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2016年1月14日 (木)

介護離職は崩壊の前奏曲か

残念ながら今やすっかり珍しいものではなくなったいわゆる介護殺人と言われるものの中でも、悲劇的な経過や一種異様な公判の進行などからとりわけ有名になった2006年の京都での事件に関して、こんな続報が出て話題になっていました。

介護殺人その後 加害者も心に大ダメージ 社会復帰に壁(2016年1月5日毎日新聞)

(略)
 2006年に京都市伏見区で起きた認知症の母殺害事件。承諾殺人罪に問われ、有罪判決を受けた長男(62)が14年8月、大津市の琵琶湖で命を落とした。親族によると、自殺とみられる。

 確定判決によると、長男は06年2月、伏見区の桂川河川敷で車いすに座る認知症の母親(当時86歳)の首を絞めて殺害した。自らも刃物で首を切り自殺を図ったが、助かった。
 長男は母親の介護のために会社を辞めて収入が途絶え、生活苦に陥ったとされた。デイケアなどの介護費や約3万円のアパートの家賃も払えなくなった。役所に生活保護の相談もしたが、「まだ働ける」と断られていた。
 「もう生きられへん、ここで終わりや」と言う長男に「そうか、あかんか。一緒やで」と答える母親。長男の裁判で、検察側は犯行直前の2人のやり取りを詳しく明らかにした。被告の心情に寄り添うような検察側の姿勢もあり、事件は大きく報道された。
 京都地裁は06年7月、長男に懲役2年6月、執行猶予3年(求刑・懲役3年)を言い渡した。裁判官は「裁かれているのは日本の介護制度や行政だ」と長男に同情した。長男も法廷で「母の分まで生きたい」と約束した。

 それから約8年。長男はどう生活していたのか。親族らによると、長男は裁判の後、滋賀県草津市の家賃約2万2000円のアパートで1人暮らしを始め、木材会社で働いた。
 部屋には母親と事件前に病死した父親の位牌(いはい)を安置する仏壇を置いたが、事件のことを口にすることはなかった。勤務先の同僚は「真面目に黙々と仕事をこなした」。近所の男性は「誰かが訪れるのを見たことがない。孤独だったのでは」と話した。
 13年2月、「会社をクビになった」と親族に伝えたのを最後に、連絡が取れなくなった。自宅にも帰らず、行方が分からなくなった。親族が警察に行方不明者届を出したが、14年8月1日に遺体で見つかった。その日の朝、長男とみられる男性が琵琶湖大橋から湖に飛び降りるのを目撃した人がいたという。
 「彼は最後まで孤独から抜け出せなかった」。親族の男性は毎日新聞の取材に無念さをにじませた。男性によると、長男が亡くなる際に身に着けていたカバンには、自分と母親のへその緒、そして「一緒に焼いて欲しい」というメモ書きが入っていた。所持金は数百円で預金はなかった。
 「事件について何も語らず、誰も頼ることもなく逝ってしまった。彼にとって何が必要だったのか最後まで分からなかった」。男性は唇をかんだ。
(略)

記事によればその他にも同様に加害者側の自殺など不幸な結果に終わった介護殺人事件は少なくないようで、決して怨恨等が理由での事件でもないだけに当事者に大きな心身のダメージを残していたと言うことなのでしょうか、ともかくも関係者双方のご冥福を祈るしかないですね。
ただ京都の事件においても公判で裁判長からこうした事件が多発する理由を問われた加害者側である長男が「今日、明日を生きるために立ち上がる機会と、考える時間、そしてお金を与えて下さい」と答えたとあるように、やはり一定の周囲の支援や協力、そして何より経済的な裏付けと言うものが非常に求められていると言うことは理解出来ます。
その意味で多くの加害者がいわゆる介護離職後に事件に至っていると言う点には注目すべきで、介護と言うもののあり方や制度的な課題などと並んでやはり他人の世話をするためにはある程度自分の足下も確固たるものではなければいけないと言うことを思い知らされますが、こうした点を考慮したものか先日国がこうしたことを言い出したようです。

政府、介護離職防止へ助成金 企業対象、工夫を後押し(2016年1月3日産経新聞)

 介護離職者が年間10万人超という事態を打開しようと、政府が社員の仕事と介護の両立支援に取り組む企業を対象に新たな助成金を創設することが2日、分かった。育児・介護休業法では介護を抱える社員らに休業や時短勤務措置といった制度を設けているが、取得者が少ないのが現状だ。助成金の創設で、安倍晋三政権が掲げる「介護離職ゼロ」に向けて制度の活用を促す狙いがある。

 助成金は「介護支援取り組み助成金(仮称)」と「育児介護支援プランコース(同)」の2つ。いずれも平成28年度から始める。

 取り組み助成金は介護休業や時短措置を取りやすい工夫をした企業に60万円を給付する見通しだ。介護に関する社員への意識調査やハンドブック策定などによる制度の周知徹底のほか、法で定める休業を分割取得できるようにする-といった取り組みを想定。企業規模は問わず助成は1回限りとする。

