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2016年1月19日 (火)

出産適齢期を巡る最近の話題

先日の成人式も色々な意味で注目される事件が数多くあったようですが、その中で少しばかり方向性が違っていたのがこちらのニュースです。

「出産適齢期の皆さんに期待」浦安市長(2016年1月11日毎日新聞)

 千葉県浦安市の松崎秀樹市長は11日、同市の東京ディズニーランドで開催された成人式の祝辞で、「人口減少のままで今の日本の社会は成り立たない。若い皆さんにおおいに期待をしたい」などと発言した。

 祝辞で松崎市長は、新成人の数が団塊の世代に比べ半減していると指摘。「これまで結婚適齢期というのはあったが、少子化で日本産科婦人科学会(日産婦)は出産適齢期ということを若い皆さんに伝えようと努力し始めている。18〜26歳を指すそうだ」と述べた。

 式典終了後、記者団に「(少子高齢化で)どれだけ若い人たちが大変な時代を迎えるか、新成人が次の時代を考えなくてはいけないということで率直に伝えさせてもらった」「産まなければ人口は増えない」と語った。

 一方で、浦安市は少子化対策の一つとして、今年度から順天堂大浦安病院(同市)と共同で将来の妊娠と出産に備えて健康な女性の卵子凍結保存を支援する事業をスタートさせた。しかし事業が晩産化を助長させることを懸念する声も出ている。【小林多美子】

さすがに浦安市ともなれば成人式もTDLでやるのかと妙なところで感心しそうになるのですが、日本の各マスコミ中でも進歩的と見なされている毎日新聞の記事の扱いがこのようなものであったように、当初この件に関してはべつだんに問題視されるようなものではなく、淡々と報道されていたように思われますよね。
ただもちろんこうした発言が一部の方々によって注目を集めないはずもないと言うことなので、同じく進歩的なメディアの代表格とも言える朝日新聞からはさっそくこんな続報が出ていましたが、正直「え?突っ込むところそこ?」と思ったのは自分だけでしょうか。

「出産適齢期18~26歳」日産婦は否定 浦安市長発言(2016年1月15日朝日新聞)

 千葉県浦安市の成人式で松崎秀樹市長が「出産適齢期は18歳から26歳を指すそうだ」と発言したことを受け、日本産科婦人科学会は14日、「学会として『出産適齢期は18歳から26歳を指す』と定義した事実はない」とするコメントを発表した。

 学会がまとめた一般向けの冊子では、「妊娠適齢期は35歳ごろまで」としている。

まあ学会側としてもこう言わなければならない事情は理解できるとしても、妊娠適齢期が35歳までと言われると生物学的医学的な観点からはいささかの違和感を感じざるを得ないのですが、そもそも初産年齢が30歳を超えるような時代にあっては社会的な適齢期は生物学的なそれよりも幅広く認定されるべきなのでしょう。
この妊娠適齢期問題に関しては当「ぐり研」でもたびたび取り上げて来た経緯がありますが、妊娠出産に一番リスクが少ないのが20代の頃であると言い、一方で30代後半にもなれば母子ともに様々なリスクも増加し、そもそも次第に妊娠自体が成立しにくくなってくるとされていて、40代に入ると自然な形での妊娠、出産が極めて稀なことになってくると言います。
少子化対策が叫ばれる時代にも関わらず国が不妊治療の公費助成に年齢的上限を設ける云々と言っているのもそうした事実があるからと言えますが、逆に言えば当たり前に妊娠が出来ないからこそ治療への需要が高まると言うことは当然であって、先日はこんな記事が注目を集めていました。

<不妊治療>「まるでギャンブル」 高額費用つぎこむ40代(2016年 1月17日毎日新聞)

 日本の女性が第1子を産む平均年齢はいまや30.6歳。若いうちに子どもを産み育てることが難しくなり、不妊治療を受ける人が増えています。明治大の藤田結子准教授による解説です。

