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2015年10月 6日 (火)

困った救急搬送要請を減らす方法は?

困った人と言うのはどこの世にもいるものですが、先日ちょっとした話題になっていたのがこちらの困った人です。

病院から警察に行先変更 救急隊員に“頭突き”男(2015年10月1日ANNニュース)

 千葉市で、通報を受けて駆け付けた救急隊員の男性2人に救急車の中で頭突きをしてけがをさせたなどとして、47歳の会社役員の男が逮捕されました。男は「なかなか病院に搬送せず、頭にきた」と供述しています。

 警察によりますと、先月30日午前11時ごろ、千葉市花見川区の自宅にいた会社役員の高尾弘一容疑者から「背中が痛い」と119番通報がありました。救急隊員の男性2人が駆け付け、高尾容疑者を救急車に運び込みました。高尾容疑者は「自分のかかりつけの病院に運んでほしい」と話していましたが、約30分の間、病院が決まりませんでした。高尾容疑者はこのことに腹を立て、男性2人の顔に頭突きを数回し、打撲の軽傷を負わせたということです。その後、高尾容疑者は病院には搬送されず、傷害と公務執行妨害の疑いで逮捕されました。警察の取り調べに対し、高尾容疑者は「なかなか病院に搬送しないため、頭にきた」と容疑を認めています。

病院に運ばれるはずが一転して警察にお引き取りになったと言うのがいいのかどうかですが、警察が引き取っていったくらいですからもともと大したことのなかったと言うことなのかも知れずで、いずれにせよこんな人に来てもらっても救急を受ける側も困るだろうと言うものですよね。
ところでもともと救急車を呼ぶ意味や必要性があったのかと言う議論はさておくとして、この場合自称かかりつけの病院にスムーズに搬送されなかったことが話をややこしくしたことは確からしいと思いますし、逆に唯一褒められる点としてはきちんとかかりつけ病院を持っていたと言う点でしょうか(と言っても、しばしば全くかかりつけではない病院の名前を出す患者もいるのですが)。
特に医療を利用する機会の多い高齢者は原則的に特別の病気がなくとも定期的に病院にかかり、きちんとしたかかりつけを持つことが非常に重要だと思うのですけれども、この高齢者のいざと言うときの搬送ルールが不明確であることが救急医療現場の混乱を招いているとは以前から言われているところです。

救急現場に「末期」「看取り」増加 本来の患者搬送破綻の恐れ(2015年10月1日産経新聞)

 救急医療の現場に、高齢患者が増えている。なかには救命というよりも、看取(みと)りに近いケースもあり、救急医らを困惑させている。本人が望まぬ延命につながりかねず、交通事故や心筋梗塞など、本当に救命が必要な患者の搬送を阻みかねないからだ。現場からは「このままでは、救急は破綻する」との声が上がっている。(佐藤好美)

