« 今日のぐり:「瀬戸うどん 高輪三丁目店」 | トップページ | 公務員医師が収賄で逮捕 »

2015年12月 7日 (月)

かつて大流行した診療ミス、医療ミスと言う言葉

表題にもある診療ミスと言う表現を巡ってマスコミの報道姿勢を云々していた時代がつい先日のようにも思っていましたが、それはともかくとして医療訴訟も争いですからどちらが正しい、間違っていると言う判断も容易ではない場合も多いのですが、そうした細かい点は全て抜きにしてもまさしくお気の毒としか思えないのがこちらの症例です。

診療ミスで手足指20本切断 医療法人を提訴(2015年12月3日河北新報)

 宮城県岩沼市の整形外科クリニックを受診した宮城県南の60代の主婦が両手足の指20本を切断したのは、医師が病状を正しく認識せず適切な処置が遅れたためだとして、主婦が2日までに、病院を運営する同市の医療法人に約4400万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。

 訴えによると、主婦は昨年11月、右脚が急に痛み出してクリニックを受診。医師は確定診断を下さず経過観察とし、主婦を帰宅させた。主婦は翌朝、激しい動悸(どうき)に襲われ、救急搬送先の別の医療機関が「壊死(えし)性筋膜炎」と診断した。主婦は次第に指先の血流が悪くなり、1カ月半後に壊死した両手足の指全てを切断した。

 壊死性筋膜炎は病状の進行が速く、皮下組織の壊死につながる病気で、死亡率も高い。主婦は右足のかかとがひび割れており、細菌が侵入して発症した可能性がある。

 主婦側は「症状から壊死性筋膜炎の恐れは十分考えられたのに、クリニックはよく似た別の病気を疑い、適切な医療機関に転送しなかった。初期診断が適切なら指の切断は防げた」と主張している。法人側は「訴訟に関するコメントは差し控える」と話している。

実際の臨床所見等が判らないので何とも言い難いのですが、一般的な鑑別診断として必ず上がってくるのが同様に皮下の炎症を呈する蜂窩織炎であると言い、こちらの場合はありふれた疾患でありそうそう大きなことにはなりませんけれども、壊死性筋膜炎の場合は死亡率が実に3割にも昇ると言いますから大変重篤な疾患ですよね。
時折話題になるいわゆる人食いバクテリアなどと呼ばれるものもこの一種なのだそうですが、それにしても命は助かったとは言え両手足の指を全て切断とはあまりに悲惨な話で、最近では人工指などと言うものもあるそうですがこうしたものが助けになるのかどうか等々、他人事とは言え様々に今後の苦難を想像してしまうところです。
とは言え、ここで注目したいのは原告側の主張としての「症状から壊死性筋膜炎の恐れは十分考えられたのに、クリニックはよく似た別の病気を疑い、適切な医療機関に転送しなかった」と言う主張で、いわゆる鑑別診断に上がるような疾患であればいずれもそれが正解であってもおかしくないと言うものであるとも言えるわけで、疾患Aを疑ったが実は疾患Bであったと言うことを非難されると言うのは困るなと言う気がしますよね。
もちろん実臨床の場ではこうした場合、どちらの疾患であってもいいような対応を取るだとか、より重大な結果を招くだろう疾患を想定して治療を開始する等様々な工夫も行われていますけれども、一体に初診段階で正診に至る確率はどんな名医であっても決して高いものではないし、その難しさを改めて思い知らされるこうしたケースもあるようです。

CT検査を誤診、死亡医療事故に 静岡済生会総合病院(2015年12月2日朝日新聞)

 静岡市駿河区の静岡済生会総合病院で10月、CT検査の結果を研修医が見落とし、静岡市の女性(当時80代)が死亡する医療事故があった。1日、女性の長女(50代)が静岡市葵区の県法律会館で記者会見して、明らかにした。病院は朝日新聞の取材に医療事故があったことを認めている。

 長女とともに記者会見した青山雅幸弁護士によると、女性は10月24日午後11時55分ごろ、激しい腹痛を訴え、同病院救急外来を訪れた。CT検査の結果、結腸に穴が開いていて緊急手術が必要な状態だったが、研修医が見落として胃腸炎と診断し、女性を帰宅させた。しかし、腹痛や嘔吐(おうと)が止まらなかった女性は翌朝、再受診。見落としがわかって緊急手術を受けたが、同月26日に死亡した。

