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2016年2月29日 (月)

医学部定員が減らないことの弊害と対策

本日の本題に入る前に、現状で医師が余っていると考える人もそう多くはなかろうと思いますが、一方で医学部定員がこうまで増やされ急速に医師数が増えつつあることに一定の危機感を抱く人は少なくないようで、様々な理由から医学部定員は削減した方が良い、少なくとも将来的には削減すべきだと言う声は根強くありますが、それに対して先日こんな声が上がっていました。

「医師は足りない」、医学部定員増は継続を-四病協が方針確認(2016年2月24日CBニュース)

 四病院団体協議会(四病協)は24日に総合部会を開き、2017年度に最初の期限を迎える大学の医学部定員を増やす時限措置について、病院団体として継続を求めていく方針を確認した。
 終了後に記者会見した日本医療法人協会(医法協)の加納繁照会長は、「大学や立場によっては、減らす方向でいくべきだという話もあるように聞いているが、現場としてはとんでもないことだ」と述べた。【敦賀陽平】

 医学部の定員数をめぐっては、厚生労働省の有識者検討会が06年にまとめた報告書などを受け、時限措置として毎年965人が増員されており、17年度に317人分の増員の期限を迎える。
このため、同省の有識者検討会は昨年12月に分科会を設置し、今後の対応を協議している。
 この日の総合部会では、医療現場で医師が不足している現状を改めて確認し、医学部の定員数に関しては、「増やした人が活躍する前に減らす議論をするのはおかしい」との意見も出たという。
 加納会長は会見で、「(現在の)医師の需給をしっかりと確認していただきたい。減らすのはそれからだ」と語った。
(略)

当然ながら四病協のように医師を使う側の立場に立ってみれば使える医師の選択肢が増えることはメリットしか存在しない理屈で、医師不足と言われる地域においても多くの医師が安く使えるようになれば万々歳ですが、そんな思惑を反映したこの率直な方針に対して、もちろん異論反論も少なからずあるようです。
地域の医療需給バランスから医師の給与動向などなど、医師数をどうするかに当たって考慮すべき様々な変数が存在しているのは当然ですが、そのうち教育を司る医学部関係者がかねて指摘しているのは医学部学生の学力レベル低下の問題で、全国学生数がこれだけ減ったにも関わらずかつての受験戦争全盛期よりも多くの定員を募集していればレベル低下は必須でしょうね。
以前に出ていた調査では全国医学部の86%で学生の学力が低下してきていると感じられているそうですが、学生数の急増で実習など教育環境にも支障が出ていると言う声もある中で、先日全国医学部長病院長会議からこんな調査結果が出ていたと言います。

医学部1年の留年者1.74倍、「緊急対策を」(2016年2月18日医療維新)

 医学部1年生の留年者数が定員増前の1.74倍――。全国医学部長病院長会議が2月17日の 会見で公表した「医学部の学力に関する調査結果報告書」で、比較可能なデータがある全国53大学の2014年度留年者数は、2008年度の定員増加以前の平均と比べて、1年生174.4%、2年生125.6%と低学年で大きく増加していることが分かった(定員増を勘案して調整した割合)。
 報告書は、1、2年生の留年率の高さについて、「緊急に対策を要する重要課題」と指摘。また、母数は少ないものの、休学率や退学率も1、2年生で高くなっており、2年生の退学者数は定員増前の148.4%と急増している点も注視すべきだとした。東京慈恵会医科大学教育センター長の福島統氏が報告した。