 東京都墨田区にある都立墨東病院の救命救急センターは、救急医療の頂上に位置する「三次救急」にあたる。交通事故や心筋梗塞、動脈瘤(りゅう)破裂など「突発・不測」のけがや病気で、一刻を争う「重症・重篤」の患者を受けることができる医療機関だ。年間2千件超の受け入れは都内最多だ。
 だが、同センターの浜辺祐一部長は「病気で死期が迫っているとか、90代の寝たきりの患者が今朝、昏睡(こんすい)状態に陥ったとか、救命救急センターの適応とは言えない患者が搬送されている」と指摘する。
 同センターが、東京消防庁の要請に対して、患者を受け入れた「収容率」は平成24年に65%。浜辺部長は「理想は、要請を100%受けること。だが今は、救うべき命を救うために依頼を選別しようという心持ちになっている」と言う。
 受けられないのは、ベッドに空きがなかったり、他の患者を処置中だったりするからだが、センターが「適応外」と判断したケースもある。その最多は「軽症など」で45%。「寝たきり」(19%)「がんなど慢性疾患の末期」(11%)「老人ホームからの搬送」(10%)-などが続いた。自宅で在宅医に診てもらっているが、夜間に連絡がつかず、救急搬送されるケースや、高齢者施設などが看取り寸前に送ってくる「看取り搬送」もある
(略)
 救急の現場が逼迫(ひっぱく)する背景には、高齢化のために救急患者が右肩上がりで伸びていることがある。20年前、同センターに救急搬送される患者で多かったのは20代と50代だったが、今は70代。搬送理由も「外傷」よりも「疾病」が増えた。
 看取りに近い患者を、救命救急センターで受けることが本人にとっていいのか、という問題もある。浜辺部長は、「高い薬や高度な機材を使えば、管だらけで1~2週間は長生きするかもしれない。だが、苦しむ時間を延ばすより、もっと安らかな看取りもある」と言う。「生を継続させる『救急医療』と、生をうまく終わらせる『終末期医療』は方向性が逆だ。救急は安らかに看取るのは不得手です」
 分秒を争う救急の現場で、年齢や状態で治療を分けるのは困難だ。「患者によって治療を手加減することは、救急が神様になることだ。僕らは神様ではない。目の前の患者に全身全霊をつぎ込んで救命できるようにしてほしい」

 患者には、何ができるのか-。浜辺部長は「きちんと看取ってくれる医師を持っておくことが必要」という。「在宅医なら、本当に24時間カバーしてくれる医師。かかりつけ医で『明朝、私が行って死亡診断書を書くから』と言ってくれる医師でもいい。行きずりの救急医に看取ってもらうより、その方がいい。救命救急センターはこのままだと破綻する。若い患者を断らずに済むようベッドをやりくりしているが、今のままでは限界だ」
(略)
 一方で、在宅医療は広がり、自宅で療養する患者が増えている。患者のSOSに24時間365日対応する「在宅療養支援診療所」も増えているが、その質には差がある。「患者から深夜に連絡を受けて、『救急車で病院に行ってください』という医師もいる」(都内の開業医)との声も聞かれる。
 横浜市のある訪問看護師は「困るのは発熱時など。医師が対応できないと、冷やすしか手段がない。病院に行くために自家用車や介護タクシーでなく、救急車を呼んでしまう家族や看護師もいると思う。高齢者の発熱は当然予測される。事前に頓服の解熱剤を処方してもらうこともある」と、瀬戸際のやりくりで救急搬送を避ける。
 ゆるやかに看取りに向かうなかでも、病院を頼ることはもちろんある。この訪問看護師は「すべて家で看取れるわけではないし、在宅患者の入退院は当然ある。在宅医療を始めるときに、どんな状態のときに、どこに、どう運ぶか、医療職と介護職が家族を交えて、事前に情報共有をしておくことが必要。特に、在宅患者の受け皿になることが多い病院は、情報共有に加わってほしい」と話している。

基本的に他の医療機関で扱いかねる重症患者の救命を行う三次救急に看取り目的の患者を運び込むような地域の救急搬送態勢もどうなのかと思うのですが、実際問題として地域内でも最大の医療機関である場合が多いわけですから、いざと言う時の最後の引取先として機能せざるを得ないと言うケースは決して少なくはないと思いますね。
この点で今問題化しつつあるのが例の病院から施設へ、そして在宅へと国が旗振りをしての高齢者帰宅運動?なのですが、当然ながら病院に入っていた人が施設へ、そして自宅へと移動してくるにつれてケアは何とかなるにしろ、医療としての対応は明らかに手薄になってくることは否めないわけです。
病院に入院していればその場の判断で簡単に済んでいたことが自宅ではこじらせて大変なことになってしまうと言うことはあり得るし、本来的にそうしたリスクも込みで自宅に帰しましょうと言うのが今の考え方だと思いますが、頭では人間誰しも未来永劫生き続けられるわけではないと判っているつもりでも、いざ目の前でお爺ちゃんが息をしていないとなると普通の家族は救急車を呼んでしまうものでしょうね。
本来こうした場合に真っ先にここに連絡しなさいと言う相談先として主治医と言うものがあるべきなのだろうし、例の24時間365日いつでも対応できるようにしなさいと言う主治医制もそうしたものを見越しての話だったんだろうと思いますが、あんな安いコストでそこまでの責任を負わされるのはかないませんから、大抵の場合は夜間休日はそもそも連絡がつかないか、何かあったら救急車を呼べと言い含めている場合がほとんどなのでしょう。

