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2015年11月16日 (月)

事故調届け出件数、想定を大いに下回る

本当にやるのか?とちょっと驚いたのですが、先日こういうニュースが出ていたのを御覧になったでしょうか。

薬毒物検査、全ての遺体で…連続変死事件受け(2015年11月12日読売新聞)

 青酸化合物を使った大阪、京都などでの連続変死事件を受け、警察庁は来春から、警察が扱うほぼ全ての遺体について青酸などの薬毒物が使われた痕跡がないかを検査する方針を固めた。

 遺体から採取した血液の成分を調べる測定器などを全国の警察に配備する予定。同庁の金高雅仁長官は12日、定例記者会見で同事件に言及し、「捜査で被害者の遺体を取り扱ったのに犯罪性を見破れなかった。犯罪死の見逃し防止をさらに徹底する」と述べた。

 同庁によると、血液成分の測定器のほか、唾液に青酸などが含まれるかを調べる試験紙も導入する方針で、購入費などとして来年度予算の概算要求に計約4300万円を計上した。

 全国の警察が昨年取り扱った遺体16万6353体のうち、薬毒物検査が行われたのは42%の6万9736件だった。また、1998年以降に犯罪死を見逃したことが判明した47件中、11件は青酸化合物などの薬毒物が使われており、うち8件は簡易検査を行っていれば事件性を見抜けた可能性があったという。

もちろん昨今では色々と難しい事件も多いことではあるし、検査を行うことで事件性のあるものを拾い上げられると言うのであれば意味がないことはないでしょうが、しかし全遺体で検査を行うとなると手間やコストなど大変なことになりそうですし、まあ警察さんも苦労するのだろうなと言う気がするところでしょうか。
さて、国民の間では何やら事件性の有無を調べるかのような誤解も見受けられる医療事故調制度が始まっていますが、制度の目的としてはあくまでも再発防止であり、その観点から有意義かどうかの判断をして届け出る事例を選ぶように、念のため届け出ておこうと言う考えは非常に危険であると言う識者の見解もあって、いささか混乱している部分は否めないように思います。
先日最初の一ヶ月間で届け出件数が20件だったと言う記事が出ていて、この件数自体も想定されたものよりもずいぶん少なかったことが良いのか悪いのかなんですが、実態を見て見ますと届けられなかった症例の方がむしろ紛争化しかねない火種をはらんでいるようにも見えるのが気がかりですよね。

医療事故の報告、最初の1カ月間は20件(2015年11月14日医療維新)

 日本医療安全調査機構は11月13日、10月からスタートした医療事故調査制度について、10月1カ月間の報告数は20件、相談件数は250件だったことを公表した(資料は、同機構のホームページに掲載)。20件の内訳は病院15件、診療所・助産所5件、診療科別では消化器外科5件、産科4件など。医療事故発生から、報告までの期間は平均11日。

 制度スタート前、報告数については、年間1300~2000件との推計もあった。制度開始から間もないことや相談段階の事例もあることなどから、報告数は現時点では想定よりは少ない。そもそも推計が妥当だったのか、その検証も今後必要だろう。

 相談件数は250件。内容別による集計では274件(複数計上)で、「医療事故報告の範囲やその判断」に関する相談が最も多く約25%、「院内調査」に関する相談が約24%、「医療事故報告手続き」が約22%と続く。医療事故調査制度では、医療機関は、「提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、当該管理者が死亡または死産を予期しなかったもの」に該当する医療事故を、医療事故調査・支援センターである日本医療安全調査機構に報告しなければならない。この定義の判断に迷うケースが少なくないことが分かる。

医療事故調、届け出20件 「断られた」遺族相談も 制度1カ月(2015年11月14日朝日新聞)

 10月から始まった医療事故調査制度で、1カ月間に第三者機関「医療事故調査・支援センター」に届けられた事故は全国で20件だった。センターを運営する日本医療安全調査機構が13日発表した。年間1千~2千件を想定しており、機構は「少ない」との認識を示した。

 医療事故調査制度は、事故が起きた病院や診療所がセンターに届け出たうえで原因を調べ、結果を遺族とセンターに報告する。遺族は結果に納得できなければ、センターに再調査を依頼できる
 機構によると、届け出のあった20件の内訳は、病院からが15件、診療所・助産所が5件。診療科別では消化器外科5件、産科など4件、その他11件だった。
 寄せられた相談は250件。相談内容の25%は、医療事故として届け出る必要があるかどうかだった。届け出対象は「予期せぬ死亡」で、医療機関が迷ったことがうかがえるという。

