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2016年1月27日 (水)

代替医療と聞けばつい「怪しげな」と枕詞をつけたくなるのですが

偽医者騒動と言うものは定期的に出てくるものですが、先日こんなニュースが出ていたことをご存知でしょうか。

末期がん患者に「遺伝子治療」=無免許で点滴容疑、3人逮捕-警視庁(2016年1月25日時事ドットコム)

 医師免許がないのに「がん遺伝子治療」と称して点滴注射の医療行為をしていたとして、警視庁生活環境課などは25日、医師法違反容疑で医療法人「秀真会」理事長玉置秀司(58)=東京都府中市宮町=、NPO法人代表玉置公人(42)=港区芝=、看護師赤坂修子(42)=大田区東六郷=各容疑者を逮捕した。

 生活環境課によると、他の病院では治療が難しいとされた末期がんの患者に対し、遺伝子治療と称して未承認の「AJS2010」という薬品を投与した。国内では治験も行われていない薬で、効果や副作用が不明だという。
 玉置秀司容疑者は東京都江東区で「東京有明メディカルクリニック」=閉鎖=を経営。歯科医師免許は持っているが、医師の資格はなかった。玉置公人容疑者は暴力団の幹部で、2人に血縁関係はない。 
 逮捕容疑は2013年9月~14年3月ごろ、医師免許を持たないのに宮城県などの患者6人に医療行為である点滴注射を行った疑い。

ざっと調べたところではこの玉置秀司先生、癌患者の口腔内ケアを解説していたりして以前から癌診療にまんざら縁がないわけでもないようなので、あるいはそうした筋からこうした違法行為に手を出すようになったのかとも思ったのですが、しかし暴力団幹部も巻き込んで怪しげな薬物を投与していたとなるとさぞや儲けが大きかったと言うことなのか…などと邪推したくもなりますよね。
ただ注意すべきなのは今回の逮捕劇、あくまでも医師免許がないにも関わらず医療行為をしていたとして逮捕されていると言う点で、この未承認薬のAJS2010なるもの自体は海外はもとより国内においても試験的に使われているものであるそうですから、あるいは将来的にはその有効性が確認され一般的な治療薬として認められるようになる可能性もないとは言えません。
いずれにせよ現段階では未だ効果の確認されていない未承認薬であり、患者からこの種のエビデンスに乏しい治療を受けたいと言われ対応に苦慮している先生方も多いかと思いますが、最近いわゆる代替医療について対処法を記した記事を見かけましたので紹介してみることにしましょう。

怪しい代替療法を受けたいと言われたら(2016年1月20日日経メディカル)

(略)
 抗癌剤治療がうまくいかなくなってくる頃、免疫療法やサプリメントなど、エビデンスのない治療を受けたいと患者が相談してくることがあります。いわゆる怪しい治療です。自由診療であり、高額な費用負担が求められることも多いようです。
 患者自身でいろいろ調べて希望する方もいれば、家族が強く勧めてくることもあります。そういったときの主治医の対応は、マチマチです。希望するものは仕方ないと容認する医師もいれば、そのような希望をするなら自分はもう診ないという医師もいます。

 緩和ケア医の立場で考えると、治療の手立てがないと言われた患者や家族の気持ちもよく分かります。「癌を少しでも小さくしようとする試みをせず、死を待つのみというのは耐え難い」という気持ちは理解できます。
 そのようなとき自分は、(1)本人がその治療をすることで気持ちの支えになること、(2)本人や家族に負担が大きくないこと──を条件に容認することにしています。
 負担というのは身体的負担だけでなく、経済的負担も含みます。100万円以上掛かる免疫療法を希望される場合、億万長者で100万円くらい全然負担に感じないという方であれば問題ありません。でも、遺産の多くを費やし、残される遺族に負担が掛かるようなら、やめておきなさいと諭します。経済的余裕のない方の場合で、それでも何かやれることはないかと問われた場合、保険診療で処方可能な漢方薬を使用することもあります。何らかの治療が生きる気持ちの支えになるのであれば、全てを拒否することはできない自分がいます。
 緩和ケアの施設によっては、このような治療を続けている患者は受け入れられないとする施設も少なくないようですが、我が緩和ケア病棟、そして在宅医療においては、希望はなるべく叶えています。そして、いずれの治療においても、「自分も少しでも効いてほしいと願っていますが、その保証は一切ありません。もし負担に感じるようなら即座に中止しましょうね」と伝えるようにしています。
(略)
 怪しい治療を行う医療機関が最も不誠実なのは、病状が進行するなど体調が悪化したときに、対応してくれないことです。そもそも当直医はおらず、緊急入院することもできません。何らかの理由を付けて、紹介元の医療機関へ帰りなさいと言うのみ。そのような医療機関が終末期まで責任を負えるとは思えません。
 そのため、終末期癌患者が難民となり、受け入れ先が決まらない不幸な救急搬送が頻発することになります。緩和ケアを要する方の受け入れを担う自施設では、このような方が最期に困らないよう、急な申し込みにも対応できるよう心掛けていますが、なんだかなぁと思うような経過の方は後を絶ちません
(略)

