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2016年1月15日 (金)

高齢者は不健康な状態がデフォ

正月早々にあまりおめでたい話でもないのですが、先日こんな訴訟があったと報じられていました。

治療怠り転院で死亡 遺族が病院を提訴(2016年1月6日河北新報)

 総合南東北病院(宮城県岩沼市)に入院していた宮城県亘理町の女性=当時(80)=が死亡したのは、病院が適切な治療をせずに転院させたためだと、女性の遺族が5日までに、病院を運営する医療法人に100万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。
 訴えによると、女性は細菌による感染症などで入院し、2014年12月15日ごろ退院。翌16日に岩沼市の別の病院に移ったが、約1カ月半後に感染症などにより急激に腎機能が悪化し、肺に水がたまって呼吸不全で死亡した。
 遺族側は「南東北病院は退院当日も女性を感染症と診断しており、呼吸不全になりやすかったのに、認知症が進んだ女性は入院診療に手間がかかるとして退院させた」と主張している。
 医療法人は「弁護士に任せているのでコメントできない」と話している。

ちなみに総合南東北病院と言うと449床を要する地域の基幹病院ですが、先年の東北に医学部を新設すると言う話においても自ら立候補したと言うくらいですから、ある意味で大学病院に準ずると言ってもいいような施設でしょうか。
記事から判断する限りではこの種の高齢患者の典型的経過に見えるところで、これを言い出せば高齢者は一生退院出来ないと言うことになってしまいますが、この種の民事訴訟としては極めて異例と思われることに損害賠償請求額が100万円と言うところに、担当弁護士なりのいろいろと難しい判断があったようには感じられますでしょうか。
WHO憲章の前文には健康の定義として「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない」と言う有名な文言がありますが、設立以来半世紀以上を経たせいか必ずしも健康とはこの言葉通りではないのではないかと言う疑問もしばしば提示されていて、例えば生まれつき心身に何らかの障害がある人はそもそも健康には決してなれないのか?と言う反論もありますよね。
高齢者においても各種身体機能や能力、場合によっては社会的立場などにおいて各種の制限や制約がありますが、それでもその人なりに健康であると言える状態は確かにあるもので、年中入退院を繰り返していても健康であると言う場合もあるのだと思いますし、逆に人間いつまでも前述の定義通りの健康状態でいられるわけではないと言うこともまた承知しておかなければならないはずです。
ただ現実的に高齢者が各種の理由で健康を損ないやすいのは確かであって、その場合どこまでの対応をすべきなのかと言うことが近年いわゆる医療崩壊、救急崩壊と言った現象と絡めて次第に論じられるようになってきたことは周知の通りなのですが、先日こんな記事が出ていたことを紹介してみましょう。

【神奈川】救急出動、右肩上がり 高齢化、119番だけが頼り(2016年1月6日神奈川新聞)

 横須賀市消防局が5日までにまとめた2015年の消防活動状況(速報値)のうち、救急隊出動件数は前年比264件増の2万2960件に上った。消防局は「高齢化の影響でお年寄りの搬送が増えており、出動件数も右肩上がりになっている」と話している。
 救急出動件数の主な内訳は、急病が1万5760件(213件増)、一般負傷3569件(264件増)、交通事故1382件(13件増)。119番通報は3万2330件(13件減)で、1日平均89件だった。

 14年の救急出動の搬送者1万3891人のうち、約6割が65歳以上の高齢者だった。高齢化率は県内でも高水準の29・32%(15年10月)で、救急搬送に占めるお年寄りの割合は今後も増える見込みだ。
 「屋内で転んで立てない」「息苦しい」「持病が悪化した」といった119番通報が寄せられる。市内では1人暮らしの高齢者も増加の一途で、具合の悪い本人からの通報もある。
 平日の午前中から、市内全12台の救急車がほぼ出動し、ぎりぎりの運用を迫られるケースも珍しくない。一方で、搬送者の大半は入院まで要さない軽傷という。

 消防局担当者は「地域で頼れる人も少なくなり、ある意味で119番しか選択肢がないのかもしれない。でも(救急車や人員の)数を増やすのも限界がある。効率的に対応できる態勢づくりに努めたい」と話す。
(略)

