« 今日のぐり:「笨乃莉 (ホンノリ)」 | トップページ | 困った救急搬送要請を減らす方法は? »

2015年10月 5日 (月)

医療事故調、誰も満足も納得もしない中での船出

も先日10月1日よりいよいよ医療事故調が始まったわけですが、制度発足早々に早くも各方面の思惑の違いが明らかになってきているようです。

現場に渦巻く不安 対象判断の適否、人選も 医療事故調査制度(2015年10月1日共同通信)

 医療の安全確保を目的とした医療事故調査制度が始動。「診療に関連した予期せぬ死亡事案」が対象とされ、記録などに基づいて判断する医療機関の管理者の対応が問われる。制度の柱となる「院内調査」に関しては、原則とされる外部委員の選定で戸惑いも。費用や人員の確保など現場には制度運用への不安が渦巻いている。
(略)
 1日開始の新制度では、文書への記録の有無などに基づき、病院の管理者が「予期せぬ事案」として調査対象とするかを決める。担当医らは、患者の理解を得られるよう事前の説明を尽くし同意書を作成するなど、より丁寧な手続きが求められることになる。
 この病院では昨年、各診療科に「手術の危険性」「他の治療法の紹介」など目安とする項目を示し、患者側に十分な説明をするよう指示した。だが医療安全の責任者を務める副院長(65)は「現場は多忙を極め、指示が徹底されていない」。リスクを想定できた事案で調査対象外と判断した場合でも、事前説明の不足などの状況があって遺族が反発した時は、自主的な判断で調査を行うことも考えるとしている。

 ▽外部委員

 新制度は、診療録の確認や担当医らの聞き取りを行う院内調査には、原則として外部の医師や弁護士をメンバーに加えるよう定めている。ただ、この副院長は「これまで、公平性を担保するため診療に関与した医師とは別の大学出身者を選ぶ点で苦労してきた。今後も速やかに選定できるだろうか」と話す。
 共同通信が8月に全国の大学病院を対象に実施したアンケートでは、回答した31施設のうち16施設が外部委員を「招聘(しょうへい)する」と回答。一方で、「10月以降は事例の増加が予想され、(実際に招くかは)分からない」との記述もみられた。
(略)
 一方、大学病院でも、医療安全に携わる専従職員が数人程度の施設は多い。「十分な体制を準備できない可能性がある」との声もあり、人為的なミスが疑われる事案を優先するなどの工夫が必要との指摘が出ている。

医療事故調発足受け相談窓口 被害者らの会、遺族側の懸念に対応(2015年10月3日朝日新聞)

 医療事故の被害者らでつくる「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」(永井裕之代表)は2日、医療事故調査制度が1日から始まったことを受け、相談窓口を設置したと発表した。制度には「適正に運営されるのか」と遺族側から懸念の声が相次いでいる。

 制度は「予期せぬ死亡事例」が起きたら、医療機関が自ら原因を調べ、遺族や厚生労働省が指定した第三者機関に報告する。だが、調査するかどうかの判断は医療機関側に委ねられ、医療機関が調査しない事故について遺族から第三者機関に調査を依頼できない

 遺族の求めに医療機関が応じない事態も想定されるとして、協議会は遺族からの相談に応じる窓口を設けるよう厚労省などに要望してきた。要望が認められるまでの間、協議会が電子メール(info@genkoku.net)などで相談を受け付ける。自身の体験をもとに、医療機関側との交渉の方法などを助言するという。
(略)
 また、この制度は、事故が起きた医療機関での院内調査が基本となる。東京女子医大病院で昨年2月、原則禁止の鎮静剤を大量に使われ、当時2歳の長男を亡くした父親は2日、朝日新聞の取材に「院内調査では身内をかばいあい、真相が明らかにならない」と語った。

「不十分であれば捜査も」 制度見守る司法関係者(2015年10月1日共同通信)