 ◇3人に1人が治療に200万円以上を支出

 現在、赤ちゃんの約4人に1人は35歳以上の母親から産まれています。不安定な雇用やキャリアのために、出産を先延ばしした女性も少なくないでしょう。35歳を過ぎてから運よく、すぐ出産できる人もいますが、妊娠しにくくなる人の割合は増えます。
(略)
 不妊治療にはかなりのお金がかかります。NPO法人Fineの13年調査では、不妊治療費に100万円以上を支払った人が、回答者の過半数を占めました。また、回答者の3人に1人は200万円以上を支出していました。なぜ人々は、これほど多くのお金を不妊治療につぎ込むのでしょうか。

 ◇「人工授精」で15万円は序の口

 東京都に住む会社員の松本大輔さんと智子さん夫妻(ともに40代、仮名)は、30代半ばで結婚しました。「子どもは2人欲しいね」と話していましたが、2人とも仕事が忙しく、妊娠・出産についてじっくり話し合う機会がありませんでした
 あるとき智子さんは、「卵子の老化」を警告するテレビ番組を見ました。不安になり、すぐ不妊治療で有名な病院に電話をかけましたが、予約でいっぱい。初診は1カ月半後です。
 2人で検査を受けた結果、身体的な問題は見つかりませんでした。そこで、まず器具を使って精子を子宮内へ直接注入する「人工授精」から始めました。費用は1カ月3万~5万円で、比較的気軽に受けることができる治療です。
 大輔さんは自分で精子をカップに出して提出する「採精」に戸惑いましたが、夫妻は5回ほど人口授精を試みました。しかし、妊娠はしませんでした。使った金額は15万円程度。ほんの序の口でした。

 ◇30万円かけた努力が水の泡

 智子さんが40歳になる少し前、夫妻は「体外受精」にステップアップしました。「体外受精」は、体の外に採り出した卵子に精子をふりかけ、受精させる治療法で、1回30万~50万円程度かかります。女性が30代前半までなら、状態のよい卵子が数多く採れるので、1回の体外受精で出産する確率は、比較的高い20%程度といわれています。
 しかし、智子さんは加齢のため、薬や注射を使っても卵子を2個しか採れませんでした。そのうえ、大輔さんの精子の運動率も低いことが分かりました。そのため医師から、顕微鏡下で精子1匹を卵子に直接注入する「顕微授精」をすすめられ、実施しました。会計時の請求額は、予想を超える25万円。カードで支払いながら、めまいがしました。
 できた受精卵(胚)を智子さんの子宮に移植し、2人は緊張しつつ妊娠判定日を待ちました。が、結果は陰性。妊娠しないうえに、30万円以上がはかなく消え、智子さんは涙を流しました

 ◇卵の状態に一喜一憂

 「40代で出産に至る、状態のよい卵子が採れる割合は、10個に1個あるかないか。回数を重ねることが大切、やるかやらないかです」と医師に言われ、松本さん夫妻は体外受精を繰り返します
 「よいグレードの受精卵になりましたよ」--智子さんは、担当医師や培養士から卵の質をほめられると、「やった!」と気分が高揚します。そして妊娠判定日には「今回もダメだった」とひどく落ち込みます。それでも、もう1回お金をつぎ込めば「当たり」の卵がでて、赤ちゃんという大きなリターンがあるかもしれないと思い、治療をやめられません
 智子さんは、不妊に効くという高価な漢方薬を購入したり、自分のホルモン数値や卵の成長をブログに記録したりと、ほかの多くの患者と同じように治療にのめり込んでいきました。1カ月およそ30万円を治療につぎ込んでいるうちに、「まるでギャンブルのように、金銭感覚がまひしてきた」といいます。
 2年半で使ったお金は300万円以上。1度妊娠しましたが、流産し、出産には至っていません。40代前半女性の体外受精による出産率は、1回1~8%程度。これ以上お金をつぎ込んでも、子どもを授かる確率は低いのです。
(略)

