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2015年9月 1日 (火)

医療事故調は「説明責任」を負わないし「責任追及」も求めない

本日の本題に入る前に、最近何かと多いのが非科学的な似非医療による健康被害で、もちろん死ぬまで騙され通していられるのであれば本人に関しては幸せでいられるのかも知れませんが、助産院で新生児にビタミンKではなく砂糖玉を与えて当該内出血で死亡させただとか、根拠も何もない首ひねり運動で子どもを死なせただとか、家族にすればある意味似非を信用した自分の愚かさを呪いたくなるような悲劇的な状況ではありますね。
もちろん事後に何をやっても死んだ命が帰ってくるわけではないにしろ、せめて何があったか知りたい、責任を取ってもらいたいと考えたがるのは誰しもなのでしょうが、この似非医療行為を巡って先日こんな民事訴訟の判決が下ったと報じられています。
「自然療法」説明不足 東京の医療会社に賠償命令(2015年8月28日共同通信)

 自然治癒力を高めるとうたう「自然療法」を受け、2012年に肺がんで亡くなった男性=当時(80)=の遺族が、東京都の福祉医療関連会社「この指とまれ」と同療法の専門家に、支払った代金の返還と損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、説明義務違反の賠償も認め計380万円の支払いを命じた

 判決によると、男性は12年4月に末期がんと診断。自然療法で治る可能性があると専門家に説明され、同社の施設に入所したが、施術に不満を抱き、8日後に退所した。

 脇博人(わき・ひろと)裁判長は、同社側の説明不足を指摘した上で「不満を理由とした契約解除は有効だ」とし、代金の大半を返還するよう命じた。

 同社の代理人は「判決を読んでおらず、コメントできない」とした。

もちろん何ら科学的根拠のない似非科学に基づいて金儲けをしている方々には誰しも好意的にはなれないとは思うのですが、この記事の文言を多少書き直した状況を想像してみると、実はひと頃社会問題化した医療訴訟の一つとして見ても何らおかしなものではないと言う気がしませんでしょうか?
ご存知のように医療と言うものは契約通りに仕事をしました、それでは代金をいただきますと言う世間でよく行われる請負契約ではなく、結果の如何を問わず行為そのものに対して代金をいただく準委任契約と言う形を取っていて、それが為に結果が少しでも思わしくないと「話が違うじゃないか!」とトラブルになりやすいのですが、他業界においてもこの辺りの取り扱いが曖昧になってくるとトラブルに発展するケースもあるそうです。
似非医療などはそもそも望んだ結果が得られる可能性が極めて低いのですから、いわば準委任契約の悪用例とも言えるかと思いますが、真っ当な医療の世界においては何故請負契約にしないのか?と言われれば、医療を請負契約化した代表的事例として漫画「ブラックジャック」などを読んでいただければ、不確実性がどうしても残る医療においては必ずしも消費者利益につながらない場合も多いと言うことが判るかと思いますね。
この辺りは医療従事者の側もあまり認識していない方も多く、特に手慣れた疾患などでは来やすく治療を「請け負う」かのような言動をして後日クレームが入ると言う場合が未だにあるようですが、基本的に医療において保証できるのは最善を尽くすと言ったところまでであって、その結果どうなるかと言うことはどんな病気であれやってみなければ判らないと言うことを双方がよく承知しておくべきでしょうね。
さて前置きはそれくらいにして、この秋からいよいよ開始されるのが医療事故調と言う制度で、これもまた余計に医療紛争を増やすのではないか?と関係者がびくびくしている部分がありますけれども、先日厚労相政務官の橋本岳氏らが参加して鹿児島で行われたシンポジウムで、何やら基本的な制度の目的の部分について注目すべき発言があったようです。

“事故調”のパラダイムシフト、認識せよ!(2015年8月24日医療維新)

