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2016年1月20日 (水)

素晴らしい理念が現場で必ずしも受け入れられていない現状

本日の本題に入る前に、先日は悲惨なバス事故で大勢の方々が犠牲になったばかりで、ともかくも事故と言えば誰にとっても起こって欲しくないものですが、先日こんな事故のニュースが報じられていたのを御覧になったでしょうか。

病院ベッドから転落、乳児に後遺症…1億1300万円賠償命令(2016年1月14日読売新聞)

 鹿児島市立病院で2007年にベッドから転落して後遺症が残ったとして、当時生後7か月だった男児(9)と両親が、市に約1億7100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が13日、鹿児島地裁であった。

 川崎聡子裁判長は、転落事故と後遺症との因果関係を認め、市に約1億1300万円の支払いを命じた

 判決によると、男児は07年1月14日、自宅で、座った状態から後ろに転倒して後頭部を打って入院。翌15日、病院でベッドに乗せられていた際、床に転落し、側頭部に外傷性の急性硬膜下血腫が認められた。その後、手足や目に後遺症が残った。

 川崎裁判長は、医師と看護師が目を離した間に男児がベッドから転落したと認定。「転落事故後、容体が急激に悪化した。事故がなければ重大な後遺障害の発生を回避できた」と指摘し、「自宅で転倒した際の症状が悪化した」とする市側の主張を退けた。

 鹿児島市立病院総務課の児玉哲朗課長は「主張が認められず、残念。判決内容を精査し、今後の対応を検討したい」と述べた。

事の経緯についての詳細を存じ上げないのですが、病院側としては自宅での転倒による症状が悪化したものであると主張していたのに対して裁判所は事故後に容態が急に悪化したことを問題視したと言うのですが、いずれにせよ生後7ヶ月の乳児をベッドに乗せて目を離したと言うのは安全対策上問題があったとは言えそうでしょうね。
司法関係者によればこれだけ判決まで長くかかったと言うのは転落に対する注意義務違反が明らかであっても、転落と障害との間の因果関係が争われたせいではないかと言うことなのですが、仮にそうしたことを見越して病院側弁護士が法廷戦術を選択していたのだとすれば、相応に報酬分の仕事は果たしていたと考えるべきなのでしょうか。
いずれにしても裁判の結果に関わらずこれも当事者いずれにとっても何ら益のない事故と言え、起こらなければそれに越したことはなかったと言うしかない話なのですが、医療現場においてはどうしてもちょっとしたことが重大な結果に結びつく可能性も高いだけに、どのようにして事故を予防するかと言うことが悩ましいところではありますよね。
特に近年では不隠状態などを理由に患者を拘束することはよろしくないと言うことになってきていて、現場では非常に頭の痛い思いをしている場合も少なくないと思いますけれども、こうしたリスク回避と言う観点に絡んで先日こういう解釈の余地のあるニュースが出ていたことを紹介してみましょう。

"障害理由の診療・調剤拒否は「不当な差別」- 厚労省、医療事業者向け指針策定(2015年1月14日CBニュース)

今年4月に障害者差別解消法が施行されることを踏まえ、厚生労働省は、医療関係事業者向けのガイドラインを策定した。医療機関や薬局で障害を理由に診療や入院、調剤などを拒否することは、「不当な差別的取り扱い」に当たる恐れがあると指摘。てんかんや認知症などの対応も記載している。【新井哉】

ガイドラインでは、障害者差別解消法が障害を理由にサービスの提供を拒否したり、場所や時間帯などを制限したりすることを「禁止している」と説明。対象となる障害者については、発達障害を含む精神障害や身体・知的障害などを挙げている。

医療関係事業者の範囲については、病院や診療所、助産所、調剤を行う薬局などを挙げ、障害者差別の解消を図る観点から、ハード面のバリアフリー化や職員に対する研修などの施策を着実に進めることを求めている。

また、医療機関や薬局で、人的体制や設備が整っているにもかかわらず、障害があることを理由に診療や入院、調剤などを拒否することや、身体障害者補助犬の同伴を拒否することは、正当な理由がない場合は「不当な差別的取り扱い」に該当すると指摘。サービスの提供についても、▽診察を後回しにする▽診察室や病室の制限を行う▽必要な情報提供を行わない―ことは差別の恐れがあるとしている。

