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2015年9月11日 (金)

押し入れに飲まなかった薬が山積みされていませんか?

先日海外の団体が行った高齢者の生活環境についての国際調査で日本はアジアで唯一ベスト10に入り、特に医療分野で1位になるなど「もっとも健康的な国の一つ」と高く評価されたそうですが、確かに高齢者がお金の心配なく医療を受けられると言うのは非常にありがたい話ですよね。
その一方で近年では逆に過剰診療についての懸念が各方面から出るようになっていて、高齢者終末期医療に関するガイドライン策定など場合によってはむしろ医療を抑制的に運用すべきではないかと言う話があるわけですが、そうした点とも関連するこんな記事が出ていました。

<高齢者医療>1日25錠も 薬が多すぎておなかいっぱい(2015年9月5日毎日新聞)

 高齢者がたくさんの薬を服用し、かえって生活の質が落ちているのではないか、との新聞報道が最近相次ぎました。高齢者に出やすい副作用を予防するために、日本老年医学会は、10年ぶりに「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(指針)」を見直し、約50種類の薬について「中止を考えるべきだ」としています。高齢者への「多すぎる薬」について、大阪樟蔭女子大学教授の石蔵文信さんに聞きました。

 当たり前だが、高齢になればなるほど病気は増えるため、薬も増える。しかし高齢になると腎臓や肝臓の処理能力が低下して、薬を分解して排せつするのが遅くなる。排出に時間がかかって体内に蓄積し、副作用が出やすくなるのだ。さらに、女性の超高齢者の中には、体重が子供と同じくらいになっている人がいる。子供の場合は体重を目安に薬の量を設定するのだが、大人の場合は結構無頓着に処方してしまう。この場合も、薬の量が多すぎて副作用が出やすくなるかもしれない。
 高齢者の医療費負担も多くの薬が処方される原因となっているようである。現役世代は自己負担が3割であるのに対し、75歳以上の高齢者の多くは1割。負担が少ないから、処方する薬の増加に対する抑止力は働きにくい

 ◇雪だるま式に増える薬

 高齢者に痛み止めや抗生剤を処方した時に、その薬が原因で胃潰瘍や下痢になってはいけないからと追加で胃腸薬が処方されるので、薬がどんどん増えていく。さらに、数カ所の医院や病院にかかっている事が多いので、各主治医がチェックしにくい。かかりつけ薬局も、よほど飲み合わせが悪くない限り医師の処方にクレームをつけることはない。このような事情で、高齢者の薬は徐々に増えていく。
 見直されたガイドラインでは、認知症などの患者に対する「抗精神病薬全般」や、全ての高齢者を対象に一部の胃腸薬を「可能な限り控える」などと列挙されている。さらに、甘草が含まれた漢方(結構あるようだ)も腎機能が低下した高齢者では注意が必要とされ、「副作用が少ない・体に優しい」が売りの漢方も高齢者にとっては必ずしも安心して飲める薬とはいかないようだ。もちろん、中止した方がよいとされた薬をいま服用しているからといって、急に中止しないで主治医に相談した方がよい。

 ◇1日18種類25錠飲む人も

 つい先日、80歳に近い男性を診察した。いろいろな病気で数カ所の病院を受診して、毎日病院通いで忙しいようである。心配性が高じて不安感が強くなり、うつ状態でもあったのが私の診察を受けに来た理由である。問診をして、薬をチェックするとなんと1日に18種類、25錠も服用していた。本人は薬を飲むだけでおなかがいっぱいになるという。よく聞いてみると、膝が痛むので鎮痛薬を処方されているが、それに加えて胃潰瘍や腸炎の予防薬ももらっている
 「ところで、鎮痛薬を服用して膝の痛みは治りましたか?」と尋ねると、服用してもしなくても、痛みは変わらんと言う。「ではこの薬は効果がないので服用をやめてみましょう」といって3種類の薬の減量を指示した。このようにしてめまいの薬や前立腺肥大の薬などを減量していくと、最終的には3種類の薬まで減量する事はできた。もちろん、うつ状態に対しての薬は何種類か追加したが、それは状態がよくなれば減量する予定である。減量の結果、いろいろな症状は悪化することなく、生活の質が向上して旅行などを楽しんでおられる。
 私の患者さんの中には全ての薬を中止(もちろん慎重にゆっくり減量したのだが……)して、体調がよくなったという人もいる。薬は効果と副作用が表裏一体である。副作用で苦しまないためには医師や薬剤師の丁寧な説明が大切だと思うが、現在の5分診療ではなかなか十分に説明しきれないのも現状である。