いわゆる足がない独居高齢者がつい何でも救急車を呼んでしまうと言うことはままあることであり、また基礎疾患あまたと言った場合実際に重病なのかどうか判断が難しいケースも多いのである程度仕方ないところもあるのですが、それでも「これで救急車を呼ぶ?」と考えるような救急搬送もそれなりに多いのは確かですよね。
ちょうど先日神奈川県内では横浜市で全国6番目だと言う救急ダイアルの運用が始まったと報じられていて、迷ったときはまず電話で相談をするようにと誘導しているそうですが、もともとこの救急ダイアルも小児対象に運用されていたものが、高齢患者の増加を踏まえて新たに全年齢対象に拡大されたものだと言います。
もちろん正当な理由で救急車を呼び、救急病院で治療を受けた場合も高齢者の場合自宅生活が出来るようになるまで回復しきらないと言うこともままあって、これらをどうスムースに急性期から回復期病床等へ流していくかと言った事も重要な課題ですが、この点で冒頭の記事のように「まだ回復しきっていないのに!」「最後までちゃんと診てください!」と言う家族の声にどう対処するかと言う問題もありますよね。

今後ますます高齢化が進展し若年世代と同居していない高齢者もますます増えてくると予想されるだけに、今後も救急搬送に占める高齢者の割合は増える一方ではないかと考えられますが、医療側として基礎疾患持ちも多いだけに救急病院がかかりつけと診療情報を共有すると言う事が非常に重要であり、例のマイナンバーなども活用するなりで地域内での医療情報ネットワーク構築が急がれるところです。
また昨今しばしば言われるところですが、もともと自宅や施設で看取る予定であった末期高齢者が周囲の連絡や手配が悪かったばかりに看取り目的で高次救急に搬送されるケースも増えていると言い、これが本来的な救急業務を圧迫しているとなれば大変なことですので、これまた普段からきちんと情報を共有し段取りを決めておくことが大事ではありますが、この辺りは医療側にとっても課題と言えますね。
要するに何かある可能性が高いハイリスク層であると言う前提で予め準備を調えておく必要があると言うことなんですが、この点でなまじ元気で持病も何もないと言う高齢者の方々の方が医療情報がなくいざと言う時引取先探しに苦労すると言うケースもままありますから、ある程度歳が行けば普段からかかりつけ医の一つくらいは持っておく方が安心ではあると思いますね。
この点で国の方針としてかかりつけ医は地域の開業医などをイメージしている気配があるのは気になるところで、急病時には救急病院にかかったとしてもその後かかりつけの開業医では対応できない状態になってしまい引受先に困ると言う場合も高齢者では少なくないだけに、近年何かと冷遇されてきた地域の中小病院の役割と言うものは高齢化社会において見直していくべきところもあるように思います。

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コメント

>約1カ月半後に感染症などにより急激に腎機能が悪化し、肺に水がたまって呼吸不全で死亡

この経過で転院先じゃなく転院もとを訴えた理由がよくわからないんですが。

投稿: ぽん太 | 2016年1月15日 (金) 08時00分

後医は名医

投稿: | 2016年1月15日 (金) 08時45分

察するに、転院先は感染を診断し治療も適切だった。そのため、訴えるところがない。何かミスをあら探ししようにも、感染症を発症するような状況で転院させたということしか訴える部分がなかった。

しかも、死亡の感染症ではなかったので、損害賠償もその点では請求できないため、濃厚な治療を受ける機会を逸したという「期待権」しか訴状に書くことができなかった。当然弁護士は(割に合わないので)止めたが、どうしても訴えるといってきかなかった。

弁護士も、一見さんなら断れたが、つきあいがあるので断り切れなかった、

こんなところじゃないでしょうか

投稿: おちゃ | 2016年1月15日 (金) 10時10分

まさに御指摘のような経緯ではないかと想像するのですが、儲けにもならず事前に加え事後の対応も非常に大変だろうと考えられる業務を引き受けることになった弁護士氏も苦労しているのだろうと思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年1月15日 (金) 12時27分

↑嫌ならやめろw。
*応召義務もないんだし。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年1月15日 (金) 15時54分

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