« 入居権詐欺に改めて注意を | トップページ | もはや人工無脳とは言わせない »

2016年2月 5日 (金)

仕事中に亡くなると言う選択枝が持てない不幸への対策

今ひとつ釈然としない判決と言うものは時々あるものですが、先日こんな記事が出ていたことに釈然としない思いを抱いた人は少なからずいたようです。

八戸の当直医死亡 母の労災請求、地裁も認めず /青森(2016年2月2日毎日新聞)

 八戸市の病院で2010年、当直勤務で待機中の男性医師(当時52歳)が急死したのは労災だとして、母親(85)=新潟市=が、遺族補償給付を認めなかった八戸労働基準監督署の処分取り消しを求めた訴訟の判決で、青森地裁は1月29日、請求を棄却した。

 田中一彦裁判長は判決理由で、医師は48時間の連続勤務中だったが「十分な睡眠時間が確保されていた」と指摘し、長時間労働が急性心筋梗塞(こうそく)を引き起こしたとする原告側の主張を退けた。男性は、持病の睡眠時無呼吸症候群の影響で低酸素血症になって嘔吐し、吐いた物を詰まらせ急性呼吸不全になったと認定した。原告側は控訴する方針。

 判決によると、男性医師は10年10月、当直室で嘔吐した状態で死亡しているのが見つかった。

労災の認定の基本として業務を行ったことで悪化したかどうかと言うことが判断基準になるそうで、医師の間のアンケートでも当直明けに体調不良になったことがあるか?と言う問いに「はい」が圧倒的多数に登ったと言うくらいですから、例え睡眠時間が確保されていようが常時張り詰めた緊張感の中でそうそう安眠できるものではないはずです。
今回の場合も48時間の連続勤務中に睡眠時無呼吸症候群で亡くなったと言うのはいかにもありそうな経過なのですが、睡眠時無呼吸があるなら通常同様に睡眠時間を取っていたとしても疲労が抜けないと言うことは知られていることですし、いずれの死因で亡くなったにせよ過労が悪影響を与えていないと言う判断には結びつかないと思うのですけれどもね。
当然ながら遺族側としては承伏しがたい判決だろうだけに控訴するのはあり得るとして、この辺りは誰がどのような判断を下したのかと言うことが非常に気になるものですが、医師など専門家による判断のさじ加減一つで結果が大きく変わってしまうと言うことは、例えば先日取り上げました糖尿病患者の運転免許更新などでもあり得る話です。
逆に言えば医師などは患者の立ち位置について十分知った上で、自分達の判断の結果がどういう社会的影響を与えるのかも考えないと患者さんから恨まれるだろうと言う話にもなるかと思うのですが、この点に関連して先日こんな記事が出ていたことを紹介してみましょう。

がん退職、防止へ指針 医師と企業連携・短時間勤務促す(2016年1月26日朝日新聞)

 厚生労働省は、がん患者らが仕事と治療を両立できるような対策を始める。がんになって仕事を続けられなくなる人は3割超いて、医療の進歩で生存率が改善しても経済基盤を失う人が多い。医師と企業が病状や仕事内容を情報交換する文書の「ひな型」をつくり、短時間勤務などで配慮するよう促す。対策の指針を2月にもまとめ、企業側を指導していく考えだ。

■厚労省、来月にも策定

 がんは2人に1人がなるとされる「国民病」だ。いったん退院しても、通院や経過観察が長くなりがちで、通常勤務への復帰は簡単ではない。指針ではがん患者らが体調や治療状況に応じて柔軟に働けるよう、短時間勤務や休暇などを活用するよう促す。
 具体的な対策としては、医師が仕事内容を把握し、企業側に配慮を求められる仕組みを検討する。勤務時間や職場環境などを文書で報告してもらい、「長時間労働は避けた方がいい」といった助言をしやすくする。重要な項目は列挙して、取り組むべき課題がわかるようにする。
 企業側にとっては、人材確保のためにも雇用の維持が大切になっている。企業と病院との情報のやりとりは患者本人の同意が前提で、内容は本人にも伝わるようにする。社員から報告があった場合には復帰までのプランをつくり、時間をかけて支援するよう企業は求められる
 病院も仕事について患者や企業から積極的に相談してもらって、患者が治療に前向きになれるようにする。

