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2015年12月17日 (木)

医師の偏在解消、その手段と意義

少し前の記事ですが、こんな話が出ていることをご存知でしょうか。

医師の偏在解消へ、医学部「地域枠」の拡大検討(2015年11月28日読売新聞)

 医師が都市部に偏り、地方や診療科によっては不足していることについて、厚生労働省は、改善策を議論する検討会を年内に設置する。

 大学の医学部を卒業した後に地元で働くことを条件とする「地域枠」の拡大をするかどうか検討する。一方で、全国的には医師は増加傾向にあるため、2018年度以降の大学医学部の定員についても、16年度中に方向性を打ち出す。

 医師の数は増え続けており、12年には30万3268人となっている。しかし、04年度に研修医が病院を自由に選べるようになった影響で、地方や診療科によっては医師不足が深刻化した。

 政府は、医師が将来は過剰になるとの推計をもとに医学部の定員を抑制する方針だったが、08年度から方針を転換。全国の医学部の入学定員は、07年度に比べ15年度は1509人増加している。

しかし大学医局が田舎病院に医師を強権的に派遣するシステムがケシカランと言って医局制度を有名無実化すべく改革を進めてきたのに、その結果医師派遣が受けられなくなっただの医師不足が深刻化しただのと言われてもハアそうですかなんですが、一部では医局制度復活をなんて声もあるそうですよね。
ともかくも医師偏在の対策とも言うべきこの医学部の地域枠が年々拡大傾向にあると言う話は以前から何度か取り上げて来たところなんですが、しかしこれ以上拡大するともなれば原則医学部は地域枠専門になってしまうのかどうかですし、仮に全定員地域枠になったとしても同一都道府県内での格差が拡大するだけと言う声もあります。
この辺りに関しては地域枠学生の僻地勤務を義務化しようだとか様々なアイデアもあるようですが、基本的に他人の人生を縛り付けるものなのですから機会があれば抜け道を探すのが人情と言うもので、特に違約金幾らと言った契約の場合「そのお金は出すから当院へ」と言った引き抜きもあるやに聞きますが、もう一つこんな興味深い記事があったので紹介してみましょう。

ドイツ「田舎医法」で医師偏在は解消したか(2015年12月7日日経メディカル)

ドイツは、人口1万人当たりの医師数が41人(OECD、2013)と、世界的に見ても医師密度が高い国の1つ。だが近年、そのドイツでも、医師の地域偏在と僻地での医師不足が社会問題となり、2012年に「医療供給構造法」(通称:田舎医法)が施行されるなど、政府による対策が着々と進んでいる。種々の施策によりドイツの医師偏在は解決に向かっているのか。その施策に日本の参考になる部分はあるのか。ドイツ在住の医療ジャーナリスト、吉田恵子氏がリポートする。