 250件の中には、制度上は受け付けていない遺族からの相談が約15%あった。医療機関に事故調査をしてもらえないとの内容もあったという。
 甲信越地方の男性(34)は10月初旬、義父(67)を入院先の病院で亡くした。腹部の大動脈瘤(りゅう)の手術後、容体が急変した。調査を希望したが、病院から「対象にならない」と断られた。
 手術内容の事前説明や手術に問題はなかったのか疑問を感じている。「第三者に真実を調べてほしかった。制度に期待していたのに」と男性は語る。病院側は取材に対し、「遺族と協議中で応じられない」と答えた。

 医療安全が専門の長尾能雅名古屋大教授は「今の制度は調査対象について幅広い解釈が可能で、医療機関によって判断に違いが出る可能性がある。医療機関と遺族の見解が分かれるケースの情報を集めて分析し、調査対象の条件をより具体化していくことが必要」と話す。

興味深いのはこの事故調の制度設計で、院内での調査結果に納得が出来なければ患者遺族側から再調査を依頼できるのですが、そもそも院内調査を行わないと判断された場合に遺族側から調査を求めるルートがないと言う点で、朝日を始め進歩的なメディア各方面からはこうした点に関して以前から批判的な見解も提示されているようです。
ただむしろここで気になるのは朝日の記事に出ている遺族にしても事故調=真相究明のための組織と言う誤解があると言うことで、もちろん医療安全向上のために調査した結果何かしら明らかでなかった事実が明らかになってくると言うことはあり得るにしても、逆に言えば医療安全向上のための教訓が十分引き出せたなら隠れた事実の有無を問わずに調査としては十分に行われたと言う判断も出来るわけです。
このあたりはそもそも制度の目的をどこにおくべきなのかと言う点で長年の激論が続き、当面の妥協点と言う形でこうした制度としてスタートしたわけですが、今後の運用上次第に届け出基準なども明確化してくる中で制度の目的が保たれるのか、それに対して各方面は満足出来るのかと言った点にも注目していく必要があるでしょうね。
医療機関側としては非罰性の担保が確認されない以上届け出には慎重にならざるを得ませんが、その結果当初は「これならまあ大丈夫だろう」と言うケースばかりが報告され本当に大きな問題を抱えたケースはむしろ届け出されないと言うバイアスもあるのかも知れずで、「本当のことが知りたいだけなんだ」と考える遺族側も協力していくことでいずれ真実が解明される制度に育っていくのではないかと言う気がします。

そもそも論と言うことで言えば、この事故調と言う制度が求められた背景として国民の間にいわゆる医療不信があったことは否めない事実なのですから、その不信と言う部分を解消出来ない制度であれば意味がないのではないか?と言う考え方は、少なくとも国民の側から見ると一定程度理解できる話ではあります。
ただ不信だ、信頼だと言う主観的な評価基準を元に制度設計をしてしまうとすれば、そもそも裁判になるような紛争化事例は事実をどのように明らかにしようがもはや自分の望む「事実」しか受け入れないのだからどうにもならないのだと言う意見もあって、要するに1億人も人間がいれば一定程度は何をどうしようが信頼関係など構築出来ないと言うケースは発生し得ると言うことなのでしょう。
この点で直接的ではないものの一つの傍証となる事実として、医療機関に対する国民の信頼度は自衛隊と並んで各業界中でもトップクラスであり、なおかつ年々信頼度は向上してきていると言うデータがあるそうで、総合的に見ればまだしも医療は国民の信頼に足るものだと認識されているのでしょうし、事故調レポートもいずれはインシデントレポートくらいにありふれたものになれば変に構えることもなくなっていくのでしょうかね。

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コメント

産科の補償と同様見込みに間違いがあったのかもですが。
とにかく再調査になる実例を見てみたいです。

投稿: ぽん太 | 2015年11月16日 (月) 08時30分

届け出対象外だと判断し届け出なかった場合には特に罰則はないようなので、施設毎の運用基準がまちまちになる可能性はあると思います。

投稿: 管理人nobu | 2015年11月16日 (月) 12時15分

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