« 国際テロ集団に対して日本でもようやく厳正な対応始まる | トップページ | ピラミッドにも建築制限が導入される »

2015年9月 4日 (金)

医療事故調、初の説明会で示された意外な?見解

いよいよ稼働が間近に迫った医療事故調に関して、先日東京で初めて公式の説明会が開催されたのだそうで、この時期になってようやくと言うのもどうなんだと思うのですが、一方で見ていますと幾つか気になる点がありましたので紹介してみることにしましょう。

“事故調”、疑問は「予期」と「紛争・訴訟」日本医療安全調査機構、東京で初の説明会(2015年8月31日医療維新)

 8月29日に日本医療安全調査機構が開催した「医療事故調査制度説明会」では、3人の演者による説明の後、質疑応答が行われ、フロアから報告対象となる医療事故の考え方、院内調査の進め方から、医師法21条との関係まで、さまざまな質問が出た(『“事故調”対応、24時間365日体制で』を参照)。
(略)
 その主な質問と、回答の骨子は以下の通り。回答したのは、厚生労働省医政局総務課医療安全推進室長の大坪寛子氏と、日本医療安全調査機構常務理事の木村壮介氏の2人(残る1人の演者、日本医師会常任理事の今村定臣氏は途中退席)。
約50分にわたった質疑応答では、大学関係者からの質問が多かった。
(略)

様々な質問が出ていますのでまずは元記事にも目を通していただきたいところなのですが、基本的にこうしたものは公的な制度としてどういうことになっているかが最も重視されるところでしょうから、厚労省のオフィシャルな地位にある大坪氏の見解としてどのような回答が示されたのかが注目すべきポイントなのかと思います。
他方で実際に院内調査では疑問点が残ると判断し、更なる介入を行うかどうかを決めるのは第三者機関の側ですから、これに関わる日本医療安全調査機構側の見解に関しても現場としてはそれなりに注目されるところなんですが、まずはそもそもの届け出の対象となる事例、予期された死亡とは何かと言う部分の定義に関して微妙に差異があるように感じられます。

質問:例えば、ヨード造影剤でCT造影検査を行う場合、「アナフィラキシーが起き、死亡する可能性は何%」などと説明する。この場合、一般的な死亡の説明になるのか、あるいはアナフィラキシーによる死亡なので、併発症による死亡に当たるので、そもそも報告は不要なのか。「予期しなかった死亡」は、「一般的な死亡の可能性についての説明や記録ではない」ではないとされているが、どの程度まで要求されるのか。

回答(大坪氏):(予期とは)アナフィラキシーショックや術後の合併症などのイベントの発生可能性ではなく、患者のバックグランド、状況、合併症、過去のアレルギー歴などを勘案して、死亡する可能性について、個々人に対して説明するという趣旨。
回答(木村氏):「予期していた」のであれば、当然、それに対する対応策を取ることになる。手術中の急な出血を予期していたのであれば、輸血を用意しておくが、それをしていなかったのであれば、「なぜ輸血を用意していなかったのか」という話につながる。(予期していたことを)書けばいいわけではない。この辺りについて、納得がいく説明がなされていたかということになる。

質問:インフルエンザの予防接種で死亡することもあり得る。このような事例も報告するのか。

回答(大坪氏):「予期」については、(省令で)三つのプロセスで示している。一般的な予期ではなく、(死亡を)本当に想定して説明したり、診療録に書くなど、予期していたことが分かることが求められる。予防接種後に死亡することがあり得ることを予期していたことが、どんな形で客観的に証明できるのかにかかっているのだろう。管理者と当該従事者が相談して判断してもらいたい。

厚労省の従来の見解としては予期されていたかどうかとはすなわち事前に患者説明がされていたかどうかで判断されるものであって、今回もその説明があったとの証明としてカルテ記載の有無が重要視されると言うことに言及しているのは予想された範疇なのですが、木村氏のコメントはややニュアンスが異なっていて、単に説明していただけでなく具体的にどう対処するかと言う説明の内容にも一歩踏み込んでいるかに言及しています。
この点で非常に気になるのが「書けばいいわけではない」「納得がいく説明がなされていたか」と言う発言なのですが、そもそも事故調の公式なスタンスとしては実は患者や家族の意見は(言葉は悪いですが)置き去りで純然たる医療側の判断で運用されると言うことになっていたはずですが、仮に第三者機関側が患者や家族の納得の有無を判断基準にして介入の是非を決めるとなればこれは非常に大きな問題です。
納得がいく説明なのかどうかを誰がいつどうやって判断するのか、単にカルテ記載で患者側から了承をいただいたと書いておけばいいのか、それとも事後的に患者側にヒアリングなりを行うのかでも全く話は変わってくるところですが、この点に関しても厚労省側のコメントは「管理者と当該従事者が相談して判断してもらいたい」と、届け出する側に丸投げするような口ぶりですよね。