 古くから公的医療保険制度が発達していたドイツでは、早い時期から保険医療費の増大が問題になり国家レベルで対策が講じられてきた。その一環で、ベルリンの壁崩壊から間もない1990年代の初めから、医療費抑制の一手段として「保険医数の制限」が実施されてきた。医師数の過剰こそが、医療費増大を招く最大の原因だという考えからだ。
 当時、保険医数を制限するために作成された指針(需要計画策定指針)では、診療科ごとに「その地域で医師1人が何人の住民の診療に当たるべきか」が規定され、現在に至るまで少しずつ形を変えながら運用されている。例えば、中核都市の人口密集地域では、眼科医は1人当たり1万3399人の住民の診療に当たり、外科医は1人当たり2万6230人の住民の診療に当たる、といった具合だ(数字は2015年時点の目標値)。
 この目標値と当該地区の住民人口から「目標配置医師数」が算出され、実際の各科の保険医数が目標数の110%以上であれば供給過剰と見なして、その科ではこの地区の新規開業が制限されるという仕組みだ。この指針に従って保険医数がコントロールされれば、結果的に都市部や周辺地域での新規開業が減り、田舎の医師不足も抑えられるものと期待された。
 しかし実際には、近年特に田舎で不足している「家庭医」の適正配置は一向に実現されなかった。これは、需要計画における計画単位が広過ぎたことが一因だと分析されている。従来の需要計画では、ドイツ全土を372地区に分けて医師配置が計画された。ドイツと日本の国土面積はほぼ同じなので、この区分は日本でいうところの二次医療圏(約350)の広さに近い。
(略)
 こうした観点から、2012年の医療供給構造法(通称:田舎医法)で定められた「新需要計画ガイドライン」では、計画単位となる区分を大幅に変更。例えば、最も多くの配置医師数が求められる家庭医では、これまでの372地区から883地区に区域数を増やし、1区域の面積を減らした。ちなみに日本の市町村数は1700余りなので、ドイツ家庭医の新計画単位は、日本の市区町村2つ分に相当する。
(略)
 これらの施策によって、少なくとも家庭医に関しては、地域偏在がある程度解消されるのではないかとみる専門家が多い。ドイツ国内の有力シンクタンクであるベルテルスマン財団は、独自に算出した各地域の家庭医需要(需要指数)と新需要計画ガイドラインの目標配置医師数を比較し、「家庭医の配置については、実際のニーズをより反映したものになった」と評価している(図1)。
(略)
 だが、家庭医の配置については評価しているベルテルスマン財団も、「家庭医以外については、新需要計画ガイドラインでもほとんど改善されないだろう」という見解を示している。需要計画に、社会経済や疾病構造の地域差が考慮されていないからだという。改善される見込みの家庭医の供給でさえも、これらの指標が考慮されていないため、計画通りに進んだとしても190を超える地域では依然としてニーズに満たない状態が続く見込みだという。
 元連邦保健省保険局長で、現在は有力保険者の一つ企業疾病金庫(BKK)連邦連合会で理事を務めるフランツ・クニープス氏は、「医療供給構造法だけでは、医師の偏在は解決できない」と同法の効果に懐疑的な1人。「過剰地区で診療所を閉鎖して医師を減らすといっても、供給構造法では強制力が弱く、今のところ効果はほとんど出ていない」と説明する。結果的に、過剰地域の医師数は減っておらず、田舎への医師誘導も実現できていない、という分析だ。
(略)
 現在のルールでは、開業医が引退して診療所を承継するに当たり、地元の保険医協会(KV)と保険者からなる委員会が必要ないと判断すれば、診療所の引き渡しや売却を認可しない措置を取れる。しかし「委員会が承継を認めない場合には、KVが廃院に向けた補償金を払うルールなので、KVとしては、できれば診療所を閉めたくないし、保険者もそれを見て見ぬふりをしてきた。実際、心理療法士などでは、供給度が数百%の地区が幾つもあるのに、そのままになっている」(クニープス氏)。KBVのヨーン氏も、「需要計画で調整できるのは、実際には新規開業だけ。既存の診療所は動かせないので、本格的に偏在解消の効果が出るまでには、数十年掛かるだろう」とその限界を指摘する。
 こうした批判を受け、ドイツ政府は需要計画ガイドラインをさらに見直すべく、2015年夏に新たに「医療供給強化法」を発効させた。同法では、需要計画ガイドラインに、地域の疾病構造や人口動態的要素を反映させるとともに、計画地域の区分けについても再度見直していくことになっている。
 さらに新法では、開業許可について、供給度が140%を超える地区では承継を拒否することが義務付けられた。クニープス氏は「供給強化法の下で、今後はKVや保険者も『見て見ぬふり』ができなくなるのではないか」と期待している。