かつて日本全国に薬害と言うものの恐ろしさを知らしめたスモンと言う病気があって…云々と言い出すとずいぶん古い話に聞こえますけれども、実際に何とはなしに処方されているように見える薬と言うのは多いものですし、薬剤費が持ち出しになる施設入所を機にごっそり定期処方薬を削られたご老人が、むしろ以前よりも元気になったようだと言った話も割合に少なくはないですよね。
もちろん不要の薬などと言うものは本来保険診療上処方されるべきではないはずだし、昨今の医療費抑制政策においては真っ先に目の敵にされかねないところなんですが、しかし一方であらゆる疾患に対して診療ガイドラインと言うものがこれだけ整備されてしまうと、疾患がある、異常があると言うことを知っていながら敢えて放置すると言うことは非常にやりにくいし、仮に何かしらあった場合訴えられればどうなるかと言う不安はあるでしょう。
かくて検査をするたびに薬は増え、そして薬の副作用を抑えるために薬が増えと雪だるま式に薬が増えていく道理ですが、今回改定された老年医学会のガイドラインでは特に精神疾患等への投薬が中止を推奨されているのが目を引くところで、この辺りはしばしば管理する側の都合で処方されていると言う場合も多いだけにまあ妥当なのかなと言う気はしますよね。
ただ一方では身体的疾患に対する投薬、あるいは予防投薬と言われるものが未だにエビデンスレベルの高さから推奨されているのは気になるところで、90歳を超えた脳梗塞後遺症の寝たきり老人にガイドラインに従ってスタチンを継続処方するのがいいのかどうかと言われると、正直あまり社会的意義には乏しいのではないかと言う気がしないでもありませんでしょうか。

一方でここで注目されるのが、雪だるま式に投薬処方が増えていく理由として複数の医療機関にまたがって診療を受けているケースが多いことを上げている点なんですが、こうなりますと厚労省が推進するように何科の医師でも揃っている医師集約型の大規模総合病院か、それとも全ての診療科を担当出来る総合診療医の整備を急ぐべきだと言う話にもなりかねません。
この辺りはちょっとしたコミュニケーションの改善でずいぶんと無駄な投薬や重複投薬も減らせるのだろうし、本来的にはかかりつけ薬局などがそうした部分のチェックを担うべきだったはずですが、薬局と言えば最近ではその非常に高い調剤医療費の伸びが問題視されることばかりが注目されていて、今後は「離れですき焼きを食べている」にせよ、ちゃんとその分働いてもいるのだと言うことをもっとアピールすべきなのかも知れません。
お隣韓国では全国医療機関で診療情報を共有する事業に着手したのだそうで、日本でもレセプト電子化など医療が原則電算化されてきた以上決して出来ない話ではないはずだし、地域内で情報共有出来るだけでも無駄な検査や治療がずいぶんと減らせて結局投資分も回収出来そうに思うのですが、そんなことを言い出すとまたぞろどこかの医療系団体が「患者の個人情報が漏れたらどうする!」などと文句をつけてきそうですよね。
ともかくも医療関係者も患者も、もちろん国も馬鹿馬鹿しいと思っている過剰投薬も一定程度はあるのですから、最終的には何故それが行われるに至っているのか、改善するにはどういうルール作りが必要なのかと言うことを考えた場合に、診療ガイドラインの類も単に医学的観点からのみ整備されていくのではなく、コストエフェクティブネスや臨床現場の現実にも目を向けたものになっていく必要が出てくるように思います。

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コメント

医者に例外的調剤権残してる時点で薬局がまともに機能するわけ無い。
薬剤師側がイチイチ医者に疑義を取らないと重複薬を中止にも出来ないという裁量権の無さが多重投薬を防止できない根本的原因だと思うのです。

投稿: | 2015年9月11日 (金) 08時24分

当時どこのクリニックでもキノホルムが処方されてたとか?
今で言うム○○タみたいなもんだったんですかね?

