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2015年11月 5日 (木)

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいますか?」→名乗り出た結果

先日「ちょっと格好いいじゃねえか」と話題になっていたのがこちらのニュースです。

飛行機内で急患発生 救ったのは医師のウルグアイ大統領(2015年10月31日朝日新聞)

 南米ウルグアイの医師でもあるバスケス大統領が、公式訪問先のフランスへ移動中、機内で食物アレルギーで重い窒息状態になったフランス人女性を手当てして救ったという。29日、地元メディアなどが報じた。

 報道によると、バスケス氏は26日、ウルグアイの首都モンテビデオからパリ行きの便に搭乗。医師の助けを求める機内放送が流れると、一緒にいた主治医と共に名乗り出た。女性は10代で、ピーナツによるアレルギー症状を起こしていたため、飲み薬と注射などで治療したという。バスケス氏の主治医は「当初は危険な状態で、我々の対応がなければ深刻な事態になっていた」と語った。

 バスケス氏は75歳。貧困層のための病院や食堂を建てたことでも知られる

なぜピーナッツアレルギーを発症したのか等々様々な疑問はあるのですけれども、とりあえずは助かってよかったのは確かですが、それにしても相手が大統領と聞けば助けられた側もびっくりしたでしょうね。
担当医もいたと言うことなので別に大統領が働かなくてもよかったんじゃないかと言う意見もあるのですが、やはり助けられたという客の立場になってみれば単なる医師よりも大統領の方が多少なりとも有り難みが増すと言うものなんでしょうか。
それはともかく、この種の機内放送と言うものに遭遇した先生曰く、後日礼状が届いただとか席をアップグレードしてくれた等々様々なケースがあるようなのですが、それ以上に以前から議論されているのが感謝されるばかりであればいいのですが、ろくに道具も薬もない機内で診療行為を行いうまく救命できなかったり、重大な結果になった場合に誰が責任を負うべきなのかと言うことです。
この点については航空会社によってもかなり対応が異なっているとは言われていたのですが、先日出ていたこちらの記事を見てみますと正直名乗り出ることに不安を感じずにはいられないと言う状況もあるようです。

ドクターコールで損害賠償、JALは自社で負担◆Vol.1「臨機応変に」「独自プログラム導入」各社で取り組み様々(2015年9月7日医療維新)

 「お医者様はいらっしゃいますか」――。飛行機や新幹線などで、急病人が発生した時、医師に協力を求めるドクターコール。それに「応えたくない」と考える医師がいるのは事実。検査や治療の手段が限られる上、何らかの問題が生じた場合に責任を取られるなどの懸念があるからだ。
(略)
 ドクターコールに応じるか否か悩む原因の一つが、問題が起きた時の責任の所在のあいまいさだ。医療訴訟が身近になる中、善意で引き受けたドクターコールでも、その対応に問題があったとして損害賠償請求を受けるではないかとの懸念がある。

 m3.com編集部が国内外の航空会社約10社に対して取材し、全日本空輸(ANA)、日本航空(JAL)、AIR DO、デルタ航空の4社が回答を寄せた。そのうち、責任問題について明確な回答を得られたのは、JALのみ
 同社は、「航空機内における医療行為は、場所的な制約、利用できる医薬品、医療器具、その他、多くの制約下で緊急的に行われる診療で、その行為に要求される注意義務は軽減される」とした上で、「当該医療行為に起因して、賠償請求が発生した場合には、原則として当社が賠償金と関連する訴訟費用を負担する」と回答。医師がドクターコールに応じて損害賠償請求をされても、原則的に医師は賠償責任を負わないようになっているとした。
 一方で、ANAはドクターコールに関する規定はあるものの、「社内規定なので公開していない」として回答を控えた。他の航空会社も、「回答は差し控える」との答えや、明言を避ける内容だった。
 医師がドクターコールに応えた後、乗客の転帰を伝えるなどの対応や謝礼については、どの社からも、具体的な回答は得られなかった。規定があっても公開できないとする答えや、明確に決まっておらず、「臨機応変に客室乗務員が対応する」との回答だった。

“ドクター・オン・ボード”プログラム

 医師が積極的にドクターコールに応えられるように、医師であることをフライト前に登録してもらった上で、航空運賃の割引などを提供したり、法的責任の免除を明らかにするプログラムも、海外の一部の航空会社が導入している。
 ルフトハンザ航空やオーストリア航空が実施しているのが、医師の事前登録制度「“ドクター・オン・ボード”プログラム」。ルフトハンザ航空の場合、医師は同社のマイレージサービスに参加した上で、インターネットサイトから、医師免許と専門医認定証のコピーなどを登録する。付与された登録番号を使ってフライトを予約し、そのフライトで急病人が発生した場合に、乗務員が乗客の医師にコンタクトする仕組みだ。
 登録した場合はマイルのプレゼントや、次のフライトの割引などのサービスが受けられるほか、同社が提供する航空・渡航医学、緊急医療に関する有料のセミナーに参加することもできる。万が一、医療措置を施した患者に訴えられた場合は、同社の保険でカバーされる
ただ、このような取り組みをしている会社は、国内外を問わず依然として少ない

