« 忍び寄る認知症の足音をもっと恐れるべきでは | トップページ | 当たり前ですが良い医者もいれば悪い医者もいるもので »

2015年10月21日 (水)

スパゲッティのプールは有りでも、スパゲッティシンドロームはご遠慮したいと言う場合

どう評価すべきなのか難しいデータと言うものはあるものですが、先日出ていたこちらの調査結果がちょっとした話題になっていました。

「死の質」日本23位→14位に上昇…がん対策見直しを評価 英誌ランキング 1位は英国、最下位は…(2015年10月19日産経新聞)

 英誌「エコノミスト」の調査機関は、緩和ケアや終末期医療の質や普及状況に基づく80カ国・地域の「死の質」ランキングを発表した。日本は14位で、政府のがん対策見直しなどが評価され、前回2010(平成22)年の23位から上昇した。1位は前回に続いて英国。最下位はイラク。

 ロンドンを拠点とする「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」が、各国のデータや専門家への聞き取りに基づき、ケアの質、医療・介護職の豊富さ、患者の費用負担など5領域について数値化した。

 日本は平成24年度から5年間のがん対策推進基本計画で、精神的な苦痛を含めた早期からの緩和ケアが盛り込まれた点がプラス要因となった。5領域では、緩和ケアに対する国民の意識やボランティアの参加を測った「コミュニティーの関与度」で5位と順位が高かった。

まあ英誌の調査ですからいささかバイアスがかかっている懸念も否定は出来ないのですが、このイギリスと言う国がかつて医療崩壊世界最先進国とも呼ばれ、世界に先駆けた医療費抑制政策を推進した結果医療そのものの破綻を招いたと言われた割には国民の医療満足度が高かったと言う事例とも合わせて考えると、単純に国民性の違いなのかシステム的な理由があるのか興味深いところですね。
そもそも死の質なるものをどのように評価すべきなのかで、国によって宗教的・文化的背景も異なるのですから最高度の医療を手厚く施された看取り方がベストと言う国もあれば、最後は自宅で家族や親しい人に看取られるのが理想と言う国もあるだろうで、正直こうしたものは客観的指標設定は難しくあくまで主観的満足度のみで評価するしかないと思います。
しかし一方ではその主観的満足に関しても国によって高くつける傾向のある国、低めに出やすい国と様々なのですから、今回調査については漠然と終末期医療態勢の制度的充実を評価したものだと言うしかないのですが、この点で旧来の日本の医療現場では確かにあまり特別な対応と言うものがなく、しばしば言われるように三次救急に看取り目的の老人が担ぎ込まれると言うことが問題視されていたわけです。
こうしたミスマッチをどのように解消するかと言うことに関して、制度的には例の地域医療計画によって各医療機関の役割分担を明確化していくことが求められているわけですが、臨床現場における個別の努力の一例として先日こんな記事が出ていたことを紹介してみましょう。

救急診療所で看取り患者の病院搬送を減らす(2015年10月20日日経メディカル)

(略)
「自宅で看取れる仕組みが必要」
 越谷ハートフルクリニックは19床の診療所だ。救急車を24時間365日受け入れ、搬送件数は年500件に上る。設備は、「MRIこそないが、ほとんど病院に近い」(佐藤氏)。X線、エコー、CT、内視鏡などの検査で、一通りの診断は可能。臨床検査についても、検査機器を導入した(写真右)上、臨床検査技師を1人配置し、その日のうちに結果を出せるようにしている。他のスタッフは、診療放射線技師1人、薬剤師が2人で、看護師は正看護師ばかり20人ほど在籍する。

 開業の地は、救命救急センターでの勤務を通して救急医療の実情を見てきたエリアを選んだ。佐藤氏は「埼玉県東部は、2次救急が充実した地域とはいえなかった。軽症例ほど受け入れ先が見つからず、結局は高次救急医療機関に回ってくる。マンパワーが足りないことを実感していた」と話す。

 特に疑問を感じていたのが、既に心肺停止状態の高齢者が救命救急センターに運ばれてくることだ。本来は老衰として看取られるべき在宅患者のケースでも、救急車が呼ばれれば救命救急センターに運び込まれてしまう。「自宅で看取れる仕組みがあれば、センターに運ばれずに済むのに」と感じることが多かった。

 そこで、救急だけでなく在宅医療も手掛けることで、搬送が必要となるケース自体を減らそうと考えた。有床診は減少の一途をたどっており、県内での新規開設は少なくなっていたが、佐藤氏は救急患者をしっかり診るためにはベッドを持ちたいと考えた。

 救急では、誤嚥性肺炎など、在宅患者の急性増悪例を受け入れられるのも強みだ。認知症を合併している患者は、救急車搬送で受け入れられにくいが、在宅医療で多くの認知症患者を診ている佐藤氏であれば対応できる。救急患者のうち約3割を自院の在宅または外来患者が占める。一度受けて診断をつけてから、例えば手術が必要な場合などは適宜、高次医療機関に送る