 遺族は、研修医が常勤医に相談する体制が整っていなかったなどの問題があったとみて、公表に踏み切った

 病院は長女に郵送した文書の中で医療事故を認め、謝罪。朝日新聞の取材に、「今後は外部委員を含めた事故調査委員会を開き、再発防止につとめていく」とコメントした。

救急外来で誤診、女性死亡 静岡、病院が遺族に謝罪(2015年12月2日共同通信)

 静岡市駿河区の静岡済生会総合病院が10月、腹痛のため救急外来を受診した同市の80代女性の診断を誤り、女性がその後、死亡していたことが1日、遺族側への取材で分かった。病院側は遺族に「初診で異常所見を見落とした」と責任を認め、謝罪した。

 遺族と代理人弁護士によると、女性は10月24日深夜、激しい腹痛を訴え救急外来を受診。担当した研修医2人がコンピューター断層撮影(CT)の画像から胃腸炎と判断し、女性を帰宅させた。

 約5時間後、女性は症状が悪化して再び受診。研修医らがあらためてCT画像を確認すると急性腹症の疑いがあると発覚、女性は緊急手術を受けたが26日に死亡した。

 石山純三(いしやま・じゅんぞう)院長は取材に対し「事実関係は遺族に説明しており、今後も真摯(しんし)に対応する」とのコメントを出した。医療事故調査制度に基づき、第三者機関に届け出たとして「院内で調査委員会を開き、再発防止策をまとめたい」としている。

ちなみに時間軸がはっきりしないので何とも言えないのですが、こうした場合事故調制度では遺族側から第三者機関に届け出るよう求めることも出来ないと言うことを考えると、遺族側が記者会見を開いたと言う理由なり動機なりが気になりますね。
とは言えこれまた何とも悲劇的な症例であり、また日常臨床においてしばしば遭遇しがちなケースであると言うことで重大な結果に慄然としない臨床家の先生方は少なくないと思うのですが、それでは研修医ではなく常勤医が当直していれば防げたのかと言えば、腸管穿孔を示唆するfree airの判断などは相当な経験を積んだ中堅以上の医師であっても難しいものがあることは周知の通りですよね。
それだけに病院長のコメントを見ますと何をどうやって再発防止するんだろう?と感じてしまうところで、例えば常勤医にコンサルトした結果やはり見落とすと言うことも当然にあるわけですし、あるいは来院者全員に「あなたは死ぬ可能性があるかも知れません」と説明した上で入院経過観察と言うのも、経営的にはどうなのかはともかく病床管理上は難しい場合も多そうには感じます。
今回の遺族の場合病院を訴えたと言うわけではなく、研修医単独での診療態勢には問題があったと言う点を何とかすべきだと言う問題提起であり、そうであるからこそ病院側も素直に謝罪し対応策を検討すると言う流れになっているとも言えますが、例えばこれが誰が悪かったのかと言う責任追及の場になっていたとしたらどうだったのかと考えると、医療事故調制度が匿名を前提にしている意味合いが見えてきます。

医療が不確実なものである以上こうしたケースは一定確率で必ず起こるものであり、それを個人のヒューマンエラーに起因させ対策を講じると言うのは判りやすい話ではあるのですが、時と場合によってはそれが現場を萎縮させ過剰対応や防衛行動に走らせたり、最悪の場合はいわゆるミス隠しと言うことにもつながりかねない不安もありますよね。
先日JR西日本が今後ヒューマンエラーに対しては懲罰的対応は一切行わず、ありのまま全てを報告するよう求めると方針転換したことが報じられていましたが、世界的に見ても事故調査の観点からすると非罰性の担保とは全く当たり前の話であって、それがなければ誰も自分自身を守るためにも本当のことなど言わなくなる、結果として同種の事故がまた同じように発生する確率が高まると言えます。
こうした事例などはまさに医療事故調の対象として十分に調査し教訓を共有する価値があるものだと言えますが、本来的に匿名であるはずの過程がこうして全面的に明らかになっていて、しかもマスコミがそれを病院のミスだと大々的に取り上げると言う状況は、果たして事故調本来の目的上どうなのかと言う危惧はありそうに感じますね。

|

« 今日のぐり:「瀬戸うどん 高輪三丁目店」 | トップページ | 公務員医師が収賄で逮捕 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

静岡のケースは医療過誤かも知れませんけど予測された死亡ですよね。
こういうのは本来事故調に報告しなくていいんじゃなかったですか。
けどこういう形での公表ってのが今後どんどん増えてくのかな。