投稿: ぽん太 | 2015年9月11日 (金) 08時27分

私の場合、後期高齢者の患者さんに対しては「今がよければそれでよい」的な処方を意識的に心がけています。
90歳を超えてなお厳格な血糖管理・脂質管理をしようとするお医者さんがたまにおられますが、何を目指しているのでしょうか?

投稿: クマ | 2015年9月11日 (金) 08時54分

前立腺肥大の薬はやめない方がいいと思います
以前これをやって残尿800mlなんて事態になってしまったことがある
尿閉じゃないんですよ。
チョロチョロと出てたんですけど、あるとき腹部単純をとってみたら
腹腔内一杯(ちょっと大げさ)に広っている膀胱が・・・

投稿: 嫌われくん | 2015年9月11日 (金) 09時10分

>医者に例外的調剤権残してる時点で・・・

自分の処方のみの調剤権だから、意味不明。
多分薬剤師さんだろうけど、それほど処方権を持ちたかったら、医師免許とってください。

投稿: | 2015年9月11日 (金) 09時17分

薬の数がふえたら病院が負担するようにしよう

投稿: | 2015年9月11日 (金) 11時37分

尿閉は副作用でも比較的よく目にするもので、高齢者の場合日常的に腹部所見をとっておく習慣が大事と言う気がします。

投稿: 管理人nobu | 2015年9月11日 (金) 13時31分

>自分の処方のみの調剤権だから、意味不明。
先進国の中でも自分の処方を自分で調剤できる国とか日本だけじゃん。
しかも例外規定をさも当然のように運用されてる。お前何も知らないシロウトか?

>それほど処方権を持ちたかったら、医師免許とってください。
そうやって胡坐かいてると特定看護師に処方権持ってかれちゃうよww

投稿: | 2015年9月11日 (金) 17時54分

>そうやって胡坐かいてると特定看護師に処方権持ってかれちゃうよww
 病態の理解が通常の看護師にも及ばない薬剤師にわたるよりよほどましです。 

投稿: | 2015年9月11日 (金) 18時50分

>病態の理解が通常の看護師にも及ばない薬剤師にわたるよりよほどましです。 
病態の理解した先生方の5分診療の上で薬漬けの高齢者達が量産されているんですね解ります。

投稿: | 2015年9月11日 (金) 19時09分

これって釣りの記事、または毎日新聞の創作記事ですよ、記事の写真のばあちゃんが手のひらいっぱいに持ったカプセル。すべて同じで刻印なし、サプリですわ。

投稿: | 2015年9月12日 (土) 08時11分

>薬漬けの高齢者達が量産
フィジカルアセスも薬理も怪しい薬剤師が在宅に出かけて後始末をしてくれることでしょう。

投稿: | 2015年9月12日 (土) 10時41分

>フィジカルアセスも薬理も怪しい薬剤師が在宅に出かけて後始末をしてくれることでしょう。
まるで自分だけが患者を治してやってると思っている医者が言いそうな意見ですね。
権利の上に義務が生じてるんだから、根拠のない多重処方による薬害や、血中コントロール不良による痙攣発作等の弊害、見落としたイレウスによる死亡事故など、有事の際はキッチリ経緯を警察や御家族に報告して何らかの責任とってもらいますからね。
医者が普段どんな仕事っぷりをしているのか、薬剤師さんがしっかり監視してさしあげますよ。

投稿: | 2015年9月12日 (土) 11時35分

>薬剤師さんがしっかり監視してさしあげますよ。
ああ、薬剤師ですらなかったか。弁護士かな。

投稿: | 2015年9月13日 (日) 12時34分

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