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2015年12月10日 (木)

生保受給者が向精神薬大量取得し転売

以前から同種事件はたびたび報じられてきましたけれども、今回規模が大きいと話題になっているのがこちらのニュースです。

向精神薬、重複処方の闇 生活保護悪用した転売横行(2015年11月30日神戸新聞)

 インターネットを通じて向精神薬を不正に転売したなどとして兵庫県警は今年6月以降、男女5人を逮捕し、全国の100人以上への販売を確認した。薬の調達には、医療費の自己負担がない生活保護制度が悪用され、逮捕された受給者は複数の医療機関に通うなどして無料で入手した薬を横流ししたとされる。購入者5人が過剰摂取で死亡していたことも判明。抜本的な防止策はあるのか。自治体では模索が続く。(初鹿野俊)

 県警生活経済課によると、生活保護を受給していたのは京都市の男女2人(ともに麻薬取締法違反罪で起訴)。2人から計2万7千錠以上の向精神薬を譲り受けたとされる東京都の不動産業小岩井由香被告(55)=麻薬特例法違反罪などで起訴=は2009~15年、ネットで全国の123人に販売したという。
 向精神薬の調達もネットの会員制交流サイト(SNS)で呼び掛け、奈良市の薬剤師の男からも買い取っていたという。
 一方、過剰摂取による薬物中毒で亡くなったのは兵庫県の2人と和歌山、埼玉、鹿児島県の5人。20~40代で、うち4人は遺書などから自殺とみられる。

◇「見抜けない」◇

 「レセプト(診療報酬明細書)の審査で、同じ日に複数の病院で処方を受けるなど不自然な点がないかチェックしていたが、見抜けなかった」。制度を悪用された京都市の担当者は声を落とす。事件を受け、過剰処方の経緯などを検証中という。
 同様の不正は全国で横行している。厚生労働省によると、13年度に実施した調査では、1カ月間に複数の医療機関から向精神薬を重複処方されていた受給者は約6800人。うち76%の約5200人が「不適切な処方」と判断された。
 兵庫県内は504人で、神戸市(221人)▽尼崎市(141人)▽西宮市(79人)-で目立った。神戸市内の精神科に勤務する医師は「並行し、黙って他院に行かれたら多剤処方は防ぎようがない」と話す。

◇独自の取り組み◇

 不正を防ぐため、独自の取り組みを進める自治体もある。
 大阪府東大阪市は14年度から、受給者に薬局を1カ所登録してもらい、薬局側は登録者のみに処方する「かかりつけ薬局制度」をスタート。導入以降、実際に重複処方に気付いて指導したケースもあるという。大阪市西成区も診療科目ごとに受診する医療機関を1カ所に限定するよう受給者に求めている。
 兵庫県内の自治体で保護率が最も高い尼崎市や神戸市は過剰処方が疑われる場合、ケースワーカーらが聞き取りを実施。尼崎市の担当者は「不正防止だけでなく、健康管理の上でも重複処方を防ぐことは重要」と話している。
(略)

防げるか、薬の違法転売=生活保護制度悪用、大量処方-把握困難、新たな取り組みも(2015年10月25日時事ドットコム)

 生活保護受給者が複数の医療機関を受診して入手した大量の向精神薬を転売していたとして、マンション経営の女(55)が受給者2人とともに麻薬取締法違反容疑で兵庫県警に逮捕された。受給者は原則的に無料で医療を受けられる制度を悪用した事件だ。薬の不正取得を把握するのは困難といい、行政や医療機関は頭を抱えるが、薬局や薬剤師と協力する新たな取り組みも始まっている。

 「自宅にはまだ数千錠の向精神薬があった」。京都市に住む受給者の女(31)を逮捕し、自宅を家宅捜索した同県警の幹部は、あきれたように話す。女は複数の精神科などを受診し、大量の向精神薬を入手。インターネット上で買い手を募っていた。
 マンション経営の女は、この女から買い取った向精神薬などを転売していた。ほかの受給者にもメールで「余裕があったら売ってくれませんか」などと持ち掛けていたという。

 受給者の収入や生活状況を監督するのは自治体の福祉事務所。京都市地域福祉課は逮捕された受給者の女について、「レセプト(診療報酬明細書)の調査を行い、向精神薬の処方はチェックしていたのだが」と困惑気味に話した。
 受給者の急増で事務所職員の仕事量は限界に近い。この地域の事務所は、約4500の生活保護世帯を55人で担当。薬の転売による収入増などについて、同課職員は「把握して指導する余裕はない」と説明する。
 新たな対策を打ち出す自治体も出てきた。青森市は、レセプトの確認に薬剤師を入れ、転売が疑われる処方などをチェックしている。大阪府東大阪市は、受給者ごとに薬局を決めて不要な処方を防ぐようにしている。