ガイドラインでは、うつ病などの気分障害や統合失調症、アルコール依存症、てんかん、認知症などへの対応も提示している。例えば、認知症の対応は「小さな異常を感じた時に速やかに適切な機関に相談できるようにする」と記載。てんかんについても「発作がコントロールされている場合は、過剰に活動を制限しない」としている。

実際のガイドラインはこちらを参照いただくとして、基本的には医療現場は比較的この種の差別意識は少ない職場ではないかと思いますが、そうではあっても各種診療の都合上区別することが必要となる局面も多いだけにどうするべきか迷う話で、それこそ各種心身の異常により指示に従えない状態であり、なおかつ施設側の能力的にそれに対応できない場合にどうするのかと誰しも疑問に感じるところですよね。
例えば夜間の当直帯でひ弱な女医さんと看護師二人しかいないところに協力を得られそうにない上に体力のある患者が来た場合、理念はどうあれこれに対応しろと言われても物理的に無理だろうし、下手に受け入れてしまうと何かしら重大事故に結びつくリスクは高くなるはずですが、それを差別的取り扱いだと言われると現場としても困るでしょうね。
病室の制限などに関しても始終大声で叫びまくっている人がいるとして、これを病棟のど真ん中の部屋に入れてしまうと周囲の患者はおちおち療養も出来ませんから端の方の部屋を探すことは多いはずですが、これを病室の制限は差別だと言われるとそもそも受け入れたことが間違いだったと考えるしかないところでしょう。
その辺りについて「人的体制や設備が整っているにもかかわらず」と言ったあたりがぎりぎりの落としどころなのでしょうけれども、では整っているかどうかを誰が決めるのかと言うことはここでは明らかになっていないわけで、「お前達十分診られるじゃないか」とクレームがついた場合に施設側の主観で対応をお断りしてもいいのかどうかです。

こうした指針が出てくる背景には当然ながら実際に差別的取り扱いが行われている、あるいは少なくともそうであると考えている人がいると言うことになりますが、事実関係として言えば消防庁の調査で救急受け入れの実態を調べたところ、「急性アル中」や「精神疾患患者」「未受診妊婦」の場合受け入れ困難になることが多いと言うデータがあります。
要するに医療現場ではハイリスク症例に関しては相応に防衛的対応が進んでいて、それによって困っている方々もいらっしゃると言うことなのでしょうが、非常に深読みするならばこうした対応を医療現場に強いるとなるとマンパワーに不足のある施設ほど容易に淘汰されてくるはずで、国としては容易に対応能力の低い中小病院を排除出来ると言うことも考えられそうですよね。
もちろん基本的にはバリアフリー化などの対策を進めることは患者にとっても大いに利益になることであり、医療関係の施設であれば一般社会以上に率先して取り組むべき課題であることは言うまでもありませんが、文字通りに解釈するならば医療現場にとっても大いなる混乱を呼びかねない話なだけに、どのように運用されるのかと言う点に注視していく必要性はあるように思います。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

当院には精神科がないので受け入れできませんは正当な理由になるんでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2016年1月20日 (水) 08時37分

↑仮に正当な理由にはならない、としても「違反」したところでムショにぶち込まれるわけでもないでしょうし(ですよね?)基地外を受け入れるくらいなら行政ペナルティ喰らったがマシかとw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年1月20日 (水) 09時34分

てんかん

>発作がコントロールされている場合は、過剰に活動を制限しない
けども

>添付文書の使用上の注意に自動車運転等の禁止等の記載がある医薬品を処方又は調 剤する際は、医師又は薬剤師からの患者に対する注意喚起の説明を徹底させること。
平成25年5月29日付け薬食総発0529第2号

どっちやねん。添付文書には、運転、機械の操作「禁止」って書いてあるけど??????

投稿: おちゃ | 2016年1月20日 (水) 09時56分

もうみんな好き勝手に言ってるだけでむちゃくちゃ

投稿: | 2016年1月20日 (水) 10時15分

いわゆる努力目標程度に捉えておくべきなのでしょうが、応召義務と同様に現場の過剰反応をあえて期待しているのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2016年1月20日 (水) 11時33分

鹿児島市は控訴したらしいね
来院時の状況がどうだったのか知りたいな

http://www.asahi.com/articles/ASJ1X3C3QJ1XTLTB003.html

投稿: | 2016年1月30日 (土) 10時31分

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