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2016年2月25日 (木)

肉親の安全を守る方法論とは

福島県は相馬市と言えば2011年3月11日の震災で津波被害を被り、市民458人の命が失われるなど甚大な被害を受けたことが知られていますが、その相馬市でこんなびっくりするような裁判が始まったと話題になっています。

階段転落し左半身まひ 児童、相馬市を提訴(2016年2月23日河北新報)

 福島県相馬市桜丘小で2013年、階段から転落し左半身まひなどの後遺障害を負った児童と両親が22日までに、学校側の対策が不十分だったとして、相馬市に計約2億1000万円の賠償を求める訴えを福島地裁に起こした。
 訴えによると、13年10月25日午後1時20分ごろ、当時小学3年の男子児童(10)が友人に続いて階段の手すりを腹ばいになって滑り、途中で転落。頭を強く打ち一時、意識不明状態となり、約10カ月の入院治療後も左半身まひなどの障害が残った。現在はリハビリを続け通学している。
 原告代理人は「同校は過去に同じような事故が起きていたのに対策を怠った。後遺障害で将来の可能性の一部を失われた精神的苦痛は、本人や両親にとり甚大だ」などと主張。将来にわたる介護費や逸失利益、慰謝料などの支払いを求めた。
 学校によると、事故後の調査では過去に同様の事故は確認できなかった。相馬市の担当者は「訴状の中身を確認し、適切に対応する」と話した。

校内の階段から転落で障害、男児と両親が相馬市を提訴(2016年02月23日福島民友)  

 相馬市の小学校に通う男子児童が、校内の階段から誤って転落して後遺障害が残ったのは、同市が安全対策を怠ったことが原因として、男児と両親が22日までに、同市に慰謝料など約2億1100万円の損害賠償を求め、福島地裁に提訴した。第1回口頭弁論は3月22日午前11時から。

 訴状によると、男児は小学3年だった2013(平成25)年10月、3階から2階の教室に階段で移動する際、手すりを腹で滑り降りたところ、約2.4メートル落下し頭を打ち付けた。市は事故発生を予測できたのに措置を怠ったとしている。同市は「状況に鑑(かんが)み、法的な解釈を踏まえ、適切に対応していきたい」とコメントした。

個人的にはこの裁判の話を聞いて有名な杏林大病院割り箸事件を思い出したのですが、一読された方それぞれに思うところがあったようで、ネット上では容易に予想出来たはずのこの事故をどうやったら防げていたのかと言う議論も盛んになされているようです。
そもそも多くの学校では廊下を走ってはならないものとされているのと同様、手すりは腹ばいになって滑り降りていいものとはなされていないんだろうと思うのですが、それが明示的に校則なりで禁止事項として示されていたのかどうか、その場合過失相殺されるものなのかどうかなど、注目すべき点の多い裁判となりそうです。
恐らくもっとも確実な対策としてはこの種の行動に走りそうだと予想される学童は上級生の教室が位置する二階以上には立ち入らせないことだと思いますが、人生において一度としてこの種の行為に走らずに大人になったと言う子供も恐らくそう多くはないでしょうから、そうなりますとそもそも学校に子供を立ち入らせるべきではないと言うことになるのでしょうか。
いずれにせよ民事訴訟ですから何をどう訴えようが個人の自由であるのですが、こうした危ない行為をいかにして防ぐかと言うことはまさしく家族にとってこそ非常に重要な問題であるはずで、昨今何かと問題視されることの多い高齢ドライバーに関連して先日こういう記事が出ていたことを紹介してみましょう。

「運転やめて」家族に亀裂 鍵隠しても事故 認知症社会(2016年2月21日朝日新聞)

 「あらゆる手を尽くしたがうまくいかず、私の心がおかしくなりそうだった」。千葉県の保育士の女性(48)は、レビー小体型認知症の義父(75)が車の運転をやめてくれず、苦しんだ
 義父は、女性の家から車で1時間半ほどかかる農村部で一人暮らしだった。最寄りのコンビニまで約2キロ、スーパーまで約4キロ。バスは不便で、買い物や農作業のため、乗用車と軽トラック、トラクターの3台を使っていた。
 症状が出始めたのは2012年の年末、義母が亡くなった後だ。認知症の薬を処方され、医師に「絶対に運転しないと約束して」と言われると、義父は「はい」と答えた。だが実際にはやめなかった。それを医師に伝えて強く説得してもらっても「運転できる」と言い張った