投稿: ぽん太 | 2015年12月 7日 (月) 08時27分

胃腸炎と判断して帰宅させた研修医は、その時点では死ぬとは思ってなかったと思います。

なんで研修医だけで診療したのか、これこそ調査委員会を立ち上げるべきケースでしょう。

投稿: JSJ | 2015年12月 7日 (月) 11時52分

研修医二人体制と言うのも妙な感じですので、一人は後期研修医であるとか実際上は独り立ちした先生だったのかも知れませんが、そうであっても見落としはあり得ると言うことですね。
ただ組織防衛上はやはり研修医だけでの診療は問題視されることはあり得るのですが、全症例を常勤医にダブルチェックさせるとなるとこれまた弊害が大きすぎるように思いますし、それでも見落としはあるでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2015年12月 7日 (月) 12時54分

逮捕されたようです

米軍機レーザー照射事件 沖縄・宜野湾市の50代男を逮捕
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20151207-00000495-fnn-soci

投稿: | 2015年12月 7日 (月) 13時03分

病気になったのは病院が悪い訳じゃなく、自分の問題。
その時ははっきりと分からなく様子見しても、翌日救急搬送先で診断され、
結果として命が助かったなら、運が良かったって思うのが普通だと思うが・・・。
やっぱり、団塊世代?

投稿: | 2015年12月 7日 (月) 14時03分

病気になったのも、診断できる病院へ行かなかったのも自分の責任なんだから、
自衛策としては、できるだけ最初から何にでも対応できそうな大きな病院へ行くしかないですねっ

投稿: | 2015年12月 7日 (月) 15時25分

(二人とも前期研修医だったという前提でコメントしています(為レ念)。研修医とは本来前期研修医のみを指す言葉ですから)

常勤医が診ていれば見落としがなかったのか、とか、見落としがなければ救命できていたのか、といったことは裁判ででもやってくれればいいことだと思います。

研修医というのは本来指導医のもとで研修中の身なのだから、その症例は全例常勤医がチェックするべきではないですか?
もし静岡済生会病院が、病院の体制として夜間救急を(前期)研修医だけで診療させていた、あるいは黙認していたのであれば、
私ならそんな病院では研修医として働きたくありません。

投稿: JSJ | 2015年12月 7日 (月) 16時41分

"free airの判断"は難しい…とありますが、確かにXpだと立位か最低でもデクビタスで撮影(かつ、できれば10分以上その体位を保持しないと出ないと言う救急医もいます)しないと画像に出ませんが、腹部CTを撮影しているなら"air条件(肺野条件)"の画像を作るか、PACSの表示を白くすれば観察可能のはずです

まあ、研修医だとその辺の知識がない可能性もありますが、近年、一般の医師でもこの知識のない方が多く見受けられますのでショウガナイかもしれませんね

80歳を過ぎると、組織コラーゲン架橋の代謝不良・酸化ストレスによる劣化などありますので、健常者でも入院を勧めないと危ないのでは…と思う所もあります
でも入院させなかったのは、満床だったのか、別の圧力によって出来なかったのか…興味がある所です
なんせ、静岡は医師・看護師・薬剤師に見放された医療へき地ですからね…(当方、県内在住)

投稿: 非医師 | 2015年12月 7日 (月) 19時56分

安全かつ質の高い医療を受けたいという要望があるのは十分にわかる。

しかし、そこには財源が必要であり、それは社会保障費を充てるという
話になるととたんに無言になるかあえてそこに触れないよね。

皆で負担するのも嫌、混合診療で室や安全性に差がつくのも嫌というのが
行き着くところまで行けば、国民皆保険をやめて自由診療に移行。

質や安全は「自己責任」の名の下、各自の財布で負担するという流れになるのか。

投稿: | 2015年12月 7日 (月) 21時20分

 医療事故で家族を亡くし、10月から始まった医療事故調査制度に基づき原因を調べることになった遺族2人が5日、東京都内であったシンポジウムで講演し、「遺族のための制度を実現してほしい」と訴えた。主催者によると、制度の調査対象になった医療事故の遺族が公の場で体験を話すのは初めて。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151205-00000067-mai-soci

事故調はやくも総スカンwww

投稿: | 2015年12月 7日 (月) 22時57分

>「遺族のための制度を実現してほしい」
それならその制度を維持するための費用は国民で負担してくれるよう
被害者遺族が国民に呼びかけてくれるんですよね。(棒読み)

まさか医療機関に無償の奉仕を強いるわけじゃないですよね。

投稿: | 2015年12月 8日 (火) 11時52分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/62814920

この記事へのトラックバック一覧です: かつて大流行した診療ミス、医療ミスと言う言葉:

« 今日のぐり:「瀬戸うどん 高輪三丁目店」 | トップページ | 公務員医師が収賄で逮捕 »