 指針は一般的な病気にも当てはまる内容で、注意点をまとめたパンフレットをつくる。厚労省は昨夏から有識者の委員会で議論しており、正式にまとまり次第、全国の労働局などを通じて広めていく方針だ。
 国立がん研究センターによると、がんにかかった人は2011年に約85万人と01年から約5割増えた。医療技術の進歩もあってがんでも働き続けたい人は増えているとみられるが、企業側の理解が進まず断念せざるを得ないケースもある
 「がんの社会学」に関する研究グループ(代表=山口建・静岡県立静岡がんセンター総長)が約4千人の体験者をもとに13年に調べたところ、診断後に依願退職などで仕事を辞めた人の割合は34・6%に上る。
 いまは病院と企業との連携は現場任せで、短時間勤務などが認められないまま辞めてしまう人も多い。このため、指針づくりを急ぐべきだとの指摘が企業や医療関係者から出ていた。

この種の指針なるものがどの程度有効なのかは職場それぞれにおいて事情も異なるのでしょうが、ないよりはあった方がいいのは確かなのだろうし、きちんと対応したいと考えている関係各方面にとっても役には立つものでしょうから、まずはきちんとした指針が出来上がることを期待したいですよね。
ただ企業側もそれぞれ考え方の違いもあって、そもそも仕事を辞めるよう追い込むような企業は指針があろうがなかろうが可能な限り都合よく解釈するのでしょうし、その意味では単なる努力目標ではなく何らかの罰則がなければ始まらないと言う考え方もあるでしょう。
この点で長年妊娠出産や女性、障碍者雇用など各方面で規制が行われてきた中で、それぞれ何が有効で何が有効ではなかったかと言うフィードバックも重要だと思いますが、一つ問題になりそうなのは判断のかなりの部分を担うことになるだろう医師側の対応ですよね。

医師にしてみれば癌と言えば命に関わる病気であり、そうであるからこそ治療上の都合は他の何よりも優先されてしかるべきだと言う考えが無意識にも多かれ少なかれあるものですし、そもそも癌治療を行うような基幹病院では検査や治療の都合も他患者とのスケジュールの都合を縫ってやりくりすると言うことになりがちです。
その結果やたらと仕事を休んで病院に来させると言う状況は全く珍しくありませんが、一方で企業側にとってみればそんなに治療で忙しいなら仕事は辞めて病気の治療に専念すべきではないか?と言う考えが出てくるのも当然と言えば当然で、患者側は両者の立場の板挟みにあって右往左往することにもなりかねません。
一体に癌に限らず治療法と言うものはガイドラインなどを見ても仕事との両立など全く考慮されているものではなく、せいぜいが入院が必要か自宅通院でも出来るか程度の工夫があるくらいですが、毎週何回も通院を強いられるような治療法が当たり前に選択されるのでは仕事に支障は来すのも当然ですから、本当に両立を考えるなら標準的治療のあり方そのものから再検討が必要でしょうね。
現状では何をもって標準的治療法とするかと言うことは治療の有効性から決められていますが、例えば治療効果は数パーセントしか違わないが仕事との両立のしやすさでは天と地ほどの違いがある場合もあり得るはずで、今後はこうした観点から治療効果のみならず日常生活と両立しやすさも検証されていくべきなのかも知れませんね。

|

« 入居権詐欺に改めて注意を | トップページ | もはや人工無脳とは言わせない »

