからであり、今後の定員は10年後、20年後の医師の需給を考えて検討すべきと主張した。
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 松田氏は、入院医療における「100床当たりの必要医師数」については、4つの医療機能の診療密度を考えて、重み付けを行い、係数を設定するとした。また神野氏の懸念点については、「医師の長時間労働を前提にすれば、歪んでしまう。医師1人当たりがどの程度、勤務しているかを見ながら、関係部局と話し合いながら、検討する」と回答。またパートタイムなどの勤務形態も踏まえながら、「合理的な説明ができる係数を設定したい」とした。
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 本検討会では、期限が切れる「臨時定員増」の医学部定員の問題と、医師の地域・診療科偏在、さらには将来の必要医師数の推計の議論が錯綜した。片峰座長は、少し議論を絞り込む考えを示したものの、一戸氏は「マクロベースでは、どこからも充足しているとの声は出てこない」と述べ、都道府県の担当者の間では、地域偏在の状況も踏まえた上で議論すべきとの意見が出ているとした。

 小川氏も、地域医療構想は2025年の医療機能の推計であり、医学部入学定員は、卒業生が活躍する将来を見据えて検討しなければいけないことなどから、「医師需給の問題は、“多変量解析”の議論になる。もともとこの議論は変数がとても多い」と指摘。さらに小川氏は、「医師1人が皆、同じ技術を持っている前提で話をしている」と指摘、「医師の質」も推計の際の変数になり得るとした。
(略)

まあしかし「どこからも充足しているとの声は出てこない」などと言われると往年の「偏在か不足か」と言う議論を思い出すのですが、現状で多くの現場に不足感があるのはあるのは確かですが、一方で「売り上げが減ったからもっと頑張って」と発破をかけられている先生方もいらっしゃるのは事実ですから難しいですよね。
それぞれの各論としてみてみれば御説ごもっともなんですが、医療財政が今後拡大から抑制基調へと転じていくことはすでに既定路線とされている中で、医療従事者ばかりどんどん増やしていったのでは各人の待遇は引き下げられていくしかない道理で、単純にOECD平均並みに増やせば良いと言う問題でもなくなってきています。
医療従事者の中でも特に指示を出す司令塔役でもある医師の労働時間とは、すなわち医療費やコメディカルの労働時間にも大きく関わってくる問題ですが、地域医療構想によって病院の機能分化が進んでくれば施設毎の仕事内容に応じた適正な医師数なども割り出しやすくなる道理で、今後もう少し個別的な数字に基づいた議論はやりやすくなるのかも知れません。
ただ中核施設や基幹病院では未だに人手不足感が根強く多忙さに負われている一方で、ドロップアウトして楽で待遇もいい仕事に従事している医師もいると言う具合で、医師の労働環境は非常に格差が大きいと言えますが、今のところ医師強制配置論に与する医師が決して多数派ではない以上「その議論ができないのであれば、医師を増やす以外にない」のも確かなことではあるのでしょうが、さてその場合自然に任せるでいいのかです。

議論を見ていて興味深いと思った点として、医師数をどうするかと言う供給の側の議論は盛んにされていますけれども、患者たる国民の側の需要の話は全くなされていないらしいと言うことが見て取れて、例えば国民皆保険制度で全国どこでも同じ医療を同じ価格で受けられると言う建前になっていますが、現実的にそうしたことはあり得ないことは明白ですよね。
A町には分娩施設があるのだから隣のB町にもなければ不平等だとか、C町で癌の粒子線治療施設が出来たからD町でも同じものを作ってもらいたいだとか、平等とはどこまで追及するべきものなのかと言うことを考えた場合に、全国各地の町村レベルにまで高度医療までも提供する中核的医療施設を整備すると言うのは現実的な話ではないわけです。
癌治療などはある程度自宅からは遠方になっても集約化した方がより高度な医療を提供しやすい道理で、今後は地域医療構想に伴い都道府県単位で圏域内の医療資源配分を決めていくことになるはずですが、その場合に真っ先に問題になるのは医者が予定通り集まるかと言う問題もさることながら、地域住民がどれだけ医療サービスの不便さを甘受できるかと言うことも大きいはずですけれどもね。

日医辺りは「全ての国民は平等な医療を受ける権利がある!」と言った主張を続けていて、題目としては立派なのかも知れませんがそれを文字通り実現するためにどれだけ超えるべきハードルがあるかを考えるとやはり少し現実的ではなくなってきているとは言えると思いますから、そろそろ平等ではなく格差が存在すると言うことを認めた上で話を進めるべき時期なのでしょう。
国民の側もある程度医療の現状に関する理解は進んできている印象があり、またそうした状況であれば多少の不便はまあ仕方ないと受け入れる下地も出来て来ているのでしょうが、そうは言っても歩いて5分圏内に大きな病院が幾らでもある都心部と、一番近い町立病院まで車で1時間、そしてそこから基幹病院までヘリで1時間と言う僻地が同じ料金負担だと言うのも釈然としないところはあるでしょうね。
最近地域ごとに診療報酬に格差をつけると言うことが検討されているそうで、例えば医療機関の集中する都心部は安く、不足している僻地は高くすれば医療リソースの再配分が進みやすくなるだろうし、基本的に紹介患者だけを診たい基幹病院こそ飛び込み患者の少ない田舎に立地する方が雑事も減って楽だろうと思うのですが、もちろん医療機関側への支払いだけではなく保険料なども地域差があってもいい理屈です。
同じ医療を得るのにすぐ近所の病院に行けばいい人よりも、交通費と時間を余計にかけて遠方に通わなければならない人の方が医療にコストもかかるし質の高い医療も受けにくいと言うことであれば、平等性の観点からすると田舎の住民には保険料を安くすべきと言う考え方も出来るのでしょうが、今や商品目当てにふるさと納税が増える時代ですから、安い保険料目当てに田舎に住民票を移す動きが出てくればおもしろいですよね。

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コメント

週40時間労働の前提で医師数算出したらどうなるでしょうね。
今の倍くらい医学部定員増やさないと追いつかないかな。

投稿: ぽん太 | 2016年2月12日 (金) 08時48分

医療を受ける権利の平等は、住所選択の自由で担保されるって、なぜ言えないのでしょう。医者が子供の教育等も考えて、居住地決めるのは、自由主義社会では普通のことです。

投稿: 麻酔フリーター | 2016年2月12日 (金) 10時25分

医者が余ってるらしい徳島だっけ?から医者を引き抜こう!

投稿: | 2016年2月12日 (金) 11時03分

いづれは施設毎・地域毎に保険医・専門医の定数を設定するのでしょう。
その時には、報酬も出来高払いから、人頭制に変わるんじゃないですかね。

投稿: JSJ | 2016年2月12日 (金) 11時44分

どうすべきと言う考え方は様々だと思いますが、こうした医療需給の面から考えても診療報酬が何パーセント増えた減ったの議論に終始しているのは、もはやあまり意味が無くなっているのかなと言う気がします。

投稿: 管理人nobu | 2016年2月12日 (金) 12時30分

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