記事にあるようにドイツのやり方は日本で言う開業医規制と言うべきものですが、これに対して専門医に関しては規制が弱く地域性があまり考慮されていないどころか、場合によってはむしろ都市部の方が定数を多く設定されているのだそうで、当然ながら専門的医療と言うものは大勢の医師が集まって初めて行える部分が多々ありますから、こうした差別化は妥当なものと言えますよね。
開業医に関して地域内の数を見ながら開業規制をすべきだと言う意見は当然ながら日本にも以前からあるのですが、記事にもあるように現開業医を引き継いでの継承開業の扱いをどうするかと言う点が大きな問題で、逆に言えばこの問題の解消のためには単に新規開業を規制するだけではなく、既存開業医を潰すと言う権限が必要になってくるのかも知れません。
もちろんそんなことを言い出せば日医あたりが大騒ぎするのは確実なのですが、ともかくもドイツ人らしい緻密さでこれだけ細かく規制してはじめてある程度の実効性を保てるのだとすると、それこそ地域枠のような都道府県単位では不足であり市町村単位でなければならないと言うことにもなりかねませんが、その場合経営的採算性をどうするのかです。
都市部であれば圏域内に大勢の住民がいますからマイナー診療科でも経営が成り立つかも知れませんが、田舎で町内に一軒だけのマイナー科開業医でやっていけるのかどうかで、この場合家庭医として全ての診療科を1人で診るべきだと言われればごもっともなのですが、こうした規制が強化されればどの診療科を選択するかによっても将来設計が大きく変わってくる可能性もあるのでしょうかね。

ちなみに日本でも厚労省あたりは医師の基幹病院への集約化を進めたい意向を以前から打ち出しているようですが、同じ医師強制配置推進と言っても一部マスコミなどが主張してきた田舎に強制的に医師を送り込めと言う話とは真逆のものである点は注目すべきで、医療の実情から言えば皆保険制度の建前はどうあれ田舎に専門医を分散配置するなど馬鹿げているとしか言えない話ではあります。
その医師集約化における制度的根拠として活用が期待されるのが例の専門医制度改革と言うことになりますが、そもそも基幹病院で日常臨床に従事していなければ専門医資格が取得も更新も出来なくなると言う話が現実のものとなるなら、開業を目指す先生方は専門性をあきらめてジェネラルに生きるしか道はないと言うことになるのでしょうか。
もちろん日本では標榜診療科は何であれ自由ですから専門医資格の有無などどうでもいい、そんなことより学位の方がよほど箔がつくと言う先生も少なくないですが、地域住民からすれば開業医=専門医制度から落ちこぼれた二流の医者などと言うありがたくない色眼鏡で見られる可能性も無きにしも非ずで、現場での整合性を考えはじめると制度設計としても難しそうではありますよね。
いずれにしても医師偏在問題の解消にはかなり本腰を入れなければならなさそうだと言う話なんですが、医師の偏在が本当に悪いことなのかどうか、それこそ二次医療圏に一つずつでも医師を集めたER型施設を作っていつでも患者を受けてくれる方が開業医にとってもありがたいのではないかと言う議論もあって、国民目線での希望ばかり優先してやっていると医療の現場ではむしろ以前よりも悪くなったと言うことにもなりかねないでしょうね。

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コメント

厚労省は基幹組織すなわち県庁所在地レベル、最低でも2次医療圏の主要基幹への集約化な訳で
僻地勤務とはまた別ですね。
おそらく開業医は今度導入する総合診療医にして他の専門医は大幅に集約化したいのでしょう。

投稿: | 2015年12月17日 (木) 09時04分

新専門医制度の導入と共に各診療科に定員を設ける
また自由標榜性も見直す方向らしいので
開業医は総合診療医以外は名乗れなくなると思います。

投稿: | 2015年12月17日 (木) 09時08分

日医涙目w

投稿: 名無しさん | 2015年12月17日 (木) 10時38分

一般市民が地域枠と言われるとやはり地元の病院診療所に医者が来るイメージを抱かれがちですが、統計上はあくまで都道府県単位での残留でしか語っていない点にも注意すべきですね。
この辺りの不整合性をいつ誰が説明していくべきなのかと言う議論も必要になりそうです。

投稿: 管理人nobu | 2015年12月17日 (木) 11時18分

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