末期が迫ってきた高齢者の場合おおよそ起こり得る状況の幾つかは予想出来るものなのですから、そうした場合にとりあえず医療素人である介護スタッフや家族にも何か出来ることがあれば安心するだろうし、そうしたことを見越して頓服薬や指示を与えておくのがいいんだろうと思うのですが、どうも先生によってはその場の状況に応じて判断すると言うことなのか、判断を先送りしてしまう方もいらっしゃるようです。
もちろんそれできちんといつでも連絡が取れ指示を出せると言うのであればいいのですが、仮に夜間に連絡だけはついても手持ちの薬など治療手段がなければ結局は「救急車を呼んで」になってしまうわけですから、在宅で看取りを視野に入れているような高齢者の場合は一般的な医療とは少し考え方を変えていく必要はあると思いますね。
特に老老介護をしているような場合は家族も病院に運ぶ手段がないだとか、そもそもとっさに正しい手順を思い浮かべられないと言う問題もあって、地方ではいざと言う時に押すだけで専門職スタッフに連絡がつく非常用ボタンを配布している自治体などもあるようですけれども、近隣には町立病院一つの田舎ならまだしも医療機関の選択枝の多い都市部ですとこうした場合、簡単に話がつくと言うことも難しいのかも知れません。
この辺りは高齢者のいる家庭は救急搬送予備軍と考え、いざと言う時に入院医療まで引き受けられる二次救急レベルでのかかりつけを必ず持っておくことが重要なんだと思いますが、そんなことを言い出すと日医あたりの怖いお爺様方から「開業医の権益を侵害するとは何事か!」とお叱りを受けてしまうのでしょうか。

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コメント

>いざと言う時に入院医療まで引き受けられる二次救急レベルでのかかりつけを必ず持っておく
その二次救急病院の経営者である日医首脳陣としては、むしろウェルカムではないかと愚考します。

投稿: JSJ | 2015年10月 6日 (火) 07時35分

酔っ払いって警察が引き受けるはずなんでしたっけ?
119のかわりに110コールしてもいいのかしら?

投稿: ぽん太 | 2015年10月 6日 (火) 09時04分

「47歳の会社役員」ていうところが、ある程度人間性が想定できそう。

投稿: | 2015年10月 6日 (火) 09時14分

>特別の病気がなくとも定期的に病院にかかり、きちんとしたかかりつけを持つ

病気がなくて病院に来た患者、どういう名目で「かかりつけ」にするんで?
それこそ、病気もないくせに病院に定期的に来るDQN人間なんじゃないの?
1年に1回検診で利用してれば「かかりつけ登録」されるとも思えませんが

投稿: | 2015年10月 6日 (火) 09時24分

病気がないのに来るなと言うのはcureの立場に立った考え方で、看取り高齢者の場合に求められるcare寄りの対応とはいささか異なったものではないかと言う気がします。
ただ現在の診療報酬体系でその辺りの区分が今ひとつ明確になっていないので、今後制度的な再構築も必要になりそうですが。

投稿: 管理人nobu | 2015年10月 6日 (火) 11時05分

一度、派手に財政破綻して救急車が贅沢品というところまでいかないと愚民は理解できないんでしょうね。

投稿: | 2015年10月 6日 (火) 21時30分

>何かあったら救急車を呼べと言い含めている

ってことであれば、救急車を呼んじゃうでしょ

投稿: | 2015年10月 7日 (水) 09時19分

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