 支援プランコースは中小企業が対象で、介護休業からの「復帰プラン」を策定し取得者が出れば30万円、復帰の時点でさらに30万円を給付する方向。社員が正規と非正規のいずれの場合でも助成金の申請ができ、給付額は1企業当たり最大120万円となる見込みだ。

 育児・介護休業法では、対象家族1人につき通算93日までの介護休業と勤務時間の短縮などを認めている。だが、厚生労働省の調査によると、「介護しながら現在の勤務先で働き続けられるか」の問いに対し、介護者や介護の可能性がある人のうち8割近くが「続けられない」か「わからない」と回答。休業などの制度についても半数以上が「あるかどうか知らない」と答えており、政府は助成金を制度普及の誘因としたい考えだ。

記事中にもありますようにこの介護離職者対策と言うものは今回初めて始まったと言うわけではなく、すでに育児・介護休業法と言う法律が制定されているわけなんですが、事業主に申し出る毎に年に5日間まで、通算93日間まで介護休業を申請出来ると言うもので、それによって労働者に不利益な扱いをしてはならないと言った規定は当然あるものの、企業側にとっては法的義務と言う以上のものではないとも言えます。
有給取得率すら低い日本人が介護休業を取得出来るのかだとか、そもそも通常回復が見込みがたい病態であることが多い介護に関して現実的にこの日数で意味があるのかと言った様々な疑問も感じる制度であるし、事実こうした制度に限界を感じているからこそ毎年10万人以上が介護離職しているとも言えそうなんですが、今回はこの介護休業に関して企業側にも利益誘導を行うと言う点が目新しいとも言えますね。
昨今では人材不足が各方面で言われており、特に中小企業においてはおいそれと新規採用も難しいことを考えると熟練労働者は基本的に企業側にとっても引き留めたい対象なのだと思うのですが、そうした引き留め策としては妥当な支援とも言えるにしても、さて離職防止への実効性はどうなのか、そもそも支援策としてこの方向性で正しいのかと言う疑問もあるところです。

なぜ介護のために離職してしまうのかと言う根本に立ち返って見れば、例えば介護離職者をそのまま介護業界に取り込んでしまうと言う考え方もあるはずですが、そもそも介護離職するような人は自ら介護をする意志があるのですから、ただでさえ人材難が言われる介護業界としてもいつ逃げ出すか判らない新卒者などよりもよほど確実性が見込める労働者であるとも言えますよね。
先日は弁護士や介護関係者が政府に介護労働者の給与引き上げ要望書を提出したと言うニュースがありましたが、現在の介護業界がこれほど人材難である理由の一つとして労働内容自体に魅力が乏しいと言うこともさることながら、やはり現実的に結婚して家族を養っていけるかと言えばそれだけの収入が見込めないと言う点が離職者続出と言う点で一番大きいのではないかと言う気がします。
その点では介護離職をするような方々は言ってみれば他に家族がいないからこそ離職せざるを得ない場合がほとんどであると言え、極論すれば生活コストとしては独身者と同程度のものが担保されれば家計をやり繰りできる可能性も高いのだろうし、将来の年金等の世話さえしっかりしておけば介護と就労を両立可能な受け皿として機能しそうな気はします。
医療介護領域などはマンパワー集約型産業の代名詞とも言え、一人一人を家庭内で個別に介護しているよりは一カ所に集めてまとめて対応した方がはるかに効率的であることは言うまでもないのですが、今回の補助金にしてもあくまでも国が絶讚推進中の自宅介護を想定してのシステムと言う見方も出来る話なので、さて本来的にこの方向で支援していくのもどうなのかと言う疑問も感じるところですよね。

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コメント

介護離職保険って売り出したら人気出るかも

投稿: | 2016年1月14日 (木) 07時53分

現在40代以下の人々は「死ぬまで貧困世代」
http://biz-journal.jp/2016/01/post_13286.html

投稿: | 2016年1月14日 (木) 08時25分

「助成金を創設」したところで、個人にとっちゃあ60万円て大きいけれど、企業で1回だけの給付じゃ何の意味もないでしょうね。
これ考えた人って、一般常識皆無じゃない?