 医療事故が捜査対象となり刑事責任を問われる―。こうした事態に対する医療界の抵抗感は強い。1日開始の事故調査制度では、医療機関側が自ら調査を尽くし、再発を防ぐための対応を取れるか注目される。制度上、捜査の動きを制限する規定はなく、警察や検察・法務関係者は「取り組みを見守るが、調査が不十分であれば捜査も動かざるを得ない」と話す。
 「何でもかんでも警察でやるのが理想だとは思わない」と警察庁関係者。難解な医療用語や手術技法を捜査員が理解した上で、高い知識を持つ専門家や医師に見解を聞く必要があると説明し、「手間も暇もかかるし難しい分野だ」と明かす。
 帝王切開手術を受けた妊婦が死亡した福島県立大野病院の事故では、2006年に担当医が業務上過失致死容疑などで逮捕されたが、08年に無罪が確定。ある検察関係者は「苦い記憶だ」と振り返る。

 今回の制度創設の背景の一つには、「原因分析は捜査機関ではなく専門家が担うべきだ」との医療従事者の指摘がある。検察幹部も、医療の不確実性を認めた上で「全て刑事責任を問われるのでは医療は何もできなくなる。制度の運用状況を見る必要がある」。
 ただ法務省幹部は「制度設計上、捜査実務自体に影響はない。要は医療機関がどれだけしっかり取り組むかだ」と話す。
 今後の議論として、異状死の警察への届け出を定めた医師法21条の改正を求める意見が医療界から上がる可能性もあるが、ある検察関係者は「実現は難しい。法務省が認めないだろう」と語る。

医療従事者側の懸念に配慮してと言うことなのでしょうか、届け出対象の選定や調査の方法などに関しては医療側にかなり有利と言っていい制度設計になっていますが、それだけに患者側団体からの反発はかなり大きいようで、すでに「気に入らなければ訴訟(意訳)」と公言している方々もいらっしゃるようです。
この辺りは制度として守ってもらえないのであれば自分で自分の身を守るしかないのは当然で、特に医療のような裁量の余地の大きいものでは安全側にマージンを十分に取ろうとすれば大部分の医療行為は危なくて出来ないと言うことにもなりかねませんから、最終的にはどこかでリスクを甘受しないと結局は患者側にとっても不利益になる理屈ですよね。
ただ頭で理解出来ることと感情面も含めて納得出来るかどうかと言うことは別問題ですし、名目上はどうあれやはり何かしらトラブルがあったときに処罰感情抜きで話を進められるほど出来た人ばかりではありませんから、本来的には医療の側の自主的なルール作りであるとか行政処分と言った裁判以外のルートでの自己規制の手段を確保すべきなのではないかと言う声も根強くあります。
この辺りは弁護士活動をする限りは全員加入しなければならない日弁連の活動なども参考にすべきだと思うのですが、昨今各方面から批判の声が上がることの方が多いああした組織に全権を委ねることのリスクと言うものがありますし、ましてや万一にも日医のような医療現場の意見を反映していない団体に権力が集中してしまうと楽しい医療の未来図も描けそうにはありませんから、現実的には誰が主体になるべきかと言う部分でなかなか難しいものがありますよね。

