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2016年1月25日 (月)

どうせ治らないなら治療しないと言う人は必ずしも珍しくありません

患者の立場としては非常に気になるだろうニュースが先日出ていましたが、まずはこちらの記事から紹介してみましょう。

がんの10年生存率は58%、国がんが初集計(2016年1月20日医療ニュース)

 国立がん研究センターは1月20日、全国がんセンター協議会(全がん協)の加盟施設における、胃や肺など28部位別のがん 症例の10年相対生存率などが調べられるデータベースを公表した(詳細は、全がん協のホームページ)。同センターは1999年から5年生存率の公表をしているが、10年生存率の公表は初めて。1999年から2002年までの症例(28の部位)を基にした10年相対生存率は58.2%で、5年相対生存率(63.1%)より4.9ポイント低かった。 同センターのがん登録の整備に関わる研究班が集計した。

 主ながんでは、胃がん69.0%(比較可能な同時期・同施設の5年相対生存率は70.9%)、大腸がん69.8%(同72.1%)、肺がん34.4%(同39.5%)、乳がん80.4%(同88.7%)、子宮けいがん73.6%(同78.0%)、肝臓がん15.3%(同32.2%)など。乳がんや肝臓がんなどで、これまで生存率の指標とされてきた5年以降も生存率が低下しており、研究に加わった群馬県衛生環境研究所長の猿木信裕氏は会見で、「(5年以降も)定期的な検診をし、きちんとフォローアップすることが大切だ」と指摘した。

 がん対策情報センター長の若尾文彦氏は、「臨床の医師は感覚的に知っていても、実際にデータとして出たのは初めて。データとして(患者にも)見せることができるようになった」と初集計の意義を強調。

 同センター理事長の堀田知光氏は、58.2%という全体の数字について、「(症例を集計した)10年前と比べ、分子標的薬や免疫療法など、がん治療は飛躍的に進歩している。約6割という数字はベースライン。今の患者のデータはより改善されているはずで、今後の向上が期待できる」と述べた。

 全がん協では、加盟する32施設で、1997年から2007年までに診断治療を行った約40万症例を収集。そのうち、追跡率や症例数が一定の基準を超え、施設長から公表の同意が得られたものを集計して一覧表にした。自施設で治療した症例が対象で、診断のみの場合は含まれていない。10年相対生存率は、1999年から2002年に診断治療した約3万5000例(16施設)を初集計、5年相対生存率は2004年から2007年に診断治療をした約14万7000例(30施設)を新たに集計し公開している。5年相対生存率の一覧では、施設別の数値も閲覧できる。
(略)

言われる通りこのデータをベースラインとして今後の癌対策が進んでいくのだと思いますが、癌腫によってかなり数字が違ってくるのは仕方のないことだとは言え、やはり化学療法など治療法が進歩し長期に渡ってコントロール出来るようになった癌も増えてきている一方で、まだまだ長期生存が期しがたい癌と言うものも少なからず言えるかと思います。
これらは癌そのものの性質も大きく関与しているのはもちろんですが、いかに早期発見早期治療が出来るかと言うことも非常に重要であることは言うまでもないことで、胃癌や大腸癌、乳癌や子宮癌などは自治体の癌検診などにも組み込まれチェックがされている一方で、膵臓癌などは未だに早期と言える状況で発見されることが極めて稀であることは検診などの整備状況も関連していそうです。
最近では微量の血液で癌をチェックできる方法も開発されてきていて、コストや精度などに折り合いがつけばいずれ人間ドック等のオプション検査からでも導入されそうに思うのですが、こうした早期発見、早期治療への期待に水を差すようなこんな記事も出ています。

がん検診、受けても受けなくても生存率に変化なしか? (2016年1月21日Gizmodo)

ウソでしょう?
思わず、そうつぶやきたくなる衝撃的な研究発表が、医学ジャーナルのBritish Medical Journal(BMJ)の最新号に掲載されましたよ。複数の大学教授、医師、腫瘍学者などからなる研究チームがまとめた同発表は、がん検診の精度そのものを疑問視するものではありません。しかしながら、がん検診によって、実際に患者の生存率に変化があるのかどうかは疑問視する内容となっていますね。