心と体」カテゴリの記事

コメント

癌になっても働き続けなくていい保険でも用意したほうが合理的

投稿: | 2016年2月 5日 (金) 07時52分

最後まで仕事って日本人的な考えなんですかね?
お金が理由じゃなさそうなのに仕事にこだわる患者さんっていますね。
自分も元気なうちは普通に仕事してるかもしれない。

投稿: ぽん太 | 2016年2月 5日 (金) 09時03分

病院を土日診療、平日2日休みにできない理由は何なんでしょうか
商業施設や一般顧客相手の不動産業など、土日営業、平日休みを普通に行っていると思うんですが
官公庁や一般企業の営業時間と、病院の診療時間が一致してなくてもそれほど問題ない気がするんですが

ただ単に、土日を休むのが普通だからというだけかな

投稿: | 2016年2月 5日 (金) 10時18分

>平日2日休みにできない理由
銀行はなぜ平日のみに営業していても、文句言われないんでしょうか。銀行の用事なら会社が休めるのに、命の用事で会社が休めないって、どういうこと?自分の命に対する価値観の問題でしょう。

というのはおいといいて、病院間は連携が必要です。平日2日休みにするとなると、地域で共通化する必要があります。その平日しかやすめないひとはどうしましょうか?結局同じ問題がつきまといます。また、治療は1週間単位で行われるわけではありません。土日しか休めないなら、そもそも治療が遂行不可能です。

厳密な日数管理が必要ない、2週間、4週間に一度程度の通院でいいなら、受益者である患者側が、法律上認められた有休を使いましょう。病院が合わせる必要はありません。今回の話は、数日間頻繁に休まなければならないことが主な問題です。

さらにいうと、休日出勤の会社の多くは休日でるシフトを組んでいますが、そのようなシフトを組むだけの人的余裕は医師にはありません。
医師というだけで、なぜ子供との休日の時間を強制的に奪われなければならないんでしょうか。

受益者が、ちゃんと料金をはらって、シフト勤務できるだけの人的余裕を確保できるなら、それも考えますが。

医療はサービス業ではなく、「国から患者が与えてもらうお情け」の側面があるんです。先進各国では導入不可能な医療者の奴隷労働制による過度なディスカウントと国際的には評されているんです。

市場主義によるサービスの概念を過度に持ち込まれても困ります。文句は制度を決めた国、国民に言ってください。

投稿: | 2016年2月 5日 (金) 10時57分

>休日出勤の会社の多くは休日でるシフトを組んでいますが、そのようなシフトを組むだけの人的余裕は医師にはありません。

素朴な疑問として、
土日の休日を、平日にずらすことは、単に曜日をずらすだけでは済まないんでしょうか?
それでシフトが不可能になってしまうというのがよくわからない。
病院の休日を減らせとは要求していません。
頭が悪くてわかりませんので、ご教示を。

投稿: | 2016年2月 5日 (金) 11時02分

医療者側として言うなら、どうしてわざわざ土日に仕事しないと行けないんだと言いたい。
別に割増料金取れるわけでもなく、技師やら受付やら全員土日を奪うことになるんだけど。
他の人も言ってるけど、せめて地域まるごと全部そうしないと話にならないし、土日子供が休みなのに働きに来なきゃいけないスタッフの保証やらなんやらはどうするつもり?
というか健康を害してるんだから休みくらい取ってこい。
休みを取る程でもないならおとなしく民間薬でも飲んで我慢しとけ。

投稿: | 2016年2月 5日 (金) 12時16分

自分は普通に火水休み、土日出勤の会社に勤めて、特にシフトを組んだりもしていませんでした。
確かに人と休みが合わなかったりしましたが、便利な点もあり、そこまでお怒りになることかなと思います。
まあ気に障ったら悪かったです。

投稿: | 2016年2月 5日 (金) 12時30分

私は悪くないと思いますけど。>土日の休日を、平日にずらすこと
独身の頃にそういう病院があったら勤めたかもしれませんな。今は年休はきっちり消化するよう心がけているので、平日定休の必要性は低くなりましたが。
別に頭ごなしに否定するようなものでもないでしょう。働く施設を選べばいいだけのこと。
今は医者の働き方も多様化していますし、面白いとおもいますよ。