まあしかし今までにも類似行為があったのにようやく対策が始まったばかりと言う印象なのですが、今度のマイナンバー導入でこのあたりが多少なりとも改善されるのかどうかです。
もちろん犯罪行為なのですからどうにも擁護のしようはない事件なのですが、しかしこの種の重複処方と言うものは全国どこでもある話で、中には堂々と友人知人に配るから余計に薬を出してくれ、などととんでもないことを言う人もいるものですよね。
特に生保受給者の場合医療費が無料であり必要もない薬や治療を希望しやすい、しかも多くの場合レセプト審査でも切られると言うことがありませんから医療機関側でも気安く給付をしがちであると言う点で、近年この生保受給者の医療費支出が大きな社会問題となってきていることは周知の通りです。
記事にもありますように大阪ではかかりつけ薬局制を導入し重複処方にチェックを入れているそうですが、こうしたことは一般の患者においても健康管理上推奨されるべきことなのですから、ましてや有病率が一般よりも高いとされる生保受給者などは全国的に医療機関や薬局を登録制にしてもいいくらいだと思いますね。

生保受給者の過剰受診と言うことが医療費抑制の観点からも、また医療リソースの浪費を防ぐと言う観点からも進められていて、国としても来年度からケースワーカーが看護師や薬剤師らと共に受給者を訪問指導するシステムを導入するのだそうで、指導体制の強化によって不要不急の受診や過剰診療を抑制しようと言う意図があるようです。
これらマンパワーの投入に要するコストと節約出来る医療費とを天秤にかけるとどちらがどれだけ有利なのかは何とも言い難いのですが、少なくとも専門職が足を運ぶ以上行きました、指導しましたで終わったのでは意味がないことですから、その指導の実として目に見える数字で受診抑制効果なり医療費削減効果なりが見えてくるかどうかですよね。
ただ今回の事件においてもそうですが、巨額の医療費を浪費するようなケースと言うものはしばしば確信犯的にやっている場合が少なくないようで、この場合いくら指導しようが暖簾に腕押しと言うこともありますから、一定の指導で改善が見られない場合は何かしらのペナルティを導入するなど、強制力を発揮出来るシステムでなければ実効性の面で厳しいようには思いますね。

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コメント

さっさとナマポも医療有料化しろや

投稿: | 2015年12月10日 (木) 07時58分

自立支援制度があるため、生活保護の患者さんは1カ所の精神科にしか通院できません。2カ所以上に通院すると連絡が来ます。
また、向精神薬を精神科以外で処方すると、精神科を受診させるよう連絡がいくことになっています。
(先日、複数受診で薬を欲しがる患者さんがいると、FAXで注意喚起が届きました)
私のいる病院では生活保護受給者が新規に受診したときは、重複受診がないかどうか確認をしますし、場合によってはこれまでの経過を確認するため市役所の担当者に連絡します。
こういう問題が起きるのは、自治体の担当者や精神科の病院・診療所がきちんと対応していないことが一番の原因です。

転売を防ぎたかったら粉薬で出すのが一番手っ取り早いですけれども。

投稿: クマ | 2015年12月10日 (木) 08時17分

生保診療をやる施設も絞り込むべきなんですかね?
あるいは診療内容をチェックして指定取り消しとか。

投稿: ぽん太 | 2015年12月10日 (木) 08時41分

海外と同じく、4〜6週以上のベンゾジアゼピン系睡眠薬の長期処方を禁止すればそれでおわり。

簡単なことだけど、ポリファーマシーで儲けている精神科や、なんちゃって不眠症治療で数年以上にわたってデパスやマイスリーを出している身体科医師が反対の声を上げるでしょうね。

医学的には長期処方は不適切と最終結論はでていますが。

投稿: | 2015年12月10日 (木) 09時27分

どうして記事の中での、過剰摂取による死亡者数が、たった数行下で5人から7人に増えるんだろう。
不思議。

投稿: | 2015年12月10日 (木) 09時31分

兵庫県(2)+和歌山(1+)埼玉(1)+鹿児島(1)の計5人の意味では?

投稿: | 2015年12月10日 (木) 11時15分

こんにちは

>海外と同じく、4〜6週以上のベンゾジアゼピン系睡眠薬の長期処方を禁止すればそれでおわり。
今でも4週以上は出せないと思いますが…

やはり多施設受診を防止するには,マイナンバー制度を利用したレセプトの集約でしょう.
「個人情報保護」も大事ですが,ある程度のことをするはしかたないのではないかしら.

でも薬剤費削減には,高額な新薬(特に悪性腫瘍向け)の対応が必要でしょう.
すべてを健康保険で賄うのは困難かと思います.

投稿: 耳鼻科医 | 2015年12月10日 (木) 11時29分

>でも4週以上は出せないと思いますが…
一処方4週じゃなくて、PPIのように8週以上は使用禁止の意味ですよ。

ベンゾジアゼピンが無制限に処方できる数少ない国なんです、日本は。

投稿: | 2015年12月10日 (木) 13時43分

マイナンバー活用やかかりつけ薬局など対策の手段は幾らでもあるので、あとはどれだけやるかだと思います。

投稿: 管理人nobu | 2015年12月10日 (木) 14時04分

耳鼻科医先生へ

デパスはベンゾジアゼピン系の薬物ですが、向精神薬に指定されていないので、30日以上処方できます。(90日まで?)
アモバンはベンゾジアゼピン類似の睡眠導入剤ですが、やはり向精神薬に指定されいません。デパスと同様な取り扱いができます。

投稿: 嫌われクン | 2015年12月10日 (木) 22時36分

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