 鹿児島県病院厚生年金基金は8月22日、厚生労働大臣政務官の橋本岳氏を基調講演の演者として招き、シンポジウム「医療事故調査制度まったなし―秒読みになった医療事故調査制度―」を鹿児島市内で開催した。

 橋本政務官は、「個々の医療事故について、遺族に説明し、納得してもらうことは必要」と断りつつ、この10月からスタートする医療事故調査制度において、各医療機関に院内調査を求めている理由は、「事故事例を集めて、医療界全体の安全を向上させていくことにある。この目的をしっかり踏まえた上で、適切に対応してもらえるとありがたい」と説明、制度の目的はあくまで医療安全向上にあることを強調した(シンポジウムのVol.2は、『“事故調”、「非識別化」に要注意』を参照)。

 冒頭にあいさつした、基金理事長の小田原良治氏は、「頭がパラダイムシフトした人の講演会を聞かないと意味がない」と、注意を促した。従来の医療事故調査では、「再発防止」「説明責任」「責任追及」が混然一体として扱われることが往々にしてあったが、今回の医療事故調査制度は、「再発防止」、つまり医療安全に特化している。これが「パラダイムシフト」の意味であり、橋本政務官の発言とも呼応する。

 シンポジウムは約3時間近くわたり開催された。橋本政務官も含め、医師や弁護士ら、計5人の演者が講演、4人が指定発言をし、その後、質疑応答が行われた。複数の演者が強調していたのは、医療事故調査制度を定めた法律、つまり医療法を正しく理解する必要性だ。さもなければ、「パラダイムシフト」の意味や内容を理解できないからだ。浜松医科大学医療法学教授の大磯義一郎氏は、「医療事故調査制度は、使い方によっては、“毒”にも“薬”にもなる難しい制度。医療安全の“薬”となる制度にする以前に、まずは“毒”にしないことが必要」と述べ、「正しく条文を読んで、正しく対応することが必要」と注意を促した。
(略)
 小田原氏は冒頭のあいさつで、10月からスタートする医療事故調査制度は、日本医療安全調査機構が実施してきた「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」とは目的が異なっていると強調。現在、全国各地でさまざまな団体による制度説明会が開催されているが、誤った説明がなされている場合があると問題視した。(1)制度の目的は、「原因究明と再発防止」ではなく、「再発防止」が目的、(2)医療事故調査・支援センターへの報告は「医療過誤の有無は問わない」、(3)調査や報告においては、事故に関わった医療者等の「非識別化」が求められる、(4)事故に関わる医療行為の医学的評価は制度上、求められていない――などの点を正しく理解することが必須であるとした。

 橋本政務官は、医療事故調査制度の全体像を、医療法や省令、通知を基に説明。(1)センターに報告する医療事故の範囲、(2)報告書作成の際の匿名化、非識別化、(3)院内調査における外部委員の活用、(4)再発防止策――について言及した。

 (1)について、橋本政務官は、「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」かつ「管理者が予期しなかったもの」が報告対象になり、その際、「過誤の有無は、調査の結果、分かるかしもれないが、報告の際は問わない」と説明。
(略)
 さらに(4)の再発防止策について、橋本政務官は、次のように解説した。「院内調査の結果、何らかの改善が必要であれば、それを実施してもらう。ただし、この制度においては、義務として求めているわけではない。一方、センターは収集した事故事例を整理、分析し、再発防止策を検討する。ただし、個々の事例に対し、(再発防止策について)返事を返すわけではない」。
(略)