ただ、なぜそういう病院がないのか?と尋ねられたら、個々の経営判断でしょうねぇ、としかお答えできません。

投稿: JSJ | 2016年2月 5日 (金) 12時42分

地域内の医療機関や業者も含めて連携して診療しているので、休日は揃えた方が都合がよく、例えば木曜午後は開業医は一斉に休診して医師会業務と言った例もあります。
より現実的には人材不足の職場で土日営業をやろうとすると割り増し賃金を出さなければ人が集まりませんが、その分診療報酬を割り増しされるわけでもないので損になりますね。
よく言われる24時間365日営業の救急センターなどは、時間外割り増しが取れず経営的にも厳しいのではと思うのですがどうなんでしょう?

投稿: 管理人nobu | 2016年2月 5日 (金) 12時47分

会社は規模にもよるだろうけど、関連企業と休みがずれて問題がないんだろうか?
病院だとその病院はもちろん、関連病院、給食やらクリーニングやら薬屋さんやら・・・で関連企業は山とある。
それ全部ずらすんだけど。

ひとつの病院が土日空けると確かに利便性がいいから患者さんは集まるだろう。
しかし対応できなかったりして搬送する、紹介する、となった時にたちまち困る。救急外来にでも紹介する気かね?
土日開けます、何でも絶対自分のところだけで解決しますってなら好きにすればいいと思う。そんな病院あるわけがない。

投稿: | 2016年2月 5日 (金) 13時07分

ああ、そうそう。
仮に日曜日に通常営業して、患者が押し寄せるような事態になったらそれはそれで困るんですよね。
医師一人当たりで処理できる患者数にはおのずと上限がありますから。
繁忙期に合わせた常勤を抱えていたら、余剰になりますし。
となると、週1〜2日だけのパートにどれくらい応募があるか、ということになります。

診察室とかの設備も同様です。
結局病院にとっては、営業日には毎日同じくらいの数の患者さんが来てくれるのが一番効率がよさそうです。

投稿: JSJ | 2016年2月 5日 (金) 13時21分

>土日の休日を、平日にずらすことは、単に曜日をずらすだけでは済まないんでしょうか?

すでにみなさん書いておられますが、病院は単体でなく、周辺の業者も関連が多くなります。周辺の業者は医療専業とは限らないので、へんに平日やすみにするわけにはいかず、どこかに跳ね返ってきます。

また、一般サービス業種で土日営業するのは、集客のために必要なことだから、コストを掛けてやるわけです。病院は、土日に営業することで集客が特別に見込める業種ではなく、そもそも平日のみでも集客に困ることはありませんし、エクストラコストを転嫁できませんから、土日にやる経営上も、医療安全(病院周囲のサポート)上も、そのようなことをやる必然性がないわけです。

そのうえで、患者側が希望するのであれば、エクストラコストをきちんと負担すべきだと思います。膨大になりますが。繰り返しますが、平日の二日休みも、それまでその二日に通っている人の文句が出ますので、もしやるなら7日間通日営業じゃないと難しいと思います。
(実際に、土曜日午前中営業している私立病院もありますが、広がらないのはそれだけの合理的理由があるからです)

投稿: | 2016年2月 5日 (金) 17時06分

個人やチェーンの歯科医はやっていますね…土日営業…
でも、オレは行きたくないなあ~そういう歯科医… 怖いわ
そこまでしてやらなくてはいけない状況に…ですよ 笑

投稿: 非医師 | 2016年2月 5日 (金) 19時00分

ああ、そう言えば「あのアメリカですら」特定疾患・救急以外で土日やっている所は聞いたことないなあ~
あの合理主義のアメリカでもですよ

「日本」「フリーアクセス」「海外」で検索するいいですよ、いろいろ出てきますわ 笑

投稿: 非医師 | 2016年2月 5日 (金) 19時10分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/63161665

この記事へのトラックバック一覧です: 仕事中に亡くなると言う選択枝が持てない不幸への対策:

« 入居権詐欺に改めて注意を | トップページ | もはや人工無脳とは言わせない »