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2016年2月22日 (月)

介護現場と介護報酬改定の微妙な関係

このところ川崎の老人ホーム連続転落死事件に関連して元職員が殺人容疑で逮捕されると言う展開が話題になっていますが、事件報道を見ていてお気づきの通り単なる刑事事件としてのみらなず、背景にある介護現場の劣悪な労働環境に対しても注目が集まるようになっています。
もちろん犯罪行為に対して何でもかんでも環境要因に帰することもどうなのかですが、件の老人ホームでは職員が定着せず介護経験3年未満の職員が実に6割に達し不慣れな職員が多かったこと、そして全国的に見ても介護現場として決して例外的な状況ではなかったことなどが報じられますと、やはりスタッフの質の問題が背景にあるのではないかと言う声も出てくるのは仕方が無いところですよね。
となると今までの流れからして介護報酬をさらに引き上げ、一段と介護スタッフの待遇改善を進めようと言う意見も出るだろうと思うのですが、16年度の介護保険料が過去最高を更新する見込みと報じられるなど介護支出が一段と現役世代の負担感としてのし掛かりつつある中で、介護サービスを縮小していく方向で話が進んでいるようです。

要介護1、2の生活援助サービスが全額自己負担になる?(2016年02月10日SUUMO介護)

厚生労働省は1月、介護保険制度で「要介護度1、2」の人を対象とした訪問介護サービスのあり方を見直す方針を明らかにしました。掃除や洗濯、買い物、薬の受け取りとなどの生活援助サービスを介護保険の給付対象から外し、原則全額自己負担とすることを検討しているそうです。
(略)
厚生労働省 「平成24年介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、要介護1、2認定者による生活援助サービス利用率は「自立支援のため見守り的援助」が55.9%、「掃除」が64.8%、「洗濯」が58.7%、「一般的な調理・配膳」が57.9%と、全体における半数以上を占めています。この状況をうけ、財務省も介護度が低い人への自己負担増を求めていました

要介護1、2の認定者数

厚生労働省の「介護保険事業状況報告(暫定)」(平成27年9月分)によると、第1号被保険者数は約3340万人。そのうち要介護認定者数は約616.4万人で、要介護認定1は約120万人、要介護認定2は約107.4万人となっています。この見直しが実施されることとなれば、要介護度1、2の人数を合わせた約227.4万人以上が生活援助サービスの全額自己負担の対象となります。

目的は社会保障費の抑制

今回の見直しは、膨らみ続ける社会保障費を抑えることが最大の狙いです。2月の社会保障審議会で議論を開始し、早ければ2017年度にも実施されるそうです。利用者の負担を緩和するために、自治体が実施している家事支援サービスの充実も検討しているそうですが、利用者やその家族への体力的、経済的負担増は避けられないといえそうです。
(略)

軽度者サービス、見直しへ=介護保険から除外も-厚労省(2016年2月17日時事ドットコム)

 厚生労働省は17日、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の介護保険部会を開き、介護保険制度で介護の必要性が比較的低い「軽度者」と認定された高齢者が使うサービスについて、見直す考えを示した。増え続ける保険費用の削減が狙い。

 具体的には、高齢者の自宅を訪問して買い物や掃除といった家事を代行する「生活援助」を介護保険の対象から除外し、全額自己負担とすることなどを想定する。年内に結論を得て、2018年度から実施したい考えだ。 
 見直し対象は、5段階ある要介護度のうち、1や2に認定された軽度者向けのサービス。政府の経済財政諮問会議が昨年、「サービスの見直しや負担の在り方を含めて検討すべきだ」と提案していた。

 ただ17日の部会では、「軽度者へのサービスを切り捨てることはできない」「(自己負担になると、利用を我慢する人が増えて)逆に要介護度を高めることになるのではないか」といった反対意見が続出。このため、今後の議論は紛糾も予想される。
 軽度者が使うサービスには生活援助のほか、トイレや食事を介助する「身体介護」がある。厚労省は身体介護について、見直しの対象外とする方針。