 そのうちレビー小体型認知症の特徴である幻覚が出た。女性が訪ねると、軽トラの前後がへこんでいた。他人の敷地の木に衝突して折ったこともある。
 「もうやめてください。誰かを巻き添えにしたらどう責任をとるんですか」。夫(49)といさめるたびに義父は激高した。「うるさい。田舎は車がなかったら生活できないんだよっ」
 廃車や売却を役場で相談すると、無断での処分は無理だろうと言われた。自動車工場では「バッテリーかタイヤを外すか、鍵を隠すしかない」と言われた。

 腹をくくり、車の鍵を持ち帰った。これで大丈夫と思った矢先の14年7月の夜、義父が軽トラで田んぼに転落したとの連絡が入った。合鍵で運転し、アクセルとブレーキを踏み間違えたらしかった。けがはなかったが、「次は人身事故だ」とぞっとした。温厚な夫も「いい加減にしろ」と怒鳴りつけた。この事故でやりとりした警察官にも相談したが、解決しなかった。
 倉庫に車を入れてシャッターの鍵をかけ、バッテリーを外した。特別養護老人ホームに短期入所させ、そのまま入居。体が次第に思うように動かなくなり、数カ月たつと運転の話をしなくなった。昨年2月、免許センターに一緒に行き、免許を返納した。

 アルツハイマー型認知症の父(77)の運転が理由で、家族と疎遠になってしまった人もいる。東京都の女性(36)は、茨城県の実家で暮らす父の運転をやめさせることができず、離れたところに駐車場を借りて車を移動した。父の車に何度も同乗し、右折時に反対車線に入りそうになるなどの危うさを体感したうえでの苦渋の決断だった。
 道路交通法の決まりだと条文を見せて父に説明したが反発され、「財産どろぼう」と言われた。免許の話をしようとして殴られたこともあり、実家に戻るのが怖くなった。父の運転の危険性をそれほど認識していない親類にも、女性の行動は理解されなかった。頼みの母も認知症で仲介は期待できない。「普通に仲のいい家族だったのに、運転のことでこんなことになるなんて思いもしなかった」

■専門家「積極的にSOS発信を」

 認知症が疑われる運転者の交通事故が相次いでいる。警察庁によると、2014年に死亡事故を起こした75歳以上の運転者のうち約4割が、直近の認知機能検査で、記憶力・判断力が「低い」「少し低い」と判定されていた。
(略)
 危険性が高いのにどうしても運転をやめない場合、公安委員会が専門医による「臨時適性検査」を受けるよう本人に通知をし、理由なく検査などを拒み続ければ、最終的には免許取り消し処分の対象になる。家族は事前に、警察・医師と十分話し合う必要がある。
 荒井さんは「家族だけで抱え込まず、免許センターなどにある『運転適性相談窓口』で相談してほしい。家族に攻撃的な言動がある場合も、主治医やケアマネジャーらに積極的にSOSを発信してほしい」と話す。(編集委員・清川卓史、森本美紀)

高齢者に限らず近年重大事故との関連性から各種の意識障害を来し得る疾患なども免許更新が厳しくなっていて、運転の適否を判断することになる医師などはさぞや悩ましい局面も多かろうと思うのですが、確かに公共交通環境の悪い地方に行けば自家用車なしでの移動は非常に制限されますから、どうしても乗らないではいられないと言う気持ちも理解はできますよね。
この点で予想通りと言うのでしょうか、全年齢ドライバー中に占める高齢ドライバーの事故率は地域の高齢者人口比率よりも常に高い値を示すのですが、都道府県別でみると乗車中の事故率が高いのが奈良県、山梨県、山形県、三重県、大分県などであるのに対して、事故率が低いのが千葉県、東京都、埼玉県、群馬県、福岡県、神奈川県と、都市部よりも田舎の方が乗車中の事故率が高いように見えます。
要するに公共交通手段が多く車に乗らなくても生活できると言う環境こそが高齢者事故防止に有効らしいと言うことなのですが、そうは言っても地方でいきなり交通機関を整備すると言うのも無理でしょうから、まずは自治体が乗り合いバスを走らせるなりタクシー券等の補助をするなり、出来ることをやっていくことが望ましいのだろうと言うことになるのでしょうか。