疑似科学に惑わされた患者をどう説得するか(2016年1月6日日経メディカル)

(略)
疑似科学を否定する第一歩は聞く耳を持ってもらうこと
 では、医療者が知る正しい医療情報を一般の人々にも理解してもらい、疑似科学に惑わされる人を減らすにはどうすればよいのか。医療の専門家である医療従事者が、丁寧に説明をするしかないのではないだろうか。
 医療従事者からすれば、患者一人ひとりに説明のための時間を割くのは難しいという思いがあるだろう。だが、適切な医学情報を伝えようと細かく書き込んだパンフレットや治療の注意点を書いた紙を患者に渡したとしても、何を信じればよいのか分からず不安に感じている患者やその家族にとって、それを的確に読み解くのは難しい。紙を渡すだけでは適切な医学情報は伝わらない。ポイントとなるのは、相手に聞く耳を持ってもらう工夫だろう。

 例えば、誤った情報を信じる相手に「それ、間違った情報だから」と真っ向から否定しないよう徹底するのも1つの手だ。そのような対応をしてしまうと、どんなに医師が熱心に適切な情報を伝えようと思っても、患者やその家族に聞く耳を持ってもらえないからだ。
 過去の取材で、ある医師に患者が適切ではない情報を信じる患者への対応を聞いたことがある。その医師によると、「なぜそう思うのか」と患者に聞き、一通り話を聞いた上で「なるほど。だからそう思うのですね」と共感して一旦話を終える。そして、話題を切り替えて「ところで、医師から話を聞いたことはありますか」と尋ね、医療従事者の話を聞いてもらえるよう誘導するのが1つの方法としてあると説明してくれた(2015年11月号特集「かぜの顔した重大疾患を見逃すな」)。
(略)
 医療従事者が日常診療の中で医療に関する正しい知識を繰り返し伝える努力をすれば、患者の治療や予防に対する意識は変わる。医療従事者にとってみても、こうした取り組みは治療効果が得やすくなる上、しっかりと患者の話を聞いてくれる医師だと患者からの信頼を高めることにつながるのではないかと筆者は考える。
(略)

代替医療と言う言葉の定義としては「通常医療の代わりに用いられる医療」と言うものがあるそうですが、そもそも通常医療とは何かと言うこともなかなか難しいものがあって、とりあえずここでは保険診療プラス先進医療あたりまでを通常医療とし、免疫療法やホメオパシーなどは代替医療の側に入れたいと思うのですが、もちろん将来的にエビデンスが揃った時点で通常医療側に組み込まれてくるものも中にはあるのかも知れません。
この種の実例としては先日亡くなった女優さんが最後に頼ったのが怪しげな民間療法?だったことが話題になっていましたが、記事にもあるように進行癌など標準的治療では完治が望めないと言う場合、有害性がさほどなさそうなものであれば好きにしてもらうのは構わないだろうとも思うのですが、そうは言っても見るからに病人や家族の弱みに付け込んで悪どく儲けている詐欺紛い商法を見過ごすのもどうなのか?と言うジレンマもあります。
海外では終末期の患者の元には宗教家が訪ねてくると言う国もあるそうで、病院なども当たり前のようにお抱え宗教家を用意していると言いますから、物理的緩和ケアと並んで心理的緩和ケアとして認められているのだと言えるのでしょうが、それなら怪しげな拝み屋祈祷師の類も本人家族にとって心の平安が得られるならいいじゃないかと言う考え方もあるでしょうし、対価として妥当かどうかが一つの判断基準ですよね。
ただそうは言ってもこの種の心理的効果に対してどう金銭的価値を評価すべきなのかと言う公式がない以上、全財産を叩いても心の平安を得て亡くなるのであればいいじゃないかと言う考え方もあるはずで、そうなると亡くなると言うことを前提にした対処をしているかどうか、別な言い方をすれば治りもしないものを治る治ると嘘をついてお金を巻き上げていないかと言う点も一つの目安になるかも知れません。