24時間体制の医療アドバイス提供

 では、急病人が発生した時、そもそも医師が同乗していない場合はどうするのか。ANA(国際線)とデルタ航空は、外部の医療関連会社と契約しており、緊急の場合は、無線などの通信手段で医療アドバイスを24時間体制で受けられるようになっているという。
 ANAは、国際線に関しては米国アリゾナ州フェニックスにあるMedAire社のMedLinkを契約。24時間無線で交信して専門の医師からの医療的アドバイスを受けられる。
 デルタ航空が契約するのは、ピッツバーグ大学メディカルセンターが提供する民間の緊急医療サービス「STAT-MD」。所属医師が搭乗許可や機内での急患に関するコンサルティングを提供しており、そのようなサービスと乗り合わせた医師の双方からアドバイスを受けて、客室乗務員が「的確な行動を取れるように訓練を受けている」という(同社広報室)。
(略)

読んでいただければ判る通り非常に場当たり的と言うのでしょうか、まさに行き当たりばったりの対応で何も決まっていないと言う会社の方が多数派であるようなのですが、こうした諸事情も考慮して乗る飛行機を選ぶと言う先生もいらっしゃれば、そもそも飛行機に乗った瞬間に一杯引っかけて寝ていると言う先生もいらっしゃると側聞します。
注意いただきたいのは飛行機の機内ではその飛行機の所属国の法律が適用されると言う点で、例えばアメリカで登録されている飛行機内で何かあった場合にはアメリカ流の訴訟に巻き込まれる可能性もあるのだろうし、現実的にも例えば機内出産などでは子どもの国籍をどうするかと言ったトラブルも発生しているようです。
さらに言えばいわゆる医賠責なども約款によれば国外での診療行為は支払い対象外と書かれているものもあるようで、最悪の場合巨額の賠償金を求められ航空会社も保険会社も誰も助けてくれないままと言うこともあり得ると言う話に、制度の上ではなってもおかしくないとは言えてしまうのですね。

一説には中の人曰く今の時代いつでも会社の雇ったドクターに相談できるし、キャビンアテンダントもこうした場合のトレーニングは受けているのだから別に名乗り出てくれる必要はないと言うのが本音なのだそうで、それではドクターコールなるものは何故行うかと言えばトラブルが起こったときに何か一生懸命努力しているのだと他の乗客にもアピールする目的もあるのだそうです。
確かに同じ緊急着陸をするにしても「お客様の中にお医者様は」云々のコールの後の方が、他の乗客の理解は得られるものなのかも知れませんけれども、ただ医師が同乗しているかどうかも完全な運任せであるわけで、今どき商業的に日常的な運行が為されている飛行機と言う乗り物に関して運を天に任せるが如き態勢と言うのもおかしな話ですよね。
万一にも乗客である医師に丸投げすることで航空会社がコストを削減したり責任回避を図っていると言うことであれば、これは他の乗客にとっても全くありがたくない話と言うしかありませんけれども、その辺りの余計な誤解を解くためにも航空会社はこうした場合の事後対応に関するマニュアルくらいは整備するだとか、少なくとも名乗り出た医師には適切な「説明と同意」を行っていく義務はあるように思いますね。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

内規くらい作っとけ

投稿: | 2015年11月 5日 (木) 07時53分

逆に責任問題になるほどのことも出来ない気がします。
緊急着陸するかどうかの判断しろって言われるくらい?

投稿: ぽん太 | 2015年11月 5日 (木) 09時04分

航空機内での心肺蘇生の実施により心的外傷を負った1例
http://plaza.umin.ac.jp/GHDNet/08/cprtrauma.htm

投稿: | 2015年11月 5日 (木) 09時27分

専門家はともすれば前のめりに突き進みがちですが、危ないことをしちゃいけないと言う子供時代からの親の教えも、時々は思い出してみる価値があるのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2015年11月 5日 (木) 13時00分

いつも思うが、心的外傷って言葉止めませんか?
一般人から見ると、とても変。
医者はおかしいって思わないのかな?

投稿: | 2015年11月 6日 (金) 08時54分

>医者はおかしいって思わないのかな?
 私は思いません。虎馬の原義は外傷。ローマ時代から今も外傷。原義をはずして 心の傷(痕)の意味で虎馬と口走ることが多いからこうなった。心的外傷という造語は 心の傷 よりも形容矛盾っぽいのが注意喚起になってるし、あちらではTraumaを当てていることもわかるし、いいと思うよ。
 嫌いなら とらうま といっていればよい。「お前ら、なんのことかわからんだろう、オレはわかるぞ」で カタカナを口走るのが好きな人たちには ちょうどお似合いだ。 

投稿: | 2015年11月 6日 (金) 11時41分

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