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2016年1月 8日 (金)

高齢者地方移住と受け入れ自治体の損得

近い将来に都心部での医療・介護供給不足が見込まれるとして、都会から地方へと高齢者を移住させようと言う提案がなされているところなのですが、それについて先日こんな記事が出ていました。

高齢者の地方移住はうば捨て山?(2015年12月31日産経ビズ)

(略)
 高度成長期に都会に流入した団塊の世代が、75歳を迎える2025年には医療・介護需要が急増する見込みだが、地価の高い都心では高齢者施設の建設コストは高く、供給不足が深刻化する恐れがある。その対策として、安倍晋三政権は50~60代を中心に介護・医療施設を備える地方への移住を選択肢として示す日本版CCRC(生涯活躍のまち)構想を打ち出した。人口が減少する地方都市も受け入れを検討し始めたが、肝心の都会住民が付いてくるかは不透明だ。

 民間有識者らでつくる日本創生会議(座長は増田寛也元総務相)は、東京圏は今後10年間で75歳以上の後期高齢者が175万人増えると分析。施設入所希望者は増えており、日本全体で特別養護老人ホームの入所待機者数は52万人。現在は都区部の施設不足を近隣県の余剰で賄っている構図だが、25年には東京圏全体で13万人分の不足が顕在化する見通しだという。

 大和総研の石橋未来研究員は「医療・介護施設と人手が不足する都市部から、人口減少が進む地方へ高齢者を移住させることは、国が地方創生と高齢者問題をひとまとめに対処しようとする意図が感じられる」と指摘。医療・介護だけでなく、若者の移住のための子育てや教育機会などの充実もそろわないと人口流入で地方が活性化することにはつながらないと分析している。

 日本版CCRC構想は自らの希望に応じて地方に移り住み、健康な生活を送りながら、介護が必要になればケアも受けられる環境を用意する内容。推定約60万人の居住実績がある米国からヒントを得た。政府は14年度補正予算から移住支援の地方創生先行型交付金として、長崎県や新潟県南魚沼市、山梨県都留市などに1700億円を交付。16年度中にモデル事業を始める。
(略)
 日本版CCRC構想は、都会からの移住者が就労や社会活動に参画することで地方の活性化に資するとしている。

 三菱総研の長谷川専主席研究員はリポートの中で、年金受給世代の65~80歳の移住について「月20万円消費する100人が地方移住した場合、経済効果は移住先を中心に40年間で累計140億円程度、1000人の雇用創出につながる」との試算を示している。これに対し、50代や60代前半の現役世代の場合は、仕事がないとそもそも移住は困難。内閣官房の調査では、東京在住者の地方移住に関する不安として41.6%が「働き口」を挙げ、最も多かった。

 政府の調査によると、日本版CCRCに関連する取り組みの意向があるのは、地方公共団体のうち11.3%に上る。受け入れを目指す都市の中には、ロボット産業を基幹産業とし東アジア諸国へのアクセスも良好な北九州市のような例もあれば、森林を資源とするビジネスに取り組む秩父市のような例もある。
(略)
 厳しい現状を受けて、安倍政権は11月、CCRC構想に加えて、20年代初頭までに介護施設や在宅サービスなどの整備を進め、介護の新たな受け皿を50万人分以上整備する目標を打ち出した。

記事全文はリンクから参照いただければと思うのですが、ある意味ではタイトルに反して?必ずしも地方移住そのものに反対する内容とも言えない記事であることに留意下さい。
記事として興味深いのは移住する側である都市部高齢者目線での話ばかりが語られていると言う点で、うば捨て山などと穏やかならぬ表現まで使っているのであれば普通に考えて捨てられる地方の側の視点がもう少し必要になるのではないかと言う気がするのですが、いずれにせよ1割程度の自治体は受け入れを検討中と言うところなのでしょうかね。
もちろん高齢者が大勢移住してくれば雇用創出効果があると言えば嘘ではないのでしょうが、その実態はと言えば現状ですら必ずしも十分とは言えない医療・介護領域でさらなるリソースが要求されるのだろうとしか聞こえない話で、人口の多い都市部ですらこの領域では人材が集まらないのに、田舎で募集をかけたところで今後どれほどキャパシティー増加が見込めるものなのかは疑問符ですよね。
一方で高齢者が現状で最も多くのお金を持っていることは客観的事実であり、その消費活動による経済効果が高齢者移住の大きな理由付けの一つともされているのですが、その点についてはこんな心強い?ニュースも出ていることは注目されるところです。

高齢者世帯支出、個人消費の半分に…内閣府報告(2015年12月29日読売新聞)