代替医療と言われるものも様々なものがあって、一般的な科学の手法に則って行われているがあまりはっきりした有効性を示すエビデンスが未だ出ていないと言うレベルのものから、全く有効性を示す根拠はないが昔から民間療法として行われており、今さら完全に根絶するのも難しいから放置されていると言ったもの、そしてさらには明らかに詐欺紛いのインチキ商売として行われているものもあるわけです。
ある程度真っ当な?代替医療をやっている場合いわゆる標準治療を否定せず、きちんと病診連携をしながら通常の治療と同時並行で行おう施設が多いように思うのですが、こうした対応を行っているのは当然ながら一般的な臨床経験のある医師の先生方が大多数で、最初から全く医学的素養のない方々はそもそもこうした標準的な手順を知っているはずもありませんよね。
その意味では通常の医療と同じくきちんとしたインフォームドコンセントの上で行っているか、メリットだけではなくデメリットなどもきちんと説明されているか、そして費用や何かあった時の対処法などが事前に明確に示されているかと言った点は非常に重要な鑑別点になってくると思うのですが、実のところ標準的治療を行っている一般医療機関であってもこうした諸点を全てクリアにやれている施設はどれほどあるだろうかと言う疑問もありますね。
そしてこうしたきちんとした対応をしているかどうかと言う点は実のところ治療効果がどうかと言う点とは全く無関係であることも重要で、何の意味もない砂糖玉を舐めさせるだけの似非医療行為でもこれら諸点を完全にクリアにした上で行うことは全く問題なく可能なのですから、怪しげな代替医療に手を染める方々が正しい方法論に従ってそれをやりだした場合こそ非常にやっかいなことになるのではないかなと言う気がします。

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コメント

率先して宣伝に手を貸してるマスコミにも責任がある

投稿: | 2016年1月27日 (水) 07時46分

まだしも詐欺や金もうけでやってるほうがいいのかも。
本人も信じこんでむちゃくちゃやってる人のがこわいです。

投稿: ぽん太 | 2016年1月27日 (水) 08時51分

よく言われることですが、みんな信じたいものを信じるので、代替医療を受けたい!って考えている人を説得してやめさせるのは相当困難です。

投稿: クマ | 2016年1月27日 (水) 09時10分

代替医療を受けてて終末期になって紹介元に帰されるのが不誠実というなら、
先進治療でもう何もできることはないから自分で終末期の面倒見てくれるところを探せと言われるのは不誠実じゃないのかね
最後まで面倒みない点では一緒でしょ

投稿: | 2016年1月27日 (水) 10時08分

この問題は、説明義務なのか、説得義務なのか、という点ですよね。

一般的には「患者の自己決定権」ということをお題目にしておきながら、医学的に十分正しい知識を理解できるまで説明する必要がある(=狭義の説得)とされている矛盾です。

真の自己決定権なら、通り一遍説明してあとは委ねればよいわけで、医療者が共感など示す必要はないわけです。運送や保険の約款、どれだけの一般人が詳細に理解して契約しているのでしょうか?でも、医療においてはなぜ説得義務までが医療者に課せられるのでしょうか。

正しい自己決定できる=医学的に正しい道を選べるのなら、医療者が判断すればよいわけです。
そうでないなら、医学的に正しくない道に突っ走っても、医療者に責任を投げないで欲しい。特に家族! 

本人の説得義務は医者じゃなくて家族だろう!(でも、説得義務を認めちゃう判例が絶えないわけで)

投稿: おちゃ | 2016年1月27日 (水) 11時16分

結局はその点も含めてのIC次第なのですが、「絶対治すから!」と言い張って結局は死なせてしまったり手放したりするにも関わらず、案外紛争化していない点は要注目でしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2016年1月27日 (水) 11時17分

「免許がないのに怪しげな治療をした」が逮捕され、
「免許があるのに怪しげな治療をした」は逮捕されないんだよね
免許がある=医学的に正しい治療をする、ではないわけだ

投稿: | 2016年1月27日 (水) 12時11分

代替医療には整体も含まれるのだが、あまりにも魑魅魍魎が跋扈しすぎたので、
昭和33年に「あん摩マッサージ指圧師法」を作って、免許無しがマッサージや整体をしないようにしたのに、
名前変えたら大丈夫という都市伝説がまかり通って、今、大変な事になってる。

こういう小さな事を、しっかり抑えないから怪しげな代替医療や柔整師などの問題が拡大して、
人命など取り返しのつかない場所まで行くんだ。

厚労省は、あやふやな態度を取らず、しっかりと取り締まりをさせて欲しい。

投稿: | 2016年1月27日 (水) 13時31分

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