地域包括ケア病棟としての機能
 救急の受け入れ先となるばかりでなく、病院で救急処置を終えた後の転院先として患者が紹介されてくることもある。入院患者のうち、1~2割程度が病院から入院してきた患者だ。佐藤氏は、「地域の救急医療の入り口問題にも出口問題にも貢献できるのではないか」と語る。

 また、在宅医療を行う医療機関には、無床診療所が多い。越谷ハートフルクリニックでは、他の診療所に依頼されて、在宅患者を入院させることもある。こうした患者は、入院患者の1割程度を占めている。

 佐藤氏は、「当院の機能は、厚生労働省が普及させようとしている地域包括ケア病棟に近いと思っている。有床診は地域包括ケアを支える存在になれる」と語る。地域包括ケア病棟とは、急性期後のステージの患者や、急性増悪した在宅患者の受け入れ、在宅復帰の支援機能を担う病棟のことだ。
(略)

基幹病院や高次医療機関に勤務されている先生にはこうした施設の有り難みがよく判ると思いますが、地域医療を担当している市中開業医の先生にとっても「とてもこの症例は基幹病院に送るようなものではないが、現実的に受けてくれる施設がないし…」と迷うような場合に、この種施設があることが非常に助かるのではないかと思います。
こうした地域医療への貢献もした上で経営的にも厳しいながらも一応は黒字を維持できていると言うことですから立派なものですが、小さな有床診と言っても同クリニックでは現在常勤2人と非常勤20人程度の医師がいるそうで、院長である佐藤先生自身も月回程度の当直で済んでいると言いますから、システムの永続性としてもなかなかよく出来ているのではないかと思いますね。
この辺りは佐藤先生が救急畑出身であったからかも知れずで、これが内科や外科など出身の先生であれば自分が限度一杯まで頑張ってしまうようなシステムを組み立てた結果、歳をとって体力が低下したり何か病気にでもなったりした途端に全てが破綻すると言う個人依存度の高い状況になっていたかも知れずで、医師数の少ない小さな医療機関ほど適切な分業体制が重要だと言うことでしょうか。

このところ国の方針として医師集約化、医療リソースの集中と言うことが言われていて、特に日本の病床数過剰の一因となり社会的入院の温床とも言われてきた地域の中小病院はどんどん潰すべきだと言うことが既定の路線のように話が進んでいますけれども、この種の入院を要する患者の引受先が減ったことで基幹病院がかえってリソース不足に陥ってしまうのでは本末転倒と言うものですよね。
その意味で自宅に近いところでもう少し身近な医療を受けられる施設はまだまだ存在意義があると思うのですが、失礼ながらそうした小さな施設でありとあらゆる検査施設を備えて小さいながら何でも出来ますと言うのもまた過剰投資になる可能性もあって、今後は地域内で病診病病連携を推進するなど無駄なコストをどう削減していくかと言うことも大事なことなのだと思います。
先日これまた興味深い記事として感銘を受けた話として、宮崎で独居高齢者の在宅看取りサービスに退職した元看護師の皆さんが協力していると言うのですけれども、退職者に限らず有資格離職者の多い職種だけにフルタイムの勤務等は出来なくなっても地域のコミュニティー内で出来る仕事は幾らでもあるのだし、双方にとってメリットのあることとして全国的にも拡がってもらいたいシステムだと思いますね。
国の医療・介護制度が全国一律で決まっていることからどうしても総論的な大きなくくりでの話ばかりが注目される傾向がありますが、特定の状況下では非常に有効と言う地域限定のやり方などもあっていいのだろうし、小回りの利く小さなサービスの積み重ねで大きなシステムへの負担も軽減できるのであればこれを活用しない手もないだろうと言うことでしょうか。

|

« 忍び寄る認知症の足音をもっと恐れるべきでは | トップページ | 当たり前ですが良い医者もいれば悪い医者もいるもので »

心と体」カテゴリの記事

コメント

スパゲッティのプールって食べ物粗末にするようで不愉快だった

投稿: | 2015年10月21日 (水) 08時22分

でもやっぱり院長のやる気と体力に依存してる気がしますが。

投稿: ぽん太 | 2015年10月21日 (水) 10時31分

>スパゲッティのプールって食べ物粗末にするようで不愉快だった

個人的には妙な連想を呼んで少なからずトラウマものだったのですが、敢えてタブーを破ると言うことでおばあちゃんの心の解放を示したシーンだったとは思います。

投稿: 管理人nobu | 2015年10月21日 (水) 12時32分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/62513224

この記事へのトラックバック一覧です: スパゲッティのプールは有りでも、スパゲッティシンドロームはご遠慮したいと言う場合:

« 忍び寄る認知症の足音をもっと恐れるべきでは | トップページ | 当たり前ですが良い医者もいれば悪い医者もいるもので »