 内閣府は28日、景気の現状と先行きなどを分析した報告書「日本経済2015―2016」(ミニ白書)を発表した。

 60歳以上の高齢者世帯による支出が、個人消費のおよそ半分を占めるまでに拡大し、影響力が高まっていると分析。消費活性化策として、高齢者が柔軟に働くことができる仕組みづくりや、職業訓練の機会の充実を提案した。

 世帯主が60歳以上の高齢者世帯の中で、世帯主が会社などに勤めている世帯は、そうでない世帯よりも月々の支出が約7万円も多い。「高齢者が就労し、収入を得られれば、消費支出が増加し、マクロの消費も拡大する可能性がある」と指摘した。

 白書では、高齢者の労働参加が急速に進んでいる北欧諸国と日本を比較した。

白書についてはこちらを参照していただきくとして、さすが金満世代だけに豪勢にお金も使っているのだなと思わず納得しそうになるのですが、注意すべき店としてこの個人消費なるものの対象になるのは車や衣服などの物品の他に各種サービスも含まれていて、当然ながらそこには医療費なども含まれていると言う点です。
実際に「高齢者世帯は他の世代に比して、交際費を含むその他の消費支出や外食を含む食料、保健医療の比率が高くなっている」と言い、支出内容が異なっているのは事実であるのですが、一口に高齢者と言っても勤労収入のある世帯と比べると無職世帯では支出が月額7万円違うと言い、前者では車や衣服などいわゆる嗜好品的な支出が多いそうです。
こうした点から「現在就労していないが、希望する高齢者が職に就き安定した収入を得ることができれば、消費支出もより積極的になる可能性が高い」とまとめているのは確かにその通りではあるのでしょうが、そもそも何故若者が都会に出るかと言えば仕事を求めてと言う側面も強いのですから、下手をすると地方で世代間での仕事の奪い合い勃発と言うことにもなりかねないですよね。

もちろん若者がしたがらない仕事を高齢者がしてくれれば一番良いのですが、そもそも地方で求められている仕事が都市部で長年働き引退した人々に合致するかどうかで、一番確実に需要があるのは老老介護的な高齢者相手の仕事と言うことになりかねませんが、それなら最初から都市部で高齢者同士助け合っていくシステムを構築してもいいんじゃないかと言う気もします。
この老人棄民政策とも言うべきものに関してはこうした経済的側面に加えて、地方側の受け入れ余力の問題や国保患者が増加することによる自治体財政の行方など損得勘定を総合的に判断しながら進めることになるのかと思うのですが、人口減少時代であるだけに理由は何であれまずは人口増こそが国力ならぬ自治体力を高めると言う考え方もあると思います。
早い話が民主主義社会である以上は人口が多い自治体ほど発言力も大きい理屈ですし、これだけ少子化が定着した時代になると人口再生産の期待出来る若い世代を呼び込むより、ひたすら消費者に徹する高齢者を呼び込む方がむしろ効率的だと言う考え方もあるはずで、自治体毎にどのような判断をするかと言うことも今後の戦略を反映したものになりそうな気がしますし、なるべきだと思いますね。

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コメント

高齢者の遺産は地元が受け取るようにしたら移民受け入れが進むよ

投稿: | 2016年1月 8日 (金) 07時45分

東京で持ち家だったら土地家売って田舎で楽に暮らせますかね?

投稿: ぽん太 | 2016年1月 8日 (金) 08時27分

なぜ田舎の生活が安く済むと思うのか謎・・・
公共交通機関の貧困さで自家用車必須
住居費はボロ屋を格安で入手もしくは借りられるかもしれないが、
意外とインフラ負担が大きい(水道ガス代は都会の倍以上)
そして流通が悪いことから、食料品日用品を店舗で買おうと思っても品ぞろえ悪く高いんだよ
医療機関も選べない

どの程度の田舎を想定してるかにもよりますがね

投稿: | 2016年1月 8日 (金) 09時03分

おそらくですが、想定されている田舎は「イオンがある」くらいの所を想定しているのではないかと思われます。
個人的には、いくら田舎に移住する人がふえても生活保護世帯が増えたら自治体にとっては全くおいしくないような気がします。

投稿: クマ | 2016年1月 8日 (金) 09時56分

イオンは業績悪けりゃ撤退するからねえ
そうして何もなくなっていくのが田舎

投稿: | 2016年1月 8日 (金) 10時26分

地方都市郊外で近隣にスーパー病院等立地している場所はかなりありそうで、おおむね新興住宅地化しているので移住者にも入りやすいのではないかと言う気がします。
とは言え高齢移住者にも出来るような仕事が何なのかで、東京本社で役職についていたような引退サラリーマンがパートでレジ打ちと言うのもちょっと考えにくいと思うのですが。

投稿: 管理人nobu | 2016年1月 8日 (金) 12時58分

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