例えば、同研究チームは、検診によって大腸がんと診断された患者1万人を、30年間にわたって追跡調査。大腸がんが原因で死亡した患者は128人だったそうです。1万人における大腸がんによる死亡者数は192人ということですから、早期検診は効果があるように見えます。しかし、大腸がん以外の原因も含めると、調査期間中に死亡した人数は7,109人に達していました。早期のがん検診を受けなかった大腸がん患者層1万人に関しても、同じように追跡調査したところ、なんらかの事情で同期間中に死亡した人数は7,111人でした。
さらに、ほかの身体部位のがん検診に関しても、似たような手法で診断患者の追跡調査を実施。全10種類の検診内容分析のうち、特定のがんと診断された患者層が、そのがんを直接原因として死亡する例が減ったのは3種類にとどまりました。とはいえ、別の原因も含めた、調査期間中に死亡した患者総数は、早期の検診を受けなかった患者層の全体的な死亡率と比較して、まったく変化がなかったと報告されています。
この数字だけでは確たることは示されませんけど、がん検診を受けると格段に生存率がアップするわけではないのでは? そんな疑問が呈されていますよ。

研究発表では、早期のがん検診によって、がんによる死亡率が減っても全体の死亡率が減らない理由について、3つの憂慮すべき点をあげています。まず、がん発見後の治療が、患者の身体に与えるダメージが大きく、その治療が原因で命を縮めてしまう患者が少なくないことです。次に、がんと診断されることの精神的なダメージです。例えば、前立腺がんと診断された男性は、その診断後1年に自殺する危険性が、同年齢層の男性全体と比較して極めて高まることが明らかにされていますよ。精神的な苦痛から、結果として、かえって死を早めてしまうがん患者が多いことも懸念されていますね。
がん検診が全体的な患者の生存率に劇的な違いをもたらさない3つ目の理由は、乳がん検診で多用されているマンモグラフィーを例に説明されています。検診技術が向上し、非常に小さな腫瘍の段階から、乳がんが発見される率も高まりました。とはいえ、こうした小さな腫瘍が、すべて実際にその後も生死に影響を与えるほど大きくなっていくわけではありません。そのまま置いておいても、死につながらない腫瘍もあることがわかっています。つらい治療を受けさせることで、かえって患者に身体的、精神的なダメージを与えてしまい、早期の発見が生存率を高める効果を発揮するにはいたっていないのでは? そんな意見が発表されていますよ。

検診によって、がんの腫瘍が非常に早い段階で発見されるようになっても、すぐにがん治療を開始すべきかに関しては誤診も少なくないそうです。治療そのものが、健康な身体部位に与えるマイナス面でのインパクトも過小評価できません。なによりも、早くがんと診断されたことから受ける精神的ストレスの度合いは計り知れない……。決してがん検診の精度が悪いわけではないのですが、人の命を救うという観点で考えた時には、早期検診の是非を含め、まだまだ改善点が多い。そんな厳しい現代医療の課題が浮き彫りになった形ですね。

いわゆるガンモドキ理論なるものも少しばかり連想されるようなこの話、対象疾患の比率が少なければ全体の中での影響も小さくなるのは当然ではないかと言う来もするのですが、ただ「調査期間中に死亡した患者総数は、早期の検診を受けなかった患者層の全体的な死亡率と比較して、まったく変化がなかった」と言われると、確かに癌検診による効果を疑問視したくもなりますよね。
ただその効果なるものが何に対する効果なのかで、記事にもあるように癌による死亡は減ったとしても関連する他原因での死亡がかえって増えていたと言うのは盲点でしたが、この辺りは国によっていわゆる告知の仕方などもずいぶんと違っていると思われますので、日本では生存率に影響を与えるほど癌告知後の自殺者が増えていると言う印象はないのですが、どこかにデータがあれば参考にしたいところでしょうか。
一応この種の批判に対しては以前から各方面でなされ反論もされていて、例えば健診で受ける胸部レントゲンなどは肺癌検診目的ではあまり意味がなさそうだと言う議論が長く続いてきましたが、一応は今現在自治体などから案内が回ってくるようなものに関しては相応に効果が確認出来ていると言うことになっています。

