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2015年11月 9日 (月)

肝癌死亡症例に高額の損害賠償判決

先日から話題になっているこちらの判決をご存知でしょうか。

治療後に死亡、大分県立病院の過失を一部を認定(2015年11月 1日朝日新聞)

 大分県立病院(大分市)で肝がんの治療後に死亡した男性(当時62)の遺族が、県に約6200万円の損害賠償を求めた訴訟で、大分地裁の竹内浩史裁判長は29日、治療方法の選定や退院後の経過観察について病院の過失を一部認め、県に慰謝料など計1700万円の支払いを命じた

 判決によると、男性は2008年に肝がんを焼く手術を数回受けたが、がんが再発し、09年に死亡した。

 判決は、初期の治療法には合理性を認めたものの、その後の治療について「他の治療法の適否を慎重に吟味すべきだった」として、病院の過失を一部認めた。術後の経過観察でも、腫瘍(しゅよう)マーカーの値が急上昇していたのに、検査など適切な対処をしなかったと指摘。その上で、病院の過失がなければ男性が延命した可能性があると認定した。

 同病院は「判決内容を十分検討し、今後の対応を考えたい」とコメントした。

医師注意義務違反:県立病院過失で1700万円賠償命令 地裁判決(2015年11月03日毎日新聞)

 肝細胞がんを患った大分市の男性(当時62)が死亡したのは県立病院の医師が治療法を誤ったためなどとして遺族が県に約6200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10月29日、大分地裁であった。竹内浩史裁判長は「適切な経過観察を実施する注意義務に違反した」などとして医師の過失を認め県に約1700万円の賠償を命じた。

 判決によると、男性は2008年9月多発性肝細胞がんと診断を受け、同10月に県立病院に入院。RFA(ラジオ波で腫瘍を死滅させる治療法)を受けたが入退院を繰り返し、09年7月に亡くなった

 竹内裁判長は位置の特定が困難だった腫瘍に対して行ったRFAが「有効かつ適切なものであったか疑問。安易にRFAを継続し、適切な検査や治療方法を選択・実施する注意義務に違反した」と指摘。さらにその後の経過観察にも過失を認めた。【佐野格】

記事からは状況がはっきりしないので何とも言えないのですが、こうしたケースは日常診療でしばしば経験するものではあり、多発肝癌で入退院を繰り返すと言えば末期的状況だと思われますから、「死亡は自然経過と言うものでは?」と考える先生も多かったようで、治療がうまくいかなかったからと安易に損害賠償を認めたかに見える判決に驚きの声も少なからずあるようです。
興味深いのはこの判決に対する司法側の見解なんですが、ざっと見たところ「肝細胞がんは,適切な治療法が確立し,治療法の有効性も証明されていますので,適切な治療が行われなかった場合の延命可能性の認定も比較的容易にできるようになってきています.この事案で腫瘍マーカーの値が急上昇していたときに検査など適切な対処をしていれば延命した可能性があるという認定につながったのだと思います」と言う声を見かけました。
実際の臨床経過で明らかな医学的過失があったのかどうかは何とも言えないのですが、何を以て適切な治療とするかと言う捉え方が医療従事者とそれ以外とで大いに異なると言うことは以前から指摘されている問題点で、近年こうした事例に関してはかなり司法の判断も抑制的になってきている印象もある中で、1700万円と言ういわゆる見舞金程度の金額を超える額での損害賠償を命じる判決がこうして出てきたことは注目されますね。
ちなみに当然ながら判決は後出しじゃんけんだと言う批判もあるのですが、ただ医療の素人である裁判官が医療の目で見て違和感を感じる判決を出す背景にはその根拠となる医療専門家の証言があると言うことは銘記すべきだと思いますし、こうした難しい症例の治療法選択に関しては可能な限り複数の医師で判断すると言った自衛策は必要になるかと思います。

このところ高度医療を担当するはずの大学病院で類似の死亡症例が頻発していたと報道されるなど医療安全に関心が高まる中で、先日は特定機能病院においては事故性の有無などに関わらず全死亡症例の院内検証を義務づけると言った事故防止対策が厚労省から打ち出されたと報じられていたのをご記憶かと思います。
一般病院で扱わない特殊な症例を扱う病院であるのだから、一つ一つの症例から可能な限りの経験なり教訓なりを引き出すべきだと肯定的に捉えることも出来るのですが、特定機能病院と言っても一般的な疾患も相応に扱っているのでしょうし、当然死亡率の高い重症患者が多いでしょうから全症例と言われると業務負担の重さに頭の痛くなる先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
この点では先日発足した医療事故調なども悩ましいもので、どこまでの症例を届け出るべきなのかと言う点で明確な基準がないため各医療機関とも周囲の対応を見ているところだと思いますが、先日産婦人科協会の主催したシンポジウムにおいてはこの届け出症例の選択に関して、「“念のための報告”は危険」等々慎重かつ抑制的に行うべきだと言う意見が相次いだと言います。
基本的に任意に近い届出制度であると言うのはその通りであり、医療安全と言う制度の目的からすると「その報告が医療安全向上に役立つかどうか?」が判断基準になると言うのも当然と言えば当然で、逆に紛争化しそうだからとりあえず報告するくらいなら、最初から医療安全ではなく紛争解決のルートで話を進めるべきだと言う意見も相応に説得力があるようには感じますね。
この点で最も混同されそうなのが説明責任と言うもので、これは医療安全ではなく紛争解決に関わる要素であると考えるなら今回の事故調で患者や家族への説明義務が課せられていないのも妥当な制度設計と言えるのですが、冒頭の症例についても初期からきちんと説明をしながら行っていればそもそも紛争化しなかったかも知れないわけですし、医療安全ではなく紛争防止の観点からの調査結果の事後説明も今後重要になりそうではあります。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

どこから1700万なんて金額が出てくるんだろう

投稿: | 2015年11月 9日 (月) 07時37分

内訳としては慰謝料の方が中心なのではないかと。
逆にこの値段からどのみち長期延命はないと判断したっぽいですね。

投稿: ぽん太 | 2015年11月 9日 (月) 08時37分

某医療サイトの情報によりますと、当該地域は敏腕患者側弁護士と敏腕裁判長の組み合わせにより、このような判決が頻発しているようです。

肝がんで1年後死亡ですからね、なんの慰謝料なんでしょうかね。

投稿: おちゃ | 2015年11月 9日 (月) 10時58分

医療訴訟リスクと言う点での地域性と言うことも、なるべく情報共有していくべきなのでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2015年11月 9日 (月) 12時08分

奈良や福島は有名ですが…

北海道、九州辺りは丸ごと聖地化でいいんじゃないでしょうか

投稿: | 2015年11月 9日 (月) 13時26分

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