 本調査は、2011年から同団体が実施(前年度は『医学生、学力低下は確認されず』を参照)。5回目の今回は、2014年4月から2015年3月まで(2014年度)の在籍学生を対象に調査した。2008年度に始まった医学部定員増加から2014年度までに1436人の定員枠が増え、入学定員は計9061人。なお、2016年度は東北医科薬科大学の定員100人を加味すると、9234人に増える計算だ。
 留年率は、連続して比較可能なデータがある国立30校、公立2校、私立21校の計53校が対象。2008年度より前の留年者数の平均と、2014年度の留年者数を比較した。定員増による母数増を勘案し、定員増加率で割り返して調整した数字は、1年生174.4%、2年生125.6%、3年生106.8%、5年生117.9%、6年生121.5%と軒並み増加。1、2年生の増加幅が目立ち、3年生以降は増加幅が多少緩やかになる結果だった。
 同様の計算方法で出した休学率は1年生で135.9%、退学率は2年生で148.4%など、高い数字も目立ったが、いずれも母数が少ないことから詳細な分析は困難とした上で、今後の注視が必要だとした。
 一方で、懸念される医学生全体の「学力低下」について、報告書は否定的な見方だ。4年生で実施する共用試験CBTの結果は、高いレベルで維持されているからだ。入学直後の1年生や覚えるべき知識量が激増する2年生での「低学年クライシス 」を乗り越えられれば、共用試験受験時や卒業時の知識レベルは「十分獲得、担保されている」と見ている。

 留年率が高い低学年への対策では、授業の出席チェックで大学に来なくなった学生を「早期発見、早期治療」する取り組みや、メンタルチェックの実施、成績下位者への個別指導を挙げる大学が多かった。自由記述では、自ら問題を発見して解決する自己学習能力の低下を訴える内容が多いという。
 調査結果を受けて福島氏は、留年率の増加を懸念。一度も留年や休学をせずに進学した「ストレート卒業者」は、2007年度で87.3%と他学部に比べて低いが、医師国家試験の合格率が高いとされており、「増やす努力をすることが医学部の責任だ」と指摘した。教育内容については、「医師としてどのように社会に貢献するのか、学内外でどのように教育するのか。医療と社会のつながりについて、教育の改善が必要だ」と話した。また、少子化と定員増加で医学部入学の難易度が低下しているとし、「門戸があまりにも広がれば、医師の資質として、必ずしも好ましくない学生が入学する可能性が高まる」と強い懸念を示した。

率直な感想として大学などは本来的に義務ではなく権利であって、それに出ないにせよ留年や退学をするにせよ個人の自由ではないかと言う気もするのですが、ただ社会的背景から考えてみますとかつてのように親が裕福で大学生活は遊ばせていられる時代と異なり、今は学生の半分が奨学金という名の学生ローンを組んで進学している時代で、卒業と同時に巨額の借金を背負わされているわけです。
こうした時代にあって大学を無事卒業すると言うことへの切実度はかつてとは比較にならないはずであって、入学を認めた学生がそれを出来ないと言うのであれば選抜なり教育なりを行っている大学側の無能無策ぶりを証明している事実であると思うのですが、興味深いのは上級生になると必ずしも成績が悪いと言うわけではないと言う記述ですよね。
最も成績不良な者から留年なり退学なりしていった結果、大学生活に耐えられる者だけが残ったのだという考え方も出来るだろうし、大学生活を過ごすうちに効率的に勉強をこなずことが出来るようになったと言うことなのかも知れませんが、ここでも学生側には一定程度の能力はあるのだとも受け止められる話ですから、教育する側の問題として捉えるべき話であるようにも思えます。

学生の選抜という点で面白いと思ったのが、先日東邦大医学部の二次試験で実際に行われたと言う試験方法に関する記事が出ていたのですが、その方法とは理解力が必ずしも高いとは言えない(と言う設定の)相手に対して、言葉による説明だけで手元の図形とそっくりな図形を描かせると言うものであったそうです。
出題意図としては機械的な受験勉強だけでは必ずしも鍛えることが出来ない、いわゆる地頭の良さと言うものを評価すると言うこともあるのだろうし、また医療従事者として今や必須のスキルとされるコミュニケーション能力の適性を見ると言うこともあったのでしょうが、特に後者の場合こうした試験スタイルに対応するために試験対策を練ることは、必然的に将来のためにも決して無駄にならないとも言えますよね。
この考え方でいけば例えば特定のテーマに関して小論文を単純に書かせると言うのではなく、皆の前で説得力ある形でプレゼンテーションを行わせると言った試験スタイルも考えられるのだろうし、PC1台を与えて特定テーマに関して勝手に調べさせ、そのテーマにおいてどんな問題があり、その対策としてどうすべきか考えさせると言うやり方もあり得るでしょう。
単純なペーパーテストや紋切り型の面接に留まらない試験方法としては他にも様々な方法はあるのでしょうが、要するに学生の学力が下がる一方で…とただ嘆いているよりも、頭の良いはずの大学のエライ先生方がもっと知恵を絞れば何とでもやりようはあるんじゃないかと言うことでしょうか。