ここで言う再発防止と言うことが個々の医療機関で事故調を行い再発防止策を講じると言うことでは必ずしもなく、センターとして集積した事例を元に一般論的に出すと言うことなんですが、穿った見方をすれば個々の施設で直接的に調査結果の反映がなされなければ、何の為の調査なのかと納得されない方々もいるかも知れませんね。
今回のシンポジウムでも言及されたようですが、先日かつて厚労省が全国国立病院に出した「リスクマネージメントマニュアル作成指針」が完全に失効したことを厚労省が公式に確認したことを受け、あくまでも見た目だけを問題にする外表異状説を採る医師法21条との不整合がようやく解消されたことを紹介しましたが、この点も各施設で「普通でない死亡事例は警察へ届け出る」等々と未だに誤解を受けている部分が多々ありそうですよね。
今回創設される事故調なるものに関しても長年その目的とするところを巡って延々と議論が続いていましたが、注目すべきなのは厚労省からの正式のコメントとしてその目的があくまでも「再発防止」に特化したものであって、従来これとのバランス等が問題視されてきた「説明責任」「責任追及」の残る日本の柱に関しては全く関知するものではないと表明された点は非常に注目すべきだと思います。
詳しくは記事全文を読んでいただくとしても、とりあえずこの点から導き出される当然の結論として、院内事故調の目的とするところはあくまでも再発防止策として何をどうすべきかと言う観点から記述されるべきものであって、誰に責任があっただとか患者さんや家族が納得するかどうかと言った点は全く気にする必要がないと言うことでしょう。

現実的にはこうまでシンプルに割り切れるものではないだろうし、再発防止策追及のための調査が結果として誰かの責任追及になってしまうとか、患者や家族が全く納得しないレポートが社会的に許容されるのかと言った問題もありそうですけれども、一つ考えられる点として再発防止策に特化したものである限り、正しくその点を追及するなら施設と現場スタッフの立場は必ずしも対立するものではないと言えそうです。
東京女子医大で起こった心臓手術を巡る死亡事例で、病院側が「担当医が悪い」と勝手に決めつけた調査報告書を出した結果刑事訴訟にまで巻き込まれることになった担当医が、後に病院を訴えたと言う有名なケースがありますが、何故ああしたことが起こるのかと言えば誰かが悪いと言う「責任追及」を目的とする限り、施設側としては当然ながら施設本体へのダメージを減らす方向で報告書をまとめることになるわけです。
その結果現場スタッフの個人的失敗が全ての原因だとトカゲの尻尾切りを行うのが一番楽だと言うことにもなるわけですが、同様に患者家族への「説明責任」を目的としてしまうとやはり「納得出来ない」と言われればそれまでですから、誰か悪い人間がいたので後はそいつに文句を、と言う形でまとめるのがこれも一番楽だと言う話になりやすいですよね。
その意味で今回純粋に「再発防止」に特化した事故調査が目的と言うことであれば現場でリスクを冒しながら仕事をしている医療従事者にとって悪い話ではないはずなんですが、問題は当事者も含めてこの三者をきちんと分けて考えられる人間がどれほどいるのかで、この方面でもきちんとトレーニングを積んだ人間が報告書をまとめないと、懸念される通り余計な波風を引き起こすばかりの新制度と言うことにもなりかねないでしょう。

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コメント

でも現実問題義務じゃないからこれ以上は説明しませんって無理ですよね。
納得が得られなければ第三者機関に丸投げしてもいいんなら別ですが。

投稿: ぽん太 | 2015年9月 1日 (火) 09時29分

純粋に再発防止のみを目的とすることは、これまでの会議の中で否定されたはずなんですが?
多分このままいくと、医療事故被害者の会あたりとそれにくっついている弁護士が騒ぎ立て、
大変なことになってくるんでしょうね。

投稿: | 2015年9月 1日 (火) 11時01分

そもそも事故調創設の経緯を考えれば潜在的な紛争化事例が多いはずなので、国がこう決めたと言う方針で患者側が了承するのかどうか、しなかった場合どうすべきなのかと疑問を抱く施設もあるかと思います。
その意味では法律を正しく理解する必要があるのは医療の側ももちろんなんですが、国民やマスコミに対する十分な啓蒙と理解こそがより重要になってくるかと言う気がしますね。

投稿: 管理人nobu | 2015年9月 1日 (火) 11時53分

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