もう一点、今回の事故調発足によって医師法21条との関係がどうなるのかは非常に注目されていたことですが、これについて2012年に厚労省から「(1)診療関連死イコール警察届け出という解釈は誤りであること、(2)検案での「異状」とは外表異状を指すこと、(3)検案で異状がなければ届け出の必要はないこと」と言う非常に重要な見解が文書で示されています。
さらに2014年には田村厚労相からも「医師法21条は医療事故などを想定したものではなく、これは法律制定時から変わっていない」との現地を得ており、司法判断のみならず厚労省の見解としてもあくまでも見た目の異状だけを問題にすると言う、いわゆる外表異状説が公式に確認されているものだと認識されてきたわけですが、この点に関して今回こんなコメントが出ている点も注目されます。

質問:「医師法21条はこれまでと同様」とあるが、(1)診療行為中の予期しない死亡を届けるのか、(2)外表に異状がある場合に届ける――のいずれの解釈なのか。

回答(大坪氏):以前の提案(大綱案)とは異なり、今回の制度では21条は生きているが、そのどちらの解釈も、厚労省として示したことはない。厚労省は、「犯罪等の痕跡が残っている場合があるので、届出をしてもらいたいという協力規定」という意味の解釈を示しているだけであって、それ以上のことは示していない。
 「外表異状」だが、「検案」とは外表を検査することであるという最高裁の判示を紹介したことはあるが、何が「異状」かについては示したことがない。21条については、さまざまな意見があることは承知しており、今後の検討課題。

いやいやいや、今さら「「検案」とは外表を検査することであるという最高裁の判示を紹介したことはあるが、何が「異状」かについては示したことはない」などと言われても困ると言うことなんですが、21条については今後の検討課題などと言われると今まで示されてきた見解までもひっくり返されることになるのかと不安になりますよね。
基本的には21条の届け出によって司法ルートに流れていくと言うことですから、その司法判断として最高裁で外表異状説が出ている以上は届け出段階での判断においてもそれが基準になるものだと思われるのですが、医療現場がそこまで考えて割り切った行動が出来るのかどうか、特に紛争化しかねない事例において「厚労省が明言していないんだから届け出た方が無難だろう」と言う話にならないかです。
大変に好意的に考えるならば、厚労省としては犯罪捜査などの端緒となるようなルートとして医療機関から警察へと言う届け出ルートに価値を認めていて、いわゆる外表に(視覚的な)異状はないものの医学的見地から判断すれば明らかにこれは犯罪行為の結果だろうと言う所見があった場合、弾力的に判断して届け出て下さいねといった考えなのかも知れません。
ただそうしたことであれば厚労省ではなく法務省なりが考えるべきことであろうと思われるし、逆に言えば何故今になって厚労省からこんなあいまいなコメントが出てきているのかと言うことの背景が気になってきますが、事故調の制度設計に当たって何かしら裏事情のようなものでもあったのだとすれば、敢えてこんな曖昧な言い方をしている意味合いもどこかにあると言うことなのでしょうか。

|

« 国際テロ集団に対して日本でもようやく厳正な対応始まる | トップページ | ピラミッドにも建築制限が導入される »

心と体」カテゴリの記事

コメント

また二階に上げられてからハシゴをはずされそうな悪寒が…

投稿: ぽん太 | 2015年9月 4日 (金) 08時44分

最高裁判決は、"2004年の最高裁判決は、医師法21条について「外表異状説」を採用し、刑集(最高裁判所刑事判例集)に掲載されていることから、この判断は揺らぐことはない"(医法恊のシンポジウムでの医師&弁護士の田邉昇先生)ですので、厚労省の官僚氏はそのような説明をすれば良いだけ。
できないということは、法律の解釈ができないということ。
失効した厚労省通達に関しても然り。

この厚労省の担当官僚氏、?です。

投稿: physician | 2015年9月 4日 (金) 10時48分

司法判断、厚労省と厚労相双方からの見解ですでに決着していると思われていた問題で、全国の医療関係者が不安を抱いているこの段階で敢えてこうしたコメントを出す意図が何なのかです。

投稿: 管理人nobu | 2015年9月 4日 (金) 13時43分

>敢えてこうしたコメントを出す意図が何なのかです。
 まずい結論があからさまになる直前に、追及の矛先をかわすため「そういっていたでしょ」というアリバイつくりと、法務・厚労間で責任の所在をあいまいにする意図。

投稿: | 2015年9月 5日 (土) 14時13分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/62209178

この記事へのトラックバック一覧です: 医療事故調、初の説明会で示された意外な?見解:

« 国際テロ集団に対して日本でもようやく厳正な対応始まる | トップページ | ピラミッドにも建築制限が導入される »