高齢者の場合物理的のみならず精神的視野も狭いと言うことが問題で、今までこれでやってきたのだからこれからも同じようにやっていくと方法論を変えたがらない頑固さがありますし、家族がよかれと思ってシニアカーなどを手配しても乗り慣れた軽トラに乗ってしまうと言うことはありがちなんですが、記事にもあるように車を取り上げればいいと言ってもなかなか簡単にはいかないと言うことですね。
この場合法的に運転免許を取り上げると言うことがどれだけ有効なのかですが、多分に認知症傾向もあり周囲の説得にも頑として耳を傾けないような高齢者が無免許運転に走らないのかと言う懸念もあり、この場合免許も更新できないような人間が自動車保険を律儀に更新しているものなのかどうかで、下手すると重大事故を起こして始めて無保険が発覚すると言うこともあり得そうですよね。
起こり得るリスクに対しては家族も自己防衛をする必要があるのは当然で、まずは警察等公的な組織に相談すると言うのは万一何かあった場合にも「自分達は放置していたわけではない」と言うアリバイ的な意味でも重要なのだろうし、また可能であれば要注意ドライバーとして重点的に監視し必要に応じて取り締まってももらうことが結局は肉親を守ることにつながるのではないかと言う気がします。

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コメント

馬鹿げた訴訟

投稿: | 2016年2月25日 (木) 07時30分

「バスは不便」というのがどの程度なのか気になります。
1時間に2本を不便と感じる人もいれば、1日5本を本数が多いと感じる人もいます。
そもそもバスを利用すること自体が不便でありありえないと考えている人も多そうです。

あと、自動車免許を返納してしまうと、将来自動運転車が登場したときそれすら運転できなくなるような気がするので、
現時点での運転免許返納はあまり気乗りがしません。

投稿: クマ | 2016年2月25日 (木) 07時52分

そもそも、認知症になってしまえば自分が何をやりたくて自動車に乗っているのかすら
分からなくなるわけだから、自動であろうとなかろうと、まともに運用できるとは
思えませんが?

人生自体を返納する様な状況だお??

投稿: | 2016年2月25日 (木) 10時03分

両親とも認知症なのに、実家に二人とも放置しておく感覚が逆に信じられないが。

投稿: | 2016年2月25日 (木) 10時31分

認知症の症状も様々ですので、日常生活レベルではそう不自由なく暮らせている独居高齢者も少なくないとは思いますが、事故を起こした場合責任能力があるのかどうかですね。

投稿: 管理人nobu | 2016年2月25日 (木) 11時34分

今回の記事の認知症の方の場合は返納よりも警察が免許をすみやかに失効させる手段を検討したほうが良いのではないかと思われます。
返納はあくまでも判断力がある方の話です。

投稿: クマ | 2016年2月25日 (木) 12時48分

免許じゃなく車本体の返納(処分)がされてないと意味がないんじゃないかと
無免許で乗って事故起こせば同じこと

投稿: | 2016年2月25日 (木) 13時02分

自転車だって死亡事故起こすんだぜ?

投稿: | 2016年2月25日 (木) 13時53分

親戚の爺ちゃん、山の手入れをしなければならないと言って聞かなくて、
カギを隠せば合鍵を作り、バイクを隠せば新車を調達してまで山に行った。
歩道を走る、逆走する、信号無視は当たり前…走る迷惑。
仕方がないのでバイク屋にバイクを売るなと言ったが、別のバイク屋に突撃してった。

病院に突っ込んで自由を奪うまで、これが延々と…

免許とか車とか、そういう問題じゃないと思うの。

投稿: | 2016年2月25日 (木) 13時59分

つまるところ、認知症になればその人本人が凶器みたいなもんだよね
人間を返納するしかないのか

投稿: | 2016年2月25日 (木) 14時38分

家族がいくら言ってもダメな方でも、警察の方が言われると素直に応じられることは結構あります。
まずはそこからはじめて、それでダメなら次の手段ではないかと思われます。

ただし、免許さえ持っていれば認知症に伴うどんな事故を起こしてもよほどでない限り被害者は任意保険で(かけていれば)救済されますが、
返納してしまうと被害者救済の面で問題がありそうな気はします。

投稿: クマ | 2016年2月25日 (木) 16時12分

認知症の方が徘徊して線路に進入、事故発生で、親族に監督責任があると
損害賠償請求裁判がニュースになったのは先日の話。

車とか機械の操作に限らず、前後不詳のまま徘徊する時点でオワっている、
つーことじゃないっすか?

正直、警察云々のラインを超えてますよ。

投稿: | 2016年2月25日 (木) 17時07分

訴訟リスクを高めればいやでも対応せざるを得ないのでは

投稿: | 2016年2月25日 (木) 18時45分

亀レス…
そもそも現在は「ICカード免許証」になっていますから、なんらかの理由で運転停止状態(電子的に失効)すると、自動車も運転出来ないようにする仕組みにすれば問題解決すると思います。
もちろん、現役世代も自動取締によって更新期間に関わらず署に行く必要が出る可能性も出てきますが…ww

投稿: 非医師 | 2016年2月29日 (月) 17時15分

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