需要が供給を上回る状況にある以上、給付の削減は介護への財政的支出削減のみならず現場での需給バランス改善にも関わってくる問題と言えますが、ではこうした給付の削減によって介護現場がどのような影響を受けるのかと言うことが問題で、単純に仕事が減れば楽になるだろうと言うものなのかどうかです。
基本的に国にしろ自治体にしろ介護職員は不足している、もっとどんどん増やさなければと言って数の増加を図っている、その中で介護全般の支出削減を進めれば一人当たりの取り分が今以上に減るだろうと言う単純な計算も成り立つのですが、現状ですでに介護職員の賃金は全職業平均より月額9万円も低いと言う驚くべき数字も示されています。
以前にも中学校の公民の教科書で「介護は重労働で低賃金」とうっかり正直に書いてしまい出版社が業界団体から抗議を受けると言ったことがありましたが、先日もドラマで介護現場の厳しい状況を赤裸々に描きすぎ不要な理解が進みすぎると業界からクレームがついたそうで、もはや介護業界そのものがネタか?と思うような様相すら呈しているのが現状です。
近年は人手不足感の強い全国企業にとっても介護離職と言うことが大きな問題となってきていますが、介護のため転職を強いられた人の年収がおよそ半減していると言うように転職する側にとっても全くありがたい状況ではなく、出来れば専門のスタッフに安心してお任せ出来る環境の方が社会的にも望ましいのでしょうが、この調子では受け皿となる介護業界の永続性が危ぶまれかねませんよね。

一方で高齢者に対する給付削減は何であれケシカラン、むしろもっとサービスを拡充すべきだと言う考え方も根強くありますが、財政面での聖域無き改革の必要性が久しく叫ばれている中で高齢者関連だけを聖域視し、その結果としてワープア化著しい現役世代にこれ以上の負担増大を招くことは避けるべきでしょうから、少なくとも給付を求めるなら受益者も応分の負担をと言う流れは今後ますます拡大されそうです。
この点で先日興味深く拝見したのが日本の経済成長と言う観点から見て、現実的に最も多くのお金を持っているのが高齢者である以上高齢者ビジネスの成長が非常に大きな鍵を握っている一方で、高齢者ビジネスの場合その気になれば幾らでも食い物に出来る高齢者と言う弱者に対して、如何にフェアな商売を行うかが鍵になると言う記事です。
すでにオレオレ詐欺やあり得ない住宅リフォーム契約などが久しく以前から社会問題化していますが、そもそも適正なサービスとそれに対する応分の負担とはどの程度のものかと言うことを高齢者自身が正しく判断できないとなれば、公的サービスとして担保されている範囲が一つの目安になっている部分もあって、単純に財政的要請だけでその範囲を決めていくと思わぬ悪影響も出てくるかも知れませんね。
いずれにせよ実際にサービス提供を行っている介護現場が破綻寸前とも言える状況にあるとなれば、財政的負担や利用者側の要求に加え現場からの要請も考慮した難しいバランス取りが求められますが、介護報酬を削減していった結果各地で採算性の悪い事業所が閉鎖され、結果的に適正な規模に介護市場が縮小整理されると言うどこかの業界のようなシナリオを描いている向きもあるのでしょうか。

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コメント

仕事内容よりもとにかく給料安いってのが大きいですね。
あれじゃ家族を養ってけないですから辞めるしかないっていう。
利用者の自己負担をもっと増やすしかないんじゃ?

投稿: ぽん太 | 2016年2月22日 (月) 08時00分

「在宅」なんて効率悪いやり方に固執するから。

在宅介護
 ↓
金がかかる
 ↓
自己負担率が上がる
 ↓
サービス利用者が減り、家族介護が増える
 ↓
家族が自宅で介護していた介護保険前の状態にソフトランディング

たぶんこれが狙いですね。

投稿: JSJ | 2016年2月22日 (月) 08時37分

ちなみに介護保険制度を延命させようとすると

施設介護
 ↓
効率は上がって多少の延命効果は期待できるけど、やっぱり永続は無理
 ↓
施設に目一杯要介護高齢者を集積したところで介護保険制度破綻
 ↓
行き場を失った介護難民の大量発生

と、なるかしらん。

投稿: JSJ | 2016年2月22日 (月) 09時02分

国民1人あたり○○万円の借金というのは、こういう意味です。
実際に借金を負っているというよりは、本来得られてしかるべき公共の福祉が○○万円の自己負担になる。

投稿: | 2016年2月22日 (月) 10時12分

実際に老人産業で経済成長が成り立つのであれば、お金を大量につぎ込むこともまあありかなとは思うのですが。
かつて言われたところの道路を掘って埋め戻してもGNPは上がる的な雰囲気も感じます。

投稿: 管理人nobu | 2016年2月22日 (月) 12時01分

介護士の給料を上げる→介護士より高難度資格・責任の重い病院の准看護師の給料と差がなくなるので挙げる→検査技師の給料を上げる→看護師・薬剤師の給料を上げる→医師の給料を上げる→医療崩壊

なので、上げられないですよね、介護士の給料。だって、現在の医療関係者より下の給料水準(あるいは保育等の国が考える「介護ってこんなもの」という有資格者と同等)に据え置いて決定したわけですから。

投稿: おちゃ | 2016年2月22日 (月) 19時18分

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