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コメント

知識の量なら今の学生の方がずっと多いんじゃないかと。
こういうのって今時の若いものは的なものもあるんじゃないですかね。

投稿: ぽん太 | 2016年2月29日 (月) 08時19分

夏休みくらいに共同生活させたら協調性とかコミュ力とか分かるので良さそう
実際医療事故起こすのは同一の医師が何回もという例が多いとのアメリカの論文があるので
患者と信頼関係築けないコミュ力無いタイプは医学部は向かない

投稿: 名無し | 2016年2月29日 (月) 08時56分

学生の学力が低下しているとのことですが、学力が合格するレベルと見なせるならば、
昔(自分の受験していたころ)だと、大半の私学医学部だと、旧帝理系に行くレベルなら
普通に合格出来ていましたからね。
今じゃそこまで簡単じゃないでしょうから、昔に比べりゃ相当上がっているんじゃないの?

投稿: | 2016年2月29日 (月) 10時03分

医学部だけでなく大学全体で考えてもレベル低下していますよね。
相対的にはレベルは保たれているし、バカ大卒を量産し続ける一方で医学部のレベルだけ問題にしてもねえ。

投稿: | 2016年2月29日 (月) 10時42分

医学部に関して言えばかつてなら歯学部や法学部などに流れていた層なども流入していると言う話もあるそうで、学力がどうなのかと言う比較はなかなか難しいところはあるかと思います。
ただより本質的な問題として学生教育に熱心な先生がいたとしても、現在のシステム上教育が業績として扱われにくい以上は制度改革に責任あるポストにまで到達しにくいと言うことがありそうですね。
さすがに昨今は医局に入ってくる先生方も不足がちな時代ですので、臨床なり研究なりに注力してきた教授以下幹部の先生方にも教育の重要性はある程度理解されているものと考えたいですが。

投稿: 管理人nobu | 2016年2月29日 (月) 11時53分

管理人さま
 >臨床なり研究なりに注力してきた教授以下幹部の先生方にも教育の重要性はある程度理解されているものと考えたいですが、臨床なり研究なりに注力してきた教授以下幹部の先生方にも教育の重要性はある程度理解されているものと考えたいですが。

 国立大学について文科省は、大学の現場の人間主導のそういう部分をかっぱいでしまって、自分の言う通りの看板を後生大事に実行する体制を作り上げる気満々です。金でしばって天下り的学長を押し付けて権力集中とか。文系つぶしで露呈。それで現場がよくなるなら良いですが。 厚労はまだ現実主義が残っている(と期待したいです)が、文科症は教育の意味すらバブル的な収益率でしか考えられなくなっている、どうしようもない状態。

 医学部出なのにその先棒を担ぐ学長の専横を許している某由緒ある国立大医学部もあるようで、「俺の言うこと聞かないと倒産する」と。意図露骨な地方枠とか。金が出せる階層には、地方国立医科より有名私立医学部の方が魅力的になってきた。 必要なものなら残ってゆくでしょう。 

投稿: | 2016年3月 1日 (火) 09時40分

多くの医学生は醒めていて、ガッコなんて単に資格を取る為のフィールドに過ぎなくて、
明治の昔のように、教育だの薫陶だのを期待する場ではない と考えてますよ。
ならば国立大も独法化した今日では、人間主導云々、バブル的な収益率どうこうの議論は
あまりにセンチメンヘラな主張なのではないでしょうか。

投稿: | 2016年3月 1日 (火) 12時18分

一部旧帝以外のほとんどの医学部は昔から医師国試予備校ですが何か?

投稿: | 2016年3月 1日 (火) 15時47分

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