ただそれでも世の中には「癌検診など受けるな」と主張する方々が一定数いらっしゃるのが問題で、その多くは医学的には全く馬鹿馬鹿しい内容であったり実際の癌診療に関して無知であるとしか思えない荒唐無稽な内容なのですが、それでも部分的には事実の一端をかすめているような部分もないことはないのが扱いがややこしい点ですよね。
最終的には検診や健診の類は個人がそれぞれの考え方に基づいてどう扱うかを判断すべき問題なのでしょうし、海外などでは「どうせ何か見つかっても治療費が払えないのだから」とそもそも検査や診断自体を受けないと言うケースは相応にあって、これはこれで筋が通った話ではあるとは思いますが、日本においては幸いお金がなくとも医療に関してはとりあえず何とかなると言う態勢が今のところ保たれているわけです。
そうなると個人の考え方としてどうかと言う点が非常に重要になってくる道理で、出血多量で死ぬと判っていても輸血を拒否してなくなるだとか言ったケースと同じように扱うべきなのかとも思うのですが、輸血拒否事例が案外医療現場で受け入れられたのは実際に亡くなるまで拒否を貫徹することが知られたからと言う側面もあって、もう一押しすれば輸血していたと言う事例があったら話がずいぶんとややこしいものとなっていたかも知れませんね。
糖尿病患者などに割合多いそうですが、さんざん治療拒否していた人がいよいよ網膜症で失明状態になってから「先生そろそろ見えなくて困るから何とかしてよ」などと言ってくると言う困ったケースも散見されるそうで、何事であれ他人とは違う道を進もうと決意したからには、最後までそれを貫き通さなければ周りの方が大変なのだろうなと言う気はします。

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コメント

患者の希望を医者が認めるかどうかが一番大事じゃないの?
病院恨みながら死んでいく人は少なくないんだから

投稿: | 2016年1月25日 (月) 08時08分

先生におまかせしますじゃなくて主体的に治療にかかわるのはいいですね。
一方通行でなく患者さんからもいろいろと言えるようになればいいと思いますよ。

投稿: ぽん太 | 2016年1月25日 (月) 08時25分

一方ではインフォームドコンセントと言う大原則もありますので患者の意志に反することは出来ないはずなのですが、他方で保険診療上の制約もありますので完全に希望通りともいかないところもありますね。

投稿: 管理人nobu | 2016年1月25日 (月) 11時00分

えっと
コンセントで正しかったんでしたっけ?

投稿: | 2016年1月25日 (月) 19時34分

こんばんは.

「あなたはもう治りません」

「手遅れです」
って……僕は外来で多用していますね.
「誤解を生むような,無責任な励ましをしてはいけない」
と20年前に先輩から教わりました.

投稿: 耳鼻科医 | 2016年1月25日 (月) 20時02分

>コンセントで正しかったんでしたっけ?
つinformed consent

投稿: | 2016年1月25日 (月) 20時23分

>「誤解を生むような,無責任な励ましをしてはいけない」

将来彼氏も結婚もできないんですね分かりますw
http://gurikenblog.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-4b10.html

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年1月26日 (火) 14時06分

>最後までそれを貫き通さなければ周りの方が大変なのだろうなと言う気はします。

 周りが大変か、が 最後までそれを貫き通すかどうか、
 と相関するなどとは思えません。一時的な気分の問題でしかないような。

>何とかしてよ」などと言ってくると言う困ったケースも散見
 困った、と反応するのは 僭越至極な全能パターナリズムでは?
 できないものはできない、お気の毒様から再構築する気があるかどうかだけ。

 

投稿: | 2016年1月27日 (水) 20時12分

まあ貴兄のお考えはそれとして

投稿: | 2016年1月27日 (水) 21時13分

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