投稿: | 2016年1月14日 (木) 09時07分

だってパートで働けばポンと25万ですからw

投稿: | 2016年1月14日 (木) 09時33分

有り余る収入があれば、高額な民間老人ホームに入れるなど介護離職せずに済ませるのは容易です。
身内の介護は、平均的収入の労働者には払えない膨大な金があれば解決できることが多い。
政治家や高級官僚はそれだけの金を用意できるため、身内の介護で悩まずに済みます。
だから彼らは現実に生じている問題を実感することができず、現実に即した対策など立てられない。

投稿: | 2016年1月14日 (木) 10時34分

ただ現状でも多くの家庭内介護に難渋している家族が、本来利用できたはずの支援を知識不足等から受けられていない側面もあるように思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年1月14日 (木) 10時47分

政治家、官僚はコネで既存制度を最優先最大限に利用できるから、
高額老人ホームを利用できなくても既存制度の範囲内で介護可能と思ってたりしそう
コネもつてもない一般人が支援を申請しても
行政がパンクをおそれて利用させないように仕向けてるとかありそうなんだけど

投稿: | 2016年1月14日 (木) 11時08分

これらは、コストをどこが負担するかという問題ですよね。
介護職に払うか(あるいは買いたたくのか)、企業が身銭を切るか(介護休暇での損失分)、労働者が払うか。

どこをとっても本質的な議論が抜けているのは、「どれだけお金を掛けるか」

認知症で胃瘻とか、繰り返す誤嚥性肺炎に濃厚治療とか。「食べられなくなったら人生おわり」という人生哲学を持つかどうかに向き合うことなく、お上の定めた何かに従い、責任も負わない日本人のツケが、今来ていると思います。

投稿: おちゃ | 2016年1月14日 (木) 13時53分

お前らの肉親にもそれ言えるの?

投稿: | 2016年1月14日 (木) 17時48分

>お前らの肉親にもそれ言えるの?

言えますよ?どうしてやらないのかって、見殺しにするって意味じゃなくて、やっちゃうと生き地獄になるのが(たくさんの人を診てきているので)分かっているからですよ。

普段介護もしないような血縁筋の、そのような無責任なプレッシャーが、介護地獄を産んでいるんですよ。
社会全体で解放してあげないと、当事者だけで決めるのは困難ですからね(周囲からのプレッシャーで)

投稿: おちゃ | 2016年1月14日 (木) 17時54分

「食べられなくなったら人生おわり」という人生哲学

高福祉の北欧、寝たきりのいない北欧、理由はこの人生哲学ですよ。胃瘻は高齢者虐待と考えられています。

投稿: おちゃ | 2016年1月14日 (木) 17時55分

>認知症で胃瘻
認知症が理由で胃瘻が作られるのは、多くの場合食べる意思を失った人達です。
目の前に食事を置いても、口元まで食物を近づけても、口の中に入れても、食べようとしない。
中にははっきりと「食べたくない」と言う人もいます。
こういう人達は空腹による苦痛を訴えません。
私は胃瘻が虐待とも思いませんが、こういう人達に栄養摂取を無理強いする必要はないと思っています。

逆に本人に食べる意思があるにもかかわらず、身体的機能の問題で食べることが難しい人、できない人には積極的に胃瘻を勧めています。

>繰り返す誤嚥性肺炎
繰り返す人ってのは、治ったと思ったら次の肺炎を起こした、なんてことがめずらしくありません。
そのうちに抗生物質が効かなくなるのと、消耗によって死ぬわけです。
こういう人の肺炎を治療するというのは、肺炎を治すためというよりも肺炎を繰り返させるため、と言うに等しい状況になることがあります。
肺炎はやはり見ていて苦しそうです。
何回も肺炎で苦しませてから死なせるのは良いことなのでしょうか。

投稿: JSJ | 2016年1月14日 (木) 18時47分

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45510?page=3

胃瘻=虐待はややセンセーショナルに書いてしまいましたが、このような記事が一般に出てきているのはいいことだと思います。

投稿: おちゃ | 2016年1月15日 (金) 10時14分

カネで買えない大切なもの
などというキレイゴトが良く話題になるけど

世の中にはカネでないと買えない重要なものが多いことも
しっかり認識しておく必要があるんだよな

投稿: | 2016年1月15日 (金) 11時11分

↑で紹介いただいた記事は非常に示唆的で、裏読みをすると日本で高齢者に対する入院入所での濃厚対応が行われているのも、家族にとってはそれが一番安価で低負担であるからと言うことも出来ると思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年1月15日 (金) 12時25分

高齢者のことが問題ですが、
無理やり生かすのが虐待だというなら、
つきっきりで世話をしないといけない子供の救命なんてのもどうなんですかね

投稿: | 2016年1月15日 (金) 14時32分

↑子供には未来がありますから…。
つか、それって「一見、関係がありそうで関係のない話を始める」って奴じゃ?

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年1月15日 (金) 15時59分

え?
医療の力で生かしてる子供は未来があって、
医療の力で生かしてる老人は未来がないってこと?
子供は別枠?

投稿: | 2016年1月15日 (金) 16時55分

ああ失礼、回復の見込みがない重度の心身障碍者のお子さんとかそういった話ですか。それだったらおっしゃる通りで平等に価値がないと思いますw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年1月15日 (金) 17時39分

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