話だけ聞いていると何やら悪徳商法にはまっていく人の典型的実例なのか?と思うところもないではないのですが、もちろん不妊治療を手がける医療機関の大多数はごく真面目に成績向上を目指して努力しているのだろうし、特別暴利を貪っているわけでもないのでしょうが、それでもこうして見ると一般家庭にとってはなかなか利用するのに躊躇するだろう金額であるのも確かですよね。
逆に言えば不妊治療としてステップアップしていくごとにこれだけ多額の出費が続くと言うことがハードルになっていると言う側面もあって、こうした場合医師の側からは「これ以上いくらお金をつぎ込んでも妊娠は無理です」とはなかなか言い出せないでしょうから、利用者の側からこれ以上は止めておこうと言い出してくれるのが望ましいはずです。
ただそれは単に宝くじが当たらないと言ったことではなく、特に女性にとっては生涯産むと言う行為をあきらめると言う人生の岐路とも言える重大決断になるはずなので、どうしても「あそこでもう一度試みていればもしかしたら」と言う悔いが残らないと言うわけにはいかないのでしょうね。

将来的には技術的進歩から不妊治療そのものが進歩し望めば誰しも子供を産めるような時代が来るのかも知れませんし、逆に女性が子供を産む必要がなくなってしまえばこの辺りの感覚もずいぶんと変わってくるのかも知れませんが、現時点では子供を望む夫婦の間で子供が出来ないと言うのは当事者にとっても周囲にとっても相応に大きな問題と言えます。
そもそも子供がどうしても必要なら養子をとればいいはずだ、老後の支えにしても高い不妊治療につぎ込む代わりに貯蓄しておけばいいじゃないかと言う意見もあって、結果論としてはまさしくその通りと言うしかないケースもあるのでしょうが、特に女性の場合は自分でお腹を痛めた子供であるかどうかと言うことはそれなりに大きな意味づけを持っているようですし、血のつながりは無視出来ないと言うのももっともですよね。
養子縁組と言えばつい数十年ほど前までは日本でも子供のいない家庭では当たり前に養子を取ると言うことが行われていて、この場合親族など血のつながりがある家庭から迎え入れると言うケースが多かったようですが、現代社会ではこれだけ少子化が進んでくれば他所に養子に出すほど子供が余っている家庭などそうそうないのだろうし、特別養子縁組などは子供の側にとっての制度でやや方向性が異なるようです。
現代日本ではアメリカなどと違って養子制度もさほどにメジャーなものとはなっていませんが、毎年20万人からの妊娠中絶が発生していて、しかもその多くがどのような意味においても出産適齢期の女性に対して行われていると言う現実を見ると、世の中なかなかうまく回らないものなんだなと考えてしまいますよね。

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コメント

> 式典終了後、記者団に「(少子高齢化で)どれだけ若い人たちが大変な時代を迎えるか、新成人が次の時代を考えなくてはいけないということで率直に伝えさせてもらった」「産まなければ人口は増えない」と語った。

これ記者の誰かが突っ込んだんだろうなあ。
ところでここの市長さんは何人子供もってんでしょうね?

投稿: ぽん太 | 2016年1月19日 (火) 08時51分

不妊治療にいくらお金がかかろうが、それが自分たちのとった選択なのだから仕方がないと思いますがね。
それがイヤなら早くつくっておけということ。
いつも思うが、不妊治療関係の記事がいつも、大金がかかるから国は何とか補助等をもっとしてほしいという方向がほとんど。
どうして自分たちの間違いを正す方向に持っていかないのだろうか。

投稿: | 2016年1月19日 (火) 09時01分

いまから産ませたって、働いて納税するようになるまで20年かかるのにね
元気な老人がリタイアして遊んだりせず働けばいいだけだと思いますが

投稿: | 2016年1月19日 (火) 09時16分

どうせ効果が出るのは20年後だからと放置したからこうなった。
果たして元気な65歳がスキーバスで働く社会が良いのかどうか。

投稿: | 2016年1月19日 (火) 10時54分

元気な65歳が働かず若者を介護にしばりつける社会より、
元気な高齢者は働く方がいいでしょ
ボケ防止にもなると思うな
ただし反応速度は落ちてるからやめてほしい職業もあるけどな

投稿: | 2016年1月19日 (火) 12時04分

60代高齢者にとっても社会的にももっとも求められるのは介護現場での実体験だと思うのですが、若者に介護体験などをさせているくらいなら60代の方々のセカンドキャリアとして働いてもらう方がよほどよい気がします。

投稿: 管理人nobu | 2016年1月19日 (火) 15時35分

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