今回の制度では医師法21条を始めとして司法との関係性がどうなるのかと言うことも非常に注目されてきたわけですが、制度的には全く何ら今までと変わりがないと言うのが表向きの公式回答であるとは言え、検察など関係諸方面からのコメントを見てみますと「まずはどうなるか様子見」と言うのが既定の路線であるようです。
ひと頃の医療訴訟乱発、国民とマスコミが医療を目の敵にしているかのように見えて仕方なかった時代と比べると、昨今では医療崩壊ネタは視聴率が取れるとマスコミの中の人も言うように、医療業界の諸事情が世間に知られその苦境に問題意識を共有されるようになってきたせいでしょうか、医療訴訟の場での司法判断も以前とは少しばかり違ってきているような印象もありますよね。
特に刑事事件の場合は日本の司法制度特有の慣習と言うのでしょうか、基本的に起訴する=確実に有罪判決に持ち込めるものに限ると言うことになっているようで、この部分を見誤ってうっかり無罪判決などが出てしまうと色々と困ったことになるそうですから、記事にも出ている大野病院事件など医療界が一丸となって無罪を勝ち取ったことがボディーブローのように効いてきていると言うことなのでしょうか。
司法関係者からすると専門性の高い医療訴訟と言うものは判断も難しく手間暇もかかると言うことであまり好んで手がけたいものでもないそうで、それが何故医療側の常識に反してた判決が出るのかと言えば医療の常識に反した意見を述べる先生が一定数いるからだとも言えるわけですから、医療の側で出来ることとして医療側証人の教育や資格制度制定と言うことも今後非常に重要になってくるように思いますね。

|

« 今日のぐり:「笨乃莉 (ホンノリ)」 | トップページ | 困った救急搬送要請を減らす方法は? »

心と体」カテゴリの記事

コメント

医療事故死(事故という言葉も問題だが)については、故意じゃない限り
刑事にしないっていうことが、まともな調査が出来医療安全につながる。
遺族は民事で賠償を求めるって事でいいじゃない。

どうしてこんな簡単なことが通らないのか不思議。

投稿: | 2015年10月 5日 (月) 09時30分

>刑事にしないっていうことが、まともな調査が出来医療安全につながる。
>遺族は民事で賠償を求めるって事でいいじゃない。

責任がないなら、賠償する必要はない
責任があるなら、刑事告訴を拒絶する法理がない

なので、簡単じゃないんですよ。最近は、遺族も刑事告訴してきますからね。
刑事免責は、航空事故その他にも広く影響するので、日本のhara-kiri文化の中では難しいんですよ。国民感情も許しません。これは、島国文化が影響していますので、根深いです。

投稿: | 2015年10月 5日 (月) 10時29分

メディカルエグザミナー制度でも各地域単位で導入した方が良さそう

投稿: | 2015年10月 5日 (月) 11時25分

>メディカルエグザミナー制度
まぁた法匪がパラサイトなことを。そんなものですむことならAiの普及のほうが安上がり。 

投稿: | 2015年10月 5日 (月) 12時30分

制度的な議論は非常に難しいものになるのですが、状況改善に一番手っ取り早いのは医療に対する国民感情の好転なのではないかなと最近考えています。

投稿: 管理人nobu | 2015年10月 5日 (月) 14時19分

>医療に対する国民感情の好転
便利なことを至上命題として求める国民にそんなことは望めないと思います。

もはや医療に対する目が変わるのは、一度財政破綻して医療に対して国が
金を出せないとなった時ではないでしょうか。

そのとき、医療崩壊の立役者であった厚労省やマスコミは名が知れている
医療被害者遺族を「過剰な要求をしたクレーマー」に仕立て上げて責任を
回避するんでしょう。とりわけ勝◯氏辺りはそういうヒールっぷりがマス
コミ受けしそうですしね。

投稿: | 2015年10月 5日 (月) 23時26分

↑いやあ、絶対に医師を悪者にすると思う。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年10月 6日 (火) 10時32分

今の医療制度では、リスクの高い症例は成功しても収入より安全対策や人件費の支出が多く、
失敗したら事故調査センターに報告しマスコミや弁護士の餌食になる。

制度をきっかけに病院長から見てリスクの高い症例はどんどんよそに押し付ける傾向が強く
なるんだろう。制度としてもそれを防ぐどころか助長するような傾向があるね。

国民が医療のリスクに対する理解が進むことが最善の道だけど、今の国民、衣料事故被害者
団体、マスコミ、弁護士のどれをとってもそういうリスクリテラシーを受け入れるのは不可
能だろうね。

投稿: | 2015年10月 6日 (火) 21時29分

前も書いたような気がしますが、刑事免責って裁判官にはあるんですよね。もっともらしい屁理屈を付けてはいますが、いくらミスで人を殺しても全く訴えられません。
ついでに言えば裁判官は説明責任を最も果たしていない職業だと私は思っているのですが、そういう部分とも関係があるのでしょうか。

投稿: クマ | 2015年10月 7日 (水) 08時06分

↑ウロなんですが以前モトケンさんとこで聞いたところによると裁判官が刑事免責なのは「国家権力そのものだから」だとかなんとか。検事だったかな?
ま、結果責任で刑事責任とか問われるんじゃ誰も裁判官なんてやらなくなるだろうしなあ…<アレドッカデキイタヨウナ…

で、これもモトケンさんとこで聞いたんですが、素人が思いつくような問題点疑問点は歴代の法曹によってとうの昔に比較検討試行錯誤済み、だとかでなんやかんや言っても現状はベストではないにしろベターなのだとか。民主主義みたいなもんか。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年10月 7日 (水) 09時41分

裁判は必ず負ける側がいるし、負けた方にすれば判決は判断ミスだよね
それを罰するとなれば、裁判するごとに一人ずつ裁判官がクビになるのかな?

投稿: | 2015年10月 7日 (水) 10時26分

10年前にドロッポしました。さまへ
私も裁判官の刑事免責がけしからんとか、医者に刑事免責をよこせとまでは言いません・・・善きサマリア人法くらいはあってもいいと思いますけれど。
法学に携わる人間の理屈で法学に携わる人間が守られている感じがするのに違和感があるくらいですか。
議員が自分たちの給料を自分たちで決めるのに感じる違和感と同程度です。


>裁判は必ず負ける側がいるし、負けた方にすれば判決は判断ミスだよね
民事裁判は適切な証拠を出さない当事者に責任があります。
私が言う裁判官のミス=冤罪と思ってください。

投稿: クマ | 2015年10月 7日 (水) 14時56分

クマさま、

>法学に携わる人間の理屈で法学に携わる人間が守られている感じがする

医学に携わる人間の理屈で医学に携わる人間も守ろう!(提案)
*なお、後ろから撃つええかっこしいが後を絶たない模様

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年10月 7日 (水) 15時25分

>法学に携わる人間の理屈で法学に携わる人間が守られている感じがするのに違和感がある

だから、医学に携わる人間の理屈で医学に携わる人間が守られるのだって違和感を持たれるに決まってるでしょうにさ

投稿: | 2015年10月 7日 (水) 15時46分

>だから、医学に携わる人間の理屈で医学に携わる人間が守られるのだって違和感を持たれるに決まってるでしょうにさ

医学に携わる人間の理屈は当然ありますが、法学に携わる方々や議員さんたちと違ってそれを法に出来る立場にありませんから・・・

投稿: クマ | 2015年10月 7日 (水) 16時49分

>法に出来る立場にありません

まるで医学に携わる人間は何も決められないみたいですが
冒頭の医療事故調は、医学に携わる人間の理屈で医学に携わる人間が守られる制度が作られてるっぽいですやん

投稿: | 2015年10月 7日 (水) 17時36分

>>病院長から見てリスクの高い症例はどんどんよそに押し付ける傾向が強くなる

これってどうなんでしょ?病院長がそこまで細かくチェックしてるかな?
むしろ現場のリスク無視で収支の数字だけ追ってそうな気が

投稿: totto | 2015年10月 7日 (水) 21時19分

隣の芝生は青く見えるの類のような気が。
別段議員さんや裁判官がそれほど特権階級ってこともないでしょ。

投稿: ぽん太 | 2015年10月 8日 (木) 08時55分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/62410040

この記事へのトラックバック一覧です: 医療事故調、誰も満足も納得もしない中での船出:

« 今日のぐり:「笨乃莉 (ホンノリ)」 | トップページ | 困った救急搬送要請を減らす方法は? »